『マクロスなのは』第30話「アースラ」


『誰かいませんか!?』

 数台のエンジン音と共に、拡声器を介したティアナの声が耳に届く。
 彼女の後ろにはEMPで立ち往生してしまった自動車を路肩に除けて、後方の輸送隊に道を作っていくバトロイド形態の消防隊所属VF-1C。
 ここは先の防空戦闘によってめちゃくちゃになってしまった、三浦半島の南端に位置する町だ。
 ―――――いや、だったと言った方が正確か。
 ティアナの声に続いて上空からは消防隊のヘリとガウォークのVF-1Cの爆音が轟き、抱えていた水をぶちまけていく。救助活動が開始されてから今までの数時間に、数千トン以上の水を投下したと聞く。しかし完全に焼け石に水。周囲どこを見ても炎の壁が家だったものを包んでいた。
 その中の一軒に大量の水が降り注ぎ、その延焼の度合いを弱める。そこでスバルは気づいた。

(あの家、ビーコンが発信されてない!)

 そこには救助隊が突入して、生存者の有無の確認を行ったというビーコンの発信がなかった。どうも周囲の火災の度合いが強すぎて、先遣の救助隊が近寄れなかったようだ。

『(ティアナ、ちょっとそこの家の中を確認してくる!)』

『(わかった。5分以内に戻ってきなさい。ここにそう長く留まれそうにないから)』

ヴァイスのバイクに跨りながら小回りを武器に、バルキリーを含む輸送隊の先の方で誘導するティアナは、少しだけ速度を緩めながら念話で返してきた。

『(了解!)』

 輸送隊から離れたスバルは、その民家の玄関を拳撃で吹き飛ばし、内部に突入する。
 周囲の温度は極めて高く、バリアジャケットなしではとても入れなかっただろう。そして同じように、この家の住人が簡単な魔導士であってくれたなら、対煙、対熱のシールドを張って未だに救助を待ってくれている可能性があるのだ。魔力反応はまったく感知できなかったが、あのEMP(電磁波ショック)の後では機器は信用できない。
 もっとも、だれもいないことに越したことはないのだが―――――

「誰かいませんかぁ!?」

 返事はない。
 それに肉が焦げるような嫌な臭いが鼻につく。

(でも!!)

 踏み抜きそうな脆くなったフローリングの廊下をさらに奥へ。
 倒れた家具が道を塞ぐ。・・・・・・家具?いや、家の支柱だ。どうやらそれを隠していた壁は崩れたか、燃え尽きたかしたようだ。
 本来壁だったのだろうその場所を、さらに奥に進んだ彼女が見たのは、1人の焼死体だった。全身炭化し、もはや性別もわからないその遺体に思わず歯がみする。
 しかしその時、パチパチと家が焼ける音以外の〝声〟がした。その声は幼いを通り越して赤ん坊の声だった。それはどうやら遺体近くの金庫から出ているようだ。ドアの前には入っていたのだろう貴金属の姿。代わりに中に何か入っているのは明白だ。しかし開けるためのダイヤルの数字など知ったものでない。

(壊すか・・・・・・でももし中身が生き物なら、衝撃が危険すぎる)

 加えて、天井から聞こえる建材が折れる音はまだ断続的なものだが、だんだんとその間隔は連続的なものになってきている。この家がその重量に耐えられない時が来ようとしているのだ。
 猶予はない。ダメもとでノブに触れる。

「熱っち!」

 素肌の部分が焼けるような痛みを訴えるが、この皮膚は人間のような脆弱なタンパク質ではない。戦闘機人の強靭な人工皮膚なのだ。
 熱さに耐えてノブを捻ると、その強力な筋力を―――――使うまでもなかったようだ。それは何の抵抗もなくするりと開き、同時に泣き声のボリュームが上がる。

「よ~しよしよし・・・・・・」

 スバルは水でぐっしょり濡れたタオルに包まれたその子を抱き上げると、対熱シールドで包み、自分のバリアジャケットの生命維持システムに組み込んだ。

「もう、持たないか!」

 崩壊の音はすでに爆音に近い轟音を放っている。これに崩れられたらさすがに助からない。かといって来た道を戻って脱出するには遅すぎる。

 こんな時どうするか?

 スバルは1つしか回答を持ち合わせていなかった。

「最短を一直線に、抜く!」

 右腕のリボルバーナックルのカートリッジが数発ロードされ、そのフライホイールが高速回転する。

「ディバイィン、バスタァー!」

 よく制御された魔力砲撃は六課に入る前のそれとは違い、ムラなく直線的に進路上のものを吹き飛ばした。
 元から崩れそうなものをさらに壊したのだ。モタモタできない。砲撃を放った次の瞬間にはウィングロードを展開し、自ら切り開いた道を進む。その間も雪崩の如く建材が頭上に降り注ぎ、その進路を妨害する。

 それらを撥ね退け、すすむ! ――――― ススム! ――――― 進む!

 しかし、あと5メートルというところで再びその道は瓦礫によって埋め戻されてしまった。

(畜生!)

 この崩壊の度合いでは退ける暇も、砲撃をする暇もない!
 やはり軽率だったと思わずにはいられない。一人ならともかく、救助した者の命も預かっているこの身なのだ。
 あの時砲撃で壊さず、来た道を戻っていればあるいは―――――
 後悔の念に押しつぶされそうになったその時、行く手の道に巨大な〝手〟が差し込まれた。そしてその一掻きは瞬時に脱出ルートから障害物を消し去ってくれた。

「脱出!」

 煙と粉塵を払いのけて屋外へ。そのままウィングロードは上空まで伸びていく。
 助けてくれたバルキリーは消防隊のVF-1Cではなく、フロンティア基地のVF-11のようだ。バトロイドの機首には獰猛なサソリを思わせるノーズアートが見えた。
 すれ違いざまコックピットのパイロットに片腕を上げて礼を言う。
 ここまで来ると助かったと油断するのが人の性。だがまだ終わってない。

「か、瓦!?」

 向き直った目前には降り注ぐ無数の瓦。一時期ブームになった建材だが、今は勘弁してくれ。それにその後ろには倒れ掛かってくる家本体。
 バトロイドの人はコックピットでコンソールを叩いている。どうも武装が動かずに悪態をついているようだ。
 反射で頭と、抱いている形で確保されている赤ん坊をそれぞれ両腕で庇う。そして魔力障壁を展開。PPBSを最大出力!
 数十を超える無駄に重い瓦で叩かれ、息つく暇もなく、倒れ掛かってくる家の屋根という物理的な圧迫力を前に、どこまで耐えられるか自信はない。しかし、それが己にできる精いっぱいの対策だった。

(どうかこの子だけでも!)


 ・・・・・・衝撃!


 自身の上昇速度と、瓦の自由落下とで弾丸並みに重い衝撃が魔力障壁に降りかかり、フィードバックが体力と魔力を、そしてカートリッジを削っていく。しかし屋根はこんなものではないはずだ。瓦が割れていく轟音の中、覚悟を決める。

(あと屋根1つくらい・・・・・・このまま押し返す!)

 根拠ゼロの覚悟の中、目標である屋根を見据えようと頭上に振り返ると一転

「あれ?」

 そこには瓦とともに倒れてくる屋根など存在せず、大きく抉られた屋根だけが存在していた。

(あの抉り方は砲撃・・・・・・?)

 角度から砲撃ポイントと思しき公道付近を見ようとすると―――――

『(スバル遅い!もう10分以上経ってるわよ!)』

 バイクのアイドリング音と共に付近の公道から放たれた相棒の念話は、スバルに今度こそ、助かったのだという事を実感させた。

(*)

「まったく、フロンティア基地の人に気づいてもらえなかったら、どうする気だったのよ!」

「いやはや、面目ない」

 2人乗りするバイクの前部で運転する、相棒の叱責すら心地よい。
 あのフロンティア基地航空隊の人は防空戦からそのまま救助活動に参加していたそうで、今回は魔力砲撃の魔力を探知して、単体だった事から応援に来てくれたそうだった。
 消防隊は魔力を探知する事はともかく、どのような魔法なのか、場所及び個数など、そんな分解能のいい装置なんて持ってない。そのためまさに幸運と呼ぶにふさわしい生還劇だったようだった。

「・・・・・・もっとも、スバルが1人で行くなんて言い出した時に、念話で周囲に展開してた部隊へちょっと口添えはしといたけどね」

 前言撤回。
 幸運なんかじゃない!やっぱりこの相棒は最高だ!

「やっぱりティアは凄い!大好き~!」

「こ、こら!いくら私でも事故る!お腹を必要以上に押さえるのはやめなさい!私達2人だけじゃないのよ!」

「そ、そうだね」

 今背中には、あの火事場から救出した小さな命がある。この命を救えたことこそ、自分達がここに来た甲斐があったというものだった。

「・・・・・・それにしてもアルト先輩大丈夫かな?」

「そうねぇ。ライアンさんも他の同僚の人から撃墜されたとしか聞いてなかったみたいだし・・・・・・やっぱり通信網が回復しないとなんとも言えないわね」

「・・・・・・うん。でも今回の攻撃、何かおかしい。通信が遠隔地のどこにも繋がらないなんて・・・・・・」

 今回の通信途絶問題、EMPによる通信機器破壊だけがその原因とは考えられなかった。事実、EMP範囲外で故障していないはずの自分達の機器も、1キロを超える電磁波無線通信を完全に断たれていた。
 ミッドチルダ全域に有線網を持つMTT(ミッドチルダ電信電話株式会社)による調査では、自分達が知る限りでもこの現象は関東全域に及んでいるらしく、未確認だがそれ以上の範囲に及んでいる可能性があるそうだった。
 おかげで現状使えるのは念話、半径1キロ未満の電磁波通信、あまり広まっていないためほぼ管理局のJTIDS(戦術統合分配システム)に限定されるフォールド通信。そしてMTTの有線通信網だけという、新暦100年とは何だったのかと突っ込みたくなるようなお粗末なことになっていた。
 それに問題は通信だけではない。

「追いついたわね」

 先ほど誘導していた輸送隊のトラックが見えてくる。大部分がコンテナ設備を積んだ大型トラックだ。
 後方の中型トラックには道すがら回収した避難民が乗りこんでいるが、それはバスのようなものではなく、〝ディーゼル駆動〟の中型コンテナトラックだ。別にバスなどの車が徴用できなかったわけではない。
 先のEMP攻撃は、この町を含めた半径10キロメートルにわたって軍用でないすべての電子機器を破壊しつくした。しかし、被害はそれにとどまらない。通常EMPはマイクロ秒単位で発生して瞬時に消えてしまうが、今回はそれの後、継続して被害を与えていた。先ほどの電磁波による通信と、次世代型大出力大容量バッテリーだ。
 このバッテリーは従来の物と違って化学反応を用いないことで、一つで最大数百ボルトの電圧を得たり、充電することができる。
 最近では原料から、どこかの世界の呼び方を踏襲して「フォールドカーボンバッテリー」と呼ぶそうだが、このバッテリーはクラナガンではシェア70%に及ぶ電気自動車に搭載されてる。具体的には民衆車、バス、通常2輪などの馬力を要求されない車だ。
 ここで本題だが、今回、このフォールドカーボンバッテリーがこのEMP範囲内に入ると、たった数分で使い物にならなくなる現象が起こっていた。
 おかげで災害出動した陸士部隊の輸送隊は軒並み立往生を喰らい、代わりに水素・石油など化石燃料車に依存する民間輸送業者が各地からかき集められていた。そのため目前を列を組んで走るトラックには「クール特急便」やらド派手な電飾を施した族仕様のトラックなど、シュールな光景が広がっている。自分達が乗るこのロータリーエンジン式バイクも現在水素で稼働しており、ヴァイスの趣味が功を奏した結果となっていた。

「前の方が騒がしいわね・・・・・・」

 ティアナが言う通り輸送隊の前の方で人と救助ヘリの行き来が激しく起こっている。どうやら目的地だった小学校に到着し、先遣隊との合流を果たしたらしかった。
 先遣隊は消防隊の大部分のVF-1Cとともに本職の消防救助隊が初動で動いたもので、本格的な病院設備は自分達がこのトラック達のコンテナ設備として持ってきた。

「先遣隊には転送でシャマル先生達も先に来ているはずだし、行ってみましょう!」

「うん。この子も預けなきゃいけないし!」

「そうと決まれば!」

 アクセルを吹かして小学校への道をひた走る。そこに地獄が待っているとも知らずに―――――

(*)

 5時間後 三浦半島緊急避難指定小学校

 楽しい休日になるはずだったこの日は、スバルにとって忘れられない地獄となった。
 最初に言おう。はっきり言って自分の無力さを痛感させられた。
 意気揚々と小学校に踏み入れてみれば、当然だが校舎が野戦病院と化していた。普段子供たちが学友達とともに学ぶ教室は集中治療室になり、「ろうかは走らない!」と書かれた廊下は、患者達の病室と避難民の収容設備となった。そして体育館は遺体安置所としてその機能を果たしていた。
 空調がEMPでやられていたため形容しがたい悪臭がそこかしこから漂い、阿鼻叫喚の悲鳴がどこからともなく聞こえた。それでも合流したシャマルさん曰く、自分達が麻酔を始めとする様々な医療物資を補給して、改善された結果だというから二の句がつげない。
 私達が来る前は一体どうだったというのか・・・・・・
 自分はその身体能力を買われて救助隊の手伝いをしたが、その仕事はなのはさんがデパートでの火災の時、自分を助けてくれたように、劇的で感動を呼ぶような憧れていた物では到底なく、ひたすら、ただひたすらに泥臭い仕事だった。名目こそ生存者の捜索と救助だが、実質遺体の捜索と鎮火への協力だった。

 時間が経ち過ぎている。

 それは痛いほどわかってる。だが、もっと他に、何か、こうならない方法がなかったものなのか?
 そう自問せずにはいられない。

『ガジェットは用がなければ家の中まで入ってくる可能性は極めて低いので、家の中で待機するようお願いします』

 これは管理局が民間人に向けて行った行動指針だ。まぁ、その理屈はわかる。事実最前線で戦ってガジェットが理由なく故意に民間人の家を襲撃したりしたことはない。
 今日自分達が少女を助けるために陸戦型ガジェットと召還魔導士と交戦したのは、ここから十数キロの地点。
 次善の策として民間人が家の中に閉じこもるだろうこともわかる。
 だが、その結果がこれだ。
 防空ラインが少しずつ後退して、ついにはこの上空が戦闘空域となり、ガジェットとゴースト、バルキリーの墜落で発生した火災は、当たり前だが局所集中していないため鎮火には膨大な人手を要した。職務を離れる前に見た集計表によれば、他の避難所も足すと死者200人超、重軽傷者6000人弱、焼け出された避難民は約10万人らしい。
 それにEMPによって通信網がマヒしていることが悔やまれる。あれがなければ発覚が速まって初動から大規模転送で救助隊を緊急投入できたはずだし、火災で有線通信網がズタズタになったここでも、リアルタイムで情報を共有することができたはずだ。バッテリーにしても陸士部隊などの災害出動した部隊が立ち往生せずに来てくれたらなど、ifは尽きない。
 頭がこんがらがり、フラッシュバックする救助活動時の凄惨な現場のイメージを頭を振って振り払う。しかし簡単には離れてはくれない。助け出した人は十人以上。だけど―――――

「結局、命まで助けられたのは最初の1人だけだったな~」

 思い出すは金庫に入っていた赤ん坊のこと。
 今思えば金庫の前にあったあの焼死体は、あの子の母親だったのだろう。おそらく火災にまかれて進退極まった彼女は、子供だけでも助けようと思い、あの中に入れたに違いない。
 赤ん坊が酸欠にならなかったのは奇跡に近いが、状況が状況だけに最善の策だっただろう。
 救えたのはたったの1人だったけど、その存在はスバルにとって大きな救いとなった。

「なのはさんも、こんなこと思ったのかな・・・・・・?」

 以前自分が被災した火災について調べたことがある。確か店側の避難指示が功を奏して死者はなく、避難時の混乱で骨折などのケガ人を数十人出す程度だったと記憶している。だが彼女のキャリアの中には、他の次元世界での時空震に対する災害派遣など、今回の都市災害を凌駕するような経歴が存在する。自分と同じとは言わないまでも、同じような経験をしているのは間違いなさそうだった。

「それでもなのはさんは、あんなに笑顔でいられるんだ・・・・・・やっぱり敵わないよ・・・・・・」

 思わずため息が口をついて出る。
 自らが憧れる人物の器の大きさに改めて感嘆し、自らが志望していたレスキューという仕事をこの心境で改めて六課を卒業した時、志望できるか不安になった。それどころかこの管理局という仕事に関しても、だ。
 そう考えると意図せず頭が真っ白になり、その視線が外に向く。
 小学校の屋上というロケーションは、残暑の暑さを感じさせぬ涼しげな風で額をなで、意識をその視界に集中させる。周囲は未だ所々で火災の跡がまだくすぶっており、先ほど交代した陸士部隊と、消防団のVF-1C。4時間前にやってきたフロンティア基地航空隊のバルキリー隊が生存者の救助、もしくは焼失・倒壊した民家からヒトを探していた。
 ここから見るとバトロイド形態のバルキリーしかその姿を確認できず、暗い中をサーチライトで照らしながら作業する姿は孤独に思えた。
 そこで、背後の扉を開く音に振り返る。

「ティア・・・・・・」

 この最高の相棒は、今は珍しい化石燃料式バイクという小回りのきく乗り物を持ちこんでいたことから、伝令を行わされ、それぞれの避難所と救助活動の最前線、そして管理局地上本部のあるクラナガンとを繋いでいた。

「伝令はもういいの?」

「うん。治安隊の白バイと交代してきた。でもバイクは傷だらけにしちゃったし、燃料はすっからかん。ヴァイス先輩怒るだろうな~」

 そう笑いながら隣に座る。

「・・・・・・それでさ、あんた、なんでこんなとこにいるの?何とかと煙は~って―――――!」

 〝煙〟と聞いた瞬間、こちらの表情が曇るのがわかったのだろう。冗談は通じないと努めて明るく接してくれていた相棒はその表情を深刻にして、正面から両肩を掴む。

「ねぇスバル?まさかとは思うけど、バカな真似は―――――」

「大丈夫だよ。なのはさんが、ティアが、みんなが生かしてくれた命なんだ。粗末になんかできないよ。でもね・・・・・・でも、これからどうしたらいいのかわからないんだ。ねぇ・・・・・・わたし、何になりたかったんだっけ?」

「そんなの、私にはわかんないわよ」

「・・・・・・え?」

「私が知ってるのは人を助けよう、守ろうって努力するあなたの後ろ姿だけ。そりゃ今まで一緒にいてレスキューに携わりたいとか、なのはさんみたいになりたいとか、いろいろ聞いたわよ。でもね、それって私がちっちゃい時に『お兄ちゃんのお嫁さんになる!』って言ってたのと大して変わらないのよ。何になるのか、そういうことを考えるために、憧れのなのはさんがいる六課という研修所を選んだ。違う?」

「そう・・・・・・なのかな?」

「うん!まだ私達は何にでもなれるんだから!」

「そうだね・・・・・・これから、考えていけばいいんだ」

 そう考えると、少し心が軽くなった気がした。

「・・・・・・そう言えばティアって昔の夢、お嫁さんだったの?」

「う、うっさいわね!そうよ!悪い!?」

「ううん。全然」

 やってしまったという顔になって頬を赤らめるティアの姿に、いつの間にか笑顔にさせられていた。
 救助活動を終えてからようやく笑えた気がする。本当にありがとう、ティア。

(*)

「そう言えばね、伝令やっている間に分かったことなんだけど、アルト先輩、やっぱり見つからなかったんですって」

 あれからすぐ打ち明けられた真実に、スバルは思ったより冷静でいられた。

「そっか・・・・・・結局、あの時の恩返しできなくなっちゃったか」

「―――――意外ね、あんまり驚かないの?あんな殺しても死にそうになかった人なのに」

「まぁね。今回痛いぐらいわかったけど、人間って簡単に死んじゃうんだよ。「奇跡の生還」なんてのはアニメやドラマみたいなもんだけ。大抵はよほど準備してた結果であって、奇跡なんかじゃないよ」

「なんだ、醒めてんのね。弄りようがない」

 ティアの肩をすくめる様子に一気に頭が過熱する。

(まさか死んだアルト先輩をダシにしようと?いくらなんでもそれは!!)

「ティア、いくらなんでもそれは酷いと思う。アルト先輩はそんな悪い人じゃなかったし、私達、何度も助けてもらって―――――」

 言い終わらないうちにティアの右手が優しく左頬に添えられる。しかし肌に感じたのは相棒のぬくもりではなく、冷たい金属的な何か。

「ごめんなさい。そういう意味で言った訳じゃないの」

気付いてみればティアの顔には、自分に付けたのと同じであろう耳に掛ける方式のインカムがあった。

「ティア、これ・・・・・・?」

「JTIDSの端末機よ。陸士部隊の備品から貰ってきたの。これがないと、電磁波通信できない今の状態じゃ私達の座標を掴めないからね」

「??・・・・・・それって?」

 どうも状況を上手く理解できない自分がもどかしい。頭を冷やさないと・・・・・・

「まぁ、ちょっと待ってなさい。―――――はい、私です。―――――はい、もう見つけました。JTIDSの端末をつけさせたので、座標はえっと・・・・・・JMG00658の端末で固定してください。―――――はい、それでは転送2名、お願いします」

 そうしてティアは、私の耳に掛けたインカムの番号を再確認しながらインカムの通話ボタンから手を離すと、面白そうに言う。

「スバル、じっとしてなさいよ。じゃないと〝何か置いてきちゃう〟かもしれないから」

「へ?」

(ただの転送魔法にどんな危険があるの?)

 回転が遅い頭で疑問に思ったが、すぐに理由を知ることとなった。
 突然体を包むように展開される円筒状のシールド。それに反応する間もなく、自らの体が青い粒子となって分解していく。

(え、えぇ!?)

 もはや喋る口もない。数瞬後には視界と意識は閉ざされていた。

(*)

 スバルとティアナ〝だった〟光の粒子達はシールドの内部で徐々に不可視の波へと変換され、シールド展開から1.5秒後、この世界から消滅した。
 2人がいた場所は何事もなかったかのように、静けさに包まれていた。

(*)

 あれからどれぐらい時がたったのだろう?
 スバルは気づくと、光の粒子になった体は再生され、しっかり光るパネルの上に立っていた。

(パネルの上!?)

 周りを見回す。そこは辺りが見渡せる開放的な小学校の屋上ではなく、無骨な隔壁が覆う、少なくとも室内だった。

「どうやらちゃんと揃ってるみたいね」

 ティアナが後ろから肩を叩いて言う。

「え、ティア、これは─────」

「見ての通り〝転送機〟よ」

 狼狽する自分を見て面白がるティアナは、足元の床と天井に付く丸い小さなパネルを指差して言った。
 ただの転送魔法ならスバルはこれほど狼狽しなかっただろう。転送魔法は科学的には空間歪曲による〝空間の置き換え〟がその原理であり、最初から最後まで意識と実体を保ったまま転送座標の空間と自分の空間が置き換えられる。そのためほとんど自覚することなく転送は終始する。
 エレベーターを想像してもらえばわかりやすいだろう。我々は階数を映すディスプレイと重力加速度の変化によって移動を自覚するが、それらが全くない場合、完全に自覚することなく移動を果たすだろう。つまり、エレベーターの高さ(Z軸)移動だけでなく、平面(X,Y軸)移動を可能にしたものが転送魔法だ。
 しかしこの「転送機」は第6管理外世界が発案、製作したものだ。彼らは魔法が使えないため、まったく別の方法を編み出した。それにはフォールド技術である次元航行技術が用いられた。
 転送シークエンスとしてまず、気流による物質欠損をなくすため円筒状の気密シールドを展開。次に分子レベルにまで転送物を分解する。そして構成情報をフォールド波に変換し、それを再物質化点に送る。再物質化時にはフォールド波の次元干渉する特性を使って、無から元素を生み出し再構成するという方法を採っている。
 つまり転送魔法のように実体が行き来するのではなく、構成情報が行き来するためエネルギー量は圧倒的に少なくてすむ。
 これは当に革新的な技術であった。
 この技術があったからこそ第6管理外世界の住民、ブリリアントは恒星間戦争を有利に戦えたと言えよう。
 しかし管理局では特定の次元航行船しか採用していない。なぜなら魔法が使える彼らには、どこでもある程度手軽に使える転送魔法の方が使い勝手がよかったためだ。
 この転送機の真価は3つ。1つは情報の行き来のため転送可能距離が次元空間を介してさえ数千キロ単位であること、2つ目は魔法でないためAMF下にも対応できること、そして最後に、最大一括転送可能人数が20人を誇るため、部隊の高速展開ができることと言えよう。

「それで、ここはどこなの?」

 その質問に答えたのはティアではなかった。

「L級巡察艦の56番艦、『アースラ』や」

「や、八神部隊長!?」

 部屋の外から突然現れた上官に、ティアとともにあわてて敬礼した。

「うん、なおれ」

 はやての許可に腕を降ろした。するとティアは物珍しそうに周りを見渡す。

「しかしL級巡察艦なんてまだ運用されていたんですね」

 自分が知る限り、L級巡察艦は40年以上前に設計された次元航行船だ。
 当時警察としての側面が強かった次元パトロール部隊(時空管理局・本局の前身)は、乗員が20人程のパトロール挺しか配備していなかった。しかしロストロギアを狙う次元海賊の勢力は強大になっていき、人数も艦自体に武装がない事も問題になってきた。
 そんな背景から作られたL級巡察艦は、150メートルを越える当時としては大船だった。この艦は初めて常時2個小隊(50人)の武装隊と乗員を1年間無補給で養える空間が設けられており、当時輸送船に任していた武装隊の輸送と展開を円滑に行えるようになった。
 そのため当時初めて採用された転送機と相俟って〝事実上の強襲揚陸艦〟と呼ばれ、海賊達の恐怖を誘った。
 またこの艦には様々な魔導兵器が搭載されている。特に有名なのは『アルカンシェル』と呼ばれる魔導砲だ。この殲滅兵器は現在も管理局で最も高い威力を誇り、最新鋭のXV級戦艦でもこの砲は踏襲されている。
 また、このL級巡察艦は全部で56隻が造られたが、ロストロギアに侵食・汚染されて自沈処理された1隻以外は対外攻撃によって撃沈された事はなく、生存性の高さは折り紙付きだった。
 確か20年前より老朽化から、順次退役していったはずだった。

「違うんよ。本当ならアースラは、1カ月前に廃艦になる予定だったんや」

「じゃあどうして?」

 この問いにはやては微笑むと、

「その辺の事は食堂に行ってから話そうか」

と告げ、廊下を歩いていった。

(*)

 はやてに連れられ来た食堂は、艦内とは思えぬほど広い空間に作られていた。
 すでに席には、どんな理由か知らないが、今回の救助活動に前半しか参加していなかったなのはを初めとする隊長、副隊長陣にヴァイスや〝ふくれている〟ランカ、そして〝早乙女アルト〟がいた。

「アルト先輩!?」

「・・・・・・いよぅ」

 どうやらすでに、ここにいる者の誰かから〝手厚い歓迎〟を受けたらしい。彼の左頬には真っ赤になった平手打ちの後があった。

「大丈夫ですか?」

「ああ、撃墜寸前にはやてに転送されたんだ。それで『死後の世界って案外に俗っぽい所だったんだ』って無駄に感心したりして─────」

「いえいえ、そうじゃなくて、〝ここ〟の事です。」

 自分の左頬を指差す。
 アルトは左頬を抑えて押し黙ると、ふくれている緑の髪した少女を見る。しかし彼女は

「アルトくんなんか、大っキライ!」

とそっぽを向いてしまった。

(*)

 幾何学模様に変化する空。
 次元空間内に設けられた巨大な空間には、中規模の次元航行船用停泊ドックが浮いていた。
 以前は本局の前身である次元パトロール部隊が母港としていたが、組織の格上げと船体の大型化に伴い、20年前から管理局は使っていなかった。
 今では第1管理世界に2番目に近い大型次元航行船の受け入れ港(1番目はミッドチルダ国際空港)のため民間船の多く停泊するこの港には、久しぶりに管理局の艦船が入って来ていた。
 胴体に2本の腕を着けたような意匠のこの艦は、20年前まで造船されていたL級巡察艦という型だ。1番艦からの運用期間が40年以上という非常に息の長いこの型は、ここにある改修用ドックで運用できる170メートルにギリギリ収まっており、往年は軽快艦として活躍した。
 そして今、このドックに停泊しているのは、この型の最後の船、56番艦『アースラ』だった。

(*)


「・・・・・・それで、なんでここに集めたんだ?」

 アルトが少し不機嫌に、はやてに問う。
 スバル達が来てからも、まだフロンティア基地航空隊のヴィラン二佐やミシェルなどの上級士官が、このアースラの食堂に集められていた。
 アルトとしては戦死騒ぎで、来る人来る人の悪い意味での〝手厚い歓迎〟に辟易していた。

「うん、まずはレジアス中将の話を聞いてくれるか?」

 はやてはそう告げると席に着いた。
 レジアスは食堂に併設されている小さな舞台に上がるとスピーチを始める。

「あー、諸君。こんな大変な時になぜ突然、こんな所に呼び出されたか疑問に思っていると思う。だがそれだけ重要なことであると考えてくれ」

レジアスは公聴者達を見渡すと続ける。

「知っての通り、我が地上部隊はミッドチルダを守護するために設立された組織だ。しかし最近の情勢は良くなく、六課と、フロンティア基地航空隊のおかげで地上の治安は維持されている。だが諸君、あと〝たった半年〟で双璧の1つである六課は解体されてしまうのだ!残念ながら地上部隊には、今まで通り、現在の戦力をクラナガンに〝釘付け〟にし、維持させることはできない」

 現在六課戦力はクラナガンに釘付けになっているが、他の方面部隊も強力な戦力である彼女らを必要としており、一点集中には限界であった。

「そこで、我々地上部隊は半年後をめどに、地上部隊の保有する六課戦力を合わせ、〝本艦〟をベースに特別部隊を編成する!」

 レジアスの宣言に動揺が走る。これまで地上部隊は艦艇を採用したことはなかった。しかし問題はそれだけにとどまらない。六課と合わせる特別戦力。ここにフロンティア航空基地の面々がそろっているといことは─────

「特別戦力にはバルキリー隊を使う。そのためアースラは今から1カ月の改修をもって、バルキリー隊の〝移動航空母艦〟として運用する!」

 ─────もはや誰も止められないところまで事態は進行していた。

(*)


「しかし、よくこんなお誂え向きの船を見つけられたな・・・・・・」

 アルトの呟きに、隣りに座るランカが耳打ちする。

「この船はね、出張中私の艦隊の旗艦だったの」

 かいつまむとこういうことらしい。
 第6管理外世界へのランカの貸し出しを決定した本局は、ランカ座乗艦はいざ危険になった時に、安全に戦線離脱できる次元航行船がよいと考えた。しかし大型フォールドスピーカーやフォールドアンプ、ステージの設置などを行うサウンド仕様への新鋭艦の改装は元に戻す時に困難を極めるため、解体寸前のこの艦に白羽の矢がたったのだ。
 そうして何事もなく戦争が終結し、最後にランカをミッドチルダまで輸送する任務を達成した後、このドックで解体される予定だった。しかしレジアスがランカを招待した会食の折りに、彼女が

「古くなったからって、解体されてしまうのはやっぱり寂しいですね。機関長さんが『まだ十分動けるんだ!』って座り込みをやってました」

という話題を提供したという。するとレジアスは食い付き、本局からアースラに残りたいという乗員込みで破格の値段で買い落とし、今に至るという。

(なんて大胆な男なんだ・・・・・・)

 アルトはある意味感心した。
 彼が視線を舞台に戻すと、今度は技術士官が改装の概要を説明しているところだった。

「─────アースラにはディストーション・シールド(次元歪曲場)、サウンドシステム、航法システムなどがすでに完備されており、この辺りの改装は行いません。主な改装部はバルキリー用の格納庫の増設で、現在10~14機程度の運用を想定しています。また既存の対空魔力レーザーCIWSに加え、自己完結のブロック型ミサイルランチャーを─────」

 そんな中、ミシェルが話しかけてきた。

「おまえ、これからどうする?俺としてはおまえには3期生の教導に回ってほしいと思ってる。そうすりゃあのヒヨコどもでも2~3週間ぐらいで─────」

 ミシェルはそこまで言ってアルトの放った鋭い眼光に、言葉を発せなくなった。

「・・・いや、ミシェル。俺は前線を退くつもりはない。確か格納庫には予備の〝ワルQ(きゅー)〟(この世界でのVF-1の愛称)があったはずだ。あれを貰う」

 アルトの視線が、隣に座る少女に注がれる。
 彼女は壇上で、復活に涙するアースラ機関長の話に夢中らしい。まったく気づかない。

「俺はコイツを─────ランカを守ってやらなきゃいけないんだ。今日の事でよくわかった。俺はできる範囲でもいいからコイツを他人任せにしたくない。この手で守ってやりたいんだ。も─────」

 〝もちろん、なのはやさくら達だって同じだ。〟と言おうとしたアルトだが、ミシェルの手が肩に置かれ、言えなかった。ミシェルはかつてないほどの笑顔を作る。

「そうか、やっとお前も〝心を決めた〟ようだな。あのプレイボーイが、うん、うん」

 なんだかわからないが、ミシェルはしきり感心する。アルトにとっては、ただ自らの手で大切な人〝達 〟を守る事を、新ためて決意しただけなのに。しかしミシェルは、両方が勘違いしていることに気づかないうちに話を続けた。

「よし、お前の一世一代の決断に俺は乗ったぞ。今日、基地に帰ったらすぐ、技研の田所所長に連絡を入れろ。『例の計画の件で、ミシェルから推薦されました』って」

「そうするとどうなるんだ?」

「まぁ、見てからのお楽しみだ。とりあえず、(ランカちゃんを)しっかり守ってやれよ」

「なに言ってるんだ。当たり前だろ。(みんなを守っていくなんて)」

 色恋に関して天然バカの早乙女アルトと、勘違いしてしまったミシェル。まったくもってお似合いの相棒だった。

(*)

 その後、今後の計画についていろいろと話し合われ、地上時間2200時をもって終了。
 各自部隊へと帰還していった。

(*)


 2314時 聖王教会中央病院

 そこにはなのはとランカの姿があった。
 2人の目的の1つは突然幼生化したアイくんの精密検査。そしてもう1つは保護された少女に関するものだった。
 この時間の病院は消灯後であり、通常静かなもののはずだ。しかし三浦半島の市街地で出た重篤患者がここに集められて治療が行われていたため、今も忙しく人が行き交っていた。

「こんなに怪我人が出たんだ・・・・・・」

 ランカは病院のロビーで全身に包帯を巻かれた人や、虚ろな目でベンチに寝かされながら点滴を打たれている人、etc、etc・・・・・・を見て呟く。
 皆顔は暗く、項垂れていた。

「ランカちゃんがいなかったらもっと被害が出てた。だからランカちゃんのせいじゃないよ」

 だがなのはのフォローもあまり効果ない。
 確かにアルトが生きていたことは言葉に表せないほど嬉しかった。しかし今回の事件で200人以上の死者が出たことには変わりなかった。
 ランカは俯こうとして自らの抱く緑の物体と目が合った。
 それは愛らしく

「キュー?」

と鳴く。

「アイくん、励ましてくれるの?」

「キューッ」

 アイくんは喜色をあらわに、肩に飛び乗ると、頬をすりつけた。

「にゃはは、かわいいね」

 なのははアイくんだけではない。そんな緑色の1人と1匹を見てそう言った。

(*)

 アイくんは精密検査では異常は何も発見されず、ランカの持つバジュラの幼生に関する科学的データと比べても同じだった。唯一わかっているのは、縮んだのは元素分解による質量欠損であること。これは体表面にエネルギー転換装甲を物質操作魔法した時と同様の特殊な反応があったためだ。しかし『魔法を介さない元素操作は不可能』なはずだが、ランカには物質操作魔法の素養もなく、デバイスもシャーリーによると対応していないそうだった。
 謎を呼ぶアイくんだが、〝動く生物(質量)兵器〟が無害化したのと同意のため、周囲は無条件で受け入れていた。

(*)

 清潔な白一色の部屋。
 俗に病室と呼ばれるその場所は、通常ベッド数が4の広い病室だったが、今ベッドは中央に1つしかなかった。
 そしてそのベッドにも、不釣り合いなほど小さな女の子が1人、眠っているだけだった。
 その部屋の唯一の扉が開かれ、2人の人影が部屋に入る。しかしそれでも少女は目を覚ます様子はなかった。

「・・・この子がそう?」

 ランカはなのはの問いに頷くと、アイくんを伴って少女をのぞき込む。
 医師によれば衰弱の度合いは低く、今日、明日にでも意識を回復するという。
 まだ精密検査は行われていないが、この子が通常とは違う人の手によって作られたという可能性が第108陸士部隊のギンガ・ナカジマ陸曹からもたらされていた。現場から1キロ離れていないところで輸送業者の事故があり、そこで密輸されていた生体ポットの主が、あの少女だと言うのだ。
 ギンガはベルカのボストンで唯一生体ポットと関係のある「メディカル・プライム」が〝何らかの事情〟を知っていると見て調査しようとしたが、それはなのはによって止められていた。なのはにはメディカル・プライムとの独自のパイプがあり、「公式の調査で相手を硬化させるより、そこから聞いたほうがよい」との判断であった。
 まだ向こうとは通信していないが、なのは自身は〝恩人〟であるあの企業を疑いたくなく、少女が人造であるとはっきりするまでは聞かないつもりだった。

 閑話休題。

 アイくんは寝ている少女が心配なのか「キューッ」と鳴きながら張りついた。
 そんなアイくんのぬくもりを感じたのだろうか?少女が口を開いた。

「ママ・・・」

 だが意識が戻ったわけではなく、目を閉じたまま手が宙をさまよっている。なのははそんな少女の手を握り、

「大丈夫、ここにいるよ」

と呼び掛ける。
 すると少女の腕の力は抜け、また眠りの底に沈んでいった。しかしその少女の顔は、なのは達が入ってくる前よりいくぶんか微笑んで見えた。

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次回予告

VF-25という翼を失ったアルト
しかしそれは新たに手にする力への序章に過ぎなかった!
次回マクロスなのは第31話「聖剣」
その翼、約束された勝利の剣につき―――――

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最終更新:2013年01月15日 20:53