東の山に魔王あり・・・・
邪悪な心 邪悪な力を持ち
邪悪な姿となりて・・・・
すべてを憎むものなり。
西の山に勇者あり・・・・
強き心 強き力を持ち
勇ましき姿となり・・・・
魔王をうちくだかん・・・・
「ユーノ君が本の世界に入っちゃったってことですか?」
「そう、本局の無限図書館の整理中にね」
「だ、大丈夫なんですかユーノ君は!?」
「分からない。そんな危険な書物が図書館にあるとすら知らなかったのよ。
ミッドチルダ式の源流、古い魔法技術が使われていて対応に手間取っているところよ。」
「それで助けに行くにはどうしたらいいんですか?」
「七人の英雄が必要。唯一開くことのできたページにはそう記されている」
「とりあえずちゃっちゃと飛び込んで助けよーぜ。このメンバーなら負けっこねーよ」
ヴィータの向こう見ずな発言が飛び出す、しかし、それは集まった一同の共通の思いでもあった。
闇の書事件の最後の戦い、全員の力を合わせた集中砲火で防衛プログラムを撃破した成果は
まだ記憶に新しい。
管理局でもトップクラスの戦闘力が集まっているのだ。敗北などありえない。
「私も最初はそう思っていたのだけど、どうやら闇の書以上の危険性がありえるみたいなの。
エイミィ、説明を」
「はい、現在本局を中心として微弱な次元震が連続して発生してます。
なのはちゃんたちには、ジュエルシードを24時間トンカチで叩き続けているようなもの。
と言ったほうが分かりやすいかな。
発生源は問題の本。他の支部、地上本部とも連絡がとれません、よって救援も望めないでしょう。
しかも次元震は少しずつ強くなっています。このまま酷くなれば、複数の次元世界が消滅する
可能性すらあります」
「何故それほど危険なものが無限図書館にあった?
図書館ではなく、遺失物管理課で厳重に保管しなければならないはずだ」
シグナムの激しい剣幕に沈痛の表情を浮かべるリンディ
「ごめんなさい。完全にこちらの失態。本来ありえないことよ、
管理局が収集した書物を図書館に放り込むにしても、危機管理は徹底している。
誰かが図書館に秘密裏に忍ばせるか、あるいは闇の書のような転生機能がないかぎり」
「責任問題は後、今は突入する人選を」フェイトが話を促す。
リンディが再び口を開く前に、慌ただしく通信が入った。
「提督! ユーノ君との連絡がつきました。念話を通信システムと繋げます!」
『ユーノ・スクライアです、聞こえますか?』
「聞こえているわ、それとなのはちゃんたちも来ている」
「ユーノ君、大丈夫?」
『怪我は無いよ、大丈夫。ただ僕の力が及ばなくてフェレットモードだけど。
それよりそちらの状況はどうなっていますか? 次元震が発生したり、管理世界で
魔法がらみの行方不明者や、暴動が起きているといった事件は?』
「次元震が発生しているわ、放置すればいくつかの世界に致命的なダメージを与える試算もでている。
後者は今のところ確認できていない。
ユーノ君、貴方は自分が取り込まれた書物について知っているの?」
『はい。僕達の一族に口伝として伝わっている禁忌の書です。
まさか実物が無限図書館で見つかるとは思っていなくて、迂闊でした』
「速やかに異常を解決するにはどうしたらいいの?
一つの案として、貴方を救助してからアルカンシェルで消し去るというプランがあるのだけど」
『無理です。口伝どおりなら、そういったアプローチでは解決できません。
今は本の形をしていますが、実はこれは本ではないんです。遥かな過去、管理局もデバイスも存在
しなかった旧い時代に、僕達の先祖が命をかけて封印した、一つの世界そのものなんです』
「世界を封印した? 世界ひとつを丸ごと本として封印したの」シャマルの驚きの声。
「住んでいた人はどうなったの?」同時になのはが疑問を口にする。
『そこまでしなければならなかったんです。何故なら封印したかった対象、邪悪なプログラムの
根源である魔王は、その世界に住んでいた人間を絶滅させたからです。
そして、そのまま他の世界も滅ぼさんとした。だからこそスクライア家は命を捨てて封印したんです。
それでも、それでも邪悪な意志を止めることができなかった。
休眠状態だったのはみせかけで、本はずっと力をたくわえ続けていた。
そしてジュエルシード事件で覚醒してしまったんです。もう封印魔法も効果は無いでしょう。
この暴走をとめるには正しい停止プログラムを作動させなくてはいけません』
「それが七人の英雄?」
『はい。本はこのまま放置されれば、自動的にあらゆる時代から適合する英雄を召喚します。
過去、未来、現在、あらゆる時代からです。それができるだけの力がある。
でも、それが行われるという事は次元世界に多大な影響を与えてしまう。下手をすると世界の一つ
や二つぐらい砕けてしまうかもしれない。その前に本局にいる武装局員たちで突入して欲しいんです。
そうすれば、プログラムは次のフェーズに移ります』
「あらゆる時代? そんなの魔法の範疇を超えている。ロストロギアだと仮定しても異常すぎる」
クロノが不愉快そうに反論する。
彼はやり直しや過去を変更するような目的や手段を毛嫌いする傾向にある人物だった。
『本は人間が存在するすべての次元、時空、時代で影響力を行使できます。
人間の心を触媒として超魔法を実現するんです』
「………そんな途轍もないプログラムを止めることが可能なの?」
『英雄達は魔王を打ち倒しました。そうして世界は平和になりました。めでたしめでたし。
あるいは、魔王は英雄達をこてんぱんにやっつけて、世界の全てを滅ぼしました。
このどちらかの結末を迎えることで暴走は止まります』
「あのさ、つまるところアタシたちで押しかけていって魔王をやっつければ、
万事解決するってことかい?」
ヴィータに並ぶ楽観論者、アルフの発言である。
『平たく言えばそうです。けれども敗北は全次元、あらゆる時代のヒトの破滅を意味します』
「あーもうごちゃごちゃうっせえ、つまり闇の書の防衛プログラムより、
とんでもなく強い魔王が世界を滅ぼそうとしてる。だから私たちで倒す。それだけだろ」
「ユーノ君、どうして魔王は世界を滅ぼそうとするのかな?」
『それは、……………魔王が世界を壊し、人々を苦しめることに理由はいらないよ』
「おかしいよユーノ君、そんなの……」
『なのは、時間が無い。こっちの世界で話そう。
リンディ提督、人選を急いでください! 世界に魔物が現れ始めています。
英雄を迎える準備が整いつつあるんです』
「わかったわ」
突入した七名を洗礼が待ち受けていた。イレギュラーな英雄達の力を試すために。
「ふぇーん、大仏様の顔がインコだよぉ~。た、戦っていいのかなあレイジングハート?」
なのはの前には、ゴーストバスターズ2の自由の女神のパクリくさい鳥大仏がとび蹴りをすべく、
けるる~と空を跳ねている。
「巨大な蛙の化け物か。私はサムライではなく騎士なのだが………仕方ない、レヴァンティン!」
「俺の名はオディ・オブライト。狗、貴様にニンゲンの名前はあるのか?」
「ザフィーラだ。………こい、犬にも劣るニ流の格闘家」
「あらゆる時代って言ってたよな……」
見上げるヴィータ。視界には超巨大な恐竜がよだれをたらしている。
「つまり、私は原始時代にふさわしいってのかよ、おい。……ユーノの奴、覚えてろよ。
───アイゼーーーーーーーン!!!」吠えるヴィータ。
「グルゥアアアアアアアアアア!!!」吠え返す恐竜。
「うりゃああああああ、ぶっ潰れろーーー!!!」
「まずいわ、バックアップだけだと思ってたんだけど」
バーチャルボーイを髣髴とさせる世界で、シャマルは巨大なロボットの頭と向かい合っていた。
「とりあえず中身をブチ撒ければ勝てるわよね、………えい♪」
彼女は敵の回路を引っこ抜くべく、目前に開いた穴に手を突っ込んだ。
「僕の相手は拳法使いか。時間が押してる、悪いけど消化試合にさせてもらうよ」
「大言壮語を吐くには相手を考えるべきだったな」
「確かに驕った雑魚にはもったいないな」
「そこまで死に急ぐか、ガキが!」
「敵の武装はガトリングガン、火炎瓶。補助兵装にラッパ。
……一気に片をつける。バルディッシュ、フォトンランサー・ファランクスシフト、スタンバイ」
「Yes, sir.」
最終更新:2007年08月14日 18:17