何処の町にでもある、通りの小さなコーヒーショップ。
夜はバーとなる店で主人がカップなどを磨いていた。時間的に今は空いてる時間。
そんな店のドアを客が開く。タンクトップにズボンという格好の女性だった。
「やあ、スミカ穣ちゃん、いらっしゃい」
「やっほー、オヤジさん、いつものコーヒーセットね」
店の主人らしき人物と顔見知りなのかスミカと呼ばれた女性は
なれた足取りでカウンター席に着く。
「仕事はどうだい?」
「最近はあがったりよ。管理局がうるさくてね・・・」
出されたコーヒーをブラックで啜りながらスミカは答える。
「この間の荷物の護送の時もそう。なんか知らないけどいきなり荷物を見せろ、
これは密輸品の疑いがあるから押収するとか言い始めてさ。
嫌になるわよ、お堅いお役所連中は。あなたもそう思うでしょう、コーラルスター?」
<イエス、マスター>
首から提げたドッグタグ状のデバイスが答える。
「ははは、昔から変わってないって事だな。お代わりは?」
貰うわ、そういいながらスミカはコーヒーカップを渡す。
「そうそう、この間、スミカ穣ちゃんに会いたいってのがきたよ」
「仕事?どんなのだった?」
スミカが歳に似合わず目を輝かせ、身を乗り出して聞く。
「いや、会いたいってだけだったな」
「どんなのが来た?政府?企業?個人?まさか非合法組織?もうごめんよ、非合法は」
「いや、子供が二人、さ」
それを聞いた途端、スミカがカウンターに突っ伏す。
「最悪・・・」
どうしたどうした?ファンの子かも知れんじゃないか?」
自由に生きて行く存在であり、実力のあるレイヴンは子供にとって憧れの的だ。
特にスミカのような地域密着型のレイヴンは特に遠い存在である
レイヴンという存在を身近に感じれる存在であるのだから。
「うー、オヤジさん、レイヴンのジンクスって知ってる?」
「うん?おいおい、俺も元傭兵魔導士だ。知ってるよ。えーと・・・」
そう言うと主人は腕を組んで考える。
「えーと、『報酬全額前払いの仕事に気をつけろ』か?」
「違う」
「じゃあ、『同業者の依頼に気をつけろ』?」
「ハズレ」
「『楽観的な依頼主に注意しろ』?」
「『子供の持ってくる依頼?受ければ大事件に巻き込まれるさ』よ」
「・・・はっはっは!!なるほどな!!確かにそうだ!!」
ツボにはまったのか主人は腹を抱えて笑っていた。
そんな主人を見ながらスミカは頬杖をついて溜息ひとつ。
「これからどうすんだい?」
ひとしきり笑った後、店主が聞く。
「コーラルスターをちょっと見てもらってくるわ。最近無理をかけてたからね」
「最近『ヴァーテックス』とか言う連中がレイヴンを集めているみたいだが?」
「この間、ネットでメールが着たわ。私はパス。非合法はもうごめんよ」
「合法の管理局も増員してるみたいだが?」
「もっとパス」
そんな他愛無い会話をしていた時だった。
店のドアが開いた。客が一人入ってくる。
「いらっしゃい。」
入ってきたのはスーツ姿で長髪の金髪の女性だった。
店主は歳を二十代前半と読んだ。
もし男性客がいたらほぼ間違いなく全員の視線が集まるであろう。
それぐらいの美人だった。出るところは出て窪む所は窪む。最良のスタイルである。
「隣、いいですか?」
「隣?いいわよ」
どうやらスミカに用があるようだった。
「ご注文は?」
「グリーンティーはありますか?無ければコーヒーを」
ひとつの仕草が絵になっている。こいつはエリートだな。主人は目星をつけた。
だが一番気を引いたのは魔力反応だった。
「スミカ・ユーティライネンさんですね?それにコーラルスター?」
「そうだけど、仕事の依頼?何にせよ、その前に名乗るのが礼儀じゃない?」
「失礼しました。私はフェイト・T・ハラオウン。時空管理局・第7管区統括執務官です。
こちらはデバイスのバルディッシュ」
主人は出そうとしたグリーンティーの入った湯飲みを落としそうになった。
スミカは椅子からずり落ちそうになって、寸での所で止まる。
「どうぞ」
だが肩書きを聞いても臆せず湯飲みを出せるのは主人の積んできた経験か。
「ありがとう。あ、ミルクと砂糖はありますか?」
「・・・ミルクと砂糖ですか?」
さすがの主人も面食らったようだ。
こんな驚いたのは久しぶりだな。グリーンティーに砂糖とミルク?口直しか?
主人はそう思いながらミルクと砂糖を差し出す。
金髪の女性、フェイトと名乗った女性は二つを受け取ると砂糖とミルクを
グリーンティーに注ぎ始めた。
スミカと主人は顔を見合わせる。
二人の目は、冗談でしょ?高い茶葉なんだが・・・。そう言っていた。
「いいお茶ですね?」
一口啜るとフェイトは口を開いた。
「あ、ありがとうございます」
香りや旨みが分ってるんだろうか?昔、会った管理官はこんなやつだったっけ?
店主の疑問は尽きなかった。
「スミカさん、少しお話を聞きたいんですが」
「悪いけど仕事に関しては話せないわよ」
「私が聞きたいのは、『ファンタズマ事件』についてです」
スミカの顔色が変わる。
「さらに話したくないわね」
「話し難いのは分ります。ですが、私達の知りたいことは『不死鳥』についてです」
「まさか彼を管理局に引き込もうとしてるの?止めたほうがいいわ」
こりゃこじれそうだな。店主は二人の話を聞きながら思った。
「いえ、話がしたいだけです」
「どんな?」
「『未踏査世界・アビス』について、そしてジャック・Oについて」
「これは任意の協力?それとも強制協力?」
「あくまでも任意です。もちろん、無料とは言いませんが・・・」
スミカは溜息をつく。
「オヤジさん、お代、ここに置いとくね」
「あ・・・」
フェイトが止めようとする。
「ここじゃ何だから、場所を変えましょう」
「わかりました。マスター、代金はここにおいてきますね。おいしかったですよ」
「ありがとうございました。またどうぞ」
「やれやれ、統括執務官とはね。偉いのが来たもんだ」
二人を見送った後、カップを下げながら主人は一人語散る。
「あ、サイン貰えばよかったな・・・、ま、もし二十年若けりゃ相手するんだがなぁ・・・」
そんなことすりゃ女房に殺されるな・・・。場違いな感想を思いついた。
最終更新:2007年10月07日 19:40