二人が喫茶店から出てきたのを確認した執務官補・ティアナ・ランスターは待機していた車から降りると
二人の後を尾行し始める。気づかれないように距離をとり、二人に視線が注目しすぎて注意しながら。
『フェイトお嬢様は?』
『今のところ大丈夫。まあ、あの人なら簡単なことなら自分で対処できるけどね・・・』
どこか他の場所に待機している旧ナンバーズでなぜかJS事件収束後、フェイトの執務官助手として居候中のトーレから
通信が入る。
『どこに行くかわかりますか?』
こっちも同じく居候中のセッテから。因みに二人は無給。二人とも性格が性格なのであまり気にしていない。
さあ?そういいながらMAPを表示。この先にありそうなのは・・・。
『この先の公園かしら?。チームで先行して安全を確保しておいて。目的地が違ったら近くで待機』
『分かった』
『一応言っておくけど都市のガードに目をつけられないように』

「後ろに付いて来てるのはあなたの部下かしら?」
気づかれていた。フェイトは苦笑するしかない。帰ったら尾行の教育をしないとだめかな?
「まあ、そんなところです」
スミカの案内で付いたのは都市部によくありそうな大きな公園だった。昼下がりということもあり周りにいるのは子供
が多い。公園内の東屋にはよく知っている少年を挟んで、よく知っている少女が二人座って睨み合っていた。
おそらくよく知る居候の助手二人もどこかにいるだろう。

なんか禍々しい空気があるわね、そう思いながらスミカは手近なベンチにフェイトと並んで腰を下ろす。
スーツ姿の女性とタンクトップにパンツ姿の女性、並んでみると接点がなさそうに見える。
「で、聞きたいことは?」
「なぜ、彼を選んだんですか?当時あなたは研究素材として研究施設に捕まっていて外部の情報は知りようがなった筈です」
「あの時は誰も彼のことは知らなかった。知っていたとしても唯のレイブンとして、ね」
「じゃあ・・・」
「彼とコンタクトを取れたのは本当に偶然よ。ネットを通じて幾つか作戦を依頼し、そして脱出時に初めて出会った」
そこまで言って一旦言葉を区切る。空を仰ぐ。あの時を思い浮かべる。
「護送用のトラックを脱出した後、コーラルスターを回収して予定していた地点に急いだ。信じられる?彼はウェンズデイ
機関の私兵一個中隊を一人で全滅させたのよ」

『助けてくれて感謝するわ。私の名はスミカ・ユーティライネン。救出の依頼主です』
格納庫の中の光景はすさまじいの一言だった。戦いを挑んだであろう魔導師達の死体が転がり、壁や天井には戦いの
激しさをあらわす弾痕や傷跡・・・。
ここがこれならここまでの道筋は・・・。
『分かった』
『ここまで派手にやらなくても・・・』
スミカの言葉を遮り男が答える。若い男の声。だが深い影が感じられ、年寄りの声のように聞こえた。
『脱出路はこっちだ付いて来い』
男はそういうと体を翻して通路を進んでいく。

「それまでの依頼で能力は知っていた、いえ、知っていたつもりだった。その後、彼にはここアンバークラウンの近くに
居て貰って優先的に私の依頼を受けてもらったわ」
お金はかかったけどね。そういいながらまたスミカは空を見上げた。
「その後、あなた達はウェンズデイ機関と戦いを繰り広げた」
「そう。裏にいたのは当時のムラクモミレニアムと言われていたわ」
ムラクモミレニアム。現在のミラージュ社は管理局のスポンサー企業でもある。
「もう一人、レイブンがいたわ。スティンガー。機関と専属契約を結んでいたレイブンよ」
「話は聞いたことがあります。が、彼に関する記録はほとんどありません。彼はどんな役割だったんですか?」
「機関専属のレイブン。だけど私達が機関の邪魔をし始めた時から彼はおかしくなっていったわ。試作型のファンタズマ
まで持ち出して私達を襲ってきた・・・」

『あれがファンタズマ・・・?』
接近する機体にスミカは注意を向けた。
『いつまで面倒をかける気だ?!』
接近してくる大型の機動兵器からオープン回線で通信が入る。その声は間違いなく幾度となく相対した
レイブン・スティンガーだった。
『スミカ、下がっていろ。こいつの狙いは俺だ』
『気をつけて・・・!!』
大型機動兵器に挑む男は距離をとりながら確実に射撃を打ち込み隙を見るや接近戦を仕掛ける。
スティンガーは反撃しようと火力で押し込も。が、回避を続けている男を捉えられなかった。
『俺が・・・やられるはずが・・・』
損傷が限界に達したのか大型機動兵器は煙を吹きながら引き返していく。
『・・・殺してやる、・・・殺してやるぞ・・・』
『追撃を・・・!!』
止めを刺そうとスミカが追撃をかける。
『待て、必要ない』
『な・・・』
ここで逃がしたら・・・!!そう言おうとしたスミカを遮り男が止める。
『おそらく奴の機は制限がかかってる試作だろう。あれを落としても完成型が出てくるだけだ。それに・・・』
男は一旦区切るとスミカのほうを向いた。
『ああいう奴はすぐに現れるさ。だいぶ頭にきてるみたいだからな。そっちのほうが御しやすい・・・』
スミカは一瞬目を疑った。男が笑ったように見えた。

「確認された試作機はあなた達が破壊した三機。そしてオリジナルの一機。これが確認されたのは・・・、
未踏査世界・アビス。旧暦の戦争で廃棄された世界だとされています。これを発掘したのはウェンズデイ機関の調査隊
でしょう。勿論、違法調査ですが・・・」
「あなたはアビスの中の座標が知りたい、そうでしょう?」
「はい」
「だけど私はアビスに行っていないわ。スティンガーに招待されたのは彼一人だけよ」
「え?」
思わぬ一言にフェイトはまさかと言う顔をした。
「まあ、彼が帰還して、スティンガーが未帰還になった。それがすべてを物語っているわ」
「それじゃあ、アビスの座標は・・・」
知らないのですか?そうフェイトは聞こうとした。
「アビスの座標なら知ってるわ。だけどあんなおかしな所に行ってどうするの?あそこには廃墟しかないと彼の
レポートに書いてあったわ」
「・・・私達の捜査チームはジャック・Oというレイブンを追っています。ご存知ですか?」
スミカは頷く。レイブンと名乗るものなら誰も知らぬものはいない男の名。
「かつてのレイブンズアークの主催でレイブンの独立性を訴え管理局と正面から衝突したレイブン。
今は行方不明?死亡扱いだったかしら?」
「彼はアークの崩壊後、地下に潜りました。死亡してはいないでしょう。そして彼が長期的な計画を考え、
何かを準備している。私達はそう考えています。そして・・・」
「彼は何処かの未踏査世界にいる。それで未踏査世界を調べている・・・、特にレイブンの関わった場所を・・・」
スミカの言葉にフェイトはうなずいた

「お話をして頂きありがとうございました。協力に関する報酬ですが・・・」
「お断り」
スミカはにべもなく答える。だが彼女の手にはいつの間にか握られていたのかクシャクシャになったメモがあった。
「これをあげるわ。アビスの中の座標が書いてある。座標軸のとり方は一般の地図と一緒よ」
「しかし・・・」
「今回のおしゃべりは楽しかったわ。あの事件の事について人と話せたの初めてなの」
そういうとスミカは立ち上がり、歩き出す。
「あの・・・!!」
なおも食い下がろうとするフェイトに振り返り話しかける
「そうそう、もうちょっと護衛の立ち方、教えた方がいいわよ。バレバレよ。じゃ、またね」
フェイトは憮然とする。全員が自分もよく知るベテランぞろいだ。それの気配に気がついていたらしい。
コア・デバイスを持たない準レイブンでもここまでできるものなのかとフェイトは認識を新たにした。
『さあ、みんな帰りましょか。とりあえずデブリフィーリングは覚悟しておくように』
チームとして動く全員に通信を送る。スミカに傍受されないよう最高度のスクランブルつきで。
『了解・・・』
これから始まる小言の時間に全員、六人が気落ちした声で返事をする。
『合流地点はとりあえず予定通り第二とします、以上』
まずは全般を指揮するオーリス二佐に報告書を書き上げて、その後にみんなに特別訓練かな。
そう思いながらフェイトも全員との合流地点に歩き始めた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年10月07日 19:48