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 ―夕暮竜を求めて旅立ちし影持つ者、未だ帰らず。
  ダックの竈(かまど)鳴動し、闇(ダック)の女王ヘルバ、ついに挙兵す。
  光(リョース)の王アペイロン、呼応して両者、虹のたもとにまみゆ。
  共に戦うは忌まわしき“波”。アルバの湖煮え立ち、リョースの大樹、倒る。
  すべての力、アルケ・ケルンの神殿に滴となり、影を持たざるものの世、虚無に帰す。
  夕暮竜を求めて旅立ちし影持つ者、永久(とわ)に帰らず―

                             『黄昏の碑文』 作:エマ・ウィーラント

 .hack//Lyrical
 Log0.Prologue

 Δ(デルタ)サーバー 水の都マク・アヌ

「ログインまではできたけど…アリサちゃんどこかな?」
 茶髪のツインテールの少女…PC名『なのは』がログインしてくる。装備や言動を見る限り、おそらく今日始めた初心者なのだろう。
「なのはー、こっちこっち!」
 なのはが自分を呼ぶ声に気付き、振り向く。
振り向いた先には、自分をこのゲーム『THE World』に誘った友人…PC名『アリサ』がいた。
「えっと…アリサちゃん、だよね?なんかイメージ違うような気がするけど…」
 …確かに。顔はリアルのアリサに似せてはあるが…着ているドレスと重斧使いの武器である大斧がイメージを大きく変えている。
「それはまあ、自分で決めた役割を演じて遊ぶのがネットゲームだしね。
…それに比べて、なのははリアルそのまんまね」
 対するなのはは、顔をなるべくリアルに似せただけでなく、服装もなるべく学校の制服に似せたようだ。
違う点といえば、呪紋使いの武器である呪杖を持っている点くらいだろうか。
「あはは…会ったときすぐわかる方がいいかなって思って」
 なのはがそう言うのとほぼ同時に、一人ログインしてきた。
金髪のツインテールの少女…PC名『フェイト』。彼女もまた、なのはと同様にアリサに誘われて始めたのである。
「…考えることはみんな一緒だったみたいね(笑)」
 …どうやらフェイトも、なのは同様リアルそのままの姿でPCを作ったようだ。
重槍使いの扱う大槍を持っているという点を除けば、リアルの姿に酷似している。

 さて、彼女たちがこのゲーム『THE World』を始めるに至った経緯だが、それを説明するために少し時間を遡ろう。

 高町なのは、フェイト・テスタロッサ、アリサ・バニングス、月村すずか。彼女ら4人という、ある種お決まりともなったグループ。
闇の書事件という大事件から半年、4年生となった彼女らは、久しぶりに4人で下校しているところである。
ちなみに彼女らにはもう一人、八神はやてという友人がいるのだが…彼女はこの日、管理局の仕事のために学校を休んでいた。
「THE World?」
 帰るまでの間の話題は、THE Worldというオンラインゲームの話題に移っていた。この話題を振ったアリサに対し、すずかが聞き返す。
「そっ、オンラインゲーム『THE World』。どんなのかはこの本使って説明するわね」
 そう言うと、アリサが一冊の本…THE Worldの説明書を取り出した。
 いわく、『カオスゲート』と呼ばれる門に3つのワードを打ち込むことで、無数といってもいい数のエリアへと行くことができる。
 いわく、6種類のクラスが存在し、それぞれに多種多様な特性が付いている。
 いわく、全世界で2000万人もの人がプレイしている、などである。
「…とまあ、こんな所ね…面白そうでしょ?」
「なのは、やってみよう。昨日のでしばらく管理局の仕事は無いはずだし」
 フェイトがなのはを誘う。昨日の仕事から、しばらくは管理局の仕事の予定は無いという。
…管理局が何か疑問を持つかも知れないが、この物語にはあまり関係ないので割愛させていただく。
「そうだね。あ、でも…確か専用のゴーグルとコントローラーが要るんでしょ?」
「ああ、それはあたしのを貸すから大丈夫。それじゃ、帰ったらΔサーバーのルートタウンに集合ね!」
 そう言って、アリサが三人にゴーグルとコントローラーを渡した。どこに入れていたという突っ込みはご遠慮いただきたい。

 そして今に至るというわけである。
「すずかからはメールで『用事ができたから今日は来れない』って言われたから…これで全員かしらね?」
 そう言って確認すると、アリサがゲーム内専用メールアドレス『メンバーアドレス』を二人に渡し、色々とこのゲームについて説明を始める。
説明そのものはあまり物語には関わってこないので、こちらも割愛。
そして説明を終えてパーティーを組み、エリアへと向かおうとする。
行くエリアは事前にアリサが探しておいてくれたらしく、それを提案する。
「それじゃフィールドは…そうね、『Δ 萌え立つ 騒霊の 試金石』なんかどう?
レベルも低いし、ここならなのは達でも十分戦えるだろうからね」
 なのはとフェイトもそれに賛同し、そしてカオスゲートからそのエリアへと向かった。

 Δサーバー 萌え立つ騒霊の試金石
「あっそび~ま、しょッ!」
 その声に気付き、振り向く3人。ただしなのはとフェイトは無防備で、アリサは身構えて、という違いはあるが。
そして今回はアリサの反応が正解だったようだ。緑髪の双剣士が双剣を手に襲い掛かってきたのだ。
アリサがそれを受け止め、斧を横に振り回すスキル『ブランディッシュ』で双剣士を振り払う。そして双剣士を一喝した。
「楚良!出会い頭に斬りかかるのやめろっていつも言ってるでしょ!?」
「あは、悪いねぇwでもでもぉ、面白いからいいんじゃなぁい?」
 双剣士…PC名『楚良』はアリサの一喝にも動じず、悪びれる様子も無く、むしろおちょくるような感じで返す。
そしてアリサの説教が開始された…もっとも、楚良は全然聞く気がないようだが。
フェイトはその様子と、「いつも」のくだりで知り合いだと思ったのか、アリサに問うた。
「…えと、アリサ…知り合い?」
 問われたアリサは、説教で疲れたのか、疲れたような表情と声で返した。
「…うちのクラスに三崎亮ってのいるでしょ?あいつよ。もっとも、こっちじゃ楚良って名乗ってるけどね」
「あれ、じゃあこの子達もおんなじクラスの子?…って、名前とカッコ見れば分かるねんw」
 そう言って楚良が笑う。名前と格好を見れば分かる…確かに。この二人は名前も格好もリアルと同じにしてあるのだから、彼女達を知る者なら分かって当たり前である。
「…ねえ、フェイトちゃん…亮君ってこんなキャラだっけ?」
「きっとこういうキャラ作りなんだよ…指摘しないでおいてあげよう」
 なのはとフェイトがひそひそと話す…無理もない。学校にいるときの『亮』と、THE Worldの『楚良』はあまりにも違う。
何をどう勘違いしたのか分からないが、気遣ってひそひそ話にしたようだ
「あー…二人とも、気遣ってるのはわかるけど…吹き出しで何話してるか見えてるわよ?」
 …もっとも、THE Worldでは、発言内容が吹き出しとして出てくるので、ひそひそ話も無意味だが。

 それから3人は楚良と別れ、ダンジョンへと潜った。
ダンジョンは初めてだが、アリサの指導が上手いのか二人ともすぐに慣れ、どんどんと進んでいく。
そして最深部のアイテム神像前でアイテム…今回はLV1の呪杖『アイアンロッド』を回収し、三人は神像部屋を出た。

 … そ し て 、 悲 劇 は こ こ か ら 始 ま っ た

 神像部屋を出た先には、見たこともない空間が広がっていた。
ダンジョン内部ならば地形が変わることはありえない。だからこそ、この状況は異質だ。
だが、初心者のなのはやフェイトにはこれがただのゲームの仕様にしか映らない。なのはが感嘆の声を漏らす。
「神像のアイテムを取ったら地形が変わるんだ…凝った作りだね、このゲーム」
「違う…こんな事、ありえない!」
 そう言ったアリサの声に、二人が驚いた表情で振り向いた。
一体どういうことか聞こうとしたが、アリサは何かを考え込んでいる。今話しかけても多分気付かないだろう。
(いきなり変わった地形、一瞬走ったノイズ、これって…)
「まさか…プレイヤーを意識不明にするって噂の!?」
 このゲームには、とある噂が存在する。
それは、とある倒せないモンスターと戦い、そして倒されると現実に意識不明になるという噂だ。
その噂のモンスターは2種類存在する。一つは緑色の斑点のようなものを纏ったモンスター。もう一つはそのエリアすら変え、そのターゲットを屠るというモンスター。
今回の場合は…紛れも無く後者だ。そして後者の方は、前者より桁違いに強いとも聞いている。
「アリサ、それって…」
 フェイトの問いも耳に入らない。どうするべきかを考えている真っ最中だから。
そして結論を出し、なのはとフェイトにそれを言う。
「…二人とも、いい?多分、これからとんでもなく強いモンスターが出る。もしそうなったら勝ち目は無いわ…
だから、それが来てない今のうちに逃げて」
「アリサちゃ…ッ!」
 なのはがどういうことか聞こうとするが、その問いは中断されることになる。
何も無い空間が突如歪み、そこから何かが現れた。それはまるで…

「何あれ…壁画…?」

 何かの壁画のような姿をしていた。八相と呼ばれる8体のモンスターのうちの1体『第二相 惑乱の蜃気楼 イニス』だ。
最も、この時点では正体など分からないのだが…噂を聞いていたアリサには、少なくともかなりの強敵だと理解できた。
そして、この状況でどうするべきかの答えもすでに出ている。
「いいわね!すぐ逃げるのよ!」
 結論…なのはとフェイトを逃がし、自分は囮になる。
大斧を手にイニスへと向かっていき、斬りつけるアリサ。だがダメージは皆無。逆に衝撃波で吹き飛ばされる羽目に。
吹き飛ばされ、倒れるアリサ。何とか回復アイテムで持ち直し、再び斬りかかるが…やはり効いていない。
「効いてない…噂は本当だってこと!?」
 それを認識すると同時に、アリサの体が宙に浮く。首から上動くことは不可能。したがって、反撃することもできない。
何とか周りを見渡すと、そこにはもう誰もいなかった。アリサに言われた通り、この場から逃げたのだ。
(二人とも、逃げてくれたみたいね。よかった…)
 これで倒されるのは自分だけで済む。少なくともなのはとフェイトは犠牲にならない。
アリサがそう思って安堵するが、次の瞬間、体が何本もの光線に貫かれていた。
そのまま落下し、倒れこむアリサ。少しずつ体が消え始めている。
「ごめん、なのは…フェイト…そっち戻れなくなっちゃった…」
 そして、アリサの体が完全に消え去り、残ったデータが空へと飛び去っていった。

 同じ頃、アリサの自室。
アリサの手からコントローラーが落ちる。それから少し後には、力なく手がだらりと垂れ、そのままピクリとも動かなくなった。
そのすぐ後、アリサの携帯が鳴るが、取ることはできない。彼女はもう、意識不明になっているのだから。
着信画面には、「なのは」の名が表示されていた…

 翌日、アリサが意識不明となり、入院した旨が伝えられた。

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最終更新:2007年08月26日 22:07