何が起こったのか、一瞬分からなかった。少しずつ落ち着き、状況を分析。
地上にはタイガ。同じく何が起こったか理解できないらしく、呆気にとられている。
なのはに突き刺さるはずのデストクローは、地上へと落下。突き刺さっている金色の魔力刃は、今霧散した。
そして、目の前にいるそれをやったと思われる黒衣の人物は、眠り続けているはずの親友――――
「フェ…フェイトちゃん!」
 その名前を呼んだとき、なのはの目に涙があふれる。
フェイトが目覚める日をどれほど心待ちにしていたか、それを考えれば無理もないだろう。
「ごめん、心配かけたみたいだね」
「ううん、いいの。フェイトちゃんが目を覚ましてくれれば、それで…」

「戻りましたか。どうでしたか?」
 香川が部屋に入ってきた東條へと問う。
「モンスターの気配は2体分でしたけど…僕が行った時には1体しかいませんでした。とりあえずその1体は倒しましたけど…」
「ほう…となると、後の1体はどこに行ったんでしょうか?」
「多分…神崎士郎が言っていた魔導師が一人そこにいましたから、あの子が倒したんだと思います」
 そう言って東條は、あの戦いの場で見聞きしたものを香川へと話した。
その中でも香川が興味を示したのは、魔導師がミラーワールドに出入りできるということだ。入れるのはライダーかオルタナティブくらいのものだと思っていたので、その事は非常に興味深い。
「なるほど、ミラーワールドへと出入りできる魔導師ですか。調べてみる必要がありそうですね…」
 そう言うと、オルタナティブのデッキを手に研究室を出た。

 その翌日、大通り。
「今日は客が入らんな…」
 手塚がいつものように占いをしている。もっとも、今日は客の入りが悪いようだが。
そろそろ3時だ。戻って翠屋の手伝いをしよう。そう思って片付けようとした矢先だった。
「俺も占ってもらおうか」
 聞き覚えのある声。だが手塚は気付かない。ただ客が来たとだけ認識している。
当然いつもの応対をするが…
「いいだろう。何を…お前は!」
 客の顔を見ると、見覚えのある…ライダーの戦いを仕組んだ張本人の顔。
そう、神崎士郎がそこにいた。
「どうした?占ってくれるんじゃないのか?」
 多少癪に障ったが、客は客だ。という事で占うことにした。
「…まあいい。何を占ってほしい?」
「この戦いの結末だ」
 正直言って意外だ。オーディンによって何度も巻き戻している張本人が、まさか結末を占ってもらいに来るとは。
…それはともかく、手塚は自らの決意表明もかねてこう答えた。
「…残念だが占うまでも無い。決着がつく前に、俺たちの手で止めるからな」
 それを聞くと、神崎はポケットに手を入れ、手塚に一枚のカードを渡して背を向けた。
「…代金の代わりだ。それを使って戦え。さもなくば…次に死ぬのはお前ということになる」
 そう言って神崎は去っていき、そして一瞬のうちに消えた。残された手塚はカードをしまい、道具を片付けて帰っていった。
渡されたカードは『SURVIVE』と書かれた青いカードだった。

第二十三話『疾風』

 同日、海鳴大学病院にて。
「フェイトちゃん、調子はどうなん?」
「はやて…大丈夫。少しずつだけど、足は動くようになってきてる」
 現在、フェイトがその日の分のリハビリを終え、見舞いに来たはやてと話している、という状況である。
医師曰く、経過は良好。この分ならもう1、2週間もあれば退院できるという。
…それからしばらくは会話に花を咲かせていたが、不意にそれは中断される。
「失礼、フェイト・T・ハラオウンさんですね?」
 声に気付き、振り向く二人。そこには見慣れぬ眼鏡の男性がいた。
何者なのかも分からないので、とりあえず問い返すフェイト。
「そうですけど…あなたは?」
「…申し遅れました。私は香川英行…清明院大学で教授をやっています」
 大学教授が何の用だろう。そう思ったフェイト達。
「実は、先日あなたが鏡の中に入ったのを見かけたものですから、どういう事なのかを聞くためにここに来たのです」
 その言葉にフェイトの思考が止まる。いつ?どこで?まさか眠る前に?
…見られてしまったのは事実のようだが、今ならまだごまかせるかもしれない。そう思い、とりあえずしらを切ることにした。
「何かの見間違いじゃないんですか?鏡に入るなんて、そんな非科学的なことが出来るわけないと思うんですけど…」
 その非科学的な事を実際にやっている自分が言うか、と心の中で苦笑する。
そして次の瞬間、香川の見せたものによって心の中の苦笑いは消え、代わりに驚愕が支配した。
「…これで真実を話してくれますね?」
 香川が取り出したのは、先日戦ったライダー…タイガのデッキだった。

 同日・同刻、公園にて。
 蓮が池の前の柵によりかかり、考え事をしている。
恵理を救いたい。だが誰も殺したくは無い。今のままでは、蓮はこの悩みで苦しみ続けることになる。
「秋山…」
 そこに翠屋へと戻る途中の手塚が現れる。蓮も手塚に気付き、振り向いた。
「小川恵理のことは諦めろ」
 いきなり何を言うんだ?いや、それ以前に何故手塚が知っている?
恵理のことを知っているのは蓮を除けばなのはと真司のみ。ならばこのどちらかから聞いたのだろう。
「以前なのはから聞いた。だが誰にも言ってない」
 やはりそうだったか。そう思っている蓮の様子に気付かない手塚は、蓮の方へと向き直り、続ける。
「諦めるんだ。そうしたからといって、誰もお前を責められる奴なんかいない…お前まで破滅の道を選ぶな!」
 必死で蓮を説得する手塚。だがそれも空しく…
「生憎だが、俺は諦めるつもりはない。恵理を救うか、俺が倒れるまではな」
 その言葉を最後に、蓮が背を向け、去っていく。だが手塚はそれを見逃すつもりはない。
「待て、秋山」
 手塚が蓮を呼び止める。蓮はそれに対し、振り向かずに言葉を発した。
「手塚、お前はそろそろ翠屋の手伝いの時間だろ?戻らなくていいのか」
 言葉から察するに、手塚を追い返そうとしているようだ。
「ああ…だが、その前に一つやる事ができた」
「何…?」
 手塚の言葉を聞き、蓮が振り向く。その当の手塚はカードデッキを取り出していた。
「俺はお前を止める。たとえデッキを破壊してでもな」
「面白い…やるか?」
 そして蓮もカードデッキを取り出す。
数秒の沈黙。それが明けるとすぐに公園の池に向かい、カードデッキを突き出した。
「「変身!」」

 所変わってミラーワールド。ここではナイトとライアが戦いを繰り広げていた。
ナイトの斬撃をライアがバイザーで受け止め、逆に蹴りを放つ。だがナイトはそれを後ろに下がってかわし、カードを二枚装填した。
『GUARDVENT』
『SWORDVENT』
 ウイングランサーを手に取り、さらにダークウイングが変化したマント『ウイングウォール』を背に纏うナイト。そして空へと舞い上がる。
「おぉぉぉぉぉっ!」
 咆哮を上げ、ナイトがウイングランサーを構え、上空からライアめがけて飛来する。その速度もあいまって、バイザーでは到底防ぎきれない。
ならばどうするか、そう考えている間に、その戦いを中断するものがあった。
『HOLDVENT』
 声に反応し、後ろに飛ぶライア。だがナイトは気付いていない。それ故に直撃が入り、撃墜される。
地上に落ちたナイトが見たものは、バイオワインダーと杖型デバイスを持つライダー…言うまでもない。ベルデだ。
「あら…倒すつもりで放ったのだけど、やっぱりそう上手くはいかないわね」

「我々は戦いを止めるために動いています。聞けばあなた達も目的は同じとのこと」
 香川がフェイトに語りかける。目的は同じだから手を組もう、そう言っているのだろうか。
だが、フェイトは香川の言うことをそう簡単に信じはしない。彼が見せたカードデッキは、なのはを襲ったライダーの物だからだ。
…もっとも、彼が見せたのはハリボテ同然の複製だが、フェイトはそれを知る由もない。
「そのデッキ…以前なのはを襲ったライダーのものですよね?」
「なのは…?ああ、あの白い衣装を纏った彼女のことですか」
 これで決まった。彼はタイガ…もしくは、それに関わる者である。
「いきなり人に襲い掛かるような人を、信用できるとでも思っているんですか?」
 短く、しかしはっきりと拒絶する。だがフェイトは完全に拒絶してはいない。
この戦いを止めるために動いているライダー、それが真司達以外にもいるとは思っていなかった。上手くいけば協力できるかもしれない。
香川はそれが分かっているからこそ、フェイトが理解できるよう説明を行った。
「これは手厳しいですね…理解していただけるかはわかりませんが、こちらにも理由というものがあるのです…聞いていただけますね?」

「何故ここにいる…プレシア・テスタロッサ」
 撃墜されたダメージから立ち直ったナイトが問う。
何故攻撃されるまで気付かなかったかなどはクリアーベントで説明が付くのだが、それ以前に先ほどまでいなかった相手がいるのだ。誰でも不自然に思う。
「あら、ライダーがミラーワールドにいたらおかしいかしら?」
 …至極全うな答えでベルデが返す。ライダーがミラーワールドにいても別におかしくはない…ナイトの問いとは若干ずれた答えだが、彼女はそんなことは気にしない。
実際はモンスターに食事をさせに来て、そして帰ろうと思ったときに戦いが始まったというだけなのだが。
「アリシアを生き返らせる。そのためにあなた達には死んでもらうわ」

 仮面ライダーベルデ…スペック上は他のライダーより戦闘力が若干劣る。
劣る…はずなのだが、かつて行われ、そして無かった事にされた戦いの中では、このナイトとライアをそれぞれ圧倒し、そして倒した程の実力を持っていた。
そしてそれは、この戦いでも健在である。その上にさらに魔法の使用を加えた結果が…
「ハァ…ハァ…」
「あっけないものね。もう終わりかしら?」
 これである。ライダー二人を相手に余裕という程の強さ。勝ち目はあるのだろうか。
(く…仕方がない!)
 いや、一つあった。先ほどライアが受け取ったカード『疾風のサバイブ』、これは使ったライダーを強化するというもの。
退けるにはこれを使う必要がある。そう感じたライアは、カードデッキからそれを取り出す。
が、ベルデはそれを許さない。バイオワインダーをライアの腕に当て、サバイブのカードを弾いた。
目の前を飛んでいったサバイブのカードを見て、その方向に振り返るナイト。そして飛ぶライアの言葉。
「秋山!そのカードをこの女に渡すな!」
 その言葉で、ナイト・ベルデ両名が理解した。このカードはライダーのパワーバランスすら崩しかねないとてつもない代物だということを。
「そう、そのカードは私に渡したくないような凄いものなのね…なら、私が貰うわ」
『ADVENT』
 ベルデがカードを装填し、バイオグリーザが現れる。そして舌を伸ばしてサバイブのカードを奪おうとする。
『NASTYVENT』
 だが、それはナイトが装填したカードにより、即刻中断された。
今まで纏ったままだったウイングウォールがダークウイングへと戻り、ソニックブレイカーを放つ。
超音波により、硬直するバイオグリーザ。だが舌の動きは止まらない。
『ADVENT』
 再びバイザーの電子音が鳴る。ただし今度はナイトともベルデとも違う方向から。
声とともにエビルダイバーが飛来する。そう、先ほどの電子音はライアによるものだった。
エビルダイバーがバイオグリーザに突撃し、弾き飛ばす。それでできた一瞬の隙を使い、ナイトがサバイブのカードを拾った。
異変はその瞬間に起こった。ダークバイザーが突如風を纏い、姿を変えたのだ。
ライアのエビルバイザー同様、契約モンスターを模したようなバイザー。名付けるなら『ダークバイザーツバイ』とでも呼べばいいだろうか。
そしてナイトはその使い方を理解し、ライアの方を見る。そしてライアも頷いた。
サバイブのカードがバイザーの装填口へと近付き、吸い込まれるように装填される。
そしてバイザーがその名を告げた。仮面ライダーナイトの新たなる力の名を。

『SURVIVE』

 風が吹き荒れ、塵が舞い、ナイトを包む。その中でナイトは姿を変え、そして風が止んだ。
仮面は金色に縁取られ、グランメイルは蝙蝠の翼を模した青い鎧になった。
その名は仮面ライダー『ナイトサバイブ』。サバイブによる新たな力を得たナイトである。

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最終更新:2007年08月28日 21:23