第十一話 「潜伏再開」

12月12日 2020時
海鳴市  市街地広場

雨が降る中、煙が立ち上る広場にフェイトは佇んでいた。
さきほどの魔力爆撃とミサイル攻撃のおかげで追跡手段を失い
騎士達の逃走経路も判別できなくなってしまった。
燃え上がった木々は自分が降らせている雨のおかげで鎮火している。
近辺世界にいた捜索隊、武装隊が総出で戦闘の痕跡を消す作業に追われている。

「・・・・」

「フェイト・・・」

アルフが心配して声をかける。
今回の被害の大きさについて自分を責めていると考えているのだろう。

「大丈夫だよ、アルフ。逃げられたとはいえ、まだチャンスはある。
 今度は絶対捕まえるよ」

幸いにして今回の死者はゼロだった。
魔力爆撃を察知したユーノが結界内にいた味方全員に防御魔法を幾重にも
張ってくれたおかげでミサイル攻撃にも耐えることができた。
ただし、負傷を理由に前線から退く人もそれなりにいる。その際たる例がクロノだ。

「クロノは本局の医療ブロックに運ばれたらしい、入院が必要らしいんだ」

ギュッと、フェイトは拳を握り締める。
あのクロノが敗北し、大怪我を負ったという事実はアースラクルーに衝撃を与えた。
だが、リンディさんもエイミィも黙々と仕事をこなしている。
こうなるであろうことを覚悟していたからだ。

(この世界にとって管理局は、よそ者。管理局法という大義を振りかざしても
 ここの人たちにとって何の拘束力もない・・・・)

だから、現地の人たちから攻撃される可能性があるだろうということもアースラのみんなは知っていた。
だから、いつ誰かがやられる可能性があることも覚悟していた。
『闇の書』事件対策本部がアースラではなく海鳴市に置かれたときから・・・
これが管理局の最前線中の最前線である次元航行部隊の真の姿であることをフェイトは理解した。

「フェイトさん」

レインコートを着て現場で指揮を取っているリンディ提督が近寄ってきた。

「貴女達も休んでいいわよ。なのはちゃんは先に帰らしたわ。家に帰らないとご家族の方々に心配をかけてしまうし」

「でも・・・リンディ提督、魔法による市街地の破損のほとんどは私のせいですし
 手伝わなくてもいいんですか?」

市街地の破損の多くは、M9のチェーンガンの弾痕とフェイトのプラズマランサーのせいであったりする。
もちろん最後に行われたミサイル攻撃が一番酷いのだが・・・それはフェイトの中からすっかり消えていた。

「やっぱり手伝わせてください」

「駄目よ。フェイトさんは気象操作もして疲れてるんだからしっかりと休まないと」

「それなら今、作業している武装隊の皆さんも同じです」

頑なに作業の手伝いを申し出るフェイトにリンディはフェイトに目線を合せて言う

「気持ちは嬉しいけど、無機物操作とかフェイトさんにできる?
 もし武装隊の人たちが働いてるのに自分だけ休んでるなんてっていう負い目があるなら
 後でお礼を言えばいいのよ。おじさん達はとても喜ぶはずだから」

にこりと笑い自分に休憩を勧めるリンディ提督は他の局員に呼ばれ
念を押すようにフェイトに休息するように言って離れていった。

「そうだよ、フェイト。悔しいけどあたし達のスキルじゃ、戦うことしかできないよ。
 今は休んで、次にこういうことがないようにすればいいんだよ」

アルフもそう言って休息を促す。
フェイトは遂に折れ、リンディ提督の言うとおり対策本部に戻って仮眠を取ることにした。

12月12日 2030時
砂漠世界

「どわあああああああ!」

さっきまで日本の一地方都市である海鳴市にいたはずなのに、いつの間にか訳の分からん所に飛ばされ
さらに不自然な態勢で空中に投げだされたクルツは受身もとれず地面に激突した。

「いって~、もうちょっとマシな運び方してくれよ」

「お前はもう少し、体術のスキルを身に付けたほうがいいな」

しっかりと受身を取った宗介がクルツを横目に起き上がる。

「ウルセー、こんな出鱈目に対応できるほうがおかしんだよ」

「ふむ、それにしてもここはどこだ?」

宗介は改めて辺りを見回す。
先ほどまで夜だったはずがギラギラと太陽が照りつける砂漠にいる。

「ここは地球の近くにある別次元の世界です。」

振り返ると自分達をここに飛ばした張本人であるシャマルがいた。

「・・・・地球じゃないのかよ」

そうですよと言ってシャマルは空を向かって指を向ける。
その方向に顔を向けて、宗介とクルツは目を見開いた。

「おいおい、ソースケ。俺の頭はさっきの衝撃でおかしくなったのか?」

クルツの言葉も当然である。太陽が二つあるのだ。

「いや、俺にも見える」

「・・・・・」

「信じてくれましたか?」

初めて次元を渡る人達が見せる特有の反応を楽しむようにシャマルは微笑む。
つまり、まず絶句し、疑い、決定的証拠を見せ付けられ、また絶句というパターンである。

「それよりもサガラさん、傷を見せてください」

すぐさま真剣な顔に戻り宗介に近づくシャマル
先ほどのクロノとの戦闘でゴム弾の暴発、至近距離でフラッシュバンを使ったことによる傷を宗介は負った。
なんとも無いように見えるがヴォルケンリッターの体調管理を一任している
シャマルから見ればやせ我慢してるようにしか見えない。

「ゴム弾の傷も閃光手榴弾の火傷も酷いです。治療しますから患部を見せてください」

「問題ない。医療キットなら持っている」

「私がしたほうが治りも早いですよ?」

このことに関して恐らく自分の技量(といっても反則的な魔法のおかげだが)のほうが
サガラさんより上だという自負している。
戦闘時との顔つきの違いに宗介は折れ、手の火傷と左肩の痣をシャマルに見せる。

「よかった、この程度ならすぐに治せます。頼むわよ、クラールヴィント」

『Ja』

砂漠の乾いた風が突如、春風のように心地よいものに変わったと思ったら宗介の体が光りだす。
光の中、宗介は自分の体から痛みが引いてゆくのを感じた。

「・・・・終りました。これで治ったと思いますけど、どうですか?」

宗介は自分の手を見つめ、グー、パーを繰り返して異常が無いかを確かめている。
火傷して真っ赤だった皮膚が元通りになっている。神経、骨なども異常なし。

「いや、確かに完治している。便利なものだな」

仕方のなかった事とはいえ、負傷したことで今後の戦闘に支障をきたす可能性もあった。
完治まで見立てて2週間、つまり任務終了後である。
それが僅か十数秒で跡形も無く治った。

「そうでもないです。瀕死の重傷や骨折といったものは治せないんですよ
 治す時に変な治り方しやすいので・・・」

「そういうもんなのか。ちなみにどういう原理で治してるのだ?」

クルツの質問にシャマルの瞳が妖しく光る。
キュピーンという擬音がしたのを二人は確かに聞いた。

「知りたいですか?知りたいんですか?」

シャマルは嬉々として、宗介とクルツに問いかける。
二人はシャマルの反応を見てバツ悪そうな顔を見合わせた。
この手の話は聞くだけで頭が痒くなるのだ。
宗介は自分の通っている高校の美術の教師を、クルツは自分の職場の中佐を思い浮かべた。

「「いや、止めとく」」

異口同音に話題を切るクルツと宗介。
シャマルは二人の返事に残念そうに頬を膨らませる。
ヴォルケンリッターの中でもこういう話をすると倦厭されている。
捕まえて話を聞いてもらっても全員、始めてから30分で曖昧な笑みを浮かべ目をそらしてしまうのだ。

「それよりも聞きたいことがあるのだが」

「なんですか?」

「『闇の書』が引き起こした災害だ。以前に接触したときは、さほど重要と感じなかったから聞かなかったが
 管理局の奴が言っていたのは本当なのか?」

以前カフェで情報を聞き出したときには『闇の書』が貴重な物である為、狙われていると思っていた。
だが、もし都市や文明を丸ごと破壊するような危険物ならば話は別だ。

「もし奴等の言うとおりならば、考えを改めなければならない。
 確かに俺達は君達の護衛する為に派遣されてきた。だが大量破壊や虐殺に手を貸す気も無い」

カチッという音が響いた。
クルツはそれが宗介が拳銃の安全装置を外した音だということを理解した。

「・・・・・」

「どうなんだ?」

「本当なら、どうしますか?」

『闇の書』をきつく胸に抱きシャマルは二人を見据える。
シャマルの顔には影ができ、それが事実であることを示している。
その顔を見て、宗介は懐から拳銃を取り出してシャマルに向ける

「事実なら完成できないようにするまでだ」

「確かに、『闇の書』がそういう風に使われたことはあります。
 歴代の主の中には『闇の書』がもたらす力に溺れて悲惨な末路を歩みました。
 ・・・でもはやてちゃんは違います。あの娘は・・・絶対に違います」

はっきりと現れる現在の主への信頼
人の寿命から言えば永遠に等しい時間を生きてきた彼女は言ってみれば歴史の傍観者だ。
もちろん中には守護騎士の活動を著しく制限した主もいた。
ほとんどの主は彼女達に戦いを強制はしたが
自分の不利益になるような行動をとらなければ大抵のことは大目に見てくれた。
そうして人の歴史を見続けた彼女達だからこそ分かる。
八神はやては力に溺れる人間ではないと・・・

「私達だって最初は、はやてちゃんに進言しました。
『闇の書』が完成すれば全てが貴女の思い通りになるって・・・
 そしたらすごい怒り出して・・・あの娘にとって、力なんてなんの魅力も無いものなんです」

まるで我が事のように語るシャマル
兵器として宿命付けられた自分、思考することがないただの人形であれば
このような思いを持つことは無かっただろう。だが、自分達は触れたのだ。
まだ十にも満たない歳の少女が持つ優しさを、暖かさを

「だが、お前達は実際に『闇の書』を完成させようとしてるぞ」

「シグナムも伏せていたけど私達が蒐集活動してるのは、はやてちゃんの命のためです」

「命? 前にシグナムが八神はやてのためだと言っていたが・・・
 彼女が車椅子なことと何か関係でもあるのか?」

先ほどからいつでも拳銃を発砲できる状態の宗介が聞き返す。
クルツは、らしくもなく黙ってシャマルの話を聞いている。

「『闇の書』が他人の魔力を吸収して完成するのは知ってますよね?
 それでも最初に起動するときや私達、守護騎士を維持するのにいくらか魔力がいるんです。
 まだリンカーコアも体も未発達のはやてちゃんから、その分の魔力を吸い取っているんです」

               ◇ ◇ ◇

「それが主はやての体を蝕んでいる」

「つまり、怖い借金取りのせいで首が廻らなくなってるのね?」

ここは宗介達がいる砂漠世界とは違う世界
マオとシグナム、ザフィーラはM9を密林に隠して情報交換をしている。

「言い方が気に喰わんが、そのとおりだ。主の体は足の先から機能不全を起こしている。
 これの治療は地球でも、恐らく管理局でも無理だろう。
 主はやてを救う方法はただ一つ、『闇の書』を完成させること以外に無い」

シグナムを拘束していたバインドは先ほどから一緒にいるペットの犬が破壊した。
マオもM9から降り、シグナムから話を聞いていた。

「車椅子生活なのは、そのためか・・・。
 それにしても変わった仲間がいるのね。ただのペットだと思ってたわ」

少し変わった毛並みの犬・・・ただそれだけだと思っていたが
まさか魔法を使うとは、こちらの想像の斜め上を行っていた。

「主がこの姿のほうがいい仰るのでな・・・」

「犬が喋った!?」

驚きのあまりズザッと後方に引くマオ
そのまま口をパクパクさせながらシグナムを見る。
その顔にはこう書いてあった。つまり、ファスナーどこ?である。

「中の人などいない。ザフィーラは狼をベースにした守護獣だ。
 知能も人間並みにあるから喋ることもできるし、魔法だって使えるぞ。もちろん人型の形態にもなれる。」

「・・・・別世界に来た事だって驚きなのに、これ以上アタシの心臓に負担をかけないでちょうだいな。
 これで大体、分かったわ。ECSを看破できたのは、こいつのおかげね?」

「そうだ。ザフィーラの嗅覚は見た目のとおりだからな。
 恐らく管理局が途中から位置を把握し出したのも同じ理由だろう。
 テスタロッサの使い魔もザフィーラと同じく嗅覚が優れている動物を素体としているからな。」

テスタロッサ―――自分達を追い詰めたあの金髪の少女、いや魔導師だ。
幼い少女とは思えないほどの戦闘センス
重装備の歩兵100人分の戦力とも言われるASに真っ向勝負を挑み互角以上の戦いをした。

「管理局って組織には、あんな化け物がまだ何人もいるものなの?」

一応この世界の人間でない為、殺さないように気をつけたが
この戦闘を口実に管理局が戦争でも吹っかけてきたら、自分達に勝ち目などあるのだろうか?

「テスタロッサレベルの魔導師は多くはない。『闇の書』を回収、または破壊を完了したならば
 魔法文化のない第97管理外世界を管理局も重要視しないだろう」

「それだけが救いね。異次元間戦争・・・って言っていいのか分からないけど
 そういう物の引き金を引いた女として歴史に名前が残るのだけは勘弁だわ」

「さて今度はこちらの番だ。以前は、はぐらかされたが今度はきっちり答えてもらうぞ」

シグナムはマオの質問に答えた。
世の中はギブ&テイクで成り立っている。今度はマオがシグナム達の問いに答える番だ。

「分かってるわよ。ここまで首を突っ込んだんだし、ダンマリする気もないわ。
 でも最後に・・・なんで私達の通信チャンネルを知っていたの?」

こうも簡単に通信に割り込みを掛けることができるならば
今後の戦闘でも通信には細心の注意を払わなければならない。

「そのことか、うちのシャマルは後方支援の専門家だ。当然、通信の傍受もできる。
 私は思念通話で、お前達の通信チャンネルをシャマルから教えてもらったに過ぎない」

「それは、あんた達だからできる芸当なの?それとも・・・」

こちらの通信の傍受を管理局の連中は、できるのか?
そうであるなら対策をしっかり練らねば次は確実に負けるだろう。

「さあな。できるのかもしれんし、できないかもしれん。詳しくはシャマルにでも聞いてくれ。」

はっきり言えば、シグナムにとってシャマルができることが重要なだけであって
通信の傍受の詳しい仕組みや相手ができるかどうかなど興味の対象外であった。

「はあ~、分かったわよ。ちゃんと後で話させなさいよ?
 それでアンタ達は何が聞きたいの?」

「そうだな。お前達の正体と我々を狙う連中についてもう少し詳しく聞こうか?」

やはり、そう来たか。
マオは当たり障りの無い所を話し始めた。

「私はメリッサ・マオ、ミスリル作戦部西太平洋戦隊特別対応班所属
 階級は曹長、コールサインはウルズ2
 11月30日付けで、八神はやてとその親類を護衛する任務に就いた。
 それで私は部下を2名引き連れ、海鳴市に派遣された―――――――」

12月12日 2110時
海鳴市  八神家

八神はやては心配していた。
もう晩御飯の時間を過ぎても家には自分ひとりだ。今夜は鍋ですずかちゃんが家に来てくれるというのに
あまりに遅いので、自分とすずかちゃんだけで食べてしまおうかと思ったがそれはあまりに失礼というものだ。

「みんな、遅いなぁ」

時計を見つめるはやては、先ほどすずかにお詫びの電話を入れたのだ
すずかは、あっさりと許してくれた上に逆に家に自分を招いてくれた。
時間はもう9時を過ぎている。あと少しでお迎えの車が来るはずだ。

「みんな携帯電話持ってへんし、遅くなるなら連絡くらい入れてくれればええのに」

愚痴を零しながら、テレビをつけてお迎えを待つ。
チャンネルを幾つか変え適当な番組を見てダラダラと20分くらいしていると
二階からゴトッという音がした。

「なんやろ?」

ヴィータ達が帰ってきたんやろうか?
しかし、それでもおかしい。何故二階から?
はやては廊下に出て階段の所まで出て、階段から二階の様子を窺がう。

「誰かおるんか?」

階段から二階に向かって、声をかけた。
しかし返事は無い。不審に思ったはやては、階段昇降機を使い二階に上がっていく。
二階では、まだ物が動く音がしている。

「ヴィータ?それともシャマル?誰なん?」

二階にある別の車椅子に乗り、はやては音がする両親が使っていた部屋―――今は、物置になっている。
本来なら誰も寄り付かない所だ。
しかし、確かに物音はしている。はやての脳裏に泥棒という単語が浮かんだ瞬間、廊下の電気が消えた。
いや、違った。消えたのは廊下だけではないこの家全体の明かりが消えてしまっている。

「驚かせてすまないね」

「誰?」

先ほどまで物音を部屋のドアが開き、中から涼やかな声がする。
暗闇のせいで姿は見えないが声の感じからいって男だ。

「だだの通りすがりだよ・・・
 おっと、警察は呼ばないでくれ。すぐに帰るから」

男は怪しさ満点の言葉で答えるが、なぜかはやては怖いという感情を持つことができなかった

「ここに来たのも気まぐれの部分も多かった。
 特に何か理由があったわけでもない、ちょっと興味があっただけなんだ。
 同じ、生まれたときから呪いをかけられてる身として」

「はあ、話がよく分からないんやけど・・・」

はやては男の回りくどい喋りのせいで言ってる事を掴むことができない。
男は、はやての様子にクスリと笑い朗々と喋り始めた。

「この海鳴にちょっとした用事があってね。それも、終って後は帰るだけなんだ。
 その前にちょっと忠告を言いにね・・・」

「ええっと?まずお名前くらい教えてもらえませんか?」

「本名はあいにく言えないけど、そうだな・・・仲間内では僕をAgと呼んでるよ」

「そうですか。でもAgさん、なんで電気を消したんですか?」

不思議そうに聞くはやて、ただ話したいだけなら家中の電気を消す必要などあったのだろうか

「いや、すまない。それについては謝罪するよ。僕がここにいることがばれると
 この街にいる怖い人がたくさんやって来てしまうからね」

怖い人ってヤ○ザ屋さんかいな?やっぱり危ない人なんやろうか?
はやての頭に色々な想像が浮かぶ

「忠告と言っても、もはや手遅れだけど・・・・ただ今なら最期を選ぶことはできる」

「最期?」

「君も薄々感じているんじゃないかな?もう自分は先が長くないと」

淡々とAgと名乗った男は、はやてに語りかける
男の専門―――怪しい組織の幹部などではなく科学者、技術者としての容赦ない事実を抉り取る行為

「君は今の家族に囲まれる暖かい最期を迎えたいと思っているようだが、そうなって欲しくない人達がいてね。
 色々、努力してるよ。いい意味でも悪い意味でもね」

「それって、どういう―――」

「だから、あらかじめ言っておくよ。君が僕の言ったような最期を迎えたいのだったら
 これから先、どんなことがあっても自分を見失わないことだ。
 それができれば・・・・そうだな・・・・誰かに看取られる最期だけは得ることができる。
 冷たい一人っきりの死だけは回避できるはずだよ」

ピンポーン・・・

呼び鈴がなり、すずかちゃんの家から迎えが来たことを告げる。
3分もなかったはずだが、男が話した死刑宣告のような内容に何時間にも感じてしまった。

「迎えが来たようだね。用件は伝えたよ、参考にしてくれると嬉しい限りかな。
 じゃあ、さようなら。もう会う事もないだろうけど・・・」

「ちょっと待ってーな!貴方は誰なん!?」

はやては車椅子を進め、物置となっている部屋のドアを開ける。
しかし、そこにはすでにもぬけの殻となっていた。
部屋に荒らされた様子はない。はやてはしばらく部屋の中でボウっとしたが
また呼び鈴が鳴ったことで我に返り、玄関にいるだろう迎えの人に返事をする。
だが、Agの言葉が頭にこびりついて離れることはなかった。

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最終更新:2008年01月20日 09:37