第十話「嵐」

12月12日  1940時
海鳴市   市街地結界内

凄まじい砲声、それが立て続けに3発。
音のする方向に目を向けるとビルの屋上にまばゆい光を放つAS――自分を助けてくれたほうではない――が立っていた。
何気ない無意識の行動、それが不味かった。一瞬でも注意が反れたことを見逃すほどヴィータは甘くは無かった。

「!」

アクセルシューターの編隊の僅かな乱れを利用して釘付け状態から脱出したヴィータ。
自分の得意な戦い方が出来ず、怒りに燃えるヴィータは逆襲を開始する。

「てめえ、よくもやってくれたな!」

赤いオーラが湧き上がり、カートリッジシステムを使ってないのにヴィータの魔力がグングン上昇する。
なのはは急いでアクセルシューターの制御を取り戻し、波状攻撃を再開しようとするが・・・
3編隊ならばともかく2編隊では、あまりに隙が大きかった。

「オラァ!」

「ええ!?」

通常のハンマー形態に戻ったグラーフアイゼンをバットのように振り回し
なのはが放ったアクセルシューターを悉く撃ち落す。
しかもそれだけに留まらず、なのはに向かってピッチャー返しを放つヴィータ。
なのはは、驚愕のあまり剛速球で返されたアクセルシューターを回避するのを遅れてしまった。
風を切り裂きピッチャー返しアクセルシューターは、なのはに命中する。
一矢を報いたことでヴィータは、ようやく落ち着いたのだった。


守護騎士のリーダー格であるシグナムを連行する為に、武装隊に引き渡しをするフェイト
シグナムは全力でバインドを破壊しようとするが
自分と他の武装隊員の魔力を合せているバインドはそう簡単に破られはしない。
だが・・・・

「なのは!?」

それまで有利に戦いを運んだなのはが思わぬ反撃を受けてフェイト達に思わぬ動揺が走る。

ドン!

砲声と共に一発の砲弾がフェイト達の元に向かって放たれる。
間一髪のところで回避に成功するが、バインドで吊るされていたシグナムは支えを失ったことで落下してしまう

「しまった!」

落下するシグナムを下からASが跳躍して受け止める。
M9が着地すると同時に、関節から衝撃緩衝剤の蒸気を噴きだす。
生身の人間なら着地の衝撃で絶命してしまうが、騎士甲冑で保護されているシグナムならば大丈夫だろう。
フェイトは邪魔をした傀儡兵―――エイミィによるとM9というASを睨む
それに呼応するように、M9はフェイトに目(センサーなのだが)を向ける。


光の輪で縛られたシグナムを見てM9の操縦席でマオは溜息をつく。
こうも色々と動かれて、戦闘されては護衛も大変だ。
そして今日のように相手が本腰を入れてきて捕まってしまっては任務を果たすことが出来なくなる。

「まあ、それ自体わりかしどうでもいいんだけどね・・・・
 フライデー、反応ある?」

マオはM9に搭載されているAI―――フライデーに尋ねる。

『ネガティブ、ECCSにも反応はありません』

AIの合成音声が辺りにヴェノムがいないことを告げる。
ECCS、それは究極のステルス装置であるECS(電磁迷彩)に対抗するためのセンサーである
これを使えば、ECSの不可視モードを使っていてもその存在を探知できるのが
障害物の多い場所ではあまり効果を発揮しない場合が多かったりするのだ。

「とりあえず警戒は怠らないように、あとストロボはもういいわ。」

『ラジャー』

AIに命令し、注目を集める為につけていたストロボを消したマオは上空にいる金髪の子供を見上げる。

「・・・端から見なくても私達、悪役よね。」

そうなのだ。
いかに相手がAS並みの火力を誇り、超常的な現象を引き起こす魔法使いでも
まだ、小学低学年そこらの年齢しかないのだ。

「でも、やらないわけにはいかないか。」

そう一人でぼやいていると、上空からフェイトの他8名が降りてくる。
M9の手の上で護衛対象が何か言っているが、とりあえず無視することにした。
光学センサーを働かせ、少女の姿を拡大させる。
ツインテールに結んだ髪に、水着のような服、手には戦斧を持ってこちらを見て何かを言っている。
指向性マイクを向けて何を言ってるか確認するマオ

『貴方がしていることは明確な捜査妨害です。今すぐ武装解除して手に抱えている人をこちらに引き渡してください。』

やはり管理局とやらは、シグナム達を拘束したいようだ。
それにしてもミスリルは、いつから異次元人と戦うコミックの登場人物になったのだろう?
ともあれ目の前の少女は異次元人といっても自分たちと全く変わりない姿をしている。
魔法という得体の知れないものを使うがSFに出てくるグロテスクな蛸のような奇妙な姿をしているわけでもない。

『もう一度、言いま―――』

『言わなくて結構よ。お嬢ちゃん』

あえて外部スピーカーで返答するマオ。
フェイトは顔に驚きの表情を浮かべて、手に持っている武器を構える。
まさか、このASという兵器に乗っているのが女性だとは思っていなかったようだ。

『投降する気なんて無いわ。アタシ達は自分達の任務を果たすまでよ。』

『管理局の捜査妨害をすることが任務だというんですか!?』

目の前の機械の中から話している女性にはその行為がどれだけ危険なことなのか分かっているのか?
フェイトは、大声で問いただした。

『それはあくまで結果よ、お嬢ちゃん。この連中を拘束されたら私達が困るの。』

『どっちも一緒です!投降しないならば、実力行使で捕縛します。』

その言葉を聞きマオは、ニヤリと笑みを浮かべた。

『ハッ! 上等!』

言葉と同時にマオはM9の左手をフェイトに向けた。
パンっと渇いた音がし、M9の腕に仕込まれた電気銃(テイザー)が電撃を放つ。
まともに喰らえば成人男性でさえ、一撃で昏倒させる代物だ。
だが、それを苦も無く防ぐフェイト

『私の魔力変換資質は雷です。その程度では私は落せません。』

そうして現れる4つの金色に輝く銛のような物体がこちらを向く。
フライデーが矢継ぎ早に警告を飛ばしてくる。

「警告、非常に高い熱量を発する物体がマイク1の周囲に出現」

マイク1―――フェイトに暫定的に設定された呼び名である。
フェイトの周り現れたプラズマランサーは力場に封入されたプラズマの槍だ。
当たれば、ASの装甲だろうが一瞬で蒸発しかねない。

「ECS作動、不可視モード!」

マオは、すぐさま電磁迷彩を作動させながらプラズマランサーの射線から退避する。
さっきまで、マオがいた位置を超高温の槍が通過していく。
先ほどのシグナムとの戦闘で使われたことでどういう攻撃なのかは分かっていた。
あちらがECSを探知できないならば、それを最大限使って相手を倒すのが一番である。

「でも、あんまり長時間は使えないわね。」

ECSは非常に電力を喰うのだ。
急激な機動と同時にECSを何度も使うとコンデンサーが一時的にスッカラカンになり十数秒間行動不能になることがある。
そうなっては本末転倒だ。

「正面からは防がれたけど、不意打ちなら・・・」

移動しながら散開している武装隊員を背後から電気銃で撃ち落していく。
そして指揮官らしき金髪ツインテールの少女に近づこうとしたときマオにとって信じがたいことが起きた。
フェイトが見えないはずのM9を見据え迷うことなくプラズマランサーを発射したのだ。
間一髪、避けることに成功するが金髪の少女の攻撃はそれだけに留まらなかった。

◇ ◇ ◇

フェイトは姿を消したM9を警戒しながら辺りを見回していた
前回の戦いの映像で、こちらで言うオプティックハイドのような幻影魔法を使うということは分かっていた。

「バルディッシュ、相手の位置分かる?」

『No,sir. 赤外線で探査していますが反応なし。魔力も判別不能』

相手の透明化の詳しい性能は分からないが、どうやら魔力に頼るものじゃないらしい
シグナムの魔力も微弱になっていた。
ライトニングバインドのほかに、魔力を抑える効力のあるバインドも同時掛けをしている。
魔導師や騎士を捕縛するときの常套手段だが、まさかこのようなことになるとは・・・・
耳を澄ませば、かすかにASの移動する音が聞こえてくるが潜水艦のように音だけを頼りに正確な位置を把握することはできない。

「どこ?どこにいるの?」

冬の冷たい風がASの足音をも曖昧にしていく。

「うわああああ!」

少し離れた所で悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴がしたほうに急行すると、武装隊員が地面に倒れ付している。

「しっかりして下さい!誰か、この人を!」

フェイトは念話で他の隊員にも注意を促すが、その最中にまた一人襲われた。
もし不意打ちで相手の大砲をもらえば、まず間違いなく自分達は死ぬだろう。
右や左から聞こえてくる駆動音。フェイトは、かすかな音に反応するが相手の姿が見えないので下手は打てない。
あたり一帯を焼き払う覚悟で広域魔法を使うことが出来れば、話は早いが・・・・
所詮は無理な相談である。味方も巻き込むし、戦闘の隠蔽も大変になる。

「相手はシグナムを抱えながら戦闘を行っているのに・・・」

正直、ミッドチルダの有史前の戦い方をする遅れた人たちだと侮っていた。
それは大きな間違いだ。この人たちの戦い方は洗練されている。
この世界の人たちは強い。
フェイトの額に焦りの汗が浮かぶ。

(フェイト!後ろだよ!)

近くで、相手の狼型の守護騎士と戦闘していたはずのアルフが念話で知らせてくれた。
なぜ分かるかは知らないがアルフの言うことは信頼できる。
背後に向かって、プラズマランサーを放つ。

「プラズマランサー、ファイヤ!」

何もない空間に巨大な質量が動くことで発生する強風と、それが巻き起こす砂煙が発生する。
間違いない。アルフの言うとおりASが透明化して接近していたんだ。
新たなプラズマランサーを発現させると同時に、アルフに念話を送った。

(アルフ、どうして分かったの?)

(なんかね。臭うんだよ、そいつ。・・・今度は左だよ!)

(臭う?)

フェイトは首をかしげながら、さらなるプラズマランサーを放つ。
自分達の世界と違い、こちらの傀儡兵は空を飛べないが、それを補う運動性能を持っている。
先ほどから、こちらの射撃が避けられているのは、そのせいだ。

(その・・・M9だっけ?そいつが透明になると同時に、ツーンってくる臭いがするようになるんだよ)

(アルフはその臭いで、居場所が分かるんだね?)

念話から、そーだよという得意げな声が返ってくる。

(ならアルフ・・・)

(分かってるよ、フェイト。リアルタイムで教えればいいんだね?)

(でも、大丈夫なの?あの狼型の守護騎士の相手をしながら)

自分から頼んだもののアルフは今、戦闘中のはずだ。もし余裕がないならば自分ひとりで戦おう。

(大丈夫だよ。応援の武装隊の奴らが来たから、それくらいの余裕はあるよ。)

(アルフ、ありがとう。・・・邪魔者には、ここで退場してもらおう。)

(合点だよ!フェイト)

攻撃は苛烈を極めた。
ただ斧や杖を持っているだけなのに火力は十分、やり辛い敵だ。
先ほどまでこちらの位置を満足に把握すら出来ていなかったのに、だんだん相手の狙いも正確になってきている。

「フライデー!相手はECCSでも使ってんの!?」

『ネガティブ。検知器に反応なし』

「じゃあ、何でこっちの居場所が分かるのよ!?」

回答不能というお決まりの答えが返ってくる。
どこか別の場所から仲間が指示を出している?ありえる話だ。観測班のような連中が活動を開始したとしか思えない。
しかし、どこだ?ECCSのような強力なセンサーを使っているのに何故、位置が割れない?

「こなくそ!」

牽制の為にワイヤーガンを撃つマオ
テイザーが効かないのならば、もっと原始的な物理攻撃しかない。
しかし、頭部に備え付けられている12.7ミリ機関銃では威力はありすぎる。
ワイヤーガンも普通の人間ではただではすまないが
こいつらはビルの壁に衝突して大穴あけても無事だったのだから多分、大丈夫だろう。

『Load Cartridge.Haken Form!』

少女の戦斧が変形し、金色に輝く鉤が現れる。
フェイトは飛んでくる銛を避け、アンカーに繋がっているワイヤーを叩き斬る。
ワイヤーが切れたことでアンカーはM9に戻ってくることは二度となかった。

「い゛っ!?」

そのまま突っ込んでくるフェイトから距離を取る為にM9を後ろに跳躍させる。

「どういう切断力してんのよ!?あれは瞬間的に100t以上の荷重に耐えられるのに!」

カーボン等の素材を使った強靭なワイヤーを、いとも簡単に切り裂く切断力。
さらに他の魔導師も戦列に加わり攻撃をしかけてくる。
もはや手加減をすれば負けるのは、こちらのようだ。
が、護衛対象であるシグナムを抱えた状態で40ミリライフルを使えば、どうなってしまうか・・・。

「八方塞とはこのことね・・・ECSがなかったら、やばやばだわ」

しかし、悪いときには悪いことが重なるものだ。
飛来してくる光弾が図らずも、道路脇にある消火栓を吹き飛ばした。

「げっ!」

水気のない市街地の道路に突如、水柱ができ大量の水がM9に降りかかる。
M9の装甲表面に青白い燐光が発生する。
究極のステルス装置であるECSの数少ない弱点、それは水である。
ECS作動中に水が付着するとその部分にスパークが発生し、あたかも広告塔のように目立ってしまうのだ。

「ECSカット!頭部チェーンガン威力行使!」

水が乾くまでECSは使えない。
周囲に集まってくる敵の包囲網を突破する為、今まで封印してきたチェーンガンを使う。

「これは・・・・本格的にまずいわ。」

12月12日  2003時
海鳴市   市街地を一望できる場所

『それで、今回はお前は出て行かないのか?』

「ミスリルが思いのほか頑張っていますからね。とりあえずは静観しておきますよ。」

ヴェノムは15キロほど離れた場所から、戦闘している魔導師達と一機の第三世代ASを監視している。
手に縛られ無力化された守護騎士を抱えている為、主兵装である40ミリライフルを封じられているようだ。
だが頭部に装備されているチェーンガンでも十分役に立つ。
ただし、それで高位の魔導師のシールドやプロテクションを破れるとは限らないが・・・

『ふん、ラムダドライバなしでどこまでもつか怪しいものだがな。』

「それは心配ないでしょう。ラムダドライバがなくても
 お互いに一撃必殺の手段を持っているなら、チャンスはありますよ。」

『ずいぶんと敵を評価するものだな。』

不機嫌そうな声が通信機から聞こえてくる。
ファウラーは、それをクスリと笑う。

「いえ、ラムダドライバとて万能ではありません。それに今まで西太平洋戦隊との戦闘では負け続きですからね。」

『確かにそうだが・・・まあ、いい。ミスタAgの協力で例の装置は遅くとも三日後に完成する。
 あとは『闇の書』の完成を待つだけだ。ここで誰かに持っていかれるわけにはいかんぞ。』

「承知しています。それで、どうやって奪うおつもりで?」

『そのことなら心配せんでいい。Plan-1211を使う。その後は、お前達の仕事だ。』

あの殺人人形を使うつもりなのか。それにしても・・・・

「それにしても、よく手に入りましたね?何機用意できたので?」

『8機だ。ミスタAuから少し高かったが、取り寄せた。』

ミスタAu―――アマルガムの幹部の中でも力のある存在だ。

「魔法のことを話したのですか?」

『いや、怪しいほどすんなり譲ってくれた。これからは身辺に気をつけなければな。』

ミスタCuは組織内の共食いを警戒してるようだ。
しかし、この時期に内部抗争をするほどミスタAuは愚かだろうか?

「ミスリルに対する総攻撃を数ヶ月後に控えたこの時期にありえる話でしょうか?
 あるとしても総攻撃後でしょう。そしてその頃には、誰も貴方を止めるものはいなくなります。」

雇い主を安心させるように囁くファウラー
情報処理能力も光るものがあるファウラーの話に、ミスタCuも僅かだが安心したようだ。

『そうか。では、もう話すことはない。お前は監視を続けろ、必要なら妨害もだ。』

「了解しました。」

そう言ってブツっと通信は切れた。
ファウラーは再び、ヴェノムのセンサーを向ける。
水のせいでECSが使えないことが、ネックになっているようだ。
しかも、たとえ結界が破壊されたあとでもECSが使えなくては意味がない

「敵とはいえ、健闘を讃えサービスだ。受け取りたまえ。」

ファウラーは、一緒に持ってきた装備品を組み立て始めた。

12月12日  2005時
海鳴市   市街地結界内

「これは・・・?」

今まで姿を現さず、アルフの嗅覚のみで追い詰めていたM9が水をかぶった途端に透明化を解いた。
相手は特に目立った損傷を受けていないにも関わらずだ。変わった所といえば水をかぶった事だけだ。
その光景を見たフェイトはある秘策を思いついた。
一時的に水をかぶったとはいえ、高速で走るASならば装甲を濡らしている水もすぐに乾いてしまうだろう。
ならば常時、水が降る様にすれば良い。そのための魔法も自分はよく知っている。
その場合こちらにも影響が出るが相手にはそれ以上のデメリットを被るはずだ。

(アルフに武装隊の皆さん。2分間、あのASを抑えておいて下さい。
 それだけ待ってもらえば、透明化する機能を封じることができます。)

フェイトは念話で一緒にM9と戦闘していた隊員と臭いで相手の位置の情報を流し続けたアルフに
これからどういう魔法を使うかを伝える。
武装隊員からの承諾をもらいフェイトは一時的に戦闘から離脱し、上空に舞い上がった。

「結界内で使うのは初めてだけど雷を落すわけじゃないから、いけるはず!
 バルディッシュ、始めるよ。」

『Yes,sir』

選択する魔法はサンダーフォール。
気象を操作し、雷を落す魔法だ。しかし今回は違う。
目的は雨だ。消火栓の水が一時的に相手の透明化を封じるのならば、雨を降らせ辺り一体を水浸しにする。
その場合こちらも濡れて、相手の電気銃の威力を高める可能性もあるが
しっかりとシールドを張れば問題はないはずである。

「アルカス・クルタス・エイギアス。煌めきたる天神よ。今導きのもと降りきたれ―――」

詠唱に入るフェイト
カートリッジシステムを搭載したため大量の魔力を一度に集めることができるようになり
発動までの時間は半年前に使ったときより大幅に短縮することができた。
その上、雷雲ではなく、ただ雨を降らせるだけなので術者への負担も割と少ない。

「バルエル・ザルエル・ブラウゼル。撃つは雷、響くは轟雷。アルカス・クルタス・エイギアス。」

『Thunder Fall』

大気中の水蒸気が集まり、市街地上空に雨雲が形成されていく

ザアァァァァァァァァァァァァ

サンダーフォールの設定を少し変え、雨だけを降らすことに成功。
もう相手は透明になることはできないはずだ。
これで私達が有利に事を運ぶことができる。

                 ◇ ◇ ◇ 

「なによこれ!?」

先ほどまで空は晴れていた。雨が降る気配など、どこにもなかった。
だというのに・・・・

「お天気お兄さんが嘘ついたわけ!?」

これではECSの復旧もできない。
たとえこの結界から離脱できたとしても、ECSが使えなければ目撃者を大量に出す羽目になってしまう。
マオは自分の背中に嫌な汗が流れるのを感じた。

「これは年貢の納め時かしら・・・」

迫り来る光弾をジグザグに避け市街地を西へと逃げる。
頭部機関銃の弾丸もまだ余裕があるとはいえ直撃は不味い、殺してしまう。

「でも、背に腹はかえられないわね・・・」

そういって、手短な奴に照準を合わせ引き金を引こうとした瞬間に通信が入った。

『まだ・・あき・・・ら・・な。』

通信機からノイズと共に流れる護衛対象の声。しかもこの声は、自分が左手に抱えているシグナムの物ではないか

『・・・5分後に離脱するチャンスが来る。それまで粘れ。』

「ちょ、ちょっと、なんでアンタが私達の通信チャンネルを知ってるのよ!?」

センサーを左手に向けると、こちらを見上げる鋭い瞳があった。

『私の思念波をレヴァンティンが電波に変換して話している。
 5分後、結界が破壊されると同時にザフィーラと一緒に離脱する。』

「答えになってないわよ!ああもう、それは置いとくとしても
 ECSも使えないのにどうやって市街地から離脱するのよ?」

当然の疑問だ。
いや、たとえECSが使えたとしても管理局からの追跡を振り払うことができるだろうか?
この戦闘で奴らはECSで透明化したM9を探知する方法を発見したようだ。
さらに相手は得体の知れない異次元人の組織だ。まだ奥の手があるかもしれない。

『必ず離脱できる。だからザフィーラと合流するまで粘れ。』

発光する光の輪で縛られ、身動きすら取れない無力な姿を晒しているにもかかわらず
ピンクの髪をした剣士の瞳には全く諦めの色は浮かんでいなかった。

「OK・・・アンタの言葉に賭けるわ。チップは私達の命って所かしら?」

『そうなるかもしれんな。』

「望む所よ。少し派手な機動になるけど我慢しなさいよ!」

今まで手に抱えたシグナムになるべく負担をかけないよう、それなりに慎重な機動をしていたが
どうやら、この騎士には無用だったようだ。
跳躍と同時に、頭部機関銃を乱射する。
追跡している魔導師たちが蜘蛛の子を散らすようにビルの陰に隠れた。
しかし、金髪の魔導師は弾幕の中をスピードを生かし自分に肉薄してくる。

「おとなしく・・・止まりなさい!」

フェイトは弾丸の雨を避け、手に持った鎌の刃を飛ばして来る。
そう何度もピョンピョン跳ねていれば、滞空時間の長さ、空中で身動きが取れないことはばれているだろう。
だが、フェイトは忘れている。

「こっちにはこれがあるのよ!」

空中でシグナムを右手に持ち直し、左手のワイヤーガンをすぐ脇のビルに発射し飛来してくる光の刃を避ける。
攻守が入れ替わった。頭部チェーンガンの弾丸が咆哮を上げ、フェイトに襲いかかる。
シールドを張り、弾丸を弾くフェイト。その隙に他の隊員が援護射撃を飛ばす。

「わわわっ!」

マオはビルの屋上からフェイト達がいる方向とは反対側に降り、市街地の中心に向かって逃走する。
高速で移動する為、雨がM9の装甲に激しく打ち付けられている。
接近警報!
正面に魔導師が2人、放たれる光弾を避けながら肉薄し交差する瞬間に電気銃で黙らせた。

「これで敵はあと3人、時間は・・・残り173秒!」

敵の動きが急に良くなった。
自走速度が急激に上がり、跳躍距離も格段に伸びた。

「バルディッシュ!相手の速度は?」

『Sir、150㎞/hを超えてます。』

速い。
自分も速度でいえば負けはしないが、地上でこのスピードを出せる人型の機械が
存在するという事実にフェイトは舌を巻いた。しかも敵は障害物の使い方も熟知している。

(誰か、敵の進路に回りこめる人はいませんか?)

(俺が回り込む。しかし、足止めできるかできないかが精一杯だ。)

(構いません、ASの相手は私がします。それなりの被害が出たとは言え
 追い詰めているのはこちらです。増援が来れば私達の勝ちです。)

念話を終え、次の角に武装隊員が待ち伏せをすることが決まった。
見事に相手の足を止めるが、電気銃と頭部の機関銃のせいで近づけない。

(アルフ、今どこ?)

敵の透明化を封じたことで、ザフィーラとの戦闘に集中しているアルフに念話をつなげる。

(いま?ええっと、広場のほうに向かってる。)

広場・・・そこは市街地の中央にある憩いの場
ジュエルシードの災害で破壊され大幅拡張され結構な広さを持っている。

(私達もそっちに向かってる。そっちには今何人いるの?)

(アタシを含めて、3人だね)

こちらと同じ人数、ギリギリの人数だ。
最悪の場合、ASを撃破も考えなくては・・・
しかし6人いれば包囲して、バインドで拘束することもできるかもしれない。

(アルフ、今そっちにASが向かってる。到着したと同時にチェーンバインドいける?)

(使い魔がノーって言うわけないじゃないか、フェイト)

快諾するアルフ
ここに来てアルフの頼もしい態度がフェイトに安心感を与えた。
あとは、なのはだ。

(なのは!今、どの辺りにいるの?)

(フェイトちゃん、ゴメン!今、手が離せないの)

最初のアクセルシューターの波状攻撃に苦戦していたヴィータだが
こういう相手には撃たせる前に叩いてしまえという経験から、ほぼ互角の戦いを繰り広げている。
相手は永遠に等しい時間を戦い続けた騎士だ。その経験はどんなに多く見積もっても多すぎるということはない。

(分かった。気をつけて。)

アルフ達がいる広場まで、このまま行けばあと100メートルの所まで迫ってきた。

               ◇ ◇ ◇

入り口にある木々を飛び越えたと同時にオレンジ色の鎖がマオを襲う。
腕に絡みつく鎖、マオは兵装ラックから単分子カッターを取り出し切り裂く。

「待ち伏せ!?」

『そのようだ。だがザフィーラがいなければ脱出は不可能だ。ヴィータは手が離せないようだしな。』

「そのザフィーラってのはどこにいるのよ?」

近くにいる魔導師たちに片っ端から電気銃を放つがあまり効果がない。
相手も馬鹿ではない、対抗策はきっちりとっているようだ。

『もう来ているはずだ。だが、あと80秒余っているからな・・・
 時間が来るまで不用意に姿をあらわさんだろう。』

「早すぎたっての?ECSを使わないでこの包囲を無傷で突破するなんて無理よ?
 できても血の雨が降ることになるわよ。」

周りには6人の魔導師、二人ほど毛色が違うがマオの周囲を浮遊してデバイスをこちらに向けている。

「これでチェックメイトです。30秒以内に機体から降りてきなさい!」

代表としてあのお嬢ちゃんが投降を促す。

『あと68秒・・・なんとか持たせろ』

手の中のシグナムがえらく無茶なこというが、少しでも動けば蜂の巣にされかねない。
それほど周りの連中は殺気立っている。
残り45秒を切ったが、限界だ。

『ミサイル警報!数1、高速で接近中!』

「!? ECM(電子対抗手段)作動!」

フライデーが突如、15㎞先からのミサイルが発射されたという警報を鳴らす。
矢継ぎ早に指示を飛ばすがミサイルは欺瞞されない。

「くっ!」

手のシグナムを庇うようにミサイルに背を向ける。
着弾する瞬間、世界から全ての音が失われ、やがて閃光と爆音が辺りを覆う。
衝撃波と熱がその場にいた全員に襲い掛かり、広場の木々、ビルのガラスを粉々にした。
機体が大きく揺れマオはコックピットでしたたか頭を打ち付けてしまった。
衝撃が収まり、いち早く立ち直ったマオは腕のシグナムに声をかける。

「生きてる?」

『ああ、なんとかな。ちょうど時間だ。』

シグナムがそういった途端、M9の足元に白い剣十字の魔法陣が浮かび上がる。
M9のセンサー、計器が異常数値を弾き出し警報を鳴らすが
それらを無視するように守護騎士と機械の兵隊の姿は海鳴市から消えていた。

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最終更新:2007年08月24日 20:19