序章 編
世界と言う奴はあらゆる可能性に満ちている。今回もその可能性の中の一つ…。
第97管理外世界の並行世界に位置する世界の中の一つに、
日本がスットンと言う国名へになっており軍隊を所有している事、アメリカがアメリコと
言う国名になっているなど、本質的には似ているが微妙に異なる世界が存在した。
97管理外世界がそうだった様に、その世界でもまた第二次世界大戦と呼ばれる
世界大戦が行われていた。そしてスットン帝国…97管理外世界で言う所の大日本帝国に
相等する国は大日本帝国同様に敗色濃厚な所まで追い込まれていた。
その敗色濃厚な戦況を覆す為、97管理外世界の大日本帝国は様々な超兵器を
極秘開発していたと言われる。轟天号しかり…鉄人28号しかり…メタルダーしかり…。
しかしどれも結局は完成に至らず、大日本帝国は敗戦してしまう事になるが、
スットン帝国においても一発逆転用超兵器の開発が行われていた。
その名は鋼鉄重装女子学生「桜花」 一言で言うならば女性型の殺人ロボットである。
開発者「芹沢英二」博士の亡くなられた妹そっくりにデザインされた桜花は
一発逆転超兵器として使用される…はずだったが、完成が間に合わずにスットン帝国は敗戦。
芹沢英二博士は桜花と共に行方不明となる。
その後、桜花は芹沢博士によってカプセルに入れられ、地中深くに封印される事になるが、
50年以上先の時代にて目覚め、そこで出会ったスットン国軍パッパラ隊所属の水島一純中尉が
芹沢博士そっくりであった為に芹沢博士と勘違いして、彼を博士と呼び慕い、水島の下で
殺人ロボットとは異なる生き方をしていく事になる。(その水島は後に芹沢博士の孫と判明)
しかし…前述した通り世界と言う奴はあらゆる可能性に満ちている。
数多ある並行世界の中にはこんな道を辿った世界も存在するのである。
桜花が地中深くに封印されて間も無く、その近辺を一人の忍者と一匹の犬が散歩していた。
忍者「とびかげ」とその愛犬「轟天号」である。そしてそこを軽く風が吹き、
そよ風に鼻をくすぐられてしまったのか、とびかげはくしゅみをしてしまった。
「私がくしゃみしたせいでまさかビッグバンが発生して宇宙がリセットしてしまうとは
流石の私でも想像出来ませんでした。(とびかげ談)」
こんなしょうもない理由で残念ながら1945年の時点で滅んでしまった
可哀想な世界も数多ある並行世界には存在するのである。ただし…ただ一体のロボットを除いて…
それから50年以上後、不毛の大地と化したその世界のに一隻の船が降り立った。
しかしこれはその世界の船では無い。別次元に位置する「ミッドチルダ」と言う異世界に
存在する「時空管理局」と言う多次元組織から派遣されて来た一部隊であった。
「ここか? ロストロギア反応がしたのは。」
「ああ、この地点の地中にそれっぽい反応があった。って言うか、この世界はぶっちゃけ
この地中にある金属反応以外にはもう何もなくなってるからな。後は荒涼とした大地くらいだ。」
「よっしゃ! ならさっさと掘り出そうぜ。」
特に名前を出す必要が無いくらい名無しの時空管理局員が地面を掘り、一つの金属製の
球状物体を掘り出す。それこそが桜花の封印されたカプセルだった。
名無しのロストロギア発掘部隊によって発掘されたロストロギア認定カプセルは
何故か時空管理局の中の一つ、「機動六課」へ運ばれる事になる。
「どうしてこれが私達の所に? レリックとは全然関係無いんでしょ?」
「確かにレリックとは関係あらへん。けど…上の方が嫌な予感を感じてウチん所に
よこしたって事らしい。要するに厄介払いやな。」
「そ…そんなにヤバイのが入ってるの? この中…。」
機動六課に所属する高町なのは、八神はやて、フェイト=T=ハラオウンの三人が
それぞれカプセルの前でその様なやり取りを行っていた。
「とりあえず…開けてみよっか…。」
ゆっくりと鋼鉄製のカプセルの口が開かれた。
「こ…これは…?」
「セーラー服の女の子…。」
カプセルの中に封印されていた桜花の姿を見た三人は呆然としていた。
そして桜花の頭部の白銀に輝く兜に漢字で「桜花」と書かれた文字に気付く。
「これ…漢字だよね…?」
「桜花…。」
その時だった。それまで堅く閉じられていた桜花の目が開き、立ち上がった!
「動いた?」
「でもこれは…。」
自動的に動き出した桜花の身体からかすかに機械の駆動音が聞こえる事を三人は気付いていた。
「人間じゃない!? 機械人形!」
桜花は頭部こそ人間の13歳程度(?)の少女の物となっているが、首から下は白銀のメカニック。
腕も脚も見るからにロボットと言い様の無い物で、その上にセーラー服を着た形となっている。
桜花は自分でカプセルから這い出た後、なのは達三人の姿を見た。
その際の首を振る動作や目を動かす動作からもかすかに駆動音が聞こえる。
何故な三人は思わず緊張して桜花の姿を見つめるしか無かったのだが、桜花はフェイトを睨み付けた。
「金髪…貴様…敵国人か…?」
「喋った! って言うか…へ?」
桜花が外見に反しない少女然とした声で話し掛けて来た事に三人は驚いていたが、
それ以上に何故フェイトが敵と認識された事が理解出来なかった。
「敵は殺す!」
「え? ってわ!」
「額からビームが出た!」
思わず三人は悲鳴を上げて飛び退いていた。無理も無い。次の瞬間には
フェイトのいた場所の後にあった壁がぶち抜かれていたのだから。
桜花の兜の額を覆い隠した部分に位置する日の丸から発射される「桜三型光学熱線砲」
これをフェイトに向けて発射したのである。
「どうして!? どうしていきなり撃つの!?」
「黙れ! 敵国人!」
なおも桜花はフェイトに向けて熱線砲を発射する。それでいてなのはとはやてには手を出さない。
何故フェイトだけを敵と認識して攻撃するのか三人は理解出来なかった。
機動六課で発生した大規模戦闘に管理局の他の課でも騒ぎにならないはずが無かった。
「大変だー! 機動六課に運ばれたロストロギアの中から出て来たセーラー服の女の子が
フェイト執務官に攻撃を仕掛けて大変な事になってるらしいぜー!」
「おおー! そりゃ大変だ! ワケ分からねーけど!」
「とりあえず俺達も見に行ってみようぜー!」
と、次々に名無し局員達が機動六課へ殺到して来るのである。
「おわ――――! 本当にセーラー服の女の子が大暴れしてるー!」
名無し局員達が野次馬目的で機動六課に到着した時には既に機動六課は戦場と化していた。
当然この手の施設は敵からの攻撃を前提に相当頑丈に作られているのだが、それが
全く無意味で、まるで蜂の巣の様に穴ぼこだらけにされてしまっている。
そして彼方此方から真っ赤な光線が飛び交っており、運悪く流れ弾に当たって
吹っ飛んで行く名無し局員もいたとかいないとか。
「撃て撃て! あのセーラー服の女の子の皮を被ったバケモノを撃てぇ!」
名無し武装局員がそれぞれのデバイスから砲撃魔法を矢継ぎ早に発射して行くが、
桜花の特殊鉄鋼製の身体には意味を成さない。どんなに直撃を受けようとも
何事も無いかのように桜花は前進を続けて行く。
「うわぁ! 全然効いてない!」
「流石はロストロギア! 可愛い顔してなんてバケモノだ!」
「って言うか肝心の機動六課の連中はどうしたんだ?」
さて、名無し局員がそう愚痴たれながらも必死に桜花を迎撃していた頃、
機動六課のメンバー達は何をしていたかと言うと…
「どうして私が敵と認識されたんだろう。なのはとはやてには特に何も無かったのに…。」
「そこが分からへんな。」
「でもこのままじゃやばいんじゃない? 機動六課どころかミッド全部が破壊されちゃうよ。」
故意に桜花のいる場所の背後の壁に隠れながらなのは・フェイト・はやての三人がそう
小声でゴニョゴニョとミニ対策会議を行っていたりする。
だがその間にも桜花の破壊は続いており、名無し局員の犠牲者も増えている。
「とにかくまずあれを何とかしないと!」
「うん!」
三人はバリアジャケットを装着し、デバイスを構えて背後から桜花を奇襲した。
速攻でバルディッシュザンバーフォームで桜花に斬り付けるフェイトだが、
桜花はそれを片手で受け止めていた。何と言う装甲であろうか…
「どうして!? どうして私を敵として認識する!? ただ貴女を保護したいだけなのに…。」
「黙れ! お前の金髪がその証拠だ! 消えろ亜米利古人!」
「アメリコ!? 何それ!? ここはミッドチルダ! そんなんじゃない!」
「敵の言葉に聞く耳を持つものか! 消えろ!」
桜花は至近距離から光学熱線砲を放った。フェイトは咄嗟に高速離脱しながら
防御魔法を展開してダメージを最小限にしていたが、流れ弾がやはり
周囲にいた名無しの局員達を吹き飛ばしていた。
「くっ! やっぱり…破壊するしか無いのか…?」
その後も桜花はフェイトを標的に光学熱線砲を撃ちまくった。
さらに例によって名無しの局員が吹っ飛んで行く。だと言うのに…やはりなのはとはやてには
攻撃を仕掛ける素振りさえ見せないと言う不可解な点もあった。
「あれが機械と言うのなら電撃でショートさせれば…。」
何か思い付いたフェイトは空高く飛びあがり、バルディッシュを掲げた。
それに伴いバルディッシュの周囲に稲妻が集束されて行く。
「これならどうだ! サンダーフォール!!」
相手が機械であり、かつ鋼鉄で覆われた身体を持つと言うのなら高圧電流で感電させ、
ショートさせてしまえばいい。ならば電撃系魔法を得意とするフェイトの独壇場だ。
フェイトの起こした魔力の稲妻は桜花へ落下し、まばゆい閃光が晴れた時、
そこには全身が真っ黒に焦げた状態で倒れ込んだ桜花の姿があるのみだった。
「や…やった…。」
フェイトは一息付いてまだ倒れている桜花のすぐ隣に降り立った。
しかし桜花は動く気配を見せない。
「まったく…可愛い顔してとんでもない奴だったけど…墓くらいは作ってあげようか…。」
「お前の墓をか?」
「!?」
桜花は機能停止してはいなかった。そしてフェイトが逃げようとした時には
既に桜花に軸足を掴まれ、その場に倒されてしまっていた。
「私があの程度の電撃で死ぬとでも思ったか? 逆に充電させてもらった!」
「そんな…。」
万事休すか…誰もがそう絶望した。
「まったく怪しげな妖術を使う変な敵国人だったな。だが…一撃で楽にしてやる。」
桜花はゆっくりとフェイトの頭に足を乗せた。そのままフェイトの頭部を
まるごと踏み潰すつもりらしい。フェイトは恐怖の余り思わず目を瞑った。が…
「キャァァァ!!」
フェイトの頭は踏み潰されなかった。それどころか桜花の悲鳴が聞こえる始末。
フェイトが恐る恐る目を開けると…そこには先程までとは打って変わって
恐怖に打ち震えた目になっている桜花の姿が…
「い…一体どうした?」
「あ…あ…あれ…あれを見ろ!」
桜花は恐怖に震えながらある場所を指差し、フェイトもそこを見るが、なんとゴキブリが…
「ごっゴキブリ!?」
「わっ私、油虫だけは苦手なんだー!」
そりゃ相手がゴキブリじゃフェイトだって逃げたくなるが、桜花の怖がり様は尋常では無い。
そしてついに恐怖の余り桜花は敵前逃亡を始めてしまった。
「キャ――――!! 油虫イヤ―――――!!」
「今だ! みんなバインドを!!」
「了解!!」
ゴキブリから逃げる為に大きな隙が出来た桜花に対し、その場にいた全員が
一斉にバインドで桜花を縛り付け、この騒動は何とか鎮圧する事が出来た。
確かに一人二人分のバインドでは力で強引に突破されそうだが、何十人分もの
バインドは流石の桜花でも脱出は無理だった。
最終更新:2007年09月08日 08:17