「くそー! 放せ! 放せ――――!!」
バインドによって縛られた桜花は、さらに幾重にもなった厳重な結界の中に閉じ込められ、
その間に機動六課のメンバー全員で桜花に対する分析を行っていた。なお、今回は特別ゲストとして
無限書庫司書長のユーノ=スクライアの姿もまたあった。
「彼女がロストロギアとして発見された世界は既に滅んでしまったワケだけど…
実はその世界が滅ばなかったら? って言うIFを辿った並行世界がある事が判明してね、
その世界の書物を幾つか持って来た。」
桜花の手によって機動六課の施設が殆ど破壊され、現在は再建中である為に室外で青空教室ならぬ
青空会議みたいな状態になっていたが、それさえ構わずユーノは何冊かの本を出していた。
「その世界は97管理外世界に極めて似ているけど、微妙に違う世界みたいなんだ。」
「微妙に違うって…具体的にどんな風に違うのかな?」
「うん。地形や各国の文化と言う点は97管理外世界と殆ど同じなんだけど、97管理外世界で
言う所の日本がスットンって国名になっていたり、アメリカがアメリコって国名になっていたりと、
どの国も国名が微妙に違うんだ。そして、97管理外世界がそうだった様に、その世界にも
第二次世界大戦があって、大日本帝国がアメリカと戦争をしていた様に、スットン帝国もまた
アメリコと戦争をしていてね、大日本帝国同様に戦況が不利になって、その戦況を覆そうと
スットン帝国が作り上げた一発逆転用超兵器が桜花…つまり先程ここで暴れたあの女の子なんだ。」
「マジでぇ!? マジでそんな時代に作られたの!?」
97管理外世界の事を良く知らない者からすれば意味不明の事かもしれないが、逆に97管理外世界を
良く知るなのは、フェイト、はやての三人からすればこれは信じられない事実に違いない。
「あの子って本当に第二次世界大戦中に作られたの!? ユーノ君!」
「う…うん。そうみたいだよ。」
「だって第二次世界大戦って言ったら…まだ飛行機がプロペラで飛んでた時代なんだよ!
どうしてあんな高性能かつ自我を持つ様なロボットが作れるの!?」
なのは達三人が慌てるのもわかる。確かに普通なら第二次大戦中の技術レベルで桜花の様な
高性能なロボットなど作れるはずがないと誰でも考える。
「でも97管理外世界の大日本帝国でも不利な戦局を覆す為に色んな超兵器を作ってたと言うよ。
轟天号って言う海底軍艦や鉄人28号って言う遠隔操作式ロボット、メタルダーって言う
人造人間やらその他もろもろに色々なのが。だからスットン帝国が彼女を作っていても
不思議では無いんじゃないかな?」
「マジでぇ!? マジでそんな事言ってるの!?」
流石のなのは達三人でも大日本帝国が轟天号、鉄人28号、メタルダーなどを作っていた事は
知らなかった。だからこそ信じられなかったのだが、そこをとやかく言うよりまずは桜花の
話の方が大切だろうと。
「とりあえず…桜花はスットン帝国の最終兵器として作られ、ひたすら敵国人…
つまり97管理外世界で言う所のアメリカに位置するアメリコ人を攻撃する様に
プログラムされてるっぽい。」
「あ! そうか! だからフェイトちゃんの金髪を見て敵だと思ったんだ!」
「なるほど…。」
ここでやっと桜花がフェイトを敵と認識し、殺そうとしていた理由が明らかになった。
「あと、スットン人と日本人は全く同一の人種みたいでね、なのはとはやてが襲われなかったのは
多分桜花は純粋日本人である二人を味方と認識したからだと思う。」
「なるほどなるほど…。」
とりあえず諸所の問題が解決した所で後はこれからの桜花に対する処遇の問題だった。
「とりえあえず…どうしようか…?」
「どうしようかと言われても…。」
「あの子の世界がもう滅んだと説明しても信じてくれるかどうか…。」
「そこが問題なんやね。スットンとアメリコの戦争以前に世界そのものが
滅んだ言うてもあの子が信じるかどうか…。」
誰も良い案が浮かばなかった。そして暫し誰もが腕組みして悩み込むのであったが…
「世界が滅んだだと!? 何馬鹿な事を言うか!!」
「え!?」
なんと皆の背後にバインドによって身動き取れない状態にされながらも
いつの間にか芋虫の様に這い出て来た桜花の姿があった。
「うそ! あれだけバインドされながら結界を突破して来たと言うの!?」
「お前達の話など信じられるか!? スットン帝国は不滅だ! 滅んでたまるものか!」
桜花はなおも叫ぶ。確かに自分の知らない間に自分の世界が滅んだなど誰だって信じたくない。
「けど…残念だけどこれは事実なんだよ…。」
「そうや…ほんま残念やけど…。」
なのはとはやてが口を揃えて桜花に言い聞かせていた。純粋日本人である自分達なら
桜花を説得出来ると考えたのだろう。
「なんなら…証拠を見てみる?」

「こ…ここが…スットン帝国…。」
機動六課の面々は態々桜花に現実を教える為だけに次元航行船を手配し、
桜花を桜花の生まれ故郷の世界へと連れて来ていたのだが、そこに広がる
荒涼たる大地を見た桜花は呆然としていた。
「申し訳ありませんね~。私がうっかりくしゃみしたせいで滅んじゃいました。」
とかどさくさに紛れてとびかげが現れて状況を軽く説明して去って行く始末。
「嘘だ…嘘だ…嘘だ…嘘だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
桜花は叫んだ。そしてやたらめったらに熱線を放ち始めたのである。
「嘘だ! 世界が滅んだなんて嘘だ! 私は信じない! こんなの信じないぃぃぃ!!」
荒涼たる大地に爆音が響き渡り、次々に彼方此方が吹き飛び、桜花をここまで
連れて来た機動六課の面々はある者は逃げ回るが…
「あれ…? 桜花の動きが…止まった…。」
突然何の前触れもなく桜花が停止した。さっきまでヤケクソになったかのように
暴れていたと言うのに動きを止めたのはどういう事だろうと皆は恐る恐る
桜花に近付いてみるのだが…
「機能…停止してる…。」
桜花は白目を剥いて立ったまま気絶していた。おそらく自分の世界が滅んでしまったと言う
事実による精神的なショックが桜花の電子頭脳をショートさせてしまったのかもしれない。

皆がミッドチルダに帰還した後、桜花の機能は自動的に回復していたが、
やはり精神的なショックは大きかったのか、そのまま塞ぎ込み、ただただ空を眺める様になっていた。
フェイトが近くを通りかかっても何もしない位だから相当な物である。
「そんな…博士も…みんなみんな…死んでしまったのですね…。」
ミッドチルダの空に向かって桜花は空しくそう独り言を言う。
この姿は機動六課の者達にとっても胸が痛かった。しかし…かと言って一体彼女に
何をしてやれば良いのか…良いアイディアが思い浮かばなかった。

「とりあえず…あの子の構造解析が完了したみたいだよ。」
「で…どうだったの?」
ユーノからの報告に皆が耳を傾ける。
「とりあえず…あの子を作った科学者は天才だね。もうそれしか言い様が無い。」
正面モニターに管理局技術班が構造解析した桜花の構造図が映し出され、
素人では何が何だか理解出来ない程高度に作りこまれた構造に皆は驚嘆していた。
「第二次世界大戦レベルの技術でこれだけの物を作ってしまうなんて…凄いね…。」
「凄いどころの問題じゃ無いよ。そうでなくても彼女の存在はミッドチルダにおける
人型機動兵器に対する考え方と常識を全部覆せてしまう。」
ミッドチルダ時空管理局の管理下に置かれている様々な世界で人型機動兵器の研究が
行われていたが、形になった例は一つも無いと言うのがミッドチルダでの常識であった。
であるにも関わらず、管理外世界であり、技術水準レベルも高くないと言うのに
超高度なロボットである桜花を作ってしまえた事実がマスコミに知られようものなら
ミッドチルダの常識の全てが覆る様な大事件に発展しても可笑しくなかろう。
「ただ…本当に問題なのは彼女の動力源なんだ。」
「そういえば…あの子って何をエネルギーにして動いてるの?」
「あの子の背中にバックパックみたいなのがあったろ? あれ…どうやら原子炉みたい…。」
「げ…原子炉!?」
「あの~げんしろ? って何ですか?」
なのは・フェイト・はやての三人は思わず驚嘆した。ミッドチルダで生まれ、ミッドチルダで
育った者は意味が分からずに首を傾げていたが。
「あ…あんな小さな原子炉なんて出来るの?」
「そ…そうや! 当時は精々広島長崎原爆程度で精一杯やったんよ!
と言う以前に今の最先端技術でもあそこまで小型化出来へんよ!」
「しかもそれを日本に相当するスットンが作ってのけるなんて…。」
「あの~げんばくって…何ですか?」
なのは達三人は滅茶苦茶に慌てた。他の者は相変わらず理解出来ていなかったが…
「おまけに言うと…あのサイズでその辺の原発なんて足元にも及ばない出力が出るみたい。」
「マジでぇ!? ユーノ君それひょっとしてマジで言ってるのぉ!?」
「あの~げんぱつって何ですか?」
やっぱり97管理外世界を知らないグループは置いてけぼりだった。
「とりあえずあの超小型高性能原子炉が桜花のパワーの秘密だと言う事が分かったと思う。
でも…これは同時に桜花そのものが超強力な核爆弾だと言う事も言えるんだ。」
「か…核爆弾!?」
「あの~かくばくだんって何ですか?」
なのは達三人は真剣にビビッていたが、やっぱり97管(以下略)だったので、
とりあえずユーノが分かりやすく説明する事にした。
「なのはとはやての出身世界、97管理外世界は魔法が無く、質量兵器主体の世界だと
言う事はみんなも知ってると思うけど、そこでの現時点における最大のエネルギーが
原子力であり、最大最悪の兵器がその原子力を利用した核爆弾なんだ。そして、
なのはとはやての出身国である日本は唯一の核被爆国でもある。」
「で…その核爆弾って言うのはどの位凄いんですか?」
「うん。まず軽く半径数キロは吹き飛ぶ。」
「何だ。思ったより大した事無いんですね。」
スバルやティアナなど、ミッドチルダで育った組は拍子抜けしていた。確かに次元震を
起こすロストロギアによる次元災害に比べれば核爆発など遥かに可愛い物だと言えるが…
「でも核爆弾の一番恐ろしい点は『放射能』と言う猛毒をばら撒く点なんだ。」
「そうだよ…放射能で被爆したら大変な事になるんだから。」
なのは・フェイト・はやての三人は中学校まで日本の学校に通っていた。
その間、平和授業と称して原爆についての学習をした事もあったし、
全校集会でアニメ版はだしのゲンを見せられて原爆投下後のシーンが
あまりにもグロすぎて吐いてしまったと言う辛い思い出があった。
特に中学の図書館に置いてあった原作漫画版はだしのゲンもまた軽くトラウマにもなっている。
「まあ具体的に言うとな、髪の毛が抜けてもうたり、血を吐いて苦しみながら死んだり、
皮膚が焼けただれてもうたり、血便出てもうたり、ガンになりやすくなったり、
その他もろもろにとにかく爆風で一瞬で死んだ方が遥かに幸せなくらいに苦しい目にあうんや。
しかも放射能と言う奴は何百年…何千年経過しても消えへんから性質が悪い。」
「そ…そんなに恐ろしい物なのですか…。」
スバルやティアナらも何とか理解出来ておののいていたが、ここで改めて
桜花に対する処遇への話に戻るのである。
「で、あの子はどうしよう? 上の方では既に機動六課で暴れた前科もあるからと
言う事で解体しようと唱える人もいるけど…。」
「そんな! 解体なんて可哀想すぎるよ! あの子はロボットだけど…
人間みたいに心があるんだよ! 笑ったり泣いたり怒ったり出来るんだよ!
確かに機動六課を破壊したけど…あれにだって理由があったんだし…。」
なのはは桜花の解体には反対だった。これにはユーノも頷いて賛同する。
「うん。それに今のあの子は信じていた物を全てを失って凄く落ち込んでる状態だしね。
それでさらに落ち込ませる様な事はしたくない。」
皆は再び桜花の方を見るが…やはり桜花は悲しげな目でただただ空を見上げるのみだった。

                序章 編 完

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最終更新:2007年09月09日 16:57