現代、世界が5つ――物質界、神界、魔界、幻想界、魍魎界――に分かれている事実はほとんど知
られていない。いや、いなかったといったほうが正しいだろうか。そう、各世界に異世界の存在を知
らしめた一年前のあの事件以降、異世界の存在は各世界の権力者の知るところとなったのだ。
 事件の終結の後、時空の『ゆらぎ』は収まり、次元の壁の綻びも小さくなりつつあったが、それで
も異世界や、同じ世界の中の別の『世界』に飛ばされる者が絶えず、事件の爪痕の大きさを物語って
いた。
 そして……ある恐るべき遺産により、世界は再び危機を迎えようとしていたのだ。だが、そのこと
にはまだほとんど誰も気づいていない……本当に一握りの者を除いて。

 物質界、東京は渋谷。事件終結後も閉鎖都市指定の解除されない無人のはずのこの場所で、物語は
再び始まる。
「それにしても誰も居らんのぉ」
「そりゃそうだ。指定はまだ解けてないからな。……急ぐぞシャオムゥ」
「ほいほい。じゃが零児、何故あのナムコミュージアムなんぞにいかにゃならんのじゃ」
「上からの指示だ。……行けとしか言われてないから誰が待ってるかすら分からん」
「はぁ~、めんどくさいのぉ。とりあえずどこかでお茶してからにしたいのぉ。零児、ほれ、そこの
喫茶店に入るんじゃ」
「入ってどうする。誰もいないぞ。……それに、目的地の中にあると聞いてるから、着いてからで構
わないだろ」
「ほいほい」
そして、二人は街の外へと駆け出していった。

 一方、神界。イシターの神殿。
 玉座には純白の衣装を身に纏う女性――この神殿の主、イシターだろう――が座っており、下で跪
く、甲冑を身につけた金髪の女性と何やら話をしていた。
「ではイシター様、再び『ゆらぎ』が発生しつつあると言うのですか?」
「その通りですワルキューレ。再び、世界は一つになろうとしているようなのです。」
「しているよう……?イシター様にも確信がないのはどういうことなのです?」
甲冑の女性、ワルキューレが少し語気を強める。
「いえ……まだ変化は小さく、前回の様な状況からはまだ程遠いのです。あの時は後手後手に回って
しまいましたから、念のために確かめて欲しい、という程度なのですよ」
「そうでしたか……失礼しました」
「いえいえ、私も少し言葉が足りなかったようです。……ワルキューレ、どうしたのです?」
妙に周りを気にするワルキューレに、イシターが尋ねる。
「いえ、大したことでは無いのですが……そろそろ出てきたらどうです、二人とも?」
すると、部屋の入り口から、金色の甲冑を身につけた全身緑色の生物と、妙な格好の子供が入ってき
たのだった。
「あちゃー、ザビーヌ、ばれちゃってたみたいだね」
「むしろばれないと思う方がおかしいと思うけどな」
「ザビーヌ、クリノ、なぜここにいるのです?」
「イシター様から呼ばれたのさ。まさかワルキューレも呼ばれてるとはね」
ザビーヌがにべもなく答える。隣ではクリノが照れた様子で頭を掻いていた。
「ではワルキューレ、ザビーヌ、クリノよ、これより大空寺院へ行き、物質界へ向かいなさい」
「物質界ですか?何故再びあの地へ?」
「そこで貴方もよく知る方が待っております。」
釈然としないものを抱えながらも、三人は大空寺院へと向かう。
 大空寺院。純白の巫女衣装を身に纏う少女と、巫女の格好をした獣が、誰かを待っているようだっ
た。
「大巫女様、まだあの方達は到着されないのですか?」
「そう焦らないことです、ロロ。もうまもなく到着なさるとイシター様からも伺っています……誰で
す?出てらっしゃい」
大巫女に促されて出てきたのは獣が二匹、青い帽子を被ったのと、バイクを押す、ゴーグルを着けた
のである。
「だーからやめとけと言ったんだぜ」
「ありゃ、気づかれちゃったみたいだね」
「ガンツさん!クロノアくん!何しにきたの?」
すると、クロノアと呼ばれた方が、
「あ……いや、何だか最近嫌な予感がしてさ、大巫女様なら何か分かるかなって思って」
と答える。
「それならば、今のところは何もないですよ。」
「ならいいんだけど……」
あっさりと答えられてがっかりするクロノアであった。
「んじゃ、またくるね!ロロも頑張ってね!」
そう言うと、クロノア達は去っていった。二人は知らない。結局また事件に巻き込まれちゃうことに。
 同じく大空寺院。今度はワルキューレ一行が、大巫女と話をしていた。
「では行ってまいります、大巫女様。しかし、私達を待っている者というのは?」
「会えばわかりますよ」
ワルキューレの質問に、大巫女はそう言って微笑むだけだった。
 そして、ワルキューレ達は寺院奥から、物質界へと向かった。

 再び物質界、海鳴市。九月が始まって数日。ここ私立聖祥大学附属小学校も例外なく新学期が始ま
り、児童達が学校生活を送っていた。
 三年生のあるクラスの教室で、眠そうな目を擦る少女がいた。
「それじゃ高町さんに読んでもらいましょうか。……高町さん?」
「なのは、ぼーっとしてないで……なのは!」
担任が指名するが、若干眠気で上の空気味の少女、なのはには聞こえておらず、後ろに座っている
ヘアバンドをした少女がなのはを正気に戻そうと小声で呼んでいる。
「え……?きゃうぅ~!」
数秒後にようやく正気に戻ったなのはだったが、うっかり奇声を発してしまい、教室は爆笑の渦に。
もちろん担任は笑ってなかったが。
「にゃはは……すみません。えぇっと、……」
ひとしきり笑いが収まったあと、なのはは苦笑いしながら謝り、教科書を読み
始めた。

 まだドラマは幕開けにたどり着いてもいない。
 だが、すでに事態は動きを見せようとしていた。
 異界からの訪問者が何をもたらすかは、まさに神のみぞ知る……神は案外物質界の住民と近しいよ
うだが。

次回予告
物質界のある世界に現れたSHOPの四文字。物語を台無しにしてくれそうなその小屋から出てきた謎の
美女。彼女と時空管理局出会うとき、ドラマは幕開けへと動き出す!
次回、プロローグ2、「とある商人の商品目録(カタログ)」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年09月09日 17:21