魔法少女リリカル湾岸ミッドナイト  ~永遠にわからない答え~

世の中には答えのない問題がいくつも存在する。

その答えを見つけ出すのもひとつの人生の楽しみ方とも言えるだろう。

SERIES 1 運命(フェイト)①

西暦20XX年、第97管理外世界 ―地球―  東京  首都高速道路  都心環状線 

ブロロロロ…
静かでシャープな排気音と共に白いすらっとしたメタリックボディの車が大きな橋を超える。
「この世界の車は元気がいいわ、まるで生きているみたいね…」
車の名は『フェラーリ・テスタロッサ』。
高級車らしく平べったいボディが目を引く390馬力で280キロ出るスポーツカーである。
フェラーリを操る金髪のドライバー、機動6課ライトニング分隊隊長『フェイト・T・ハラウオン』は機動6課の課長、八神はやてより出された任務のためにこの世界に来ていた。
任務の内容は「時空管理局より突然異世界に消失したロストロギアを回収せよ」であるが、正直「遊びに行け」の間違いだと長い付き合いの友人には言えない。
今回回収するロストロギアは驚くことに自分達の身長の半分も無い小型であり、時々暴走もするようだが大して驚く攻撃を放ったりしないそうだ。
つまり言い換えると、
『ほっとけば見つかる』程度の甘い考えでも見つかるのである。
滞在期間も(この世界において)1ヶ月と思ったより長い。
これはもうある意味「長期休暇」である。
個人的には早く終わらせたいのだが、忙しい激務をこなす毎日で少し羽を伸ばすのも悪くないだろう。
『はやて、ありがとう』
楽な内容だとわかって任務を選んでくれたはやてに罪悪感を思いながらも心の中で最愛の友人に感謝する。
初日の今日は周辺地域の聞き込みを夜まで行い、せっかくなのでパンフレットに書いてあったドライブコースとして話題のこの首都高速に乗ることにした。
「うわ……」
大きな橋、レインボーブリッジを抜けると、そこには美しい光の模様を描く大きい観覧車や0時だというのにやけに明るい町並みは、ミッドチルダよりは劣っているものだが、やはりここにはここ特有の『100万ドルの夜景』が広がっていた。
「綺麗……なのは達もここに来ればよかったのに。」
この楽に仕事ができる機会は滅多に無いので同僚のなのはを誘ってみたが、運悪く別の仕事が入っていたようで、仕方なく今回はフェイト一人で参加することになる。


ガラガラガラ……
某所、静まりかえったガレージのシャッターが上がる音がする。
真夜中の闇に溶けるような2シートの藍色の車。
その前に立つのはリーゼントに近い髪型が特徴の優しい顔立ちの少年だった
服装はジーンズに純白のTシャツ。
どう見てもこれから車に乗ると言う行為を浮かべると何だか納得できない。
「油圧OK、水圧OK、アイドルOK……OK」
少年は車に乗ると、4点式のベルトを締め、キーを挿し、凄まじい轟音と共にエンジンをかける。
「さあ、今夜も走ろうか……Z」
少年は躊躇無くアクセルを踏み、ギアをローからセカンドに入れた。

首都高速道路   湾岸線  湾岸環八ランプ付近

「ここを回っているだけでも結構時間が潰れたわ。でももうそろそろ降りようかな」
時間は12時30分。
そろそろ事前に予約してた高級ホテルへ向かう時間だ。
帰るまで退屈なので何か音楽を掛けようと左手で中央のプレーヤーに手を伸ばす、

その時

グオオオオオ……!
「・・・」
それは一瞬の出来事、
背筋を伝う身の毛もよだつ寒さにも似た圧迫感
彼女の横を通り過ぎた、氷のように冷たいミッドナイトブルーの『それ』は強烈でまるで猛獣の勝利の雄叫びのような排気音を響かせながら、凄まじい勢いでフェイトがまだ見ぬ闇の世界へと消えていった。
「…なに……今の?車……?」
普段は冷静沈着で優しいフェイトの目は魔法をかけられたかのように見開いたまま凍っていた。
ハンドルを持つ手もマスターに動揺したのか、少しガタガタ揺れている。
あの車には別に悪い魔力は感じない。
しかし、あの車だけが放つ魔法とは違う独特のオーラが冷静なフェイトを動揺させていた。
『……ター……、マスター!起きて下さい』
「はっ!ぐっ…」
フェイトの魔法デバイス、『バルディッシュ』の一言で現実に引き戻され、目の前に映った大型トラックを手のひらに力を込めたハンドルさばきで左にパスする。
しまった、運転中だった。
もしバルディッシュが目覚めさせなかったら、自分は車と共にあのトラックの下敷きになっていただろう。
自分ならバトルジャケットを展開して無傷で生還するが、車などの質量が大きい物はそう簡単には元に戻らない。
と言うより魔法が存在しない世界で魔法を使うのはやはりルール違反。よほどの緊急時を除いて使用しない事にしている。
下手をすると魔法を使うことによりここから歴史が変わってしまう可能性があるからだ。

「ありがとう、バルディッシュ。助かった……」
すぐ近くのPA(パーキングエリア)にて車を停めると、さっきの出来事が気になって仕方ないのか疲労困憊のフェイトがシートに全体重を預ける。
『現在のマスターのコンディションからして、少し休んでみてはどうですか?』
「うん。そうするわ。予約してたホテル、キャンセルしてからね。これだと無事に行けそうに無いから」
そう言うと、携帯電話を取り出し、予約先のホテルへと電話をかける。
『はい、こちらは帝○プリンスホテルであります……』
「そちらのホテルへ予約を入れましたフェイト・T・ハラウオンと申しますが…」
キャンセルの手続きをするだけなのに長々と話が続く。さすが高級ホテル。手続きどころかキャンセルも長い。
ピッ。
「ふう…」
電話を切ると同時に糸が切れた人形の如くハンドルにのめり込むと目を閉じ、
「zzz…」
そのまま眠り込む。
眠り込んだと同時に車の中にあらかじめかけておいた防犯用の『プロテクション』の魔法が発動した。
このフェラーリ、外見は古いが、中身は最新型のエンジンを積んだ代物。
排気ガスではなく水蒸気を放出して大気中に放出する、クリーンな車、ようするに『エコカー』である。
流石に元の世界からほぼ毎日使う自家用車(モーター・モービル)を持ち出すわけには行かないので、ミッドチルダに新しく出来た解体屋にて万が一壊れてもいいようにこのフェラーリを破格の安値で購入。
しかも値段の割には見た目や足が良かった(普通に走れるレベル)ので中身だけを最新のエンジンに取り替えてもらった。
明日はロストロギアの調査を続行すると共に、あの車についても調査してみよう。

シート特有のベッドと似て非なる感じの感触に悩みながらも、今夜はここでゆっくりと眠ることにした。


(次回予告)
その車は
くるおしく
まるで、身をよじらせるように
走るという……

幾多の人間の魂を地獄へと送った『悪魔のZ』と恐れられる車。
機動6課からロストロギアの回収のために派遣されたフェイトはある日、偶然通りかかった奴の姿を目に焼き付けてしまう。
それを発端にフェイトの周りに集う走り屋達。
『ブラックバード』の異名を持つ腕利きの外科医、『島達也』
その柔らかな走りから最高のR乗りと呼ばれるモデル『秋川零奈』
そしてただ一人、悪魔に愛された男『朝倉アキオ』

今、湾岸を舞台に新たな物語が、始まる……

次回、 魔法少女リリカル湾岸ミッドナイト  運命(フェイト)②
「くくく……、お前も魅せられちまったか、あのZに」

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最終更新:2007年09月26日 18:20