―Lylycal Nanoha StrikerS × SIREN ~Welcome to Hanyuda vil~― part10

 ルーテシア・アルピーノ  羽生蛇村小学校折部分校/体育館
               初日/1時45分59秒

 目の前には醜い笑みを浮かべた男。
 そいつの持っていたバットはあたしの頭にめがけて勢いよく振り下ろされようとしていた。

 あたしは思わず目をつぶった。
 正直……ここまでと覚悟した。

 一瞬……お母さんの顔が浮かんだ。
 やさしかったお母さんの微笑み。

 11番のレリックさえ手にはいれば……お母さんのあの微笑みが見られる。

 でも……それはもうできそうにもない……。
 ごめんね……。

 パーン!!

 外からいきなり乾いた発破音が、周囲の空気を切り裂いた。
 途端にあたしは我に返り、目を見開いて、身を固まらせる。

 カーン……。
 次にこの建物の中に響いたのは金属音。
 ふと目の前の男を見ると……音のしたほうを向いていて……バットを床にだらしなく垂らしていた。
 でも、すぐにあたしの方に、赤い水を目から垂らした顔を向けて、バットを振り上げ出した!

 ――!!
 あたしはすかさず、手近にあったボールをその男に投げつける!

「がっ!」
 その男にボールがあたり、一瞬怯んだ。
 手にしていたバットの先が床に着き、乾いた金属音が静寂を破る。
 その隙を突いてあたしはすかさず逃げ出した。

 だが、それもつかの間のこと。
 1分もしないうちに男はすぐにバットを持ち直し、赤い水を流した目でじろりとあたしを見つめ。
「ぐおおおおおおお!」
 まさに怪物の雄叫び。
 悪鬼のような表情で男はあたしにめがけてバットを振り下ろした。

 ――!!
 あたしはすかさず背後に飛びのいた。

 カーン!
 床にたたきつけられたバットが甲高い金属音を周囲に響き渡らせる。

「ごげげぇぇぇ」
 男はそれに動じる様子を見せず、標的をなおもあたしに定めてバットを振り上げながら追いかけてきた。
 そして何度も振り下ろされるバットが空を切る。

 このままじゃ埒があかない……。
 あたしは建物の中をひたすら逃げながらも、ふと前の方に目を移す。

 ……一本のモップが落ちていた。
 すかさず、それを拾い上げる。
 そして、男のほうに向き直り、脇腹にめがけて勢いよく柄を叩き込む!

「ぎええ!」
 手ごたえはあった。
 一瞬男の体が倒れ掛かる。
 が、すぐに体を持ち直させ、即座にバットをあたしに振り下ろした!

 ガキンという金属の衝撃音。
 咄嗟にモップの柄でバットを受け止める。
 とてつもない衝撃があたしの手に伝わり、思わずモップを落としそうになる。

「……なまいぎなごだなあああああ!」
 訳の分からぬ絶叫を上げながら、なおも男はバットを振り上げる。

 あたしは……反射的にモップを男の顔にめがけて突き出した。

「ぐええええ!」
 男の顎に、布をつける金属の止め具が突き刺さる。
 その部分には傷が開き、中から血がにじみ出ていた。
 男はバットを持っていない方の手で、傷の部分を当て出して、血を止めようとしていた。

 あたしはすかさず、反対方向に向きなおり、ひたすら逃げ出した。
 目の前には上部へと通じるものらしき梯子。
 すかさずモップを手にしたまま、あたしは梯子を登り出した。

「げへげへ……までええええ!がわいいごはせんぜいのどごろにおいでえええええ!!」
 なおも意味不明な雄叫びを上げながら、そいつはあたしのあとを追って、梯子を登り出していた。
 あたしはそれ以上振り返ることなく、懸命に梯子を登りつづけた。

 やがて、上まで登りきると……休む間もなく、モップの先をいつでも突き出せるように構えて、梯子の方へと向き直る。

 ……来い……バットオヤジ……。

 ごくり。
 固唾を飲む音が聞こえる気がした。

 激しい呼吸音。
 胸の鼓動が時間を追うごとに激しくなっていくのがわかる。

 それと比例して聞こえるのは……別のものの呼吸の音。
 しかも、異様に荒い呼吸の音。

 …………。
 あたしはただじっと……呼吸音のする方をじっと向く。

 時間が経つとともに、呼吸音は大きく生々しくなって……。

「ぶへへへ……かわいいごはおとなじぐしなざい……」
 聞きたくもない不快な呟き……。

 ――来る!
 モップを握る手に自然と力が入る。
 手の裏から、そして頬から汗が滲み出すのが分かる。 

 そして……禿げ上がった頭が下から覗かせた。

 あたしは力いっぱいにモップの先を……その禿頭にめがけて突き出した。

「ぐえ!」
 一瞬怯むものの、なおも梯子を登ろうとするバットオヤジ。

 本当にしつこいね、こいつ。
 あたしはすかさず、頭にめがけてモップを何度も振り下ろした。
 頭に当る度に、その衝撃が手に伝わってくる。

 あたしは手を止めることなく、なおもモップを振り下ろしつづけた。
 それはとにかく無我夢中に。

「ぐあ!」
 何度かやるうちに……そいつは梯子から手を離し……そのまま下へと落ちていった。

 ドスン!
 鈍い音が下から響き渡る。
 床にたたきつけられたのは間違いない。

 でも……こいつもすぐに何事もなかったかのように立ち上がって……。
 結局はこれも、逃げるための時間稼ぎにしか過ぎない。

 バタン!
 階下から扉を開ける音が響く。
 何者か……恐らくあのバケモノと同種の奴だろう……。

 あたしはすかさず、正反対の方向へと通じる回廊を突き進んだ。
 正直息切れが激しく、休みたいのもやまやまだ。
 だが、そんな暇なんてない。
 一刻も早くこの建物から……さらにいうならこの世界にあるらしきレリックを見つけて……
この世界から抜け出して……お母さんを蘇らせなくてはいけない。

 その時……先程のような砂嵐が目に映りこんで……別の風景が映る。
 そこに映るのは回廊……そして正面に飛び出してくる、紫の髪の小さな人影。

 ――あたし!?
 そこで自分自身の視点にもどる。

「げへへへ!」
 目の前には……ナイフを持って、眼から赤い液を流した老婆。

 ――しまった!
 あたしがそう思うと同時に、老婆はナイフを突き出してきた!

 即座に後ろへと飛びのいた。
 直後にナイフが空を切る。

 正面にはこのバケモノ。
 かといって、引き返すわけにもいかない。

 あのバットオヤジが……今にも梯子を登って、ここまでやってくるだろうね……。

「……やるしかないか」
 あたしはすぐに体勢を立て直し、モップを構えた。

 ―to be continiued―

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最終更新:2007年09月27日 16:32