第3話「決意の変身」
「……」
結界に覆われ、力を持たぬ者を拒む死都と化した海鳴市。
その一角に、漆黒の帽子とコートにその身を包む、一人の男がいた。
男はビルの一室より、全てを見つめていた。
なのはとヴィータの戦闘を、フェイトやユーノ達の介入を。
そして……この世界の住人に在らざる、光の一族の姿を。
「……ヒビノミライ。
いや……ウルトラマンメビウス……」
「民間人への魔法攻撃……軽犯罪ではすまない罪だ……!!」
バルディッシュの矛先をヴィータへと向け、フェイトは彼女に問う。
何が目的で、こんな真似をしでかしたのか。
どうして、なのはが狙われなくてはならないのか。
様々な思いが、彼女の中で交錯していたが……断言できる事は一つ。
なのはは、深い闇の中から自分を救い出してくれた……彼女がなければ、今の自分はない。
だから……今度は自分の番。
絶対に、なのはをこの手で守ってみせる。
「あんだ、テメェ等は……管理局の魔道師か?」
「時空管理局嘱託魔道師……フェイト=テスタロッサ……!!」
フェイトが構えを取る。
いつでもヴィータに斬りかかれる様に、完全な攻撃態勢。
それに合わせ、ミライもメビウスブレスに右手を添える。
二人とも、ヴィータが下手な動きを見せたならば、即座に攻撃を加えるつもりであった。
瞬時に攻撃を放てる状態を保ち、フェイトはヴィータに交渉を持ちかける。
「抵抗しなければ、弁護の機会が君にはある。
同意するなら、武装を解除して……」
「誰がするかよ!!」
ヴィータは強く床を蹴り、勢いよくビルの外へと飛び出していった。
交渉に応じる気は、彼女には全くない。
そんな強い意思表示をするかの如き行動であった。
こういう反応が返ってくるのは、フェイト達には十分読めてはいた。
ならば、こちらもそれ相応の行動を取らせてもらうまでである。
「ユーノ、なのはをお願い……!!」
「うん、分かった。」
「フェイトちゃん、僕も行くよ。」
「お願いします、ミライさん。」
フェイトはユーノになのはを託し、ヴィータを追った。
ミライも彼女を援護すべく、階段へと走りビルの屋上に駆け上る。
ここでようやく、なのははミライの方へと目を向けた。
フェイトやユーノと違い、見知らぬ始めて出会う人。
あの人は一体、誰なんだろうか。
まだぼんやりとしている意識の中で、なのははその背中を見つめていた。
そんな彼女へと、ユーノはすぐに回復呪文を発動させる。
「ユーノ君……」
「うん……フェイトの裁判が終わって、皆でなのはに連絡しようとしたんだ。
そうしたら、通信は繋がらないし、確認してみたら広域結界が出来てるし……
だから、慌てて僕達が来たんだよ。」
「そっか……ごめんね……ありがとう。」
「あれは誰?
なんでなのはを……」
「分からない……急に襲ってきたから……」
「そう……でも、もう大丈夫。
フェイトもアルフもいるし、それにミライさんだって……」
「ミライさん……ミライさんって、さっきの人……?」
「うん、僕達もさっき知り合ったばかりだけど……僕達の味方だよ。」
「バルディッシュ!!」
『Arc Saber』
海鳴市上空。
外へと出たフェイトは、ヴィータ目掛けてバルディッシュを大きく振り下ろした。
それに伴い光り輝く刃が放たれ、ヴィータに襲い掛かる。
だが、ヴィータもそれに合わせて攻撃を仕掛けてきた。
「グラーフアイゼン!!」
『Schwalbefliegen』
四つの小さな鉄球を出現させ、グラーフアイゼンで打ち放つ。
鉄球と刃が交差し、互いの敵目掛けて迫る。
ヴィータはとっさに障壁を発動させることにより、アークセイバーを防ぐ。
一方のフェイトは、持ち前のスピードで鉄球を交わそうとする。
しかし……鉄球は、フェイトの後ろからピッタリと着けてきていた。
何とかホーミングから逃れようと、フェイトは更にスピードを上げる。
すると、その時……突如として数発の光弾が飛来し、鉄球を全て打ち落とした。
ビルの屋上から、ミライが援護を仕掛けてきたのだ。
それを見て、ヴィータは軽く舌打ちをするが……この直後。
凄まじい勢いで、下から何かが迫ってきている事に、彼女は気づいた。
「バリアァァァ……ブレイクゥゥゥゥッ!!」
「!?」
下から迫ってきた、犬の耳と尻尾を持つ女性――アルフの拳が、ヴィータの防壁に叩きつけられる。
防壁が、音を立てて崩れ落ちる。
すぐさまヴィータは、アルフへと反撃に移った。
すかさず防壁を展開した彼女へと、グラーフアイゼンを勢いよく振り下ろす。
防壁越しにも伝わってくる、強烈な衝撃。
アルフは踏ん張りきれず、地上へと落下していった。
「きゃああぁぁっ!!?」
「……っ!!」
『Pferde』
アルフに鉄槌を下して間も無く、ヴィータはすぐに術を発動させる。
彼女の両足に光が集い、その機動性を増加させる。
フェイトが、既にかなりの至近距離まで迫ってきていたのだ。
間一髪、ヴィータは素早い動きでフェイトの一撃を回避する。
だが……それで終わりではなかった。
「今だ!!」
「何!?」
ヴィータ目掛けて、一発の光弾が放たれた。
ミライが先を読み、仕掛けてきたのだ。
ヴィータの肩に、まともに光弾が直撃する。
威力は然程ではないが、それでも耐え切るには少々無理のある一撃であった。
体勢を崩し、よろけるヴィータ。
すぐに体勢を立て直そうとするも……それよりも早く、アルフのバインドが発動した。
ヴィータは空中で拘束され、身動きを取れなくなってしまう。
「しまった……!!」
「終わりだね……名前と出身世界。
目的を教えてもらうよ。」
「くぅっ……!!」
バルディッシュの矛先を向け、フェイトはヴィータに問う。
アルフのバインドは、そう簡単に打ち消せる代物ではない。
後は、ヴィータが素直に話してくれれはそれで良し。
話してくれなくとも、その時は管理局まで連行するだけの話である。
勝利はほぼ確定したようなものであった。
しかし……アルフがここで、異変に気づいた。
直感的に、強い力がこの場に近づきつつあると、そう感じたのだ。
「っ!!
何か……やばいよ、フェイト!!」
「危ない!!」
「!?」
ミライが二人に向かい叫んだのと、ほぼ同時だった。
フェイトとアルフの前に、長剣を携えた一人の女性が現れた。
騎士をイメージさせるバリアジャケットに身を包む、ピンク色の髪の女性――シグナムは、いきなり仕掛けてきた。
その手の長剣――レヴァンティンを、フェイトへと向けて振り下ろしてきたのだ。
とっさにフェイトは、バルディッシュでその一撃を受け止めるが……相手の力の方が強かった。
「くぅっ!?」
押し負け、フェイトは数メートル後方に下がらせられる。
アルフはとっさに彼女を助けようとするが、その瞬間であった。
大柄な、アルフ同様の耳と尻尾を持つ男――ザフィーラが、アルフへと飛び蹴りを叩き込んできた。
アルフはその一撃を、とっさにガードするも……力が半端ではなく強い。
彼女もまたフェイト同様に、大きく吹っ飛ばされるハメになってしまった。
「フェイトちゃん、アルフさん!!」
「シグナム、ザフィーラ……」
「レヴァンティン、カートリッジロード……!!」
『Explosion』
レヴァンティンの刀身がスライドされ、薬莢が排出される。
それと同時に、レヴァンティン全体を爆発的な魔力が包み込んだ。
繰り出されるは、シグナムの奥義。
敵対する全てのものを切り裂く、必殺の剣撃……!!
「紫電……一閃っ!!」
剣は、フェイトへと真っ直ぐに振り下ろされた。
とっさにフェイトは、バルディッシュで防御をしようとする……が。
その威力は、あまりに強すぎた。
バルディッシュが……真っ二つに切り裂かれたのだ。
そしてシグナムは、二撃目に移る。
再びレヴァンティンを振り上げ……そして、振り下ろした。
『Defensor』
とっさにバルディッシュが、防壁を展開させた。
だが……それでも、その威力は絶大。
フェイトは凄まじい勢いで落下し、地上のビルへと叩きつけられた。
そのまま、床を突き破り下の階にまで到達する。
「フェイトォッ!!」
アルフはすぐにフェイトを助けに行こうとする。
だが、対するザフィーラがそれを許さない。
彼女の前に立ち塞がり、行く手を遮る。
何とかして、助け出さなければならない。
アルフが動けない今、それが出来るのはただ一人……ミライだけであった。
傷ついているなのはは勿論、その治療に当たっているユーノにも、彼女の救出は難しい。
すぐにミライは、フェイトが落下したビルに向かおうとする。
「アルフさん、僕が行きます!!」
「ミライ……ごめん、フェイトの事お願い!!」
「どうした、ヴィータ……油断でもしたか?」
「うっせーよ、こっから逆転するところだったんだ。」
「そうか……それはすまん。」
シグナムは、拘束されたヴィータの救出を行っていた。
ヴィータ一人の力ではバインドを解けないとみるや、己の術で解除にかかる。
結果、バインドはあっけなく消滅した。
拘束が解かれ、ヴィータが自由の身となる。
「だが、あまり無茶はするな。
お前が傷つけば、我等が主が心配する。」
「わかってるよ……もう。」
「それから……落し物だ。」
「あ……」
「破損は、直しておいたぞ。」
ヴィータの頭に、赤色の帽子をかぶせた。
先程、なのはとの戦いで彼女が落としたものであった。
シグナムが破損を修復した御蔭で、傷一つなく新品同然。
ヴィータは素直に感謝の意を、彼女に伝える。
「ありがと……シグナム。」
「ふっ……状況は四対三。
数の上では此方が劣ってはいるが……」
「一人は、大した戦闘能力はねぇ。
実質三対三だ……そいつは、あたしが引き受ける。
色々と邪魔してくれやがったからな……!!」
「分かった、そいつは任せよう。
一対一なら、我々ベルカの騎士に……!!」
「負けはねぇ!!」
ヴィータとシグナムが、勢いよく飛び出す。
シグナムは、フェイトが落ちたビルへと。
そしてヴィータは、フェイトの救出に向かおうとしていたミライの元へと。
なのはと共に様子を見ていたユーノは、それにいち早く気づいた。
このままじゃ、皆が危ない。
ミライがヴィータに抑えられるであろう今、フェイトを助けにいけるのは自分だけである。
彼は傍らに立つなのはへと、術を発動させた。
彼女の身が、エメラルド色に輝く結界に包まれる。
「これは……」
「回復と、防御の結界魔法。
なのはは絶対に、ここから出ないでね……!!」
ユーノは飛び立ち、フェイトが落ちたビルへと向かう。
なのははそんな彼の姿を、ただ見ているしかなかった……
「ぶっ潰れろぉぉっ!!」
「っ!?」
ヴィータは大きく振り被り、グラーフアイゼンを振り下ろしてきた。
ミライはとっさに反応し、両手を前に突き出す。
∞の形をした、防護壁――メビウスディフェンサークルが展開される。
グラーフアイゼンの一撃は、それによって受け止められた。
しかし、ヴィータにとってこの程度は予想の範囲内だった。
「防壁は流石に使えるか……けど!!」
ならばと、ヴィータは空へと飛び上がる。
ここまで様子を見てきて、分かった事が一つある。
それは、ミライの戦闘力がこの中で最も低いであろうという事だった。
彼はここまで、光弾以外の攻撃を一度も使っていない。
そしてその光弾の威力は、弱くはないが高くもない。
ここから推測できるのは、ミライには必殺の一撃が無いという事。
攻撃を受けても、そう怖くはない相手であるということだった。
更に……攻撃面以外にも、もう一つミライには致命的な欠点が見つかった。
彼は自分達とは違い……空を飛べない。
こうして空から仕掛けていけば、圧倒的有利である。
ヴィータは無数の鉄球を出現させ、その全てを一斉に撃ちはなった。
『Schwalbefliegen』
「こいつで……蜂の巣にしてやる!!」
空から降り注いでくる、魔力弾の嵐。
ミライはすぐさま防壁を展開するも、防ぎきれるレベルの攻撃じゃない。
数発程受け止めた後……防壁に、亀裂が走った。
「駄目だ……このままじゃ……!!」
「うおおおおぉぉぉっ!!」
追い討ちを仕掛けるべく、ヴィータが再び迫った。
グラーフアイゼンを大きく振り上げ、全力で打ち下ろしにかかる。
このままじゃ、確実にやられる。
ミライは、己が敗北するかもしれないと薄々感じ取っていた。
少なくとも……今のまま戦っていたのでは、彼女には絶対に勝てないと。
(やるしかないか……!!)
この状況を打開するには、打つ手は一つしかなかった。
人間としての――ヒビノミライとしての姿から、ウルトラマンの姿に変身することである。
しかしそれをすれば、自分の正体を皆に知られてしまう。
メビウスブレスに関しては、時空管理局がウルトラマンメビウスの事を知らないから使う事が出来た。
自分の武器であると、辛うじて隠し通す事が出来るからだ。
だが……変身してしまえば、そうもいかなくなるだろう。
自分がウルトラマンである事を知られたくないのには、ある大きな理由があった。
それは、皆を危険な目に合わせたくないから。
これまで自分の兄達がそうだったように、ウルトラマンは侵略者から狙われやすい立場にある。
そうなると、周囲のものにも危険が及んでしまう。
それ故に、全てのウルトラマン達は己の正体を隠して戦い続けてきた。
そしてその正体がばれた時には、地球を去っていったのだが……
唯一、メビウスだけは例外だった。
彼は己の正体を明かした上で、尚も地上にとどまった唯一のウルトラマン。
地上に留まる事が出来たのは、自分を信じてくれる大切な仲間がいたから。
彼等と一緒に戦い続ける事を望み、そして彼等もそれを望んでくれたからだった。
しかし、この世界には来たばかり。
正体を明かして、果たして良いものか……そう、考えてしまった。
だが……すぐにミライは、一番大切なことに気づく。
(ここでやらなきゃ……皆が危険な目に合うんだ!!
僕の事を助けてくれた人達を……今度は、僕が助けるんだ!!)
己の使命は、人々を守り抜くこと。
それこそがウルトラマンの役目。
自分を救ってくれた者達を、見捨てる事なんか出来ない。
ミライは意を決し……メビウスブレスのクリスタルに、右手を添えた。
「っ!?」
ヴィータは、直感的に動きを止めた。
何かは分からないが……嫌な予感がする。
ミライの一連の動作から、そう感じ取る事が出来た。
そして、その予感は見事に的中する。
ミライは右手を勢いよくクリスタルから離し、メビウスブレスの力を解放する。
そのまま、左手を大きく天空へと突き上げ……雄叫びを上げた。
「メビウゥゥゥゥスッ!!」
ミライの身が、眩い光に包まれる。
ヴィータはその眩しさから逃れようと、とっさに顔を背ける。
そして、光が晴れた時……そこにミライの姿は無かった。
その代わり……そこには、銀と赤のカラーをした一人の戦士が立っていた。
変身を遂げたミライ――ウルトラマンメビウスが。
その大きさは本来のそれとは違い、ヴィータに合わせた人間サイズだった。
流石に、本来の大きさで挑んではヴィータを殺しかねないと判断した結果である。
「ミライさん……!?
バリアジャケットを装着した……いや、これは何かが違う……!!」
「ザフィーラみたいに、別の姿に変身したってのか?
けど、守護獣とは感じが全然違うし……何者なんだよ、お前は!?」
「……ウルトラマン。
ウルトラマンメビウスだ!!」
最終更新:2007年10月07日 07:48