第2話「再会は唐突になの」
「平行世界……ですか?」
「ええ、間違いないでしょうね。
あなたのいうGUYSという組織は、私達の知る地球にはありません。
それに、怪獣は兎も角、ウルトラマンについては聞いた事がないですし……」
それから、しばらく経った後。
フェイトは用事で席を外した為、ミライはリンディと一対一で話をしていた。
ちなみに話の最中に「誰がフェレットもどきだ」という怒鳴り声が別の部屋から聞こえてきたが、
リンディが「なんでもない」というので、二人とも気にしないことにした。
ミライは、自分の状況について――自分がウルトラマンであるという事実は隠して――全てを説明した。
そしてリンディは、自分達――時空管理局について、一切合財の説明をミライへとし終えた。
時空管理局とは、時空に存在する幾多もの並行世界を管理する事を目的としている組織。
次元の間を渡り歩き、それぞれの平行世界が干渉しあうような危険事態を避ける為に彼等は活動している組織である。
当然のことながら、ミライはただただ驚くしかなかった。
そんな組織が存在していたなどと、考えた事も無かったからだ。
だが、リンディが嘘を言っているようには見えない。
それに……自分が置かれていた状況を考えれば、寧ろ十分にありえる事である。
自分はあの時、兄達と共に異次元に生きる悪魔との激闘を繰り広げていた。
そして、その悪魔が倒れたことにより異次元は崩壊したが……
異次元の崩壊に巻き込まれ、そしてどこか別の次元に出てきてしまった。
こう考えると、全ての辻褄が合う。
「分かりました……リンディさん、ありがとうございます。」
「……」
「……どうかしました?」
「いえ、やけにあっさりとこちらの話を受け入れてくれたものですから。
もうちょっと『信じられない』とか、そういう反応をするかと思ってましたので……」
「リンディさんが、嘘を言っているようには思えませんでしたから。
こうやって僕の事も助けてくれた、良い人ですしね。」
「あらあら……」
ミライが、こうもあっさりと自分達を信用してくれた事に、流石にリンディも驚かされていた。
普通は疑われてもおかしくない状況なだけに、ミライの反応が予想外だったからだ。
しかし、自分達を信じてもらえないよりかは断然良いに決まっている。
素直……いや、純粋と言うべきだろうか。
彼には、そんな感じの雰囲気があった……優しい人であると、直感的に感じさせる雰囲気があった。
「それでミライさん、これからの事なんですけど……
ミライさんがいた世界が見つかるまで、時空管理局であなたを保護したいと思います。」
「え……いいんですか?」
「山ほどある次元世界の中から、ミライさんの世界を見つけ出すのには時間がかかるでしょうから。
それまでの間、どうぞゆっくりしていってください。」
「リンディさん……ありがとうございます!!」
「ああ、そんなに頭を下げないで。
これも私達の仕事なんですし……」
深く頭を下げるミライを見て、リンディは少しばかり苦笑する。
この人は、本当に純粋で優しい人なのだと。
その後リンディは、ミライが寝泊りする部屋を用意しなければと、医務室を発とうとする。
ミライもその後に続こうとするが、リンディに「大事を取って楽にしておいたほうがいい」と
言われたので、体も少しばかり重たいし、ここはその言葉に甘える事にした。
その後、ミライは横になると、あっという間に眠りについた。
「艦長……ちょっといいですか?」
「あら、先生にエイミィ。
一体、どうしたんです?」
一方、医務室を出たリンディはというと。
医務室に戻ってきた船医と、この艦の管制官であるエイミィと、出てすぐの廊下で出くわした。
見たところ、二人とも表情が険しい……何かがあったのは、容易に推測できる。
リンディはそれを察し、黙って首を縦に振った。
それを見て、船医は自分の持っていたカルテ……先ほど書いた、ミライのカルテを彼女へと手渡す。
その内容を見て、リンディも彼等同様に表情を変え、言葉を失った。
カルテに記されていたのは……通常では、絶対にありえない内容だったからだ。
「これ……どういうことなんですか?」
「それは私の台詞ですよ。
普通の人間じゃ、こんな数値が出るなんてありえません。
何とか治療こそ出来たからいいですけど、こんなの……今までに前例がないです」
「……ミライさんは、人間じゃないかもしれないってこと?
確かに話してる限りじゃ、どこか普通の人とは違う感じがしてたけど……」
カルテに記された、ミライの体調に関する数値。
体温・脈拍・血圧……その全てが、通常の人間ではありえない数値を示していたのだ。
もしもこんな数値を常人が記録しようものなら、確実に死んでいる。
つまり、早い話がミライは人間じゃない可能性があるという事なのだ。
しかし……使い魔の類ではなさそうだし、ましてや傀儡兵などの筈がない。
一体、彼は何もなのだろうか。
リンディは、ミライの正体について考え込むが……その謎に関して、ここでエイミィが口を開いた。
「艦長、その事なんですが……これ、見てもらってもいいですか?」
「エイミィ、これは?」
「さっき先生に頼まれて、彼……ミライ君が眠っている間に、こっそり調べてみたんですが……
ミライ君の体内から、ロストロギアらしきものの反応が検出されたんです。」
「ロストロギアが……!?」
エイミィが手渡したのは、ミライから検出された謎の反応――ロストロギアらしき反応について、纏めた物であった。
船医は診断中、ミライの体から妙なエネルギーを感知した為、エイミィにそれについての調査を依頼していた。
その結果……ミライの体内――その『左腕』から、ロストロギアらしき何かの反応が検出されたのだ。
持ち主と一体化する事で力を発揮するロストロギアは、確かにある事はある。
使い手こそ少ないものの、ユニゾンデバイスがその良い例である。
となれば、ミライの数値が異常なのは、このロストロギアが原因なのだろうか。
……いや、検出されたのは、あくまでロストロギア『らしき』反応。
異世界には、まだまだ自分達の知らない技術が山ほどある……ロストロギアと断定するには、少し材料が足りない。
結局のところ、分からない事だらけである。
確かめるには、ミライ本人に聞くしかない……彼の目が覚めるまで、待つしかないか。
軽いため息を退いた後、三人は少しばかりの不安を胸にして、そのまま自分達の職場へと戻っていった。
ヴィーン、ヴィーン……
「う~ん……なんだ、この音……?」
いきなり耳に響いてきた大音量に、ミライは目を覚まさせられた。
大きな欠伸をした後、眠気眼をこすりながらベッドから起き上がる。
一体、どれくらい寝てただろうか……ボーっとする頭で、周囲を見渡す。
そして、しばらくして眠気が覚めてきた時。
ようやくミライは、鳴り響いている音の正体に気づくことが出来た。
GUYS本部で何度も聞いた、聞き覚えのある嫌な音……
「これって……警報!?」
鳴り響いているのは、警報音だった。
理解すると同時に、一気にミライの目が覚める。
この艦に、何かが起こっている……危険が迫っているのかもしれない。
すぐにミライはベッドから降り、ブリッジへと向かう事にした。
自分とて、クルーGUYSの一員として働いてきた経験がある。
世話になってばかりにもいられないし、何か手伝いをしたい。
そう思ったが故の行動でもあった。
そして、少し道に迷いながらも、ミライはアースラのブリッジへと辿り着いた。
そこでは……かなりの混乱が起こっていた。
「駄目です、海鳴市の映像出せません!!」
「結界が張られている……ミッドチルダ式じゃないのか……!?」
「なのはさんとの連絡は?」
「駄目です、繋がりません!!」
アースラに混乱を齎した、未曾有の事態。
それは、ある次元世界で結界魔術が発動され、魔術が発動されている地域――海鳴市の様子が、一切把握できなくなった事であった。
クルーは解析を急いでいるが、思うように作業が捗らない。
その原因は、使われている魔術の術式にあった。
自分達が使っているミッドチルダ式とは、全く異なる術式で結界が張られているのだ。
その為、術式の正体を探し当てるのに、相当の時間を取られてしまっている。
この海鳴市には、自分達の関係者である魔道師―――高町なのはがいる。
彼女と連絡が取れさえすれば、内部の状況が把握できるのだが……通信が繋がらない。
「艦長、ハラオウン執務官やフェイトちゃん達は?」
「まだ裁判中……出られる状況じゃないわ。
戻ってきたらすぐにでも向かってもらうけど、それまでは……応援、すぐに本局に要請して。
時間は少しかかってしまうけど、向こうから武装局員を回してもらうしか手はないわ。」
今このアースラには、戦闘要員が一人もいない。
殆どの者達が出払ってしまっているために、現地へと派遣できる者が一人もいないのだ。
非戦闘要員を送り込むという手もあるにはあるが、それは余りにも危険すぎる。
結界魔法を展開されているという事は、すなわちそこで戦闘行為が行われているということなのだ。
ましてや相手は、未知の術式使い……無謀も無謀である。
リンディは艦の指揮があるから、現地に出るわけにはいかない。
本局の者達に頼る以外、打つ手はない……誰もが歯がゆい思いをしていた。
すると……そんな最中で、ミライは口を開いた。
「僕に行かせてください!!」
「ミライさん!?」
「いつのまにブリッジに……てか、今の発言……」
クルー全員の視線が、ミライに集中させられる。
彼等はようやく、ミライがブリッジに入ってきていた事に気がついた。
作業に集中していたために、誰もその存在に気づけていなかったのだ。
だが、何より驚かされたのは彼の発言である。
確かに現状、誰かが現地に赴いてくれればありがたいのだが……
「気持ちは嬉しいんだけど……ミライ君は、民間人だからね。
悪いけど、危険な目には……」
「僕はクルーGUYSの一員です!!
確かに、皆さんとは立場は少し違いますけど……困っている人を守るのが、僕の仕事です!!
戦闘の経験もありますから、多少の事なら問題はありません……お願いします!!」
「ミライさん……」
リンディ達への恩返しをしたいという気持ちは、勿論ある。
しかしそれ以上に……困っている人を見逃すわけにはいかない。
そんな強い正義感が、ミライを突き動かしていた。
ここでリンディは、少し考え込む。
確かにミライは、今は民間人という立場上にあるが……彼は、地球防衛チームGUYSの一員だという。
その言葉を信じるならば、彼には戦う力があるという事になる。
現状、戦力が欲しいのは紛れもない事実。
ならば……ここで下手に躊躇って、取り返しのつかない事態にするぐらいならば……!!
「エイミィ、ゲートを開いて!!」
「わっかりました、すぐにいけますよ!!」
「ミライ君、頼んだよ。」
「皆さん……ありがとうございます!!」
ミライを転送させるべく、一斉にクルー達が動き出した。
その姿を見て、ミライは笑顔で礼をする。
必ず、彼等の期待に答えよう。
そう心に誓い……ミライは、海鳴市へと転送された。
「よし……皆、解析急ぐよ!!」
「了解!!」
ミライを無事送り込めたのを確認し、皆が作業を急ぐ。
彼がこうして名乗り出てきてくれたのだから、自分達も頑張らなければならない。
より一層、クルー全員が気を引き締める。
すると……その時であった。
「艦長、一体何があったんですか!!」
「アースラ中、警報鳴りっぱなしじゃないの!!
なのはとの連絡も取れないし、何がどうなって……」
数人の男女が、慌ててブリッジへと駆け込んできた。
彼女等――先のプレシア事件の裁判を終えたフェイト達へと、皆の視線が釘付けになる。
一方のフェイト達はというと、ブリッジの様子を見てすぐに事態を把握した。
大切な友人であるなのはとの連絡が取れなくなったその矢先に、この騒動。
彼女に、何かがあったのだと……そう、容易に推測する事が出来た。
「皆、最高のタイミング……すぐにゲート出せるよ!!」
「ラケーテン……ハンマアアァァァァァァッ!!!」
「きゃああぁっ!!??」
結界に閉ざされた街――海鳴市。
その内部では、リンディ達の予想通り戦闘が行われていた。
白いバリアジャケットに身を包んだ少女――高町なのはは、相手の攻撃を受けて大きく吹っ飛ばされた。
そのまま、後方にあるビルの窓ガラスをぶち抜き、ビルの中に転がり込む。
そこへ追い討ちを仕掛けるべく、相手の赤いバリアジャケットに身を包んだ少女――ヴィータが迫る。
「うあぁぁぁぁぁぁっ!!」
「っ!!」
『Protection』
なのはの手に握られていたレイジングハートが、とっさに防壁を展開する。
ギリギリのところで、ヴィータの破壊槌――グラーフアイゼンの一撃を、受け止める事に成功した。
だが……受け止める事は出来ても、防ぐ事は叶わなかった。
「ぶちぬけぇぇぇぇっ!!」
ヴィータは己の全力を込め……グラーフアイゼンを振りぬいた。
そして……音を立て、なのはの防壁が砕け散った。
鉄槌はなのはのバリアジャケットの一部を、そのまま粉砕する。
なのははその衝撃で、その場に尻餅をついてしまった。
「そん……な……」
「……」
ダメージの影響だろうか、なのはの視界はぼやけていた。
震える手で、レイジングハートを構える。
しかし、幾ら戦う意思があろうと……こんな状況で、勝てる筈などない。
言葉を発する事もなく、ヴィータはグラーフアイゼンを振り上げる。
(こんなので……終わり?
嫌だ……ユーノ君……クロノ君……フェイトちゃん……!!)
目を閉じ、友達の名を呼ぶ。
このまま皆と会えずに終わるなんて、そんな結末は望んでいない。
そんなのは嫌だ……皆に会いたい。
そう、強く願った……その時だった。
ガキィンッ!!
「え……!?」
なのはの願いは、天に届いた。
再会を強く望んだ、漆黒のバリアジャケットに身を包む一人の少女が、彼女の前に現れたのだ。
その少女――フェイトは、己のデバイスであるバルディッシュで、ヴィータの一撃からなのはを守っていた。
「フェイトちゃん……?」
「ごめんなのは、遅くなった。」
「ユーノ君も……?」
なのはの傍には、魔道師の少年――ユーノ=スクライアがいた。
彼はなのはのダメージを回復すべく、術を発動させようとする。
さらにその直後……一発の光弾が、グラーフアイゼン目掛けて放たれた。
光弾を放ったのは、三人から少しばかり離れた位置にいた彼。
他でもない、先に転送されたミライだった。
彼は転送後すぐに、フェイト達と合流して、彼女等と共に動く事にしたのだ。
その左手には、先程までは見られなかった装備――ロストロギアらしき反応を検出された、その原因。
ミライの戦闘における要である、メビウスブレスが装着されていた。
「フェイトちゃん、今だ!!」
「はい!!」
ヴィータは光弾命中の衝撃で、僅かばかりだが体制を崩す……その隙を、フェイトは見逃さなかった。
すばやくバルディッシュを振り、彼女を押し返す。
ヴィータはよろけながらも、何とか持ち直し、グラーフアイゼンを構えなおした。
魔道師が三人……内二人は、明らかに戦闘向けのデバイスを装備している。
戦力差では、圧倒的に不利……
「仲間か……!!」
『Scythe form』
バルディッシュがその姿を変える。
矛先から、金色に輝く雷電の刃が出現した。
サイズフォームの名が示すとおりの、大鎌形態――近接戦用形態。
その刃をヴィータに向け、フェイトは静かに、しかし力強く答えた。
「友達だ……!!」
最終更新:2007年09月27日 16:50