「天道さん……やっぱり貴方は、管理局に投降するつもりは……」
「無い。何度も言わせるな」
ゆっくりと俯くなのは。
ダメだ。天道には何を言っても無駄だ。
ならばなのはの取る行動は一つ。
「なら、私なりのやり方で……今日こそ決着をつけさせて貰います!」
「どうしてもやるというのなら……俺はお前を倒すしかない!」
こうして、なのはと天道……いや、仮面ライダーハイパーカブトの雌雄を決する戦いは、幕を開けた。
「そんな……スターライトブレイカーが……切り裂かれてる!?」
なのはは全力全開で、最大出力のスターライトブレイカーを放った。
だが、これは一体どういうことだ?こんな光景、見たことがない。
「はぁぁああああああああッ!!」
カブトは、手に持った大剣でスターライトブレイカーの魔力を拡散させる。
背中から眩ゆく放出されるタキオン粒子の翼で、上空にいるなのは目掛けてスターライトブレイカーの中を上ってくる。
「(そんな……私の……!?)」
あまりの驚愕に、開いた口が塞がらないなのは。
カブトはもう目前まで迫っているというのに。
「……レイジングハートッ!?」
そして、カブトの大剣から繰り出されるマキシマムハイパータイフーンにより、レイジングハートはバラバラに破壊される。
もう後が無い。このままでは、やられてしまう……
そして、カブトはトドメの一撃をなのはへと振り下ろした。
「(嘘でしょ……こんな……圧倒的に……)」
なのはは自分が負けたということよりも、こうも圧倒的に負けた事の方がショックだった。
仮にも自分は管理局のエースだ。
いくつもの事件を解決してきたのだ。模擬戦だって負けた事は無い。
スペシャルで、全開で、模擬戦だったはずだ。
心のどこかで、自分が負ける事は無いと思っていたなのはは、それだけにショックが大きかった。
最後の一撃を受け、まともに飛んでいられなくなったなのはと、空中に浮かんだままのカブトとの間に差が開き始めた。
暗い地面の底へと落下しながら、薄れていく意識の中で。
自分を見下ろすハイパーカブトの大きな瞳を見たなのはは、思った。
「(天道さん……やっぱり……私じゃ、無理だったの……かな……)」
今の……少なくとも、さっきまでのなのはと天道の間には何も無かった。
被害者も加害者も、正義も悪も、関係無い。
ただどちらが強いか。お互いの実力のぶつけ合い……簡単に言えば喧嘩だ。
「(ううん……やっぱり……悔しい……!)」
なのはは喧嘩で負けたのだ。これ以上悔しい事は無い。
地面へと落下していく中で、なのはの意識は完全に閉ざされた。
「…………。」
『Hyper Clock Up(ハイパークロックアップ)』
そんな中、カブトは黙ってハイパークロックアップを発動させた。
「……なの……は……?」
地面に落下を始めたなのはを、絶望的な瞳で見つめるフェイト。
その刹那。
「…………ッ!?」
消えた……?いや、瞬間移動した……?
フェイトの目の前に、ハイパーカブトは着地した。
その手に抱き抱えられているのは……
「なのはッ!!」
フェイトは、カブトの腕の中で眠っているのがなのはであることを確認し、すぐに駆け寄った。
「なのは……?」
なのはの体は、カブトの腕からフェイトの腕へと移され、フェイトの腕の中で眠るなのは。
「天道総司……お前はッ!」
一瞬安心した後、すぐにフェイトの怒りはカブトへと向けられた。
赤い瞳に、凄まじい怒りを込めた視線がカブトを睨む。
「……何も言う事は無い。」
そんなフェイトに、ただ一言そう告げた後、カブトはこの空間から姿を消した。
ACT.14「たった一人の妹」前編
数時間後、ここはアースラの医務室前。
「なのはは……なのはは大丈夫なんですか!?」
「ま、まぁまぁ……落ち着いて、フェイトちゃん」
医務室の前で、エイミィに食い下がるフェイト。よほど心配しているのか、その表情からはかなりの不安が感じられる。
「落ち着けって、そんなこと……」
「大丈夫だよ」
「え……?」
フェイトの表情が固まる。
「なのはちゃんは大丈夫だよ。ほとんど軽い傷しか受けてないから。」
「……じゃあ、レイジングハートは……?」
「そっちも大丈夫!コアは全くの無傷だから、すぐにでも使えるよ。」
フェイトから、一気に力が抜ける。あれだけ凄まじい威力の技を受けたからには、なのはだってただでは済まないと思っていた。
場所は変わって、アースラのブリッジ。
モニターに映されているのは、ハイパーカブトvsキャマラスワーム戦だ。
モニターの中のハイパーカブトは、キャマラスワームに対して圧倒的な力の差を見せつけ、
トドメはマキシマムハイパータイフーンで跡形も無く消滅させてしまっている。何度見ても驚異的な技だ。
「……でも、どうして……?こんな技受けたら、ただじゃ済まないはずだよ…」
イスに座ってモニターを見つめるエイミィに、フェイトはその疑問を尋ねてみる。
マキシマムハイパータイフーン。これは明らかに人間が受けていい技では無いはずだ。
「うん。多分だけど……天道は手を抜いて攻撃したんじゃないかな?それもかなり威力を絞ってね」
「そんな……まさか……」
「でも、そうとしか考えられないよ?軽く計算してみたけど、あれは明らかにバリアジャケットが耐えられる技じゃない。」
「…………。」
言葉を失うフェイト。
要するに、わざと威力を絞った攻撃でなのはを眠らせた。ということになる。
「それにほら?」
「……これは……?」
カタカタとパネルを叩くエイミィ。
映し出されたのは、さっきのなのはが地面へと落下したシーンだ。
「現場にいたら気付きにくいだろうけどね。
これも、カブトがクロックアップでなのはちゃんの地面への激突を防いでくれたみたいなんだよ」
「……だから、あの時カブトは……」
数時間前、カブトがなのはを抱き抱えてフェイトの前に現れた時のことを思い出す。
「じゃあ……今回も、なのはは軽くあしらわれただけ……?」
「そういう訳じゃ無いと思うけど……私達の完敗っていうのは間違い無いね……」
フェイトはまたも言葉を失った。
これは天道なりの優しさのつもりなのだろうか?
いや。こんなこと、認めない。
「確かに……なのはが助かったのは嬉しいけど……」
モニターに映るカブトを睨み付けるフェイト。これではなのはのプライドがズタボロだ。
軽くあしらわれた上に、実は手加減してました、なんて。
フェイト自身、プライドの高い人間だ。それ故に、天道のこの行いが侮辱にしか思えないのだ。
翌日、放課後の聖祥小学校。その屋上。
「おい天道!どういうことだ!?」
「何だ騒がしい……」
加賀美がパン屋台のテーブルを「バン!」と叩いて、天道に詰め寄る。いつになく真剣な顔だ。
「何だじゃない!なのはちゃんに怪我させたって……何考えてんだお前!?」
「何だ、もう聞いたのか」
表情一つ変える事なく、腕を組んだまま答える天道。
「ああ、全部はやてちゃんから聞いたよ!お前がなのはちゃんに怪我させたってな!」
「……なら話は早い、その通りだ。」
「その通りだ……じゃない!!相手はまだ子供なんだぞ!?」
「……そんなことは分かっている。だいたい……」
言いながら加賀美に向き直る。
「あの傷なら一週間も安静にしてれば治る。」
その言葉を聞いた加賀美は、天道を睨み付ける。まるで悪びれる様子の無い天道に怒りを露わにしている
「……いいか、天道。……もし、また同じような事をしたら……」
天道は表情を変えずに、目で加賀美を追い掛ける。
「俺はお前を許さない!!」
加賀美の言葉により、しばらく沈黙が流れる。天道と加賀美は睨み合ったまま、微動だにしない。
だが、その沈黙を破ったのは天道だった。
天道は一言、ポツリと言った。
「……覚えておこう」
同刻、海鳴市。
バルディッシュの報告で、敵の出現を察知したフェイトは、一人で現場へと向かっていた。
しかし、様子がおかしい。
「アンノウンは……?」
この場所にいるはずの敵がいないのだ。
うわぁああああああああッ!!!
そして、少し離れた場所から誰かの悲鳴が聞こえる。まさに断末魔といえるような、悲痛な叫びだ。
放っておく訳にはいかない。
「……あっちだ!」
フェイトはすぐにその声に反応し、その場所に向かった。
「ひいぃぃいいいッ!!」
『Exceed Charge(エクシードチャージ)』
悲鳴をあげるオルフェノク。
オルフェノクは全身を黄色い光に拘束されており、完全に身動きがとれなくなっている。
「あれは……?」
そこへ駆け付けたフェイトも、その光景を目撃。どうやらあの悲鳴はオルフェノクの物だったようだ。
オルフェノクと相対する位置で、必殺技の構えに入っているのは、もはや言うまでもない。
カイザだ。
「……お前らオルフェノクは、存在自体が不自然なんだよ。」
フェイトが見てる事に気付いていないカイザは、カイザブレイガンを構えたまま腰を低く落とす。
その声にも、どこか怨念のような物が込められている。少なくとも、フェイトはそう感じた。
そしてカイザとオルフェノクの間に、黄色く輝くΧ型のゲートのような物が現れる。
「ハアァッ!!」
カイザの体は粒子化され、吸い込まれるようにゲートに入る。
そのまま粒子化したカイザは、オルフェノクの体を貫通。振り上げるようにカイザブレイガンで切り裂いた。
同時にオルフェノクの体にΧの紋章が浮かび。
「うあっ……」
そのまま、力無い声と共に灰化、消滅した。
カイザフォンをベルトから取り外し、変身解除ボタンを押す草加。
「ん……?キミは……」
「あ……こんにちは」
草加は、すぐに傍で見ていたフェイトの存在に気付き、話し掛ける。
「どうした?そんな浮かない顔をして……」
「いえ……なんでもありません……」
フェイトもすぐにバリアジャケットを解除し、草加に近寄る。
「そうか。もし何か悩み事があるなら、何でも相談して欲しい。俺が力になれるかどうかはわからないが、一人で抱え込むよりはマシだ」
「草加さん……」
草加の素晴らしいまでのいい人スマイルには、何故か相談しようかという気さえしてくる。
「実は……」
一方、バークローバー。
「なんだ、結局貴方は木場勇治の抹殺にも失敗したんですか?」
「…………。」
かなり嬉しそうに言う琢磨。
涼はとにかく無視を続けている。
この琢磨の態度、冴子からも「嬉しそうね……」と思われる程である。
「……アンタ達、一体何が目的なんだ?」
涼はふと疑問を口にした。
裏切り者の木場勇治を抹殺せよとの命令を受けたが、その木場勇治は人間を守る為に戦っていた。
それに比べると、こいつらの方がよっぽど胡散臭い。
「俺は……本当にアンタ達を信用していいのか……?」
涼の質問に、琢磨と冴子は怪しく微笑むのだった……。
数分後。ここでもう一度、海鳴市に視点を戻す。
「なるほど……」
とある公園のベンチに座りながら、なのはと天道の戦いの一部始終を聞かされた草加は、神妙な面持ちで頷いた。
「……別に草加さんに話したからってどうなる訳でも無いんですけどね……」
「ああ……確かにそうだな……だが……」
「はぁ……」とため息をつくように続ける草加。何を言い出すのかと思えば……
「やはり、その天道総司という男も、そんな奴だった。という事なんじゃないかな。
奴もワームやオルフェノクと何も変わらない。自分の都合が悪くなったからといって高町をその手にかけたんだろう。」
「……本当に、そうなんでしょうか……?」
「キミはさっき『天道は手加減した』と言ったな?」
「……はい。」
「それも、怪しいな。考えてもみろ?
あんな人の命を何とも思わないような奴らが、そんなことをすると思うか?」
それは少し言い過ぎじゃないかと思ったが、黙って草加の話を聞くことに。
「俺はそうは思わないな。きっと偶然に偶然が重なって、奇跡的に高町は助かったんだろう。」
「でも……いくら天道総司でも、命を何とも思わないなんて……」
「聞けば奴は謝罪し、命請いを続ける無抵抗なワームを、容赦なくその手にかけたらしいじゃないか?」
フェイトの言葉を遮る草加。
だがそれは違う。ワームの命請いなんて、全て演技に過ぎない。
自分だってそれに騙されかけたのだから。
「それは!違うと……思います。」
フェイトは、殺した人間の記憶を利用し、自分を騙そうとしたワームの話を草加に聞かせた。
「それもどうかと思うな」
「え……?」
全てを話し終えたフェイトは、草加の予想外の反論にまたしても驚いた顔をする。
「確かにキミが戦ったワームはキミを騙すのが目的だったのかも知れない。だがあの男が殺したワームもそうだと言い切れるのか?」
「……それは……」
「誰ひとりとして同じ人間はいないように、ワームにだって色んな考えを持った奴がいるはずだ。
それを演技と決め付けて、謝り続けるワームを無惨にも殺した。俺にはこれが正しい事とはとても思えないな」
「…………。」
フェイトは、草加の口車に乗せられつつあった。
ワームは殺した人間の記憶を利用する。ならば、その命請いもワームに殺された人間を利用していることになる。
フェイトも頭では解っているのだ。
しかし、優しい心の持ち主であるフェイトは、そう言われるとワーム=悪と一概に決め付けていいのかと思えてくる。
「まぁいい。これをどう受け止めるかは、キミの自由だ」
言いながら、立ち上がる草加。
「あ……ちょっと待って下さい……」
「……何かな?」
フェイトには最後に一つ、どうしても気になることがあった。
『お前らオルフェノクは、存在自体が不自然なんだよ』
さっきのカイザ……いや、草加の言葉についてだ。どうしても気になる。
フェイトの耳には、この言葉がまるで怨念というか、何か黒いオーラのような物が込められている様に聞こえたのだ。
「あの……『オルフェノクは存在自体が不自然』って、どういう意味なんですか……?」
「………………」
フェイトに背を向け、固まってしまう草加。
「……もしかして草加さん……オルフェノクを憎んでるんじゃないですか……?」
「……憎んでる訳じゃ無いさ。ただ、オルフェノクは心まで腐り切ってる……
あんな奴らに、町をうろつかれちゃ迷惑なんだよ……」
「……ッ!?」
草加の突き刺すような視線に、フェイトは一瞬動きを封じられてしまう。
違う。さっきまでの好青年の草加とは、何かが違う。言葉では言い表せないような、暗い、憎悪に歪んだ顔だ。
フェイトはこれ以上の詮索を避けることにした。
そして草加は、誰にも見られないようにニヤニヤと笑いながら立ち去っていった。
何かを企んでいるような……そんな笑みだ。
数日後、再び聖祥小学校。今度は昼休みだ。
「……はやてちゃん!」
「あ……加賀美くん、どうしたん?」
たまたま廊下ではやてと擦れ違った加賀美。調度気になることがあったのだ。はやてに聞いてみることに。
「あのさ……なのはちゃん、どうしてるかな……」
「あ……うん、それがまだ目覚めへんみたいなんよ……」
「……そっか……」
残念そうに、ゆっくりと首を横に振るはやて。その表情はまさに、友達を心配している表情だ。
「あいつは一週間もすれば完治するって言ってたんだけどな……」
「うん、傷の方はもう大丈夫やねんけど、やっぱり精神的なショックが強かったんかな?ずっと起きへんのよ」
はやての言葉にばつが悪そうに俯く加賀美。別に加賀美が何か悪いことをした訳では無いのだが……
「天道の奴、本当に何考えてるのか分かんないからな……」
それもこれも、ひよりが消えてからだ。ひよりが姿を消してから、加賀美には天道の行動が分からないことがしばしばあった。
まぁ元々訳の分からない人間ではあったが、ひよりが消えてからはさらにグレードアップしている。
「……どうしたん?加賀美くん」
はやては、何か考え込んでいる様子の加賀美の顔を除き込む。
「……いや、あいつの様子がおかしくなったのも、ひよりが消えてからなんだよな……」
「……ひより……?誰なん、それ?」
「ああ、ひよりっていうのは、あいつの唯一の肉親で……」
ひよりの説明を始める加賀美。
天道は幼い頃、目の前で両親をワームに殺害されている事。
ひよりは、産まれる前に殺されてしまったたった一人の妹であること。
そして、やっと再会できた妹……『ひより』は、ワームであったということ……。
まずは、簡単にだがこれらの説明を終える。はやても初耳らしく、真剣に加賀美の言葉に聴き入っていた。
一通りの説明が終わった後、はやては少し悲しげな、それでいて少し安心したような、複雑な表情をする。
「……天道さんも、やっぱり人間やねんな……」
「……え?」
「私は今まで天道総司という男を、何も失う事無く、全てを手に入れた……。そんな風に思ってた」
「…………。」
「でも、天道さんも過去に色々あった……
そんな悲しい事があって……やっとのことで再会できた妹さんも今は行方不明……もしかしたら……」
はやては少し、天道に同情し、何かを言いかける。
「でも、だからって何してもいいことにはなれへん。
このままじゃ天道さんは、ほんまに後戻りできへんくらい、犯罪者になってまう……」
「はやてちゃん……」
「……なんでこんな事になってもうたんやろ……」
はやての決心と悲しみが入り交じったような顔に、加賀美は思った。
やはりこのままでは非常にまずい。なんとかしなければならないのは解っているが……
所変わって、ここは西洋洗濯舗菊地。
巧と草加は、二人揃って留守番中である。
二人には会話が何も無く、ただ気まずい空気だけが流れている-といっても二人はあまり気にしていないようだが-。
ちなみに、草加は巧が管理局と接点を持っている事を知っているが、巧は草加が管理局と接点を持っている事を知らない。
草加は「さて、どうしたものか……」という表情でニヤついた。
「おい草加。」
意外にも先に口を開いたのは巧だった。巧に呼ばれた草加は、ゆっくりと顔を上げる。
「そういや、流星塾の奴らはどうなったんだ?」
「……キミには関係の無いことだ。出来れば口出しして欲しくないな
……と言いたい所だが……」
「…………?」
「デルタのベルトは、管理局という組織の協力で取り返す事ができた。」
「管理局……?」
眉をしかめる巧。
巧からすれば、草加が管理局と繋がりがあるなんて知らなかったのだ。
以前スラッグオルフェノクとの戦闘時に、二人ははやてと出会っている。しかし、草加は特に反応を示さなかった。
まぁよく考えればここで草加が自分からそんな事を教えるのは不自然なのだが……
「ああ、彼らもまたオルフェノクやワームから人々を守る為に戦っている。俺も何度か一緒に戦った事があるからな」
巧は「そうだったのか」みたいな顔をする。特に言葉には出さないが。
「ただ……彼らの戦力もあまり期待しない方がいいかもしれないな。」
「……どういうこった?」
「なんだ……知らないのか。」
草加は、巧の見えない場所で小さく、ニヤッと笑った。
確か高町なのはが眠っているのも一週間とか言ってたな。
草加はそれを理解した上で、言った。
「管理局のエース、高町なのははもう戦えないだろう」
「……何かあったのかよ?」
「彼女は、天道総司という一人の男の手によって、瀕死の重傷を与えられてしまった……」
「何?天道ってあの……サルの店員のか?」
流石に驚いた巧は、草加の顔を真剣に見つめる。まさかあの天道がそんな事をするとは思いもよらなかったからだ。
「そうだ。自分が犯した犯罪によって管理局に逮捕されるのを恐れ、高町なのはをその手にかけたんだ。」
「おい、嘘だろ……?あいつがそんな簡単にやられるかよ?」
「嘘じゃない。天道という男も俺達と同じような力を持っていたんだ。
そして奴は、自分にとって都合が悪くなった為に、まだ幼い彼女をその手にかけた……」
言われてみれば、最近たまに街中でフェイト達を見かけることはあっても、少し前までいつも一緒にいた筈のなのはの姿を見る事は無い。
巧からすれば、なのはなんてまだ知り合ったばかりだし、ほとんど接点も無い。
本来ならどうでもいい相手の筈だ。だが、何故か巧はその天道の行為が許せなかった。
なのはがやられた事に対する怒りでは無い。自分の目的の為に、あんな幼い女の子を倒すというやり方が気に入らないのだ。
「俺は……天道総司という男を敵だと思ってる。自分の目的の為に他者を犠牲にするなら、オルフェノクと変わらないからな」
「……そうだな……」
「乾……お前はどう思う?まさかこんな理不尽を許す訳じゃないよな?」
巧は草加の視線から、目を外す。
黙ったまましばらく考えるそぶりを見せる。
そんな巧に、草加は怪しげな笑みを浮かべるのだった。
そしてまた日は流れ……。
なのは達が楽しみにしていたキャンプまで残す所二日となっている。
「た、たっ君!あれ!?」
「あれは……!?」
配達の途中、啓太郎が驚いた表情で少し離れた場所を指差す。
そこでは、ワームの群れが人間を襲うという、半ば強制的に参加させられるイベントが繰り広げられていた。
巧はすぐにファイズギアを装着。車のドアを開けて、ワーム集団へと走り出す。
ファイズフォンにスタートアップコードを入力。そして鳴り響く変身待機音。
巧は走りながら一連の動作を済ませる。後は変身するだけなのだが……
「まずいっ……!」
それよりも早く、ワームのツメが一般人を切り裂こうとしている。
今からではフォンブラスターでも間に合わない。だがそれでも諦める訳にはいかない。そのまま走り続ける巧。
その刹那。
「ガキィン!」という効果音と共に、ワームのツメが弾け飛ぶ。
巧は「何だ?」という表情でワームのツメを弾いた「モノ」見つめた。
ワームのツメを弾き飛ばしたモノ。その正体は……「赤いカブトムシ」……?
赤いカブトムシ-カブトゼクター-はそのまま彼方へと飛んでゆく。
そこにいるのは紛れも無い、天道総司だ。
天道はゆっくりと歩きながらカブトゼクターをキャッチ。そして、ちらっとワームを睨んだ後、変身待機音を鳴り響かせる巧を見る。
「……おまえッ!」
「お前は確か……」
二人が言ったのはほぼ同時だった。天道も、巧が戦士であることに気付く。
だが、今はワームの駆逐が先だ。
二人はお互いが持つ赤いトランスジェネレーターを構え、そして叫んだ。
「「変身!!」」
天道の体を銀のアーマーが。巧の体を赤い閃光が包む。
『Complete』
ファイズとカブトは、ほんの一瞬見つめ会った後、すぐにワーム集団へと走り出した。
ファイズはワームの前に立つと、いつも通り左腕を「ぶらっ」とスナップさせる。
そして、一匹目のワームを殴った。
力一杯殴りつけ、また次のワームを殴り飛ばす。
こいつらはオルフェノク以下だ。巧はそう感じた。
いつもオルフェノクを倒している巧にとって、この程度のサリスが何匹徒党を組もうが同じ事だ。
こいつらに集団戦の知識があったならまだ別だが、どうやら知能まで人間以下らしい。
ただ群れて、ツメで攻撃をしかけてくるだけだ。
ほとんどの攻撃をかわし、逆に自分の攻撃を叩き込む。
こんな奴らにやられる訳がない。パンチやキックを放つ度に、赤い閃光が尾を引くように伸びる。
ふと横を見れば、カブトはいつの間にか赤いカブトムシの角を模した頭部を持つフォーム-ライダーフォーム-へと変化していた。
カブトはクナイガンでワームを続けざまに爆発させている。
それに対し、ファイズには武器が無い。負けることは無いが、一撃で爆発させる程の決定的な攻撃は与えられない。
「……キッツイなぁ」
愚痴を漏らしながらもワームを殴り飛ばして行く。
その時だった。
ズガガガガガガガガガガッ!
まるでマシンガンのような銃声が響き、ワーム数匹を小さな銃弾の群れが貫通して行く。
そして、ファイズの傍に降り立ったのは、見慣れた銀色のロボットだ。
ファイズ専用のオートバイ。バリアブルビークル……『オートバジン』だ。
「……遅ぇんだよ!」
言いながらオートバジンの胸についた、ファイズマークを模した丸いボタンを殴りつける。
『Vehicle Mode(ビークルモード)』
オートバジンはその反動で少し後ずさるが、倒れることは無い。すぐにその姿を変形させ、地面に着地する。
オートバジンのオートバイとしての形態-「ビークルモード」-だ。
ファイズはオートバジンの左ハンドルを引き抜く。ハンドルはサーベル状に光が伸び、ファイズエッジとなった。
それを構え、上下に視線を動かした後、ファイズは再びワーム集団へと走り出した。
「ハァッ!!」
カブトはカブトクナイガン・クナイモードでワームを切り裂いてゆく。
一匹、また一匹とワームの数は減っていく。
逆手持ちのクナイガンを上方向へ振り上げ、下方向へと切り裂き、独特な戦闘スタイルで戦うカブト。
カブトにはサリスの攻撃は一切当たらない。まるで当たり前のようにワームのツメ攻撃を回避し、クナイガンで切り裂いてゆく。
ワームの数も減って来た。このままならもうすぐ決着がつく。
だがそう上手く行く訳は無く……
ファイズが戦っていた一匹のワームが赤く変色を始めたのだ。
「気をつけろ。ワームの中には稀に蛹から成虫へと脱皮する奴がいる。」
「あ?脱皮?」
カブトの助言を聞いたファイズは、「何だそれ?」といった感じにワームを見詰める。
そして赤く変色を始めたワームはやがて、茶色の体に羽根を生やした、スズムシのような姿に変貌する。
名前はベルクリケタスワーム。加賀美の弟に擬態していたワームと同じ種類。
ファイズはまずは近くのサリスを殲滅させる事に専念する。
ファイズエッジでサリス集団の体を切り裂き、カブトとほぼ同じペースで爆発させていく。
「ハイパーキャストオフ。」
『Hyper Cast off(ハイパーキャストオフ)!!』
一方のカブトは、ハイパーゼクターを呼び出し、ハイパーフォームへとフォームチェンジ。
同時に彼方からカブトムシを模した大剣と紫の蠍が飛来する。
カブトはサソードゼクターを装着したパーフェクトゼクターを掴み取り、紫のボタンを押した。
『Sasword Power(サソードパワー)』
「ハイパースラッシュ!」
そして大剣を振りかざすと同時に、パーフェクトゼクターの刃から三日月のような形をした、紫の光が発射される。
一降り、二降りと繰り返されるハイパースラッシュに、残りのワームは全て爆発した。
カブトはすぐにファイズが戦うベルクリケタスワームを倒しに行こうとするが、どこか様子がおかしい事に気付く。
本来ならZECT製ライダー以外はワームのクロックアップには対抗できない筈だ。
しかし、ファイズはそれを知らないのか、堂々とした態度でベルクリケタスワームと対峙しているのだ。
「…………。」
確かに初めて脱皮を見た時は少し驚いたが、元々があれだけ弱かったのだ。脱皮しても並のオルフェノクと同等くらいだろう。
元々口数の少ない巧は、例え脱皮したからといってそれほどの脅威になるとは思わず、リアクションも微妙だ。
再びファイズエッジを構え直し、ベルクリケタスワームへと攻撃を開始する。
「はぁッ!」
「…………!?」
ファイズエッジを振り下ろされた、ベルクリケタスワームは独特の鳴き声を発しながら後ずさってゆく。
いつも通り攻撃を繰り返すファイズに、ベルクリケタスワームも防戦一方だった。
だが……
「……消え……!?」
ベルクリケタスワームはここでクロックアップを発動。ファイズに超高速での攻撃を繰り返す。
右から、左から繰り返される見えない攻撃に、傷付いてゆくファイズ。
「クソ……なんだよコレは!」
「成虫になったワームはクロックアップすることで超高速での移動ができるんだ!」
「超高速だ……?」
反撃ができないファイズに、カブトが助言する。
同時にベルクリケタスワームは一度クロックアップを解除。挑発的にファイズの目の前に立つ。
まるでZECTライダーではないファイズに負ける事など無いと、嘲笑っているかのように。
巧にとって、そのワームの態度は非常に腹立たしかった。
元々馬鹿にされるのが嫌いな性格だけに、「このワームをぶっ飛ばしたい。」と、心の底から思った。
ゆっくりと立ち上がるファイズ。
本来ならカブトがハイパークロックアップで介入し、一気に片を付けるのだが。
「(……何をする気だ……?)」
やはりどこか自信に満ちた行動をとるファイズに、天道は好奇心を掻き立てられていた。
そして再び姿を消すワーム。
ファイズは左腕に装着されたリストウォッチ型コントロールデバイス、『ファイズアクセル』に視線を移す。
相手が超高速で行動するなら、自分もそれに合わせればいい。
相手が自分を馬鹿にするなら、自分はその上を行けばいい。
至極単純な答えを見付けたファイズは、ファイズアクセルからアクセルメモリーを引き抜く。
そしてファイズエッジを投げ捨て、右腰に装着された
デジタルトーチライト型ポインティングマーカーデバイス-『ファイズポインター』-を取り外した。
一度ファイズの手の上で回転を加えられたファイズポインターは、そのままファイズの右足に装着される。
これで準備は整った。アクセルメモリーをベルトに装填。
『Complete』
電子音声と共に、胸部アーマーが展開。
目の色が黄色から赤に染まり、全身の赤いフォトンストリームも、最も出力が不安定な銀色へと変色する。
『Start Up』
ファイズアクセルのスタータースイッチを押す事で、ファイズの周囲に、まるでジェットエンジンの轟音のような音が響く。
そして。
飛行しながら、超高速で突進してくるベルクリケタスワームを蹴り飛ばした!
「…………ッ!?」
蹴られたワームもファイズがクロックアップの速度について来られた事には驚きを隠せないらしい。
一旦退却しようと、そのまま空を飛んでこの場所から離脱する。
その場所で立ち止まったままのファイズとベルクリケタスワームの間にはどんどんと差が開いてゆく。
だが巧が黙ってワームの逃走を許す訳が無い。
鳴り響くファイズアクセルのカウント音。ファイズは腰を低く落とし、今にも走り出しそうな体制を取り……。
次の瞬間には、目視できない速度でファイズの姿は消えていた。
ここまで来れば大丈夫か。そう思いながら、クロックアップ空間の中、逃走を続けるベルクリケタスワーム。
だが……何か変な音が聞こえる。背後から。まるでジェットエンジンのような。
刹那、凄まじい速度で地面や、建物の壁を蹴って駆け抜けるファイズが現れたのだ。
「…………!!」
まずい!ベルクリケタスワームは追い付かれまいと必死で逃げるが、どんどんと差が縮められていく。
そして、気付けば飛行を続けるベルクリケタスワームの背中には巨大な赤い円錐が浮かんでいた。
そしてベルクリケタスワームの体に響く凄まじい衝撃。
ベルクリケタスワームには何が起こったか分からなかった。ただ、気付いた時には自分のクロックアップは終わっていた。
一発目のクリムゾンスマッシュの衝撃で、クロックアップを解かれてしまったベルクリケタスワームはゆっくりと地面に落下してゆく。
ファイズはその落下地点に先回り。
次の瞬間には、ベルクリケタスワームは再び空へと蹴り上げられていた。
そして360度、今度はほぼ全包囲から現れる5つの赤い円錐。
まるで飛行能力を得たかのように遥か空高くへと、舞い上がるファイズ。
ファイズは上空でその姿を消し。
それと同時に、5つの円錐全てが、巧の雄叫びと共にベルクリケタスワームの体を削り落とすように突き刺さる。
『3……2……1……』
アクセルモードの最後を告げる3カウント。ファイズは、そのカウントが鳴り終わる前に地面に着地。
『Time Out!』
そして、アクセルモードはタイムアウト。『Reformation』の電子音と共に、ファイズの胸部アーマーは元の場所へと戻る。
元の速度に戻ったベルクリケタスワームは、空中で爆発四散した。
「ふぅ……」
巧はファイズの変身を解除し、さっきまで天道がいた場所を見る。
どうやらアクセルモードで移動している間に、随分と離れてしまったらしい。
巧は遥か遠く、天道がいるであろう場所に視線を送る。
同刻、本局の医務室。ここはなのはが眠る部屋だ。
「う……ん……」
なのはは、うなされていた。
酷く汗をかき、何度も寝返りをうつ。そんななのはが見ていた夢とは……
ここは、恐らく海鳴市。
「なんで……こんなとこにいるんだろう……?」
なのはは、バリアジャケットを装着したまま、町を見下ろしていた。
下ではガタックやカブト、ブレイド……そしてフェイトが戦っている。
「……私もいかなきゃ……!」
なのはは、戦場に赴き、フェイト達に加勢しようとする。だが何故か体が動かない。
戦いたい。皆を助けたい。そう思っている筈なのに、体が動かない。
そして、自分の1番の親友が青いワーム-キャマラスワーム-と戦っているのだ。
「これ……どこかで見たこと……ある?」
なのはは強烈な既視感に襲われた。
「あ……ダメ……!」
そして、フェイトの腹部に突き刺さるキャマラスワームの腕。
バリアジャケットは見事に貫かれ、フェイトは地面に転がる。
「え……嘘でしょ……?フェイト……ちゃん……!?」
ショックと驚きのあまり、呟くような声でフェイトの名を呼ぶなのは。
「駄目だ……聞こえない……」
なのはは目に涙を貯め、変わり果てたフェイトの姿を見つめた、その時だった。
「ハイパークロックアップ!!」
なのはの耳に聞こえるのは聞き慣れた……そして、自分を撃墜した男の声。
「……何……これ?」
刹那、なのはの目の前の風景が有り得ない変化を遂げていく。
「時間が……巻き戻ってる……?」
そして、再びフェイトがキャマラスワームの攻撃を受ける直前まで戻り。
「……!?」
これ以上親友の無惨な姿を見たくない。なのはが目を閉じようとした、その時だった。
「…………え?」
さっきは通ったはずのキャマラスワームの攻撃。それが、今度は受け止められているのだ。
「これ……この風景……あの時の!?」
この瞬間、なのはは全てを思い出した。
キャマラスワームの攻撃を受け止めるハイパーカブト。
これは、天道が時間を逆行させた、あの事件だ。
「そんな……まさか……?」
再び、本局医務室。
「…………?」
目を覚ますなのは。
酷く寝汗をかいていたらしく、体がベタベタして気持ち悪い。
「あ……私……どうしてたんだろ?」
ゆっくりと、なのははベッドから体を起こした。
同刻、アースラ。
「そうだ……ここ、窓ないんだっけ……?」
既にアースラ内ではほぼ自由行動となった良太郎が、自室で目を覚まし、体を起こす。
自室といっても一時的に借りているだけの簡素な部屋だが。
「姉さん……心配してるだろうなぁ……」
そんな良太郎の足元からは、白い砂が、大量に零れ落ちていた……。
To Be Continued.
スーパーヒーロータイム
あきら「らっきーちゃんねるマスカレード出張版~♪」
みのる「どうも!ついにマスカ……」
あきら「おーはらっきぃ~!
はい!ナビゲーターはいつも元気いっぱいの小神あきらです♪」
みのる「自分は!あきら様のアシスタントのし……」
あきら「今回は、特別ゲストをお迎えしてまぁす♪
では、どうぞー!」
矢車「……はぁああ……」
一同「………………」
あきら「おい」
みのる「は、はい!?何でしょうあきら様!」
あきら「アンタさぁ、何訳のわかんない奴連れてきてくれちゃってんのよぉ?え?
本編キャラなら誰でもいいとか思ってんじゃないでしょうね?だいたい……(ブツブツ)」
みのる「いや、でもですね!彼は仮面ライ……」
矢車「お前……」
あきら「え?何ですかぁ?」
矢車「瞳の奥に……闇が見える……」
みのる「いやぁ、そりゃそうでしょう、だって……ッて、うわッ!!ちょ!ごめ、ごめんなさい!ごめんなさいあきら様!!」
矢車「俺と同じ……地獄を」
あきら「はぅ~!残念だけどもうお別れの時間がやってきたみたいですぅ!番組の感想やお便り待ってますね♪
ばいに~♪」
矢車「貴方は俺が守ります!」
あきら「はあぁあ……もう帰る。
……ったく何が闇よ、どいつもこいつも余計な事言うんじゃねぇよ、だいたい何?白石のあの態度……(ブツブツ)」
みのる「えーと……次回はあるか…わかりません……」
最終更新:2007年10月13日 20:16