「はやて。後でまたかけるから、今日はこれで!」
<え、、、えええっ!?ちょっと!フェイトちゃ・・>
ピッ
『ごめんなさい、はやて……』
そう言い通信を切ると、視線を目の前に移す。
「来た!」
意味の無いことかもしれない
でも、あの姿を見てしまった以上、
もう引き返せない感じがした。
もし、あの車とツーリングできたら何か自分の知らない不思議なことが起こるのだろうか?
そんな期待も少しはしていた。
まだ誰も見たことが無い「速さ」の限界、
しかし、それは一歩間違えたら全てが終わるデスゲーム。
好奇心を取るか、存命を取るか、
私自分の命を削った遊び。
ああ、この世界は「自己責任」の上で成り立っているんだな…。
バックミラーを見る。
やはりだ。轟音を響かせる咆哮のようなエンジン音。
そして、ミッドナイトブルーの鋭い眼差しのようなボディ。
「白い車?あのZと同じ速さで走っていると言うことは?」
昨日とは違って今日は連れがいるらしい。
その証拠に悪魔のZとほぼ同速度で後ろからついていってる白い車がいるからだ。
「もしかしてあの車……仲間?」
『分析の結果、日産製スカイラインGT-RのR32型です』
「スカイライン?……聞いたことがある」
2568ccの直列6気筒4バルブDOHCエンジンに2基のセラミックス製ツインターボ(RB26DETT型)を搭載し、FRをベースとしつつも、高度な電子制御によって4輪に自在に駆動力を配分できる4輪駆動システム(テーサE-TS)を搭載する4輪駆動車である。
今夜は眠れない夜になるだろう。
今、月夜の夜に3匹の獣が舞う。
運命(フェイト)③ 後編
湾岸線の大井ランプを通過した。
深夜の首都高、特に夜湾岸線は基本的にはガラガラに近いというわけでもなく、そんなにどばっと多いわけでもない。
この時間帯には○○宅急便とか、××運送など、運送業者のトラックが多い。
車がいないエリアを確認しつつ、少しずつスピードを上げていく。
アラート発令の時の車の飛ばし具合。
それに匹敵する、いや、それ以上のスピードで目の前に映る一般者とトラックの間を縫う様に抜ける。
時々ちらっとバックミラーを見るが、2台に変化は無い。
まるで通じ合っているかのようにフェラーリの後方で白い車がZを追いかける、いわゆるツーリングをしていた。
「すごい、まるでテレパシーでも通じてるみたい……」
現に魔法で仲間と交信できるフェイトにとってその現象は少々無理はあるものの、不思議に思った。
アキオは無言で前を見据えながらZを走らせる。
次第にアクセルを踏む足の力が強くなり、猛スピードのままカーブも難なく曲がっていった時、前方にフェラーリが映った。
『フェラーリ……テスタロッサ?』
白いフェラーリ。
一般車両が静止した障害物に見える中でただ一台、仲間外れの速さで走っている車。
まるで、こちらを挑発しているかのようにテンポ良く車の間を抜ける。
フェラーリを見るのは初めてではなく、前(というか結構前になる)に今、後方で白いGT-Rを走らせているれいなのカメラマンの顔が思い浮かぶ。
『イシダさんが走っているわけがない。でも誰が?』
前に見たテスタの保有者、イシダこと売れっ子カメラマンの『イシダヨシアキ』は湾岸線一緒に走っている途中でZが事故に遭った後、持病のがんの手術後、最高速から身を引いている(注1)。
Zを操りながら注意深く車を観察すると、何かに気がついた。
『ハザード(非常点滅表示灯)が点いてない。もしかして、初めて?』
好戦的な走り屋なら『挑発』の意味にとらえ、普通の使い方以外なら『挑戦状』の意味にもなるハザードランプ。
周りとは違うスピードが出てるのは単に自分のスタイルで走りたいからだろうか。
どうもフェラーリの走りは好戦的とはとらえにくい。
『どうしようか……』
多分れいなも同じ気持ちだろう。
しかし、すぐ答えは出た。
フェイトもなかなか仕掛けてこないZに少し焦りを見せていた。
とりあえずレインボーブリッジを超え、羽田まで引っ張るも、一向に離れない。
すると、
『Zが接近中!約時速300キロで迫ってきます!』
「時速300!?」
驚いた。この時代にこんなつぎはぎだらけの首都高で300キロ以上を出しながら駆け抜けるとは・・・
勝負を仕掛けてきたのだ。
カーブで振り切ろうとハンドルを振るが、一向に離れずそれどころかフェラーリとの間を縮めていく。
「カーブなのに減速しないの!?危ないわ!」
『人の事言えませんね……』と突っ込みたくなったが今のフェイトはものすごい変な事にピリピリしているからよしておいた。
アキオはスピードを出しながら距離を確認する。
こちらから打って出たのだ。
『!?』
フェラーリとZが横に並んだ時、アキオはふっとドライバーを見た。
シートの座高以上もありそうな長い金髪の髪、まるでハリウッドの女優のような高貴で端正な美しいが、少し幼さも隠す顔立ち。
胸に何か熱い思いを秘めている赤い真紅の瞳。
それは、いつも車のことばっかり考えているアキオをも見とれてしまう美しさであった。
どこかで見たことがある。確か…
『あ、そういえば、あの時……』
アキオは何かを思い出した。
それはバイトが終わり身支度を終えて、Zを取りに行った時の北見の保有するガレージにて。
「……ということだ、お前が心配してたカムシャフト(注2)部に異常は無かったから前より良くなってるはずだ」
「そうですか……ありがとうございます」
ガレージに入りZの状態を知らされ、そんなにたいした事が無く安心してた時のこと。
「ん?」
アキオは北見がエンジンを組むときに使う作業台の上で何やら小さな長方形の紙を発見する。
名前と学校名の他に綺麗な金髪の長い髪の女性の映った写真が入っていた。
「え~っと。『フェイト・T(テスタロッサ)・ハラウオン』……」
「ああ。そいつか?」
Zの最終チェックをしている最中の北見が言った。
「誰ですか?この人」
「『探し物をしてるから協力してくれ」ってサ」
「そうですか。しかし、綺麗な人ですね。れいなをも負かしそうなくらいに」
「くくく…でも『綺麗な薔薇には棘がある』からナ。気をつけな」
冗談ぽく北見が言う。
間違いない。
この人だ。昼にガレージを訪ねてきたのは。
その傍ら
GT-Rの後方についてくる車が一台。
「おっ。今日はツイてるぜ!占いのご利益ってか!?」
男はハイテンションでR44、通称ハコスカを操っていた
「待ってたぜ、『悪魔のZ』!」
そう言い、中央のボタンを押す。
「この日をずっと待っていた!ブーストアーップ!」
すると、エンジンの音色が変わり、そして、車のスピードがケタ違いにアップした。
「ターボブーストの500馬力、受けてみろ!」
「ダメ……抜かれる!」
Zが隣に並び、フェイトは諦めかける。
やはり、あのときの二の舞になるのか……。
それはそうだ。この当時無敵のL28、ツインターボ搭載のエンジンに対し、
近未来世界のフェラーリのクリーン式ノーマルエンジンが挑むのは竹槍でB29戦闘機を落とすようなものだ。
もはやこれまでかと思った、その時……。
『マスター!後方に高速車接近。危険です!』
バルディッシュから警告が流れた。
「くっ……あの白い車ね……」
後方からだから多分そうだろう。
『違います!GT-Rの後方からです!』
「何ですって!?」
バックミラーを咄嗟に見る。
レトロな風貌の車が猛スピードで迫る。
『同じくスカイライン、通称ハコスカです!』
「ハコスカ?」
R44。通称『ハコスカ』
C10型のスカイラインの仲間であり、バルクヘッド前よりホイールベースを延長。エンジンはプリンスではなく、日産系の直列6気筒、OHC、2000ccのL20型エンジンを搭載する。
この車をコンセプトとして発売されたのが今自分の後方で走っているGT-R32である。
ハコスカが白いR32を抜き、フェイトは前へ行かせまいとブロックするように左右にハンドルを振るが、既に遅く、気が付いた時にはフェラーリの前方を走っていた。
「うそ…」
自分の車はあの車の足元にも及ばないのか。
そう考えるとZ以上の嫌悪感が漂う。
しかし、この後彼女はこの車の衝撃的な様を知ることになる。
GT-R、フェラーリを抜いたことで調子に乗ったのか、続けて悪魔のZをあっさりと抜く。
まるで勝ち誇ったようにスピードを上げたが、
横羽線のS字カーブ、その入り口付近を曲がろうとしたハコスカが突然スピンを起こし突如として制御不能に陥った。
「うあああああああ―――!」
そのままハコスカはガードレールに激突し、フレームが大きく変形させながら跳ね、ボンネットが開き、そのまま停まるとガソリンが電気系統に引火し、炎上した。
その様はまるで炎の中に取り残され、夜空に向かってほえる獣のようだ……
「きゃあ!」
まるで紙屑の様に跳ねるハコスカを見て思わず悲鳴を上げる。
何とかレーンチェンジして巻き添えを食らう事は無かったが事故によって少々精神が乱れた。
助けに行きたくてもこんな中でどう助けを求めればいいのか……
「ひどい……」
運動に関連する公式に当てはめてみても中の人間は到底助からないだろう。
ハンドルを持ったら自己責任の上で車を走らせなければならないから当然の事と言える。
罪悪感に押されながらもそのまま無視して横羽線をZを追いかけるように走り抜けた。
Zはこれからどうするのか?
そう考え前方のZをみると、なにやらハサードランプをチカチカ点灯させながらまるでこちらを誘導するかのように羽田ランプから首都高を降りる。
「『ついて来い』って言ってるのかしら?」
ラジオの交通情報はさっきの事故の状況が流れ、一緒に走っていた自分とZと白いRを捕まえるため各料金所に検問を設置すると言う。
「やれやれ……本来なら調査する側の私が今度は加害者になるとは……」
Zは事故が起こったことでもう首都高は当分の間走れないと判断したのだろう。
少なくともZと白いRはこの自分よりも首都高に詳しいと知る。
当然、規制回避のプロセスも分かっているのだろう。
フェイトはZに競争意識が無いことを確認しつつ、Zの後をついて行った。
「私には、わからない……」
意味が分からなかった。
どうしてドライバーはZでこんな危険な遊びをするのか……
なんで?なんで貴方はこんな危険なことをするの?
下手したらあの車のように木っ端微塵に砕け散るかもしれないのに……
(END)
(注1)湾岸ミッドナイト、第3巻参照
(注2)エンジンを構成する部品の一つ。カムと呼ばれる部品で構成される『エンジンの心臓部』とも言われる部品。
(次回予告)
引きつけられるように。
呼び合うように。
選ばれし冒険者が集まっていく。
約束された大地で待つあの車を見るために……
すべては、あの悪魔の先を走るために……
次回、魔法少女リリカル湾岸ミッドナイト
SERIES#2 その車、危険につき①
「あたしはただ、あの車について行きたいだけなの」
最終更新:2007年10月13日 20:25