「おい、ハチマキ」
「だーかーら、『スバルお姉ちゃん』。何でノーヴェはギン姉にだけで私には言ってくれないのかな?」
「うるせえ!!それはギンガ姉と他のお姉達だけだ!!」
「会う度にいつもこんな事してるけど飽きないのかな?家でもこんなのなの?」
「そうですねぇ・・・。はいはい、二人ともそれまで。続きは次の機会にしなさい?」
「「はーい」」
なのははギンガ・スバル・ノーヴェ三姉妹を引き連れて歩いていた。格好は新しく一新された管理局の
共通制服の航空総隊バージョン。若干の違いを除けば他の三人の着用している陸上総隊の制服と変らない。
ノーヴェは更生プログラム終了後、ナカジマ家に養子となり一応は末っ子となる。
能力制限は更生プログラムの成績がよかったため殆ど掛けられていない。
四人組が歩くのは殺風景な廊下。人の気配は無かった。
「ほんとにこの道でいいんですか?」
スバルが聞いてくる。
「とりあえず間違いは無いはずだけど・・・」
「たしか情報によると控え室がここら辺にあるはずですよ」
なのはの答えを補足する形でギンガが付け加える。
「しかしまた単純な構造の施設だな」
ノーヴェはあらかじめ渡されていた地図を表示する。幾つかの円筒形の空間と工場地区、
それをつなぐ通路、そして輸送プラントを持つ施設。
「『渡鴉の巣』。かつて数多のレイブン達がレイブン試験を受け巣立って行った所・・・。最近
アリーナが一般に知られるまで場所は秘密だった見たいね・・・」
「鳥頭の巣らしく単純な構造ってか?」
ノーヴェが混ぜっ返す。
「ノーヴェもすぐにかっとなって突撃するじゃない?」
「てめえ!!ハチマキ、もう一遍言ってみろ!!」
「そうやってすぐ熱くなるのが駄目だって、チンクちゃんが言ってたじゃない?」
「・・・今ここであの時のチンク姉の仇討ってやる!!」
スバルは妹ができたのがうれしいのかよく“瞬間湯沸かし器”ノーヴェに話しかけている。
スバルなりの愛情表現なのだが何故か喧嘩になる。二人のやり取りを見ればなぜ殴り合いの
喧嘩にならないのか不思議に思うのだが二人のやり取りを見た人は結局姉妹の痴話喧嘩にしか見えない
という感想を持つ。その程度の口喧嘩である。
「二人とも・・・、頭冷やそうか・・・?」
「ドリルで・・・、その頭に排熱孔開けようか・・・?」
「「・・・すいません・・・」」
さすがに仕事中ともあればその程度の痴話喧嘩に付き合う必要はない。
「控え室、ここですね」
「でも人がいねえよ」
「時間はまだ早いと言う訳ではないけど」
「鴉達はお出かけ中、といったところかしら?」
「何か御用ですか?」
いつの間にかモップとバケツを持ったエプロン姿の少女が横に立っていた。
人の気配がしなかったので留守かと思ったがどうやら人はいたらしい。
「あー、ここのお手伝いさん?えーと、レイブンの人たちは今日は来ないのかしら?」
「・・・私もこう見えてもレイブンです。お望みとあれば戦いますか?」
「まあまあ、そういわないで。お名前は?」
いきなりギンガに挑戦しようとする少女を止める為、なのははまずお話から始めようとする。
「エネって呼んでください。コアデバイスはピースフルウィッシュ。今は整備中ですが・・・」
「レイブンさんが何でモップ持って掃除してるのかな?」
「実は私、ランクで言えば下から数えたほうが早いんです。だからこうやってお茶組みしたり
軽い食事作ったり、掃除したり・・・。でもそれでみんなからチップもらってるからいいんですよ」
「私は高町なのは。こっちの三人はギンガにスバルにノーヴェ。三姉妹だよ」
「し、失礼しました!!まさか管理局ののエースオブエースご本人だったとは知らず・・・」
そういうとエネは姿勢を正し頭を下げる。
「いいよ、そんな畏まらなくても。ちょっとお話が聞きたいんだよ」
「お話ですか・・・?」
「そう、昔の話が聞きたいの」
「私はそんな昔から居る訳ではないですから・・・、ここ最近のことでしたら・・・」
「“不死鳥”と言われたレイブン。あなたは出会ったことはある?」
こういう聞き込みは元々捜査畑にいたギンガの方が適切だろう。
そう考えてなのはは話し相手をギンガに任せた。
「私は・・・、アリーナで何度か手合わせをしてもらいました。まったく適いませんでしたが・・・」
「ここに来る事はある?」
「あの人は・・・、アリーナには興味が無いのかここで見かけることは無いですね・・・」
一旦、区切り少し考えるエネ。
「アリーナって言うのは昔のようにレイブン同士が戦ったりするだけじゃなくて情報を交換したり、
仕事上のパートナーを探したり、依頼を探す場所になったりしてるんです。特に今のように
レイブンズアークが崩壊して依頼の斡旋組織が機能してない状態ではなおさらです」
「知ってそうな人は?」
「最近、レイブンを雇おうとする人が多いから・・・。仕事が多くてアリーナに来る人も少ないんですよ」
糸が途切れたかな?管理局の四人が同じような事を考えた。それを感じたのかエネと名乗った少女は
「あ、でもアリーナ最古参のレイブンって言われてる人がいますよ」
そういうとエネは隣のソファの裏に寝転がっていた中年の男を起こそうとする。
ぜんぜん気が付かなかった・・・。四人が揃って考えたのはそんなことだった。
「伍長、起きて下さい。伍長!!」
「何だエネか、俺の出番でも来たのか?」
「違いますよ。管理局の人が昔の話を聞きたいって・・・」
「管理局?しかも昔の話だ?」
そういいながら男は起き上がり、なのは達の座っているソファに向かって重い靴音を響かせながら歩き出す。
『お父さん見たいな体系だね』
『いやもっと細い体型だよ』
『どっちにしろヤバイだろ』
『帰ったらお父さんを健康診断に連れて行こうか?』
『『賛成!!』』
『・・・みんな容赦ないね・・・』
ナカジマ三姉妹の容赦ない念話に相槌を打ちながらうちのお父さんも若作りしてるけど一応
健康診断に行ってもらおうかな?そんなことを考えながらなのはは立ち上がり右手を差し出し
握手を求めながら名前を名乗る。
「地雷伍長。本名は必要ないだろう。コアデバイスはデンジャーマイン」
「高町なのは。所属は航空総隊戦技教導隊ですが現在は・・・」
「知ってる。アリーナ万年最下位の俺でも知ってるぐらいの有名人だろ」
「そ、そうですか・・・。こっちはギンガにスバル、ノーヴェ。陸上総隊所属です」
「話するのはかまわんができたらそっちの人数を減らしてくれ。いきなり襲われたりしたら適わん」
「ねえねえ、エネさん?」
難しい話をし始めたなのはとギンガ、そして地雷伍長と名乗った男から少し離れたソファに
座りながらスバルは前に座るエネに話かける。
「えーと、スバルさん、でしたっけ?」
「そうだよ。ちょっとお願いがあるんだけど・・・」
「何でしょう?」
「うちのノーヴェと一戦やってくれない?どうせ暇でしょ?」
そう話しながらスバルは隣に座るノーヴェの頭をなでる。
「この子まだまだ経験が浅くてね」
「ちょっ・・・、ハチマキ、何言ってやがる!!こんな小娘に遅れをとるほど弱くねえよ!!」
「なな・・・、あなたがどんな魔導士か知りませんがこう見えてもレイブンの端くれです!!」
「レイブンだろうがなんだろうが小娘には代りねぇだろ・・・」
「いいでしょう・・・。そっちがその気なら白黒つけましょうか!!」
言うが早いか二人は勢いよく立ち上がりにらみ合う。
「それでは十分後、ドーム・Aに来てください。別に尻尾を巻いて逃げ出しても構いませんが・・・」
「それはこっちの台詞だぁ!!」
「あー、なんか話が変な方向に言ってるような・・・」
ふと視線を感じると冷たい目で見るなのはとギンガと目が合う。
『スバル・・・、後で特別メニューね』
『たっぷり稽古つけてあげるから・・・』
『ご、ごめんなさい・・・』
念話からもなのはとギンガの怒りが感じられた。聞こえてきた声は低く冷たい・・・。
地雷伍長は何がおかしいのか笑いをこらえるのに必死そうにしていた・・・。
「何でレイブンになったの?管理局や他の組織でもよかったんじゃない?」
ギンガはコアデバイス、汎用魔導甲冑を着込み最終チェックをするエネに話しかける。
「家族が病気なんです。だから、・・・少しでも実入りの良い仕事をしようって思って。
こう見えても管理局基準で陸戦B+を持ってるんですよ」
「管理局の局員にならない?陸戦のB以上なら中途採用でも歓迎されるわよ」
「・・・やめときます。世間ではあまり良く言われる事は無いですけど、レイブンの人たちって男女問わず
良い人たちなんですよ?」
「そう、気が変わったらここに連絡して。お父さんの部隊だけど管理局は万年人手不足だから歓迎されるわよ」
考えておきます。そういうとエネは甲冑の重い足音を響かせながらアリーナのゲートへと向かった。
それはそこに眠っていた。かつてプログラムはそれを操り、数多のレイブンを葬り、戦場となれば
敵味方容赦なく弱者を踏み潰してきた。
「力を持ちすぎた者」
ある日、それは上位存在と言うべき存在を失い、その力を振るうべき理由をなくした。
「秩序を破壊する者」
上位存在を打ち砕いた者、レイブンに戦いを挑んだ。そして自身もまた打ち砕かれた。
「プログラムには不要だ・・・」
上位存在を失った後、プログラムは停止したはずだった。
だが怨霊ともいうべき人に近い思考はずっとそのプログラムの目的、力ある者を排除するという目的を
果たそうとしていた。
錆付き、ボロボロになりメンテナンスするものもいない機体達の中から動ける機体を選別、起動。
それらは動くのも厳しいように見えた。
そして一本の通路を目指す。それはアリーナへと続く秘密通路だった・・・。
最終更新:2007年12月09日 20:30