第8話「激闘の始まりなの」

「嘘……」
「何なの……あれは……!!」

モニターを見て、エイミィとリンディは言葉を失った。
サーチャーには一切反応は無かった
空を割り、あの大型生物―――ベロクロンが現れる前兆は、一切見られなかった。
タイミング的に、ヴォルケンリッター達を助けに現れたかのようには見える。
だが……シャマルを助けた仮面の男の手のものにしては、様子がおかしすぎる。
その表情こそ伺う事は出来ないが、仮面の男は明らかに戸惑いを見せている。
こうなれば、考えられる可能性は一つ……第三者の乱入しかない。

「……皆、注意して!!
相手が何者かは分からないけど、嫌な予感がするわ!!」
『いえ……何者かは、分かってます!!』
「ミライ君……?」
『……あれは超獣です。
奴の……ヤプールの生み出した、超獣です!!』
「超獣……!?」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「な……なんだよ、これ……!!」
「怪獣……だって……!?」

招かれざる来訪者の姿を前にして、誰もが動きを止めた。
ミサイル超獣ベロクロン……この場には、全く相応しくない存在。
ベロクロンは唸りを挙げ、荒々しく息を吐いた。
ミライはすぐになのは達へと念話を送り、敵の正体について教えた。
ベロクロンは、ヤプールが最初に作り出した超獣。
ウルトラマンエースを苦しめ、そして自身も苦戦を強いられた強敵。
そんな相手が現れた原因は、一つしかない……ヤプールはこの世界で復活を果した。
何故、こんな急速に復活したかは分からないが……考えるのは、問題を全て片付けてから。
皆が事態に対応すべく、動こうとする……が。
その瞬間、まさかの事態が起こった。

「……今だ、引くぞ!!」
「なっ!?」

全員の動きが止まった一瞬の隙を突き、ヴォルケンリッターが動いたのだ。
今ならば、結界を破壊できる……ヴィータはグラーフアイゼンのカートリッジをロードする。
そして、グラーフアイゼンを巨大な破壊槌―――ギガントフォームへと変形させた。
この状態ならば、たとえ堅固なこの魔力結界でも……十分に破壊できる。
ヴィータは全力で、グラーフアイゼンを結界に叩きつけた。

「しまった……!!」
「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

結界に、大きな風穴が開く。
そしてその瞬間、ヴォルケンリッターが急速離脱を開始した。
突如として現れた怪獣の正体は、気にならないといえば嘘になる。
だが、今はここから抜け出ることが最優先事項である。
それに……なのは達は強い。
きっとこの程度の敵は退けられるだろうから、大丈夫だ。
そう思ったが故の行動であったが……一人、ダイナだけは脱出を渋っていた。

「ダイナ、おい!!」
「あいつ、一体何を考えている……?」
「……メビウス。」
「ダイナ……?」
「……ごめん!!」
「!!」

ダイナは、たった一言メビウスに告げ、そしてようやく撤退を開始した。
彼の一言の謝罪が、その心情の全てを物語っていた。
ダイナはウルトラマンとして、凶悪な怪獣や侵略者達を相手に戦い続けてきた。
それこそが、ウルトラマンである自分に出来る事であると信じての行動だった。
そんな彼にとって、ベロクロンを置いて撤退するというのは、苦渋の選択だったのだ。
ダイナは悩んだ末に、自分の仲間達を取った。
メビウス達を信じるしかない……そう割り切って、ダイナは空へと消えていった。

「ダイナ……分かった。
皆さん、破れた部分の結界を急いで塞いでください!!
ベロクロンを、絶対に外に出したら駄目です!!」

ダイナが何故戦っているのかは分からない。
だが、彼には邪ではない目的があることだけは、間違いない。
この決断も、苦渋だったに違いないだろう。
ならば同じウルトラマンとして、必ずベロクロンを倒すまでである。
ベロクロンを外へ出さないようにと、職員達が結界を塞いだ。
それと同時に……ベロクロンが動いた。
全身の突起が、勢い強く発射される。
ミサイル超獣の由来は、この突起―――全身に装備されたミサイルにある。
標的は、この場にいるベロクロン以外の全て。

「うわぁっ!?」
「ちょっと、何て数撃ってきてるのさ!!」

放たれたミサイルの数は、百は超えているであろう数。
その上、ベロクロンの突起は次々に再生していっている。
早い話が、敵の弾数は無限―――撃ち放題だ。
なのは達は、スピードを上げてミサイルを回避しにかかる。
だが……厄介なことに、ミサイルはホーミング式だったのだ。

「振り切れない……!?」

ぴったりと、ミサイルは逃げるなのは達を追尾してくる。
強引に振り切ろうと、なのは達は曲芸飛行と見紛う様な軌道を描きながら空を飛んだ。
だが、ミサイルも全く同じ軌道を取ってくる……振り切れない。
こうなれば、とる手段は一つ……迎撃しかない。
なのはとフェイトは、お互いに頷き合い、カートリッジをロードさせた。
新たな力を得た今のデバイスならば、かなりの数を落とせる。

「アクセルシューター!!」
『Accel Shooter』
「フォトンランサー!!」
『Photon Lancer』
「シュートッ!!」
「ファイアッ!!」

二人は、後方へと振り向き様に魔力弾を一斉発射。
襲い掛かるミサイルの群れを、一気に爆破しにかかった。
結果は重畳……ミサイルは次々に爆発の連鎖を起こし、打ち落とされていく。
流石に全てとはいかないが、かなりの数をこれで撃墜できた。
残るミサイルは、距離を離した後に再度迎撃しよう。
そう思い、二人がスピードを上げようとする……が。

「ギャオオオォォォォォッ!!」
「えっ!?」

ベロクロン本体が、ここで仕掛けてきてしまった。
口を開き、勢いよく火炎を放射してきたのだ。
とっさに二人は障壁を展開、火炎を防ぎにかかる。
だが……無情にもミサイルの嵐は、彼女達の無防備な背後へと迫ってきていた。
二人がそれに気付いたのは、既にミサイルとの距離が後僅かとなっていた時だった。

「なのは、フェイト!!」
「くそ、この距離じゃ……!!」

ユーノ達はすぐさま援護に回ろうとするも、それは不可能だった。
ミサイルを引き離そうとして飛び交っていた内に、二人との距離を少し離しすぎていたからだ。
間に合わない……このままでは、確実にミサイルは直撃する。
二人の身長以上の大きさがあるミサイルを、それも何発も受ければ、バリアジャケットの防御も役を成さないだろう。
致命傷は確実……なのはとフェイトは、迫り来るミサイルを前に、思わず目を閉じてしまった。
だが……その瞬間だった。

「セヤァァァッ!!」
「え……!?」
「ミライさん……!!」

突如として、二人の目の前に眩い閃光が走った。
そして、その光が晴れた時……そこには、メビウスディフェンサークルを展開したメビウスがいた。
ギリギリ、二人の援護に入る事が出来た……迫り来るミサイルを全て、メビウスはバリアで受け止めた。
間に合わないと誰もが思った中、何故メビウスはそれが出来たのか。
その理由は一つ……彼が思わぬ手段で、一気に間合いを詰めてきたから。
その手段とは、、ウルトラマンの本来のサイズ―――眼前のベロクロンと同じ程の、巨大な体躯に戻る事。
巨大化する事により、一気に二人との距離を縮めたのだ。
怪獣相手ならば、態々人間サイズに合わせる必要は無い……全力で打ちのめすのみ。
メビウスはミサイルを全て受け止めきると、そのまま上空へと飛び上がる。
そして、体を回転させて一気に急降下。
ウルトラマンジャックが編み出した、必殺の蹴り技―――流星キック。
その強烈な一撃が、ベロクロンの眉間にもろに叩き込まれた。
ベロクロンはたまらず、怯んで攻撃を中断してしまう。

「ギャオオオォォォォッ!!」
「いける、これなら……!!」

先ほどまでは、敵の余りの大きさに圧倒され気味だった。
だが、ミライが巨大化した今……そんな不安は、全て掻き消えた。
一気に反撃に出るべく、皆が行動に移る。
まず、まだミサイルにつけられているクロノ達が動いた。
敵の動きが一瞬でも止まってくれたのなら、十分に効果を発揮できる攻撃手段がある。
かなりの荒業ではあるが……これが、最もベストな手段。

「よしっ……さぁこい!!」
「ほらほら、こっちだよ!!」

三人は一気にスピードを上げ、ベロクロンの背後左右から迫った。
ミサイルも当然ながら、それをピッタリとつけてくる。
メビウス達はそれを見て、すぐにその狙いを察した。
そして、三人とベロクロンとの距離がギリギリまで詰まった時……クロノの合図で、全員が動いた。

「今だ!!」

三人が上空へと急上昇する。
ミサイルは、勿論それを追尾しようとする……が。
三人と全く同じ軌道を取っていたのが、ここで仇になった。
彼等とミサイルとでは、大きさが違う。
スレスレでベロクロンを回避する事は出来ず……ミサイルは全て、ベロクロンにぶち当たった。

「グギャアアァァァァァァッ!!??」
「やった!!」
「攻撃の手を緩めるな、一気に攻めるぞ!!」

全身から黒煙を噴出しながら、ベロクロンが悲鳴を上げる。
敵が弱った今、ここで一気に攻めに出る。
メビウスは勢いよく前へと踏み込み、ベロクロンに殴りかかった。
だが、ベロクロンとてここで倒れるほど弱くは無い。
メビウスの拳を受け止めると、ベロクロンは大きく口を開いた。
火炎放射の他にもう一つ、ベロクロンには口から放つ武器がある。
それは、全身の突起よりも更に巨大なミサイルだった。

「セヤッ!?」

メビウスはとっさに腕を振り払い、拳を自由にする。
だが、この距離ではかわせない。
確実に命中してしまう……そう思われた、その矢先の事だった。
今度は先程とは逆……なのはとフェイトが、メビウスを助けに入った。
二人はカートリッジをロードし、より堅固な障壁を同時に展開した。

『Protection Powered』
『Defensor Plus』
「バリア……!!」
「バーストォッ!!」

攻撃を受け止めると同時に、二人は魔力を込めて障壁を爆破した。
その狙いは、障壁の爆破による攻撃の相殺。
そして、その余波を相手にぶつける事。
ベロクロンは爆風と衝撃に煽られ、倒れこみそうになる。
だが、流石になのは達の何十倍という巨体は、そう簡単には倒れるものではなかった。
しかし……そこへと、思わぬ追撃が迫った。

「だったら……これでどうだぁっ!!」

ゴシャァッ!!

「グギャアァッ!?」

ベロクロンの顔面に、巨大な鉄槌が叩きつけられた。
その正体は、先程ダイナがメビウスに投げつけた残骸―――高層ビルである。
この攻撃を放ったのは、ユーノだった。
彼は、チェーンバインドでビルの残骸を縛り……そのまま持ち上げて、ベロクロンに叩きつけたのだ。
とてつもない荒業ではあるが、効果は絶大だった。
ベロクロンは流石に耐え切れなくなり、地面に倒れ伏せる。

「ユーノ君、ナイス!!」
「しかし、かなり荒っぽいやり方だな……」
「あのヴィータって子のデバイスを見て、思いついたんだ。
ハンマー投げの要領で、こういう風に出来ないかなって。」

初めて試してみた攻撃ではあったが、中々うまくいってくれた。
倒れこんだベロクロンは、なのは達を力強く睨みつける。
そして、肩のミサイルを一斉放射しようとした……が。
それを直感的に察したクロノとアルフが、先に動いていた。
バインドの同時発動。
光の鎖がベロクロンの全身を拘束し、身動きをとれなくした。
ミサイルを使えなくなるという予想外の事態に対し、ベロクロンが唸りをあげた。
今こそが、ベロクロンを撃破する最大のチャンス。

「皆、今だ!!」

メビウスが、一斉攻撃の合図をかけた。
レイジングハートとバルディッシュに、カートリッジがロードされる。
S2Uの先端から、魔力が溢れ出す。
メビウスが右手をメビウスブレスに添え、大きく腕を開きその力を解放する。
それとほぼ同時に、ベロクロンは拘束を力ずくでぶち破った。
だが……時は既に遅し。
攻撃の準備は、完了している。

「ハァァァァァァァッ!!」
「ディバイィィン……!!」
「プラズマ……!!」
「ブレイズ……!!」
「セヤアアァァァァァァッ!!」
「バスタァァァァァァッ!!」
「ブレイカァァァッ!!」
「カノンッ!!」

メビュームシュート・ディバインバスター・プラズマブレイカー・ブレイズカノン。
莫大な量の魔力と光線が、一斉にベロクロンへと放たれた。
一発一発だけでも、必殺技と呼ぶに相応しい破壊力を持ち合わせている攻撃。
そんな代物を、四つも同時にときた。
当然……防御魔法もバリアも持っていないベロクロンに、耐え切られるわけが無い。

「グオオオォォォォォンッ!!??」

ドグオォォォォォンッ!!

ベロクロンは、見事に爆発四散した。
破片すら残さずの、完全消滅。
その様子を見て、なのは達はようやくため息をつけた。
ヴォルケンリッター達との戦いから、ベロクロンへの連戦。
流石に体力的に厳しいものがあったが、とにかく勝つことは出来た。
ここでメビウスも、人間サイズへと体の大きさを変える。

『皆、お疲れ様。』
「けど……素直に、喜べる結果じゃないな。」
「……ヤプール……」

シャマルを助けに現れた、仮面の男。
空を割って現れた、ヤプールの超獣。
今回の戦いは、事件を更なる混沌へと誘ってくれた。
単に、闇の書の守護騎士達を捕まえるだけでは片付けられない……そんな状況になってしまったようである。

『兎に角、皆一度戻ってきて。
話はそれからにしましょう。』



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はやてちゃん……本当に、ごめんなさい……!!」
『ええって、気にせんで。
すずかちゃんとふたりで鍋はちょう寂しかったし、すずかちゃんが誘ってくれて……』

その頃。
八神家では、一同が暗い面持ちをしていた。
その理由は、はやてに寂しい思いをさせてしまったこと。
今日は、すずかが家へと遊びに来る筈の日だったのだ。
だが、皆の不在の為にそれが叶わなくなってしまった。
もっともはやては、すずかの家にお邪魔させてもらったので、あまり寂しい思いはしていないようではあるが……

「はい、じゃあヴィータちゃんに代わりますね。」
「……はやて、もしもし……?」
「……寂しい思いを、させてしまったな。」
「うん……」

守護騎士として、主であるはやてに何とお詫びしたらいいだろうか。
主に対する責任感から、そんな思いをヴォルケンリッター達は抱えていた。
ただ、一人だけ―――アスカだけは、それにプラスアルファの要素を抱えてしまっていた。
あの状況では、仕方なかったとはいえ……ウルトラマンである自分が、怪獣を野放しにしてしまった。
その事実に対する申し訳なさが、彼にはあったのだ。
シャマルによると、あの後すぐに怪獣はメビウス達が撃破したようではあるから、それだけが救いだったが……

「……アスカ、すまないな。」
「いや……謝らなくていいよ。
気にしてないって言えば、嘘になるけど……俺は、はやてちゃんや皆の為に戦うって決めたんだしな。」

後ろ向きに考えていても仕方ない。
あの場でああしなければ、今度は大切な者達が危機に晒されてしまっていた。
それに……自分はあの時、メビウスならばきっと怪獣を倒してくれると、そう信じて行動したのだ。
アスカは頭を振り、ネガティブな気持ちを振り払う。
過ぎた事を悔やんでいても、何も始まらない……大切なのは、これからだ。

「しかし、あの巨大生物……一体何なんだ?」
「メビウスは、何か知っていたみたいだけど……俺はあんな怪獣、見たこと無いぞ。」

アスカは、スーパーGUTSの隊員として、そしてウルトラマンとして多くの怪獣を見てきた。
だが、ベロクロンは見た事の無いタイプの相手だった。
空を割って現れるなんて、これまでに前例が無い。
異次元からの侵略者……そう考えるのが、自然だろうか。

「あの生物……確か、シャマルを助けた仮面の男が現れてすぐに出現したな。
まさか、あの男が呼び寄せたというのか?」
「ううん、それは無いと思うわ。
あの仮面の男は、私に闇の書の呪文を使うように言ってきた。
あんな生物を呼び出せるのなら、そんな真似しなくたって皆を助けられたんだし……」
「確かにそうだな……両者に関係はないと見るべきか。
あの仮面の男に関しては、どう思う?」
「何者かは分からないわ……少なくとも、当面の敵ではないと思うけど……」
「……今回の一件で、恐らく管理局も本腰を入れてくるだろう。
我々も、あまり時間が無い……」
「ああ……一刻も早く、主はやてを闇の書の真の所有者に……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「カートリッジシステムは扱いが難しいの。
本来なら、その子達みたいに繊細なインテリジェントデバイスに組み込むような物じゃないんだけどね……
本体破損の危険も大きいし、危ないって言ったんだけど、その子たちがどうしてもって……
よっぽど悔しかったんだね、自分がご主人様を守ってあげられなかったこととか……信頼に応えきれなかった事が。」
「ありがとう……レイジングハート。」
「バルディッシュ……」

数分後。
ハラオウン家に戻ったなのはとフェイトは、デバイスについての簡単な説明をまずは受けていた。
今回の戦いは、二機のパワーアップがあったからこそ乗り越える事が出来た。
これでやっと、互角にヴォルケンリッターと戦うことが出来る。
二人は自分達のデバイスへと、心から礼をした。

「モードはそれぞれ3つづつ。
レイジングハートは中距離射撃のアクセルと、砲撃のバスター、フルドライブのエクセリオンモード。
バルディッシュは汎用のアサルト、鎌のハーケン、フルドライブはザンバーフォーム。
破損の危険があるから、フルドライブモードはなるべく使わないようにね。
特に、なのはちゃんの方は。
かなりの負担になるから、フレーム強化をするまでは絶対にエクセリオンモードは、使わないでね?」
「はい。」
「……今、片付けるべき問題は二つね。
一つは勿論闇の書だけど、もう一つ……」
「ヤプールが、この世界にいた……それも、こんなに早く復活するなんて。」

最も恐れていた、最悪の事態が実現してしまった。
あの時……確かにヤプールは、メビウスと共に次元の割れ目へと落ち込んだ。
それも、瀕死の重傷を負った身で……ヤプールの消滅は確実だった。
しかし……ヤプールは、この世界に降り立ってしまった。
そして驚異的な速さで復活を果たし、自分達の目前へとベロクロンを出現させてきた。

「……僕の所為です。
ヤプールは、僕と一緒にこの世界に……!!」
「そんな、ミライさんの責任じゃないわ。
ミライさんが来たのは、全くの偶然だし……!!」
「それにミライ君は、そのヤプールを倒そうとしてたんでしょ?
だったら、そんな風に気にしなくても……それに、復活したならまた倒せばいいじゃない。」
「確かにその通りだな。
ヤプールが、ミライさんが言うとおりの悪魔だというなら……何をしでかすか分かったもんじゃない。」
「ヤプールの目的……そういえば、何であんなタイミングで……超獣、だっけ?
あんなのが出現したのさ?」
「それなんだよね……」

何故、あのタイミングでヤプールが仕掛けてきたのか。
単純な侵略が目的だというのなら、普通に街中でベロクロンを出現させればよかった筈。
それを態々、結界の内部で出現させた理由がいまいち分からないのだ。
可能性としてありえるのは、二つ。
一つ目は、ミライとダイナ―――ウルトラマンの撃破が狙いだった事。
ヤプールからすれば、ウルトラマンは憎むべき敵……この可能性は、十分考えられる。
実際問題、ヤプールはこれまでに何度も、ウルトラマンの撃破に的を絞って仕掛けてきた事があった。
エースキラーやメビウスキラーが、その最もたる例である。
だが……二つ目の可能性の事を考えると、どうもこの可能性がありえるかどうかが分からなくなってしまう。
それだけ、もう一つの要素―――ヤプールの狙いが闇の書であるという可能性が、強すぎるからだ。
闇の書の圧倒的過ぎる力を、ヤプールが狙っているというのは、十分にありえる。

「でも、だったらヤプールがどうして闇の書の事を知っているんですか?」
「ヤプールは、強い邪悪な力の存在を感じ取るのが得意だからね。
闇の書の詳しい事は分からなくても、漠然と、強い力だって事は感じ取れたんだと思うよ。」
「もしかして……クロノ君の前に現れた仮面の人が……?」
「いや、それは無いと思う。
もしもあの仮面の男がヤプールなら、闇の書の呪文を使えなんて言う必要がない。
……謎が増える形になってしまうけど、仮面の男はヤプールとはまた別の相手だと思うんだ。」
「……闇の書の主が、ヤプールって可能性は?」
「それは私も考えていたわ。
でも、それだと少し妙なのよね……」
「妙?」
「まずは、ウルトラマンダイナだ。
ミライさんと同じウルトラマンなら、そんな悪魔に加担するなんて考えられないよ。」
「僕もそう思います。
さっきだって、ダイナは僕にすまないって言ったし……」
「それに、何よりも守護騎士達の事だ。
彼等はまるで、自分の意思で闇の書の完成を目指しているようにも感じるんだ……」
「え、それって何かおかしいの?
闇の書ってのも、要はジュエルシードみたく、力が欲しい人が集めるもんなんでしょ?
だったら、その力が欲しい人のために、あの子達が頑張るってのもおかしくないと思うんだけど。」
「……それが、そうでもないんだよね。」

闇の書の主がヤプールなのかもしれない。
この可能性は、ダイナが加担している時点で既に希薄である。
そして、それに駄目押しをかけるのが守護騎士達の存在。
彼等の性質を考えると、ヤプールが主の場合……どうにもおかしな点が出てきてしまうのである。

「第一に闇の書の力はジュエルシードみたいに自由な制御の効く物じゃないんだ。」
「完成前も完成後も、純粋な破壊にしか使えない。
少なくともそれ以外に使われたという記録は一度もないわ。
……ここまでは、ヤプールの目的と一致してなくも無いんだけど……」
「問題なのは、闇の書の守護者の性質だ。
彼らは人間でも使い魔でもない。」
「え……?」
「人間でも、使い魔でもない……?」
「彼等は、闇の書に合わせて魔法技術で作られた疑似人格。
主の命令を受けて行動する……ただそれだけのためのプログラムに過ぎないはずなんだ……」

人間でも使い魔でも無い、魔法技術で生み出された存在。
その言葉を聞き、フェイトは己自身の事を考えてしまった。
彼等守護騎士達は、まさか……

「私と同じような……?」
「違うわ!!」
「!!」

フェイトの呟きを、リンディは真っ向から否定した。
彼女は確かに、人とは違う生まれ方をした存在。
プロジェクトFによって生み出された、クローン人間である。
だが……それでも、生まれ方が少し違うだけで、立派なフェイトという人間なのだ。

「……フェイトさん、貴方は普通の人間よ。
間違っても、そんなこと言わないでね……」
「はい……ごめんなさい。」
「あ、あの……じゃあ、もしかして僕の様な存在ってことですか?
人間の姿を借りた、ウルトラマンみたいな……」
「いや、ウルトラマンとはまた別の存在だよ。
闇の書の守護者は、闇の書の防衛プログラムが実体化して、人の形を取ったものなんだ。」

エイミィがモニターに、ヴォルケンリッター達に関する詳細を映し出した。
今回の魔道師襲撃事件に加え、過去の闇の書事件に関するデータ。
今現在で分かっている情報全てが、モニターに映し出されている。
それの必要な部位を見ながら、クロノが説明を続けていく。

「守護騎士達には、意思疎通のための会話能力があるのは、これまでの事件でも確認できている。
だが……彼等に感情が表れたっていう例は、一度も無いんだ。」
「魔力の蒐集と主の護衛、それだけが彼等の役目の筈なんだけど……」
「でも、ヴィータちゃんは怒ったり悲しんだりしてたし……」
「シグナムからも、確かに人格を感じました。
仲間や主の為にって……」
「主の為に……あ!!」

ミライはここで、クロノ達が何を言いたいかを悟った。
もしも主がヤプールの場合、彼等の行動はありえないのだ。
人格や感情が形成される筈が無い……ヤプールにとって、そんなものは不要な代物だ。
ただ、自分の思い通りの手駒であればそれでいい筈。
仕えている途中で、何らかの理由で形成されたとしても……ヤプールなら、それを平気で潰すだろう。
それに何より、あの悪魔の為に自分達の意思で蒐集を目指すなんて……そんな馬鹿な話、ある訳が無い。

「……つまりヤプールは、闇の書の横取りを狙ってるって事かな?」
「まあ、現状ではその可能性が濃厚なんだけど……まだ断言は出来ないね。」
「詳しい事は、調査を進めてみなければ分からないか。
それにしても……闇の書自体についての情報が、やっぱり少なすぎるな。」

今は少しでも、闇の書に関する情報を集めるべきである。
その為に、クロノはここでユーノを頼る事にした。
スクライア一族である彼には、うってつけの仕事が一つあるからだ。

「ユーノ、明日から少し頼みたい事があるんだ。」
「いいけど……僕に?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「じゃあ……アレの出現には、自分は関係ないと言うんだな?」
「ああ……ヤプール、だったか。
ウルトラマンに関しても、初耳だが……」

深夜。
日も完全に沈み、草木も眠る丑三つ時。
全く人気の無い路地裏で、仮面の男と黒尽くめの男が対峙していた。
仮面の男は、黒尽くめの男に対してかなりの不信感を抱いていた。
それもその筈……あのベロクロンの出現は、黒尽くめの男の仕業である可能性が高いからだ。

「なら、お前の言っていた切り札とか言う生物はどうなる?」
「ガディバは、私が生み出した魔道生物の一種だ。
アレは、敵に乗り移り操る事が目的の寄生獣……確かにその過程で、ガディバにある程度の力は蓄えられる。
だが、ガディバ単体には戦闘能力は無い……超獣なんぞとは、全く別の代物だ。」

「……お前が現れた時期と、ヒビノミライが現れた時期は、多少のズレがあるとはいえかなり近い。
お前がもしもヤプールだというのなら、辻褄が合うぞ?」
「ならば、私がお前に何故あのデバイスを渡せた?」
「……」

仮面の男は、黒尽くめの男がヤプールなのではないかと疑っていた。
しかし、黒尽くめの男はそれを断固として否定している。
実際、否定出来るだけの証拠が黒尽くめの男にはあった。
それは、彼がデバイスを手渡した事。
黒尽くめの男は、デバイスに関する知識を持ち、そして作り上げるだけの技術があるということだ。
この世界に来て間もない筈のヤプールに、それが出来るとは到底思えない。
超獣という未知の兵器を生み出せるだけの技術力があるとはいえ、デバイスとそれとは全くの別物だ。
やはり、単なる偶然の一致に過ぎないか。
仮面の男は、しばし考えた後……謝罪の言葉を口にした。

「すまないな……少し、考えすぎていたようだ。」
「そうか……まあ、気にしないでくれ。
確かに、私をヤプールだと判断してもおかしくはない状況だったしな。」
「……じゃあ、私は戻るとしよう。
また何かあったら、連絡する。」
「ああ……」

仮面の男が、その場から姿を消した。
その後……黒尽くめの男は、微笑を浮かべる。
それは、明らかな嘲笑。
ものの見事に口車に乗ってくれた、仮面の男に対する嘲りの笑みだった。

「くくく……馬鹿な奴等だ。」

仮面の男の推測には、実は穴があった。
ヤプールがデバイスを作り上げられる理由が、一つだけ存在しているからだ。
それは……ヤプールが、前々からその存在を知っているという可能性。
魔法の力を、黒尽くめの男―――ヤプールが既に知っているという事だった。

「闇の書の力……ようやく我が手に収められる時が来たのだ。
光の一族を抹殺し、地球をこの手にする時が……何者にも、邪魔はさせん。
そう……何者にもな……!!」

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最終更新:2007年11月02日 19:15