第9話「仮面の男」


「タリャアアァァァァッ!!」
「グゥ……ッ!!」

M78星雲、光の国。
その訓練場において、二人の赤い巨人が対峙していた。
真紅の若獅子ウルトラマンレオと、その師ウルトラセブン。
レオはセブン目掛けて勢いよく拳を繰り出すが、セブンはそれをタイミングよくガード。
そのまま、セブンは拳を打ち上げてレオの腕を大きく払った。

「ジュアァッ!!」
「イリャァァッ!!」

そのまま、がら空きになったレオの胴目掛けてセブンが蹴りを繰り出す。
だが、レオは素早く膝と肘を動かし、その一撃を受け止めた。
攻防一体の技術、蹴り足挟み殺し。
セブンの足に激痛が走る……しかしセブンは、ここで引かなかった。
強引に足を捻って技から脱出し、そのままレオの喉求目掛けラリアットをかましにいったのだ。
しかし、レオは大きく体を反らしてこの一撃を回避。
そのままオーバーヘッドキックの要領で、セブンの肩に一撃を入れた。

「ジュアッ!?」

とっさにセブンは、後ろに振り返りレオに仕掛けようとする。
だが、振り向いた時には……レオの拳が、セブンの目の前にあった。
勝負はついた……レオは拳を下ろす。
セブンは首を横に振り、溜息をついた。

「参った……やっぱり格闘戦になると、お前の方がもう俺より上だな。」
「ありがとうございます、隊長。
でも、途中で俺も危ないところがあったし……」
「おいおい……隊長はもうやめろと言っただろう?」
「あ……はい、セブン兄さん。」

一切の光線技や超能力を使わない、格闘戦のみによる組み手。
勝負は、レオの勝利に終わった。
こと格闘戦において、今やレオは、光の国でも最強レベルの戦士の一人になる。
しかしそれも、全てはセブンがいたからこそである。
レオはかつて地球防衛の任務に就いた際、セブンから戦う術を教わったのだ。
当時のレオは、光線技を殆ど使えなかった為に、格闘技術をとことん磨かされていた。
時には、「死ぬのではないか」と言いたくなる程の、とてつもなく辛い特訓もあった。
だがそれも……地球防衛の為に、やむを得ずのことであった。
セブンはその時、ある怪獣との戦いが原因で、戦う力を失ってしまっていたのだ。
その為、まだ未熟であったレオを一人前にする事で地球を守ろうと、あえて心を鬼にして接していたのである。
そしてその末、今やウルトラ兄弟の一人となるほどにまで、レオは成長を遂げたのだ。
ちなみにレオがセブンの事を隊長と呼ぶのは、その時の名残である。

「でも、光線技やアイスラッガーを使われたら、どうなっていたか……」
「はは……じゃあ、今日はこれまでだな。
後少ししたら、交代の時間だ……それまで体を休めておけ」
「はい。」

光の国では今、二人一組によるメビウスの捜索が行われていた。
もうしばらくしたら、セブンとレオは前の組との交代時間である。
それまで体を休めるべく、二人は一息つこうとした。
だが……そんな時だった。
訓練場の上空へと、文字―――ウルトラサインが出現したのだ。

「ウルトラサイン……ゾフィー兄さんからのメッセージだ!!」
「『メビウスかららしきウルトラサインを、見つけることが出来た』……!!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ちょ、やめろ!!
アリア、何とかしてくれ~!!」

時空管理局本局。
クロノとエイミィは、ユーノを連れてある人物の元を訪れていた。
クロノに魔術の基礎を叩き込んだ師匠、リーゼ=ロッテとリーゼ=アリアの二人。
この二人は、グレアムの使い魔でもある。
久々の再会という事で、ロッテはクロノにじゃれ付いている訳で、エイミィ達はそれを面白そうに眺めている。
クロノからすれば、はっきり言って迷惑この上ないのだが。

「……なんで、こんなのが僕の師匠なんだ。」
「あはは……それで、今日の用事はなんなの?
美味しそうなネズミっ子まで連れてきて……」
「っ!?」

身の危険を感じ、ユーノが顔を強張らせた。
リーゼ姉妹は、ネコを素体として作られた使い魔。
フェレットモードのユーノからすれば、天敵とも言える存在なのだ。
人間状態である今は、何の問題も無いが……万が一動物形態へと姿を変えたら、どうなる事やら。

「闇の書の事はお父様からもう聞いてるけど、やっぱりそれ関連?」
「ああ……二人は、駐屯地方面には出てこれないか?」
「私達にも、仕事があるからね。
そっちに出ずっぱりって訳にはいかないよ。」
「分かった……いや、無理ならそれはそれでいいんだ。
今回の用件は、彼だからな。」
「?」
「ユーノの、無限書庫での捜索を手伝ってやってくれないか?」
「無限書庫……?」
「今から、早速頼みたいんだ。
ユーノを案内してやってくれ。」
「うん、そういう事ならいいけど……」
「ユーノ君、二人についていって。」

ユーノはロッテとアリアの二人に連れられ、無限書庫へと向かう。
無限書庫とは、様々な次元世界の、あらゆる書籍が治められた大型データベース。
幾つもの世界の歴史が詰まった、言うなれば世界の記録が収められた場所。
まさしく、名が示すとおり無限の書庫である。
しかし……文献の殆どは未整理のままであり、局員がここで調べ物をする際には、数十人単位で動かなければならない。
必要な情報を一つ見つけるだけでも、とてつもない作業になるのだ。
ユーノはそこへと足を踏み入れた時、正直度肝を抜かれたものの、すぐに冷静さを取り戻す。
クロノが自分に頼むといった理由が、これでやっと分かったからだ。

「成る程、確かに僕向けだね……」

ユーノは術を発動させ、とりあえず手近な本を十冊ほど取り出す。
複数の文章を一度に同時に読む、スクライア一族特有の魔術の一つ。
これを駆使すれば、大幅に調査時間を短縮する事が可能である。
その術を目にし、ロッテとアリアは感嘆の溜息を漏らした。

「へぇ~、器用だね……それで中身が分かるんだ。」
「ええ、まあ……あの、一つ聞いてもいいですか?」
「ん、何かな?」
「……リーゼさん達は、前回の闇の書事件の事、見てるんですよね?」
「あ……うん。
ほんの、11年前の事だからね。」

ユーノは、前回の闇の書事件について詳しく知ってるであろう、二人に尋ねてみた。
闇の書の情報を集める上で、この話はどうしても聞いておきたかった。
ただ……クロノ達には、それを聞けない理由があった。
先日、局員の一人から聞いてしまったのだが……

「……本当なんですか?
クロノのお父さんが、亡くなったって……」
「……本当だよ。
私達は、父様と一緒だったから……近くで見てたんだ。
封印した筈の闇の書を護送していた、クライド君が……あ、クロノのお父さんね。
……クライド君が、護送艦と一緒に沈んでくとこ……」
「……すみません。」
「ああ、気にしないで。
そういうつもりで聞いたんじゃないってのは、分かってるから。」

やはり、悪い事を聞いてしまった。
これ以上、辛い過去を思い出させるわけにはいかないと思い、ユーノは話を打ち切った。
すると、その時だった。
ユーノはある本のあるページを見て、ふと動きを止めた。

「え……?」
「ユーノ君、どうしたの?」
「まさか……これって……!!」

術を中断し、ユーノは直接本を手に取った。
そこに記載されていたのは、ある世界の太古の記録。
光の勢力と闇の勢力との戦いの記録だった。
こういった戦い自体は、多くの次元世界の歴史中にもある為、なんて事は無かった。
だが……問題は、その本の挿絵にあった。
挿絵に描かれている戦士の姿……それは、紛れも無くあの戦士と同じものであった。

「どうして、ウルトラマンダイナが……!?」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「たっだいま~」
「おかえりなさ~い。」

それから、しばらくした後。
まだ本局で用事のあるクロノを残して、エイミィは一人ハラオウン家へと帰宅した。
ちなみにリンディも、別件で先程本局へと出向いた為、不在である。
エイミィは帰り際に近所のスーパーで買い物を済ませていたようであり、その手には買い物袋があった。
フェイトとミライ、それに遊びに来ていたなのはの三人で、早速冷蔵庫に食品を入れ始める。

「艦長、もう本局に出かけちゃった?」
「うん、アースラの追加武装が決定したから、試験運用だってさ。」
「武装っていうと……アルカンシェルか。
あんな物騒なの、最後まで使わなければいいけど……」
「クロノ君もいないし、それまでエイミィさんが指揮代行ですよね。」
「責任重大よね~……」
「ま、緊急事態なんて早々起こったりは……」

その時だった。
ハラオウン家全体に、緊急事態を告げる警報音が鳴り響いた。
エイミィの動きが止まり、その手のカボチャがゴロリと床に落ちる。
言った側からこんな事になるなんて、思いもよらなかった。
すぐにエイミィはモニターを開き、事態の確認に移る。
そこに映し出されたのは、ヴォルケンリッターの二人……シグナムとザフィーラ。

「文化レベルはゼロ、人間は住んでない砂漠の世界だね……
結界を張れる局員の集合まで、最低45分はかかるか……まずいな……」
「……フェイト。」
「うん……エイミィ、私とアルフで行く。」
「そうだね……それがベストだね。
なのはちゃんとミライ君はここで待機、何かあったらすぐ出れるようにお願い。」
「はい!!」

フェイトは早速自室へと戻り、予備のカートリッジを手に取る。
アルフがザフィーラの相手をする以上、シグナムとの完全な一騎打ちになる。
先日の戦いでは、超獣の乱入という事態の為に勝負はつけられなかった。
今度こそ、シグナムに勝利する……フェイトは強く、バルディッシュを握り締めた。

「いこう……バルディッシュ。」
『Yes sir』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「くっ……!!」

その頃。
二手に分かれ単独行動に移ったシグナムは、現地の巨大生物を相手に苦戦を強いられていた。
先日現れたベロクロンよりも、その全長はさらに巨大。
シグナムは一気に片を付けようと、カートリッジをロードしようとする。
だが、その直後……背後から、十数本もの触手が一斉に出現した。
まさかの奇襲に反応しきれず、シグナムはその身を絡み取られてしまう。

「しまった!!」

何とかして逃れられないかと、シグナムは全身に力を込める。
だが、力が強く振りほどく事が出来ない。
そんな彼女を飲み込もうと、巨大生物は大きく口を開けて迫ってきた。
ザフィーラに助けを求めるにも、今は距離が離れすぎている。
こうなれば、体内からの爆破しかないか……そう思い、覚悟を決めた、その矢先だった。

『Thunder Blade』
「!!」

上空から、怪物へと光り輝く無数の剣が降り注いだ。
とっさにシグナムが空を仰ぐと、そこにはフェイトの姿があった。
フェイトはそのまま、剣に込められた魔力を一気に開放。
剣は次々に爆発していき、怪物を一気に吹き飛ばした。
触手による拘束も解け、シグナムは自由になる。

『ちょっとフェイトちゃん、助けてどうするの!!』
「あ……」
「……礼は言わんぞ、テスタロッサ。
蒐集対象を一つ、潰されたんだからな……」
「すみません、悪い人の邪魔をするのが私達のお仕事ですから……」
「ふっ……そうか。
そういえば悪人だったな、私達は……預けておいた決着は、出来るならもうしばらく先にしておきたかった。
だが、速度はお前の方が上だ……逃げられないのなら、戦うしかないな。」
「はい……私も、そのつもりで来ました。」

空から降り、二人が地に足を着ける。
シグナムはポケットからカートリッジを取り出し、怪物との戦いで失った分を補充し、構えを取った。
それに合わせて、フェイトもバルディッシュを構える。
しばしの間、二人の間に静寂が流れる……そして。

「ハァッ!!」
「うおおぉぉっ!!」

勢いよくフェイトが飛び出し、それに合わせてシグナムも動いた。
二人のデバイスがぶつかり合い、火花を散らす。
すぐさまフェイトは一歩後ろに下がり、再び一閃。
シグナムも同様に、カウンター気味の一撃を放つ。
直後、とっさに障壁が展開されて互いの攻撃を防ぎきった。

「レヴァンティン!!」
「バルディッシュ!!」
『Schlange form』
『Haken form』

二人はそのまま間合いを離すと、カートリッジをロードしてデバイスの形態を変えた。
フェイトは大鎌のハーケンフォームに、シグナムは蛇腹剣のシュランゲフォームに。
シグナムは勢いよく腕を振り上げ、レヴァンティンの切っ先でフェイトを狙う。
フェイトはそれを回避すると、ハーケンセイバーの体勢を取って静止。
その間に、レヴァンティンの刃が彼女の周囲を包囲する。
しかし、フェイトは動じることなくシグナムを見据え……勢いよく、バルディッシュを振り下ろした。

「ハーケン……セイバー!!」
「くっ!!」

光の刃が一直線に、シグナムへ迫ってゆく。
シグナムはとっさにレヴァンティンの刃を戻し、その一撃を切り払う。
その影響で、フェイトのいた場所が一気に切り刻まれ、凄まじい砂煙が巻き起こった。
だがその中から、三日月状の影―――二発目のハーケンセイバーが、その姿を見せてきた。
一発目との間隔が短すぎる為に、切り払う事は出来ない。
すぐにシグナムは、上空へと飛び上がる……が。

「ハァァァァッ!!」
「何っ!?」

上空には、既にフェイトが回り込んでいた。
バルディッシュの刃を、シグナム目掛けて勢いよく振り下ろしてくる。
だが、シグナムはこの奇襲を思わぬ物を使って回避した。
それは、レヴァンティンの鞘。
彼女にとっては、鞘もまた立派な武具だった。
これは流石に予想外だったらしく、フェイトも驚かざるをえない。
その一瞬の隙を突き、シグナムはフェイトを蹴り飛ばした。
だが、フェイトも一歩も引かない。
落下しながらも、カートリッジをロード……バルディッシュの矛先を、シグナムへと向ける。

『Plasma lancer』
「!!」

光の槍が放たれ、シグナムへと真っ直ぐに迫る。
彼女はとっさに剣を通常形態へと戻し、鞘とそれとを交差させる形で防御。
一方フェイトも、着地と同時にバルディッシュを通常形態へと変形させた。
両者がカートリッジをロードさせる。
フェイトが前方へと魔方陣を展開し、魔力を集中させる。
シグナムがレヴァンティンを鞘に収め、魔力を集中させる。

「プラズマ……!!」
「飛龍……!!」
「スマッシャアアァァァァァッ!!」
「一閃っ!!」

膨大な量の魔力が、同時に放たれた。
その威力は、完全な互角。
両者の一撃は真正面から真っ直ぐにぶつかり合い、そして強烈な爆発を巻き起こした。
それと同時に、二人が跳躍する。

「ハアアァァァァッ!!」
「ウアアアアアァァァァァッ!!」

空中で、バルディッシュとレヴァンティンがぶつかり合った。
雷光の魔道師と烈火の将。
二人の実力は伯仲……完全な五分と五分だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ヴィータちゃん……やっぱり、お話聞かせてもらうわけにはいかない?
もしかしたらだけど……手伝える事、あるかもしれないよ?」

丁度、その頃。
別の異世界では、なのはとヴィータが対峙していた。
フェイトが向かって間も無く、ヴィータがこの世界に出現した為、なのはが向かったのだ。
なのはは今、ヴィータと話が出来ないかと思い、相談できないかと持ち掛けていた。
だが、ヴィータはそれを受け入れようとしない。

「五月蝿ぇ!!
管理局の言う事なんか、信用出来るか!!」
「大丈夫、私は管理局の人じゃないもの。
民間協力者だから。」
(……闇の書の蒐集は、一人につき一回。
こいつを倒しても、意味はない……カートリッジも残りの数考えると、無駄遣いできねぇし……)
「ヴィータちゃん……」
「……ぶっ倒すのは、また今度だ!!」
「!?」
「吼えろ、グラーフアイゼン!!」
『Eisengeheul』

ヴィータは魔力を圧縮して砲丸状にし、それにグラーフアイゼンを叩きつけた。
直後、強烈な閃光と爆音がなのはに襲い掛かった。
足止めが目的の、言うなれば魔力で作ったスタングレネード。
効果は十分に発揮され、なのはの動きを止める事に成功する。
その隙を狙い、ヴィータはその場から急速離脱する。

「ヴィータちゃん!!」
『Master』
「うん……!!」

レイジングハートが、砲撃仕様状態へと姿を変化させる。
なのははその矛先を、ヴィータへと向けた。
一方のヴィータはというと、かなりの距離を離した為か、流石に余裕があった。
この距離からならば、攻撃は届かないだろう。
そう思っていた……が。

「え……!?」
『Buster mode, Drive ignition』
「いくよ、久しぶりの長距離砲撃……!!」
『Load cartridge』
「まさか……撃つのか!?
あんな、遠くから……!!」
『Divine buster Extension』
「ディバイイィィィン……バスタアァァァァァァァッ!!」
「っ!?」

絶対に届く筈が無い。
そんな距離から、あろうことかなのはは撃ってきたのだ。
そして彼女の照準には、寸分の狂いも無い。
放たれた桜色の光は、まっすぐにヴィータへと向かい……直撃した。


ズガアアァァァァァン……!!

「あ……」
『直撃ですね。』
「……ちょっと、やりすぎた?」
『いいんじゃないでしょうか。』

思ったよりも威力が出てしまっていた事に、なのはも少し驚いた。
まあレイジングハートの言うとおり、非殺傷設定にはしてあるから、大丈夫ではあるだろう。
少し悪い気はするが、これでヴィータが気でも失っていたら、連れ帰るまでである。
数秒後、徐々に爆煙が晴れていくが……その中にあった影は、一人ではなかった。

「あれは……!!」
「……」

ディバインバスターは、ヴィータには命中していなかった。
先日クロノと対峙していた、あの仮面の男が姿を現れていたのだ。
仮面の男は障壁を張って、直撃からヴィータを守っていた。
なのはもヴィータも、呆然として仮面の男を見るしかなかった。

「あ、あんたは……」
「……行け。」
「え……?」
「闇の書を、完成させろ……」
「!!」

仮面の男の言葉を受け、ヴィータがこの世界から離脱しようとする。
とっさになのはは、二発目の長距離砲撃に入ろうとする。
だが、それよりも早く仮面の男が術を発動させた。
この距離からの発動は、通常ならばありえない魔法―――バインド。
光が、なのはの肉体を拘束する。

「バインド……こんな距離から!?」
『Master!!』

とっさになのはは魔力を集中させ、バインドの拘束を解いた。
しかし、時既に遅し……その場には、ヴィータも仮面の男も姿もなかった。
身動きを封じられた隙に、逃げられてしまったのだ。

『Sorry, master』
「ううん……私こそごめんね、レイジングハート。
エイミィさん、すぐそっちに戻りま……!?」

仕方が無い。
そう思い、帰還しようとした……その矢先だった。
突然、強烈な地震が発生したのだ。
空に浮いていた為に、なのはには一切影響は無いが……

「地震……驚いたぁ。」
『待って、これ……なのはちゃん!!
急いで、そこから離れて!!』
「え……?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(ここに来て、まだ……目で追えない攻撃がきたか……!!
早めに決めないと、まずいな……!!)
(クロスレンジもミドルレンジも、圧倒されっぱなしだ……!!
今はスピードで誤魔化せてるけど、まともに喰らったら叩き潰される……!!)

フェイトとシグナムの一騎打ちは、更に激化していた。
スピードで勝るフェイトと、技術で勝るシグナム。
どちらも、決め手になりえる一撃を相手に打ち込めないままでいた。
フェイトにとっては、なのはとの一騎打ち以来の激戦。
シグナムにとっては、何十年ぶりとも言える激戦。
ここまでの苦戦を強いられるのは、お互いに久々だった。
勝負をつけるには、やはり切り札を使うしかないだろうか。

(シュトゥルムファルケン、当てられるか……!!)
(ソニックフォーム、使うしかないか……!!)

二人が同時に動く。
次の一撃でもなお決められなければ、もはや使うしかない。
奇しくも、二人の思いは一致していた。
しかし……この直後、思わぬ事態が起こった。
フェイトの胸を……何者かの腕が、貫いた。

「あっ……!?」
「なっ!?」

シグナムは、フェイトの背後に立つ者の姿を見て驚愕した。
その者とは、先程までヴィータと共にいたはずだった仮面の男だった。
彼がヴィータの元に現れたのは、ホンの数分ほど前の出来事。
この世界に転移するまで、最低でも十数分かかる……ありえないスピードである。
いや、この際それはどうでもいい。
今の最大の問題は、彼がフェイトに攻撃を仕掛けたという事実。
フェイトは、完全に意識を失っている。
シグナムはそれを見て、最悪の事態―――貫手によるフェイトの殺害を、考えてしまった。

「貴様!!」
「安心しろ、殺してはいない。」
「なんだって……なっ!?」
「使え。」

男の手のは、フェイトのリンカーコアが握られていた。
使えという言葉の意味は、勿論決まっている。
フェイト程の魔道師のリンカーコアを手に出来たとあれば、一気に相当数のページが埋まる。
シグナムは、こんな形での決着は望んでいなかった。
だが……自分は、はやてを救う為ならば、如何なる茨の道をも歩もうと決意したのだ。
全ては彼女の為……ならば、敢えて汚れ役となろう。

『ザフィーラ、テスタロッサのリンカーコアを摘出する事が出来た。
ヴィータも引き上げたようだし、我々もここで引くぞ。』
『心得た……テスタロッサの守護獣には?』
『ああ、テスタロッサを迎えに来るよう伝えておいてくれ。
それまでの間は……私が、彼女を見ておこう。』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『待って、これ……なのはちゃん!!
急いで、そこから離れて!!』
「え……?」

エイミィが、切羽詰った声でなのはに告げた。
解析してみた所、この地震はある自然災害を併発する可能性が極めて高いと出たのだ。
それは、なのは達の知る自然災害の中でも、最高クラスの危険度を持つもの。

『近くの火山が、もうすぐで噴火しちゃうの!!』
「ええっ!?」

火山の噴火。
テレビなどで何度かその光景は目にしてきたが、それが齎す被害は凄まじいものがある。
この世界には文明が存在しない為、犠牲者は出ないのがせめてもの救いだろう。
すぐになのはは、エイミィに指定された火山から離れる。
それから数十秒後……爆音を上げ、山からマグマが噴出した。


ドグオオオオォォォォン……!!

「うわっ……凄い……」

灼熱色の光が、辺り一面を照らす。
初めて目にするその光景に、なのははただただ呆然とするしかなかった。
それは、モニター越しに見ていたエイミィとミライも同じだった。
しばらくして、噴火は収まるが……その直後。
モニターからけたたましい警報音が鳴り響いた。
なのはの耳にも、それは届いている。

『これって……!!』
「エイミィさん、何があったんですか?」
『気をつけて、なのはちゃん!!
何かが、火山の下から出てこようとしてる!!
これは……現地の、大型生物……!?』
「大型生物って……もしかして、この前の超獣みたいな奴……?」

その、次の瞬間だった。
山の麓から、唸りを上げてそれは出現した。
全身が蛇腹のような凸凹に覆われた、色白の怪獣。
足元から頭頂部に向かって体全体が細くなっていくという、特徴的な体躯。
ミライはその姿を見て、驚愕した。
出現したのは、かつて彼が戦った経験のある相手。
どくろ怪獣……レッドキング。

『レッドキング!?
そんな、あんなのが異世界にも生息しているなんて……!!』
「ミライさん、もしかして……あの怪獣って、かなり強いんですか?」
『うん、僕も直接戦ったことがあるから分かる。
それに、兄さん達もそれなりに苦戦させられたって聞いてるし……なのはちゃん、相手にしちゃ駄目だ!!』
『見つからないうちに、早く逃げ……え!?』
「……エイミィさん、ミライさん?」
『そんな……大変、なのはちゃん!!
フェイトちゃんが……!!』
「えっ!?」

エイミィとミライは、モニターに映し出された光景を見て驚愕していた。
仮面の男により、フェイトのリンカーコアが摘出されてしまった。
幾らなんでも、仮面の男の移動が早すぎる……完全に、予想外の事態だった。
すぐにエイミィは、本局へと連絡して医療スタッフの手配を要請。
その後、アルフにフェイトを救出するよう指示を出した。

「エイミィさん、フェイトちゃんは!!」
『リンカーコアをやられちゃった……!!
今、急いで本局の医療スタッフを送ってもらってる!!』
「分かりました、私もすぐそっちに……キャァッ!?」

フェイトの元へと駆けつけようとするなのはへと、無慈悲な一撃が繰り出された。
それは、レッドキングが投げつけてきた大岩だった。
不運にも、彼女はレッドキングに見つかってしまったのだ。
とっさになのはは、上空へと上昇してそれを回避する。
レッドキングはなのはを一目見るや、敵と判断してしまっていた。
その強い闘争本能に、火がついてしまっていた……最悪としかいいようがなかった。
この様子じゃ、戦う以外に無い様である。

「こんな時に限って……!!」
『なのはちゃん、僕がすぐそっちに行く!!
それまで、何とか持ちこたえて!!』
「はい……分かりました!!」

敵のサイズを考えると、確かにミライが一番の適任になる。
彼の到着まで持ちこたえるか。
もしくは……彼が到着する前に、レッドキングを撃破するか。
今は、一刻も早くフェイトの元に向かいたい。
撃破とまではいかなくとも、ミライの到着までにある程度のダメージさえ与えられれば、大分楽になる。
幸いにも、消耗は殆どしていない……やれなくもない。

「いくよ……レイジングハート!!」
『Yes sir』

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最終更新:2007年11月05日 18:40