第10話「再会は異世界でなの」


「フェイトォッ!!」

エイミィからの連絡を受けたアルフは、すぐさまフェイトの元へと駆けつけた。
幸いにも、彼女が相手をしていたザフィーラは「十分過ぎる成果を得られた」と言い残し、すぐに撤退してくれた。
その為、フェイトが倒されてからあまり間を空けずに到着する事が出来た。
彼女がその場に到着した時、そこに仮面の男の姿は無かった。
あるのは、意識を失ったフェイトとそんな彼女を抱きかかえるシグナム二人の姿だけだった。

「シグナム……!!」
「……テスタロッサの目が覚めたら、伝えておいて欲しい。
言い訳をするつもりは無い……すまなかったとな。
テスタロッサは、リンカーコアを抜かれてから大して時間は経っていない。
すぐに適切な処置をすれば、目も覚ますだろう。」
「え……あんた……」

アルフは、シグナムの言葉を聞いて少しばかりの戸惑いを覚えた。
自分達は敵同士、追う立場と追われる立場なのだ。
今、フェイトは極めて無防備な状態にある。
再起不能になるだけのダメージを負わせるなり、人質として連れ帰るなり、状況を有利に出来る手段は幾らでもある。
だが彼女は、その一切を取らなかった。
一人の騎士として、そんな卑劣な真似をしたくは無かったのか。
互角にまで渡り合えたフェイトに、敬意を払ったのか。
それとも……守護騎士として、主の名を汚したくなかったのか。
どれにせよ、シグナムが正々堂々とした態度を取っているという事実には変わりない。

「……敵同士で、こういう事を言うのもあれだけどさ。
その……ありがとうね、シグナム。」
「……礼には及ばない。」

シグナムはアルフへと、フェイトを手渡した。
そして、直後……彼女は転移呪文を使ってこの世界から姿を消した。
敵でありながらも、シグナムはフェイトの身を案じてくれていた。
アルフは、少しばかり複雑な気持ちではあったものの、その事に感謝していた。
とりあえず、何はともあれフェイトを急いで運ばねばならない。
アルフの術では、ここから時空管理局本局まで飛ぶのは流石に無理な為、エイミィに頼むしかなかった。
すぐさま、エイミィとの連絡を取ろうとするが……その瞬間だった。
突如として、激しい地響きが発生したのだ。
震源は真下……アルフの足元からだった。

「まさか!!」

嫌な予感がしたアルフは、すぐに上空へと飛び上がった。
この世界には人間は一切いないが、その代わりに大型の野生生物が多く存在している。
それが、今まさに現れようとしているのだ。
フェイトを抱えたままでは、対処の仕様が無い……彼女を安全な場所に避難させなければ。
すぐにアルフは術を発動させ、フェイトを先にエイミィの元へと送ろうとする。

「エイミィ、フェイトの事お願い!!」
『うん、もう本局に連絡は取れてるから何とかできるけど……アルフは?』
「流石に、二人一緒にってのは少し時間がかかるからね。
私なら大丈夫だよ、すぐに後から行く。」
『分かった……気をつけてね!!』
「ああ……!!」

フェイトの姿が、その場から消えた。
アルフの術によって、無事にエイミィの元へと転送させられたのだ。
後はエイミィがゲートを繋いで、フェイトを本局へと送ってくれるだろう。
これで、彼女の事は何とか安心できる……後は、自分の問題を片付けるだけである。
地響きが真下から来た事から考えれば、相手の狙いは間違いなく自分。
恐らくは、餌と認識されたのだろう。

「さあ、来るならさっさと来なよ!!」

アルフが構えを取った、その直後。
大量の砂塵を巻き上げながら、その生物は姿を現した。
青い体色の、顎が大きく発達した怪獣。
かつて、ウルトラマンジャックとウルトラマンエースの二人が戦った相手。
そしてメビウスも、その亜種と激闘を繰り広げた敵―――ムルチ。

「ギャオオオォォォォッ!!」

ムルチは口を大きく開き、アルフへと破壊光線を放つ。
アルフはそれを障壁で受け止めると、すばやくムルチの胸元へと移動した。
体格の差は圧倒的ではあるが、逆にそれが味方をしてくれた。
ムルチの巨体では、懐に入ってきたアルフに対処が出来ないのだ。

「ハアアァァァッ!!」

強烈な拳が、ムルチの胴体に叩き込まれた。
鳩尾に一撃……かなり効いている。
そこからアルフは、間髪入れずに拳の連打を浴びせた。
ザフィーラからの連戦だから厳しいかと思ったが、どうやら予想していたよりも大した敵ではなさそうだ。
アルフは少しばかりの余裕を感じた後、ムルチを沈めるべく一気に仕掛けた。
しかし……この時、彼女は思いもしなかっただろう。
もしもミライがいたならば気づけただろうが……本来ムルチは、こんな砂漠にいる筈がないなんて。
ムルチが、『巨大魚怪獣』の呼び名を持つ『水棲怪獣』であるなんて。
一応過去に一度、ムルチは地中からその姿を現したこともあるが……それでも、砂漠という環境は流石に無茶である。
ならば何故、ムルチがここで活動できているのか……その理由は一つしかない。


悪魔の魔の手は……既に、数多くの世界に広がっていたのである。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ディバインシューター!!」
『Divine Shooter』
「シュート!!」

なのはは5発ほどの魔法弾を生成し、それをレッドキングへと一斉に放った。
しかしレッドキングは、大きく尻尾を振るってその全てを掻き消す……ダメージは皆無。
その後、レッドキングは再び大岩を持ち上げると、なのはへと投げつけてきた。
遠距離にいるなのはに仕掛けるには、これ以外の攻撃手段はレッドキングにはない。
確かに命中すればダメージは大きいだろうが、流石に攻撃が単調すぎる。
なのはには、あっさりと避けられてしまった。

「パワーは凄いけど、距離さえ離しちゃえば……!!」

レッドキングの戦闘スタイルは至って単純。
怪力に任せての、荒々しく凶暴なものである。
接近戦における圧倒的不利は、目に見えている。
しかし距離さえ離してしまえば、攻撃の手段は岩を投げる以外に無い。
両者の戦い方は、完全な対極に位置している。
その事実は、なのはにとっては幸運であり、そしてレッドキングにとっては不幸以外の何物でもなかった。。
流石にレッドキングもこのままでは不利と悟り、一気に距離を詰めにかかった。
だが……レッドキングが取った行動は、走ってくるとかそんなレベルの話ではなかった。
力強く両脚で地面を蹴り、文字通りに『跳んで』きたのだ。
これにはなのはも度肝を抜かれた。
幾らパワーが持ち味とはいえ、あの巨体でここまで跳び上がれるのか。
しかもスピードがある……回避は出来ない。
なのははとっさに、障壁を出現させる……が。

「っ……キャアァッ!!」

レッドキングは、2万トンの体重を持つ超重量級の怪獣。
そのロケット頭突きには、流石に堪え切る事が出来なかった。
なのはは後方へと大きくふっ飛ばされ、派手に地面に激突する。
ヴィータにラケーテン・ハンマーをぶちかまされた時と同じ。
いや、あの時以上かもしれない破壊力があった。
不幸中の幸いだったのは、地面に激突する寸前に、レイジング・ハートが自動的に障壁を展開してくれた事。
その為、何とかダメージは軽減できたのだが……
レッドキングは、ここで追い討ちを仕掛けてきた。
大きく足を上げて、なのはを踏み潰しにかかったのだ。
ロケット頭突き以上に危険すぎる……防御の有無抜きで、命中したら致命傷は免れない。

「ギャオオオォォォン!!」
「レイジングハート!!」
『Flash Move』

とっさに急加速し、間一髪攻撃を避ける。
その直後、相当な量の土煙が吹き上がってなのはの全身を覆い隠す。
あと少し遅れていたら、確実に踏み潰されていただろう。
そのままなのはは、素早くレッドキングから離れようとする。
しかし今度は上空には飛び上がらず、低空飛行で移動している。
これは、先程のロケット頭突きを警戒しての行動だった。
今レッドキングの周囲には、大岩は勿論、投げる事の出来るような物は一切無い。
普通に考えれば、なのはを攻撃する手段は無いように思われるが……先程のロケット頭突きの様な奇襲もありえる。
そう安易に考えてはいけないのは、なのはも重々承知していた。
そしてレッドキングはというと……そんな彼女の考えどおりに、仕掛けてきた。
投げる物が無ければ、作ればいい。
そういう風に考えたのだろうか、あろうことかレッドキングは、地面を怪力で引っぺがしたのだ。
そのまま、なのは目掛けて巨大な土の塊を投函してきたのである。
土は岩に比べれば、かなり脆い。
命中まで形をとどめる事が出来ず、上空で砕け散り、無数の土砂となってなのはへと降り注いできたのだ。

「っ!!」
『Wide Area Protection』

相手が岩ならば打ち砕けたのだが、土砂となるとそうもいかなくなる。
なのははとっさにカートリッジをロードして、広域防御結界を展開した。
その直後、彼女の身に大量の土砂が降りかかった。
あっという間にその全身は土砂の中へと埋まり、姿が隠されてしまう。
土砂は大量、結界も何もなしに埋まったのではまず助からないレベルである。
だが……レッドキングは、それで満足するような怪獣ではなかった。
なのははミライから聞いたときに少しばかり疑問に思ったが、レッドキングは名前に反して『白い』体色をしている。
ならば何故、レッドキングなどという名前が名付けられたか。
それは、この上なく凶暴で『赤い血』を見ることを何よりも好むからである。
レッドキングは、極めて獰猛かつ残忍なのだ。
かつては、自分よりも遥かにか弱い存在であるピグモンを徹底的に甚振り、死に至らしめた事すらもある。
そんなレッドキングが……土砂で覆い潰したぐらいで、満足するわけが無い。

「ギャアオオオオォォン!!」

確実な死を与える為、レッドキングは両手を組んで、地面へとハンマーフックを打ち下ろした。
それも一発ではなく、何度も何度もである。
拳が叩きつけられるごとに、土砂が勢いよく跳ね上がる。
そして、およそ十発程打ち下ろした後。
レッドキングは周囲を見回して、丁度いいサイズの大岩を見つけ出した。
仕掛けるのは、駄目押しの一撃……豪快に持ち上げて、そして地面に叩きつけようとする。
これで、まずなのはは生きてはいまい……そうレッドキングは思っていただろう。
だが……その瞬間だった。

『Divine Buster』
「ッ!?」

地面の下から、レイジング・ハートの声が聞こえてきた。
直後、眩い桜色の光が地面を突き破って出現し……レッドキングの手首に命中した。
レッドキングは思わず大岩を落としてしまい、そしてその大岩がレッドキングの足の指を直撃する。
かつてミライ達も取った、レッドキングにとって最も効果的な攻撃手段の一つである。

『ギャオオオォォォン!!??』

レッドキングは足を抱えて、悲鳴を上げた。
なのはは倒されていないどころか、全くの無傷。
何故なら彼女は今、土砂の下……攻撃の届かない、深い穴の底にいるからだ。

レッドキングが追い討ちに出てくるのは、容易に想像できた。
それをまともに耐え切ろうとするのは、自殺行為に他ならない。
そう判断したなのはは、土砂で姿が隠された瞬間に、地面に穴を空けたのだ。
後は攻撃がやむまで、安全な穴の中に身を隠すだけだった。
上方の土砂は、障壁を展開する事でなだれ込んでくるのを防いでいた。
そして、レッドキングが大岩を拾いにいき攻撃が中断された瞬間。
なのはは契機と見て、仕掛けたのである。
ちなみにディバインバスターを放ったのは、外の様子が分からない現状でも、攻撃範囲が広いこの術ならば当たると踏んだからだ。

「いくよ、レイジングハート!!」
『All right』

レッドキングの悲鳴から察するに、レッドキングは怯んでいる。
またとない攻撃のチャンス……仕留めるのは今。
なのはは一気にカートリッジをロードし、レイジングハートの矛先を斜め上へと向けた。
直後、膨大な魔力が彼女の周囲に収束し始めた。
カートリッジシステムに変更してからは、これが初めてになるなのは最強の魔法攻撃。

「全力……全開!!」
『Starlight Breaker』
「スターライト……ブレイカアァァァァァッ!!」

膨大な量の魔力光が、地面を突き破りその姿を現した。
そしてそのまま、真っ直ぐにレッドキングへと向かい……直撃。
レッドキングは猛烈な勢いで、光と共に上空へと打ち上げられていった。
数秒して、レッドキングは地上20メートル程の高さに到達し……そして。


ドグアアアアァァァァァァン!!!


大爆発。
レッドキングは、見事に打ち倒されたのだった。
なのはは、スターライト・ブレイカーによって吹き抜けになった穴の底から、それを確認する。
無事に打ち倒す事が出来、ほっと一息つく。
そして、彼女が地上へと出た時……ようやくメビウスが、現場へとその姿を現した。
彼は、既にレッドキングが倒されていたのを見て、少しばかり驚いた。
流石というべきだろうか……自分の助けは無用だったみたいだ。

「なのはちゃーん。」
「あ、ミライさん。」
「レッドキング、もうやっつけちゃったんだ……来た意味、あまりなかったみたいだね。」
「にゃはは……じゃあ、早く戻りましょう。
フェイトちゃんの事が心配だし……」
「うん……!?」

帰還しようとした、まさしくその時だった。
これで二度目になる、強烈な地響きが発生した。
揺れはかなり激しい……一度目よりも大きいかもしれない。
流石に立っていられなくなった二人は、上空へと飛び上がる。
そしてその後……同時に、レッドキングが出現した火山へと視線を向ける。
二人とも、とてつもなく嫌な予感がしていた。
まさかと思うが、もう一匹何かが来るんじゃなかろうか。
確かめる為、二人はエイミィに連絡を取ろうとする……が。

「あ、あれ……?」
「念話が、繋がらない……!?」


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「レッドキングは倒され、ムルチも圧倒されっぱなしか。
ヴォルケンリッターを相手にした後で、よくやれる……」

広大に広がる砂漠、荒廃した建物の山々。
黒尽くめの男―――ヤプールは、自分以外には何者も存在しないこの異世界から、全てを見ていた。
そう……レッドキングとムルチを仕向けたのは、他ならぬこの悪魔だったのだ。
ヴォルケンリッターや仮面の男の御蔭で、多少なりともなのはとアルフは消耗している。
倒すのならば今がチャンスと感じ、現地に潜ませておいた怪獣を襲い掛からせたのである。
超獣は、怪獣がベースとなって作り出される生物兵器。
怪獣がいなければ、一部の例外的なものを除けば、基本的に作成は不可能なのだ。
そして、より強い怪獣がベースであればあるほど、生み出される超獣も強くなる。
そこでヤプールは、これまで異次元空間内に捕らえてきた多くの怪獣を、近辺の異世界に解き放ったのだ。
野生のままに暴れさせ、成長させる方が、より強くなるだろうと判断した結果である。
その内幾つかの怪獣には、既に軽い改造は施してある……ムルチもその内の一匹。
乾燥した、砂漠のような土地でも動けるよう改造してあったのだ。
無論、狙いはそれだけではない……今回の様になのは達が異世界に現れた際、それを撃退する事も目的である。
しかしながら、レッドキングとムルチは倒されてしまった。
ならば、次の手を打つまで……特になのはとメビウスの二人は、ここで確実に潰す必要がある。
魔力の蒐集が不可能な以上、二人は単なる邪魔者でしかない。

管理局の方に対しては、既に手は打ってある。
仮面の男が、自分達の足跡を下手に辿られない様にと、先程ハッキングを仕掛けておいてくれたのだ。
これは、仮面の男が管理局に通じているからこそ出来た裏技。
御蔭で管理局側からの増援は、当分の間食い止められる……思う存分に叩き潰す事が出来る。
ヤプールは、不適に笑い……新たなる僕を呼び出した。

「行け……ドラゴリー、バードン!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「エイミィ……?」

一方その頃。
ムルチと戦っていたアルフも、異変に気がついた。
いつのまにか、エイミィとの連絡が全く取れなくなっている。
あのエイミィに限って、現場から離れるなんてそんな馬鹿な事はありえない筈。
そうなると……考えられるのは、何者かからの妨害行為しかない。
ヴォルケンリッターか仮面の男か、どちらかもしくは両方か、自分達の足跡を辿られない様にしたのだろう。
しかし先程のシグナムの事を考えると、ヴォルケンリッターがこんな真似をするとは考えがたい。

(いや……そうとも言い切れないか。)

一人だけ、そんな真似をしかねない者がいた。
初遭遇の日、なのはに奇襲を仕掛けてリンカーコアを抜き取ったシャマルだ。
考えてみれば、ヴィータ・シグナム・ザフィーラの三人しか異世界には姿を現していない。
ダイナに関しては別として、シャマルは先日の戦いにも、直接の参加はしていない。
完全なバックアップ担当と見ていいだろう。
それに、あまりこういう言い方はしたくないが……一人だけ、正々堂々とは言い切れない。
彼女の性格はよく知らないが、それでも十分にありえる話だ。
勿論、仮面の男が妨害行為をした可能性もある……寧ろ、こちらの方が可能性としては高い。
仮にシャマルがやったのだとしたら、何でそれを今までやらなかったのかという話になるからだ。
だが仮面の男は、先日はベロクロンのゴタゴタに紛れてだったが、今回にはそれがない。
完全な形で姿を見せたのは、これが初……ならば、彼等であるのはほぼ間違いないだろう。
タイミング的にも、十分合う。

「どっちにせよ、こいつをぶっ倒してさっさと戻ればいい話さ。
とっとと決めに……!?」

とどめの一撃を叩き込もうとした、その瞬間だった。
何処からか、「ミシリ」と何かに亀裂が走るような音が聞こえてきた。
アルフはとっさに、その音源……上空を見上げた。
見渡す限り砂漠のこの世界に、そんな物音を立てられそうな代物なんて一つもない。
ただ一つ……昨日も目にした、空を除けば。

「まさか、嘘……!?」

ガッシャアアアァァァァァン!!!!

空が割れ、その超獣は姿を現した。
地球上に生息している蛾と、宇宙怪獣とを組み合わせて誕生した超獣。
かつて、エースとメビウスを苦しめた蛾超獣ドラゴリー。
ドラゴリーは着地すると、早速アルフへと攻撃を仕掛けてきた。
唸りを上げ、両腕を振り回す。
アルフはとっさに急加速し、その一撃を逃れる。
しかしその背後には、大口を開けて待ち構えていたムルチがいた。

「ギャオオオォォン!!」
「くっ……!!」

ムルチは口を開き、破壊光線を放つ。
アルフはとっさに障壁を展開し、その一撃を受け止める。
するとここで、今度はドラゴリーが背後から仕掛けにきた。
両の眼球から光線を放ち、アルフを焼き殺そうとする。
挟み撃ち……両方の攻撃を防御しきる自信はない。
ならばと、アルフは障壁を維持したまま上空へと急上昇した。
それにより、ムルチとドラゴリー両者の攻撃は、それぞれ正面にいる相手に命中してしまう。
見事、同士討ちをしてくれたのだ。

「ギャアアァァァ!?」
「グオオオォォォン!!」
「やった……あんまり、頭はよくないみたいだね。
それにしても、どうして……!!」

何故、ヤプールの超獣がこんな異世界に現れたのか。
先日の襲撃の件も考えると、やはり狙いは自分達ということになる。
メビウスに味方する者を全滅させるつもりなのは、まず間違いない。
ヤプールが闇の書を狙っているというのなら、尚更になる。
ここで自分が倒れれば、ヤプールは簡単に魔力を手に入れることが出来るからだ。
後は何らかの形で仮面の男同様にヴォルケンリッターに接触し、それを渡せばいい。

「全く、面倒なことしてくれちゃって……!?」

ここでアルフは、言葉を失った。
その眼下では、ドラゴリーとムルチが争いあっている。
同士討ちを狙った以上、それ自体はありがたいことなのだが……
正直言うと、これは争いとは呼びがたい。
そう、それは……一方的な虐殺だった。
両者の戦闘能力の差は、圧倒的過ぎた。
ドラゴリーはムルチを、徹底的に甚振っていたのだ。
ムルチはドラゴリーに馬乗りにされ、滅多打ちにされている。
必死になって抜け出そうと、ムルチはもがいている。
だがドラゴリーは、無情にもそんなムルチの左腕と肩を掴み……その怪力で、一気に左腕をもぎ取った
鮮血を噴出しながら、ムルチがもがき苦しむ。
しかしそれでも、まだドラゴリーの攻撃は終わらない。
今度は右腕と肩を掴み、そして勢いよく右腕をもぎ取った。
ドラゴリーは、ムルチを徹底的に八つ裂きにしようとしているのだ。
ムルチが悲痛な叫び声を上げる。
それが癪に触ったのだろうか、ドラゴリーはムルチの嘴を掴んだ。
そして……両手で一気に開き上げ、そのまま顔面を真っ二つにしたのだ。
ムルチの泣き声が止む……絶命したのだ。

「っ!!」

あまりの酷さに、つい動きを止めてしまっていたが……そんな場合じゃない。
寧ろ、敵の注意がそれている今は最大の攻撃のチャンスである。
アルフはすぐに飛び出し、全速力でドラゴリーへと向かった。
魔力を乗せた拳を、その後頭部へと全力で叩き込む。
流石にドラゴリーも、この奇襲には反応できなかった。
少しよろけ、地面に倒れそうになる……が。

「キシャアアァァァァッ!!」

そう簡単には、倒れてはくれない。
ドラゴリーは踏ん張ると、振り向き、その鋭い目でアルフを睨みつけた。
強い殺意に満ちているのが、一目で分かる。
この超獣は、ムルチよりも遥かに危険。
即座にその事実を、アルフは理解する事が出来た。

「……どうやら、最初に来た奴ほど甘くはないみたいだね……!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「どうして、連絡が……」
「なのはちゃん、くる!!」
「あ、はい!!」

同時刻。
なのはとメビウスの前にも、ヤプールから送り込まれた刺客が現れた。
レッドキングが出現したのと同じ、火山の麓。
そこから唸りを上げ、その怪獣は現れた。
その姿を見て、メビウスは思わず声を上げてしまった。
現れたのは、ウルトラ兄弟最強と詠われた二大戦士、タロウとゾフィーを一度は葬り去った大怪獣。
メビウス自身も、かつて深手を負わされてしまった、最大の強敵が一匹―――火山怪鳥バードン。
レッドキングとは……格が違いすぎる。

「そんな……!!
レッドキングの次は、バードン!?」
「キュオオオォォン!!」

バードンは高らかに泣き声を上げると、その場で強く羽ばたいた。
強烈な突風が巻き起こり、周囲の木々が次々に吹き飛ばされていく。
バードンの羽ばたきは、民家を一つ破壊する程の威力がある。
なのはとメビウスは、とっさに防御を固めるが……踏ん張りきれない。

「セヤァァッ!?」
「キャアァァァッ!!」

二人は突風に煽られ、後方へと吹き飛ばされてしまった。
特に、バードンとのサイズの差があるなのはの方は、100m以上吹き飛ばされてしまっている。
そうなると、攻撃対象が近くにいるメビウスの方となるのは必然。
バードンは大きく翼を広げ、メビウス目掛けて飛びながら迫ってきた。
その巨体からは想像がつかないほどの、とてつもない速さ。
とっさにメビウスはメビウスディフェンスサークルを展開して、バードンの嘴を受け止める。
嘴による一撃だけは、絶対に受けてはならない。
その恐ろしさがどれ程のものか、メビウスは身をもって味わった経験があった。
メビウスはすぐに間合いを離して、光弾をバードンへと放つ。
しかしバードンは、それを翼で弾き飛ばした。
そしてそのままの勢いで、メビウスに翼を叩きつける。

「グゥッ!?」
「キュオオオォォン!!」
「ミライさん!!
レイジングハート、カートリッジロー……!?」
『Master!?』
「なのはちゃん……!?」

まともに胴体に打ち込まれ、メビウスが怯む。
それを見たなのはは、すぐさま助けに入ろうと、カートリッジをロードしようとした。
だが、その瞬間……異常は起きた。
なのはが胸元を押さえ、急に苦しみ始めたのだ。
顔色は悪く、汗も酷く流れ出ている……全身の震えも止まらない。
レイジングハートは、一体彼女に何が起こったのか、まるで分からなかったが……数秒して、事態を把握した。
よく見てみると、バードンの周囲の木々が枯れはじめているのだ。

『まさか……この生物は……!?』
「なのはちゃん、急いで地球に戻って!!
バードンは、体内に猛毒を持ってる……このままじゃ危険だ!!」
「毒……!?」

バードンはその体内に、強力な毒素を持っている。
それが先程の羽ばたきによって、微量ながらも散布されてしまっていた。
なのはは運悪く、それを吸い込んでしまっていたのだ。
メビウスが嘴による攻撃を恐れていたのも、ここにあった。
万が一、刺されてしまった場合……直接毒素を注入されてしまうからだ。
このままでは命に関わりかねないと、すぐに撤退するようメビウスはなのはに促した。
彼女をこのまま戦わせるのは危険すぎる……バードンは、自分一人で倒さなければならない。
幸い、メビウスは空気中の毒素の影響は受けてはいない。
戦うことは十分可能……すぐに向き直り、構えを取る。

「セヤァッ!!」
「キュオオオォォン!!」

メビウスはバードンの胴体へと、蹴りを打ち込む。
バードンは少しばかり怯むも、すぐに持ち直して反撃に移った。
怒涛の勢いで繰り出される、翼による殴打の連打。
メビウスは防御を固め、反撃の隙をうかがった。
そして、その時はすぐに来た。
バードンが大きく振り被って、翼を打ち下ろしにかかる。
その一瞬の隙を狙い、メビウスは前転。
バードンの背後に回り込んで、一気に仕掛けにかかった。

「セヤァァァァッ!!」

メビウスブレスのエネルギーを開放し、拳に纏わせる。
必殺の拳―――ライトニングカウンター・ゼロ。
メビウスは勢いよく、全力でその一撃を背後から叩き込んだ。
直撃を受けたバードンは、呻き声を上げて地面に倒れ……

「キュオオオン!!」

こまない。
とっさに地面へと両手をつけ、ギリギリのところで踏ん張っていたのだ。
その後、地面を蹴ってそのまま跳躍。
メビウスとは逆方向―――なのはのいる方へと、接近していったのだ。
肝心のなのはは、魔方陣を展開して撤退寸前だった。
しかし……この強襲を前にして、それを中断せざるを得なくなる。
とっさに、バードンを迎撃しようとするが……

「っ……!!」

視界が霞んで、狙いが定まらない。
毒の影響が、予想以上に響いていたのだ。
ならば先程レッドキングに仕掛けた時のように、ディバインバスターでいくのみである。
なのはは気力を振り絞り、魔力を収束させる。

「ディバイン……バスタアアァァァァッ!!」

魔法光が放たれ、真っ直ぐにバードンへと向かう。
だが……その威力が、先程に比べて弱い。
毒による消耗のせいで、完全に力を出し切る事が出来なかったのだ。
バードンは迫り来る光に対し、口を開き高温の火炎を吐き出した。
ディバインバスターが、相殺されてしまう。
そのままバードンは、なのはへと接近……嘴を突きたてようとした。
なのはは、とっさに目を閉じてしまう。
しかし……その瞬間だった。

「グッ……!?」
「!!
ミライさん!!」

なのはをかばって、メビウスがその一撃を受けてしまっていた。
深々と、バードンの嘴が肩に突き刺さってしまっていたのだ。
メビウスはすぐにバードンへと拳を打ち込み引き離すも、その場に膝をついてしまう。
これで彼の体内にも、毒が回ってしまった。
胸のカラータイマーが赤色へと変化し、音を立てて点滅し始める。
バードンはその様を見ると、高らかに鳴き声を上げる。
それはまるで、己の勝ちを確信し、嘲笑うかのようであった。
そして、トドメを刺すべくバードンが動く。
大きく口を開き、二人目掛けて火炎を噴出した。

(まずい、このままじゃ……!!)
せめて……なのはちゃんだけでも……!!)

障壁の展開は間に合わない。
自分の体を盾にして、炎からなのはを守るしかない。
重傷を負うのは確実……最悪死ぬかもしれないだろうが、それ以外に方法は無かった。
メビウスは、迫り来る炎を前にして覚悟を決めた。
なのははそんなメビウスを見て、力を出し切れなかった己を呪った。
何とかして、メビウスを―――ミライを助けたい。
なのはとメビウスと。
二人が、互いを思い強く願った……その時だった。


祈りは通じた―――奇跡は起こった。


ドゴォォォンッ!!

「えっ!?」

上空から、二人とバードンとの間に赤く輝く光の玉が落ちてきた。
その玉が丁度、火炎から二人を守る盾の役割を果す。
なのははこの予想外の自体を前に、ただ驚くしかなかった。
しかし……メビウスは違った。
彼は、この光の玉に見覚えがあった。
やがて光は消え、玉の中から何者かが姿を現した。
メビウスと同じ大きさをした、銀色の巨人。
その胸に輝くは、六対の球体―――スターマーク。
そしてその中央には、蒼く輝くカラータイマー。

「兄さん……ゾフィー兄さん!!」
「ようやく会えたな……メビウス。」

ウルトラ兄弟を束ねる長兄―――ゾフィー。
予想していなかった、しかしこの上なく心強い増援を前にして、メビウスは思わず声を上げた。
ゾフィーはそのままバードンに蹴りかかり、その巨体を吹っ飛ばす。
その後、大きく首を振るい、己の頭で燃え盛っていた炎を消す。
どうやら先程火炎を受けた影響により、燃えてしまっていたらしい。
ゾフィーはなのはとメビウスへと振り向くと、掌をカラータイマーへと一度乗せた後、二人に向けた。
そこから、エメラルド色に輝く光が二人へと放たれる。

「あ……体が、楽に……!!」

なのはは、己の体が軽くなるのを感じた……毒が抜けたのだ。
それはメビウスも同様であり、そのカラータイマーは青色に回復している。
ゾフィーが、己のエネルギーを二人へと分け与えたのだ。
二人は立ち直り、そして構えを取った。

「メビウス、そして地球の者よ。
ここまで、よく頑張ったな……もう一息だ。
力を合わせて、バードンを倒すぞ!!」
「はい!!」

圧倒的不利かと思われていた形勢は、一気に逆転した。
ウルトラマンメビウス、高町なのは、ゾフィー。
今……三人の、反撃の狼煙が上がる。

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最終更新:2007年11月17日 13:38