~ティアナ・ランスターの憂鬱~
「おいおいおいおいマジで変身しやがったよ
なんだよ?魔法の国からこんにちわってか?
まぁこの際朝倉をどうにかしてくれるんなら万事オッケーではあるが
俺にはこれが新たなる厄介事の種のように思えて仕方ないんだがなぁオイ
今度は結局どういう展開だ?やはり異世界人か?変身ヒーローか?あるいは魔法少女か?
まぁいずれにしても俺が面倒ごとに巻き込まれる率が大幅アップしそうなのは確実そうだ
俺の役どころは偶然秘密を知ってしまってなし崩し的に協力を始めちゃう民間人とかそんな感じか?
冗談じゃないぞ、俺は俺の平穏権の獲得を要求する!」
「聞いたところによりますと時空管理局とは多次元に渡る世界の監視が目的のようです
彼らの組織において魔道師がかなりの数を占めているとのことですし
まぁ異世界間における国際警察兼国際連合軍とでも言った感じでしょうか」
キョン君がなにやら騒いでいた、男の癖になさけないと言いたい所だけどまぁ事件に巻き込まれた一般人としては普通の反応ね。
いずれにしても情報統合思念体の連中ってのは力が未知数だわ、フェイトさんがそうそう負けるとは思えないけど非戦闘員が近くにいてはやりづらいハズ
「あなた達は後ろに下がってて!」
言いながら私もバリアジャケットをまとう
「いえ、むしろ離れては危険。かえって守りにくくなる」
言われてから唐突に気付いた、よく見ると周りには何体もの兵器らしき物が立っていた
「なかなかユニークでしょう?この空間の持ち主の攻撃のイメージを具現化したものなの
だってこっちが一人だけなんて不公平だと思わない?」
<cross fire>
ごぅごぅん!と音を立てて魔力弾が四体の敵兵器を撃墜する
「悪いけどこっちも修羅場抜けてきた身なのよ、フェイトさん、こっちは私一人で充分ですからそいつを頼みます!」
「うん、任せたよ」
フェイトさんが地を蹴り一瞬で朝倉へと肉薄する、だがその左右、鋭利な矢が空中に出現してフェイトさんを襲う!
「きゃあああぁぁぁっ!!」
叫んだのは朝比奈さんだった。でもあれぐらいの攻撃フェイトさんならかわせるはずだ
フェイトさんはすたっと朝倉の後方に着地、そしてすぐに再び朝倉へと飛び掛る
だが朝倉はフェイトさんを無視して私達のいる方へ、他のSOS団員のいる方へと飛んできたのである
「非戦闘員を盾に取るつもりなの?!卑劣な!」
私は魔力弾で彼女を撃ち落そうとする、が同時に他の自動機械達が私達に向けて一斉射撃してくる
(自動機械の攻撃だけなら迎撃できるけど、朝倉を確実に止める事が出来る?)
迷っている場合ではない。私は自動機械の攻撃を相殺しつつ朝倉の攻撃を止める為前に出る
(間に合って!)
防壁を張って彼女の攻撃を防ごうとする、だが彼女の手刀はやすやすと私の防壁を貫いて私の目前へと迫っていた
頭の中に亡き兄の事が蘇る、おっちょこちょいでいつも元気な相棒との思い出が横切る
横から伸びた細い腕が朝倉の腕を掴んで止める、ほぼ同時に朝倉に追いついたフェイトさんの一撃が朝倉の体をふっとばす
朝倉の手刀を止めてくれたのは長門さんだった
「ありがとう長門さん、それにフェイトさんも」
「ティアナが無事でよかった」
フェイトさんはねぎらいの言葉をかけてくれる、だが長門さんは無言で受け止めた手を見つめていた
「やはり以前の朝倉とは違う。同じソースで構成されていながら異なったプログラムによって組み立てられている。
今の彼女は非常に不可解な存在」
「あら?不可解だというのならあなた達だって充分不可解じゃない?この世界は今まさに変革をきたそうとしてるの
異質な力が触れ合う事で世界は少しずつ変化をきたしていってるの。いずれ世界は窮屈なルールから解放され
新たなるステップを進んでいくのよ。情報統合思念体だってそれを望んでるはずじゃない?」
「人為的な次元革変?!それは重大な次元犯罪だ!」
「この行き詰まった世界に進化を望む事が犯罪かしら?別の世界の人間が口出しする問題じゃないわ」
妙に迫力のある笑顔でにこりと朝倉が微笑んだ
ふいに世界がぐにゃりとゆがみ始めた、不安定になってきてる?!
「あらあら、この空間を維持するのもそろそろ限界かしらね。ベースにしてる彼が元に戻った時点でかなり不安定だったのよね」
空間はそのままぐにゃりと歪みながら、はじめにこの空間に入った時の逆戻しでもするようにもとの部屋へと戻った
だけど、空間が元に戻った時になぜか朝倉の姿だけが見えなかった
「逃げた?!どうやって・・・」
「位相空間が元に戻る力と空間の不安定さを利用してワームホールを繋げて移動したものと思われる。時間にすればほんの0.00000001秒の事」
「まさかまた朝倉に狙われる事になるのか?!」
「彼女が接触を図ってくる可能性はあるが命まで狙う事はないと思われる。
彼女があなたを狙った元々の目的は状況に変化をもたらす為、でも今はあの時と状況が違う。
あなたを失う事で涼宮ハルヒがこの世界を否定するような事態になれば彼女としても本末転倒の事態になる
あの事件で急進派もその事に気付いたはず。」
「ちょっと待って、その辺の詳しい事情聞かせてもらえるかしら?なぜ事あるごとに涼宮さんの名前が出てくるのか」
「ひとまず場所を変えませんか?」
古泉君の指摘はもっともだった。私達は部長さんの容態が問題ないことを確認した後長門さんの部屋に行く事になった
そこで私達が聞いた話は、正直正気を疑いたくなるような話ばかりだった
「少なくとも、個人で時空改変を起こす程の人間なんて聞いた事がないわ。」
「でも、それが本当だとすれば涼宮さんは、例え本人にその意思がなくとも次元犯罪者と同等の扱いになる
原因ははっきりしなくても彼女の能力を封印する為の何らかの処置をする必要はある」
「推奨できない。涼宮ハルヒの能力は本人の意思力と深い関係がある。
あえてその能力を封じようとすれば彼女の精神ないし人格に多大な影響を及ぼす危険性がある
それ以前に彼女の能力はまったくの未知数、その能力を封じれるという保証自体がない」
「それは、ちゃんと検査して原因を解明し、なるべく安全な方法を考慮して・・・」
「僕としても反対ですね。そうする事によって逆にこの世界そのものが不安定になる可能性があるのです。
あなた方の都合で勝手な事をされて取り返しのつかない事になった場合、あなた方は責任を取れますか?
それに涼宮さん自身が自分の能力に気付いた場合、この場合もやはりどういう事態になるのかまったく予想できません
安全の為の策が逆に最悪の事態をまねかないとも限らないのですよ。申し訳ありませんがお引取り願いたいですね」
「できればこの時代にはまだ時空管理局に介入してもらいたくないです。歴史上時空管理局がこの世界に干渉してくるのは
もっとずっと後のことなんです。だからそれまではきっと特に問題はないはずなんです」
「でも、なにかが起きてからじゃ遅いのよ!あなた達その辺の事分かってるの?!」
思わず激昂してしまう。不確定要素が多すぎるというのはよく分かるけど、だからといって放っておいて今日のような事件がまた起きるようならこれは無視できるような問題じゃない
「ハルヒのとんでも能力がどうにかなるんならどうにかして欲しいとも思うのは事実だがな、
長門でさえも封じれる保証がないと言うぐらいだからな。下手な事してこじらせるよりは現状維持の方がいいんじゃないか?
それにあいつは事情も知らずに大人しく検査を受けるようなたまじゃない。
かといって事情知ったら知ったでやっぱり拒絶しそうな気はするしな。」
「とりあえずしばらくは様子を見させてもらうよ、本当に彼女に時空を改変する程の力があるのか見極める為にも
でも彼女にそれだけの力があると判明したら・・・こちらも甘い事は言ってられなくなる」
フェイトさんがそう言って立ち上がる、私も立ち上がろうとした時長門さんがさらに続けた
「一つ、まだ言ってなかった事がある」
「まだなにか?」
「この時空に異常が起きはじめたのは、実は三年前がはじめではない」
「待て、それは初耳だぞ」
「僕もそれははじめて聞きますね」
「長門さん、どういうことですか?」
彼女の言葉に意外性を感じたのは、むしろSOS団のメンバーの方だったらしい
「今から十年前にも、この時空には突然変異と呼べるレベルの個体が誕生している
そして時期を同じくして二つの大きな事件が起き、その両方の事件に彼女は関わっている」
「それはっ・・・!」
おもわずフェイトさんが動揺の声を上げる。突然変異で誕生したという彼女、それはおそらく私達のよく知るあの人だった
「魔力要素の薄いこの世界において、あまりにも確率の低い偶然が立て続けに発生した。
情報統合思念体はこれを時空が自己進化の為に引き起こした局地的偶発事故であると位置付けている
だが彼女達がその行動範囲を別世界へ移し始めることによりこの世界での次元革変レベルでの事故は発生しなくなった
涼宮ハルヒという特異な才能がこの次元に生まれたのは必然であると情報統合思念体は考える
それはすなわち、この時空が許す限りでの才能と、その才能を充分に引き出せるだけの事故を起こす事によって
時空は事故進化を遂げようとした。だが結局彼女達はその才能ゆえに別の世界に必要とされた。
だから時空はこの世界の有り様自体を変革させれるだけの特異な能力を一人の人間に与えた
それが涼宮ハルヒ」
「そ、そんなっ?!」
フェイトさんが顔を真っ青にしながら声を上げる。
「なるほど、涼宮さんが望んだから今の状況があるのではなく、世界が望んだから涼宮さんがいるという考え方ですか
ですが涼宮さんの存在が世界の意思ならそれは結局の所涼宮さんの意思イコール世界の意思とも言える訳ですね」
「だから無理矢理ハルヒを神に祭り上げるな。それは神職の人間の言葉は神の言葉だっつーのと同じレベルだろうが、ナンセンスだ。
だいたい長門の言葉も俺には思考経路を飛躍させ過ぎだとしか思えないな」
「世界が自分の意志で大事件を起こすだなんて、私は絶対認めない
人は幸せになりたくてみんな精一杯努力してる、世界の都合で悲しい事故が起こるのなら、人は何の為に戦うというんだ
私は認めない。人の意思が世界の都合なんかに翻弄されるだけなんて、そんなの絶対認めない」
フェイトさんが怒りに震える声でそう呟いた。そうだ、世界が革変の為に事故を起こすだなんて事になったら、私達が何の為に努力しているのか分からなくなる
「あ、あの、おちついてください。確かに運命論はずっと昔からあったと思うんですけど、私も努力は報われると思います
努力するのが無駄なんじゃなくて、努力するから未来が作られていってるんじゃないかって、そう思うんです」
朝比奈さんが懸命にフェイトさんに訴えかける、頼りない部分は多々あるけど、彼女は彼女なりに真摯に世界の為を思って行動しているのだという事がしれた
「あなた、いい子だね。うん、そうだね。努力するから未来が作られていってる、私もその意見に賛成だ」
「うんうん、さすが朝比奈さんだ、いい事を言う。要するにだ、俺達は俺達なりに努力して平和な未来を築こうとしてるんだよ
ただまぁ最善策は人によって違うもんだろう?俺達の方があんた達よりハルヒとの付き合いは長い
だから俺達とハルヒの事ももう少し長い目で見てくれてもいいんじゃないか?」
「君の言う事にも一理あるかな?どちらにせよ・・・しばらく様子は見させて貰うよ。」
なんとなく丸め込まれたような形ではあるけれど・・・管理外世界では強権を行使しにくいのは事実だ
フェイトさんの言う通りここは様子見で留めておくのが良策・・・かなぁ
次の日
「おっはよー、キョン。ねえねえ、昨日TV見てたら魔法少女リリカルなのかのリメイク版やってたのよ
なんだかなつかしくてさー、ついつい見ちゃった」
「リリカルなのかってーとあれか?なんか俺達が幼稚園の頃にやってた・・・十年も前のアニメじゃないか」
「そうなのよねー、あの頃私リリカルなのかに会いたくて必死に探した記憶あるのよねー
魔法少女もさ、やっぱり普通の人にばれないように人知れず事件を解決してるはずなのよね
ねぇねぇ、もしかしたら案外私達の近くに魔法少女がいるかもしれないじゃない!
ううん、少女とは限らないわね、最近は魔法少年とかも流行ってるみたいだし
でもさ、小動物を連れてる小さい子って結構魔法少女である確率が高いような気がしない」
「俺が小学生の時にもクラスに小動物飼ってる女子はいたが町の中で変な事件が起きた事はない!
頼むからそのネジの外れた頭に正しいネジをはめ込んどいてくれ、聞いてる方が頭が痛くなってくる」
(十年前?魔法少女?)
なんとなく聞き流せない単語が耳に入ってくる。冷静に観察すればするほど昨日の話が嘘臭く感じてしまう
それでいて妙に核心を突いてるような、事件の中心にいるような、妙な感覚だった
まったくもって妙な事に関わってしまったものだ、心底そう思った
最終更新:2007年11月17日 17:32