「で、どうやって入るつもりなんだお前は」
「そうね、ベランダから回り込んでガラス割って入ればいいんじゃない?」
「涼宮さん!先生もいるのに・・・」
「先生がいなくても却下だ却下!俺はお前のとばっちりで犯罪者の仲間入りするなんてゴメンだからな」
「冗談よ冗談、ま、管理人さんに事情話して鍵開けて貰いましょ。友達を心配して見舞いに来たって言えば大丈夫でしょ」
彼らのやりとりにあたしは言い様のない不安を感じ始める。一体どこからどこまで冗談なんだか
「あんた達、まさか前科持ちとか言うんじゃないでしょうね」
「お、俺は別に何も悪い事はやってない。やってないはずだ。問題があるとすればハルヒぐらいなもんだろう」
「なによ、あたしだって別に犯罪なんてやってないじゃない」
キョンはその言葉にジト目で涼宮さんの事を見る、何か色々といいたげな様子ではあった
ま、多分普段からこういう事ばっかりやってるんでしょうね。私は溜息をつきながらふと視線を横に向けた
長門さんが部屋のドアノブを握り締めたままなにやらじっとドアを見つめている
カチャリ、とドアは何の抵抗もなく開いてしまったのである
「あら?なんだ開いてたんじゃない」
涼宮さんはなんの疑問もなくそのまま部屋の中へ入っていってしまった。でも私は素直にそうは思えなかった
「あなた・・・いま何かした?」
長門さんは私の目を見たまま、だけどなにも答えない
「あーっとぉ!きっと部長氏が閉め忘れてたんだな、うんそうに違いない。絶対そうに違いない、うんうん
 だからティアナさんも気にする必要はないぞ」
キョン君があからさまにわざとらしいフォローを入れようとする、だがこれは逆に彼女がなにかしたのだと彼も知っている、あるいは確信している証拠でもある
いくら管轄外といえども彼らが本気で犯罪者紛いの事をしてるとなれば流石に放っておく訳にはいかない
「ティアナ、彼女がなにかをやったという証拠はないよ。ただ行方不明者を探しに来たら、たまたまドアが開いていただけ
 それだけだよ」
フェイトさんは私の肩に手を置き、首を小さく横に振る。事を荒げるなと言いたいのだろう。
仕方ないので私も一旦引き下がる事にした

部屋に入った途端、なにか違和感のような物を感じた
(なにこの空間?なにかが・・・おかしい?)
私は油断なく周りを見渡す。部屋自体に異常は見られない・・・が、この部屋の中はなにかがおかしかった
(なんだか結界の中に入ったみたいな、でもそういうのとも何かが違う。なんなのこの感じ?)
異変にはフェイトさんも気付いてるみたいだった。だけどあくまで平静を装っている
なにやら長門さんがキョンに近づき耳元で囁く声がかすかに聞こえた
「この空間は次元断層により位相変換が生じている」
「?!」「・・・なんだそりゃ?」
思わず呆気に取られてしまう、いくらなんでもこんな所で次元断層が生まれてて、それなのに表面上には何も起きてない
こんな異常の事態は聞いた事がなかった
いつの間にか古泉というもう一人の男子生徒も加わり三人でこの事態について話し合っていた
しかも彼らは当たり前のように涼宮ハルヒがこの事件に関わりがあるように話をしていた
だが、当の本人は先程から普通に部屋の中を捜索しているだけだった
(なんなの、一体なんなのこの集団は?!)

結局なにもないと結論付けて涼宮ハルヒはメンバーに現地解散を命じた
いつの間にか私達もSOS団メンバーのように扱われていたのがちょっと気になるけど
私達はそこで一旦別れた振りをしてから再びその部屋へと足を向けていた
そしてそこには、まるで当然のように涼宮ハルヒを除く先程のメンバー全員が揃っていた
「あの、さっきの部屋をもう一度調べるってどういうことなんですか?なんでまた集合したんですか?
 それにティアナさんとフェイト先生までなんでいるんですか?」
なんだか一人だけ事態をのみこめてないみたいだけど本当になんで彼女までいるのかしら
「とりあえずハルヒも帰った事だしあんた達の正体を聞いてもいいか?」
「待って、こっちの朝比奈さんは民間人じゃないの?あと古泉くんもなんだか訳ありっぽい感じじゃない?
 どういう事なのか聞きたいのはこっちの方だわ」
「おや?ご存知ありませんでしたか。いえ、僕も詳しくは聞いていませんがね
 僕はとある機関に属している者です。機関の幹部は一部の時空管理局員ともコンタクトに成功していましてね
 この間の事件で管理局もついに涼宮さんに目をつけたらしいという事を聞かされていたんですよ」
「時空管理局?あ、それじゃぁティアナさんとフェイト先生は時空管理局の方なんですね」
「マテマテマテ、なんなんだその時空管理局というのは?長門の親分の親戚か何かか?」
「ちょっと待って、古泉君の方は・・・まぁ特殊な事情なのは分かったわ。でも朝比奈さんも時空管理局の存在を知ってるの?」
「あ、そういえばこの時代にはまだ時空管理局の存在は地球に公には知られてないんですね」
「この時代には・・・?」
「もしかして・・・朝比奈さんは未来人の諜報員?」
「フェイトさん知ってるんですか?!」
「噂程度だけど・・・時空改変の恐れのある事件のいくつかで未来人と思しき人物が介入してきたという事例はいくつか報告されてる
 でも未来人についてはあまり詳しい事が分かってないし証拠も特に残ってないんだ。だからあくまで未知の次元からの来訪者としての見解が一般的なんだけど・・・」
「情報統合思念体に未来人、それによくわからない機関まで絡んでるなんて・・・なんだかずいぶん複雑な事情がありそうね」
「すまん、悪いが俺は完全においてきぼりだ」
降参だとでも言わんばかりにキョン君が手を上げるのを私はまじまじとしながら見つめる
「・・・それで、あなたは何者なの?」
「悪いが俺は完全にただの普通の人間だ」
「ええ、僕も証明します。彼は紛れもなく普通の人間ですよ。」
「普通の人間がなんでこんなメンバーに囲まれて異常な事態に関わっているのよ」
「それは俺の方が聞きたい」
「それは彼が涼宮さんに関するキーパーソンだからですよ」
「縁起でもない事を言わないでくれ、俺はハルヒのトンデモに巻き込まれてるだけの只の被害者だ」
「それよ、結局彼女、涼宮ハルヒは一体何なの?」
「ただの訳のわからん女だ」
「それについては僕が説明し・・・」
話がごちゃごちゃしてこんがらがってきた時、いきなり世界がぐにゃりと歪んだ
かと思ったらいきなり風景が一転していた、正直我が目を疑わずにいられなかったわ
マンションの一室にいたはずの私達は、なぜかいきなりなにもない平坦な空間に投げ出されていたのだ
「空間転位?!そんな、魔法も使わずに!」
「つーかここは一体どこなんだ?」
「局地的非侵食性融合異時空間。空間転位ではなく侵入コードを解析しただけ」
答えたのは長門さんだった
次元断層をあっさり解析して侵入する、そっち方面を専門としている魔道師でもこんな芸当をあっさりこなす人間は正直見たことがない
(なるほどね、こっち方面の技術に関しては時空管理局より情報統合思念体の方が上回ってるって訳)
私は内心舌を巻くほかなかった
長門さんはそのまますぅーっと手を上げる。キョン君がギョッとした表情で声を上げる
「長門!何かする時は先に一言言ってからやってくれないか」
「分かった」
彼女はそのまま前方を指差しながらポツリと口に出す
「来た」
言われて私達も気付いた、前方の空間をたゆませながら何かが出現しようとしていた
明確な敵意と共に
私たちの前に現れたそれは、巨大なカマドウマの姿をしていた
「これはこの空間を形作っている者の畏怖の象徴」
「もしかしてこれは部長さんの意識から作られているのですか」
「作られているのではなく、そのもの」
「っ?!これが行方不明者本人って事?!」
「厄介だね。ちょっと手荒いけどここは・・・」
「どうやらこの空間では限定的に僕の力が使えるみたいですね」
そう言って前に出たのは古泉君だった。その手には赤く光る魔力弾が浮かんでいた
「あなた、魔道師なの?!」
「あなた方の使う力とは形式も異なりひどく限定された能力ですが、まぁ似たようなものなのかも知れませんね」
ふぅもっふ!と掛声を上げて魔力弾を打ち出す。魔力弾はカマドウマに直撃しうずくまるようにしながら消滅していく
カマドウマが消滅した後には気を失った一人の男子生徒が倒れていた、彼が件の部長さんとやらだろう
「結局驚かされっぱなしだったけど、ひとまず一件落着って所かな」
「・・・・・・まだ」
長門さんの言葉にキョン君が再びげんなりした顔をする
「なんだ、まだ何かあるのか?次はなんだ、巨大なカナブンが出てくるとか言わんだろうな」
「別の第三者がこの空間に居座っている。部屋の中が表面上何事もないように見せていたのは何者かがカモフラージュしてた所為」
「まさか・・・次元犯罪者?!」
「その可能性は高い」
すぅ、と右手を水平に上げる
「偽装された位相空間を連結させる」
パチパチと空間が軋みながら焦げ臭い匂いが漂ってくる
「強力なプロテクトがかけられている、でも開けられないほどじゃない」
「なんか俺すごい嫌な事を思い出したんだが」
「以前朝倉涼子が張っていたものより、さらに複雑なプロテクトがかけられている」
「えと、えと、なんなんですかーっ?!」
「私も聞きたいけど、これなんかやばそうな雰囲気じゃない?」
「確かにこんな所を隠れ家にされてたら普通は見つからないね。もしかしたらかなり凶悪な次元犯罪者かも」
「やれやれ、これは大分面倒な事になりそうですね」
古泉君が少し真面目な顔付きで溜息をついた時、変化は起きた
「あ~あ、見つかっちゃったか」
柔らかな口調と共に一人の少女がふわりと着地する。少女は今私たちが着ているのと同じ北高の制服を着用していた
「朝倉涼子、やはりあなた」
「待て!なんであいつが出てくるんだ!あいつは消えたはずじゃなかったのかよ!」
「何者かが彼女の体を構成している情報を収集し、再構成したものと思われる。以前よりもスペックが上がっている」
「あの、あの人何者なんですか?制服着てるって事は同じ学校の人なんですか?」
「分かりやすく言うと危険人物です!ああ、もう、長門頼んでいいか!」
「いい」
こくりと頷きながら前へ出ようとする長門さんを腕で押し留めたのは、なんとフェイトさんだった
「なんだかよく分からないけど、あまり生徒を危険に晒させる訳にはいかないな。一応、これでも先生だからね」
「彼女は私と同じく情報統合思念体が生み出したヒューマノイド・インターフェース。甘く見ない方がいい」
「今回は別に危害を加えるつもりはない、って言っても信用してくれないかな?悲しいなぁ」
朝倉と呼ばれた少女は唇に指を当て、いかにも残念そうに眉をひそめる
外見だけならその辺りにいる女子高生のように見える。でも外見だけからその人の実力を推し量れない事は私自身よく知っていた
なによりこんな異次元空間に潜んでるような人が普通な人のはずがなかった
「例え貴女が私達に害意を加える気がなくても、貴女が自分の居場所を隠す為に現地人を巻き込んで利用してたのなら
 少なくとも私達に同行してもらい事情を説明してもらう必要はあります」
「あら、あなたもしかして時空管理局の執務官かしら?弱ったな、さすがに連れて行かれるのはまずいな」
にっこり微笑んだかと思った瞬間、彼女の手が伸びた
<Protection>
フェイトさんが張った障壁が彼女の攻撃を止める。でもその光景はなんとも異常だった
少女の腕はまるで液体金属でできた槍のように迫ってきていた
「公務執行妨害、それと殺人未遂」
<Set up>
フェイトさんの体が光に包まれ一瞬にしてバリアジャケット姿へと変わる
「あなたを時空犯罪者と認定、身柄を拘束させてもらいます」
<Get set>
バルディッシュを構えながら力強く宣言する

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最終更新:2007年11月17日 15:54