彼は幼少期から自分に個性がない事をコンプレックスに感じていた。果たして自分と他者とを見比べた時自分特有のものが1つでもあるのだろうか。そんな自問自答を繰り返す日々が続く。そして中学二年のとき、鏡で自分の顔を見ても何も映っていないように見え始める。本当に自分に何も無くなってしまったと絶望し、他者と関わってもより自分のつまらなさが浮き彫りになるだけであった。そんな毎日を過ごすうちに、彼も大人になりS市内のとある学校の深夜の清掃員として勤務し始めた。その生活は学生時代よりも厳しいものだった。職場には一切の変化もなく、自分の表情も鏡から見て取れない。自分は何のために働き、何のために息をして、何のために生きるのか。完全に憔悴した彼は脳内で日々自殺と他殺を繰り返していた。
そんなある深夜、忘れ物をした1人の教師が職員室に入っていくのを見た。彼は若く有能な数学教師で、生徒からも教師陣からも人気のある人物だった。それを見た
kyoichiは殺人衝動を抑えきれなくなってしまう。その場で数学教師を刃物で切りつけ殺害した。彼は狼狽した。自分がやった事ではあるが、その直後人を殺したという明確な実感が手に付着した教師の血液のようにべったりと彼にこびりつき、脳裏を蝕む。吐き気、不安、興奮、罪悪感、恐怖、後悔すべてが波のように押し寄せる・・・・。
どれほどの時間が経っただろう。もう朝が来ていた。教師陣たちがまばらに見え始める。彼は焦った。あのまま気を失ってしまったのか、なら死体は?探すがどこにも見当たらない。それに血まみれの清掃員が椅子に座っているというのに誰も気に留めない。いくら自分に個性がないとはいえおかしい。ふと手を見ると血は付いていなかった。すると一人の男性教師が「おはようございます。今日はいつにも増して早いですね。」と話しかけてくる。かなり焦ったが口から出た言葉は非常に落ち着いていた。「あ、おはようございます。ちょっと今日の教材がまだまとまってなかったんですよ。」自分の座っていた席の机には『
Omoto』と書かれていた。彼はそそくさとトイレに向かって気持ちを落ち着けようとした。顔を水道で洗い鏡を見る。そこに映っていたのは先ほど殺害した教師ではないか。どういうことなのか。彼は全く理解できず、その日は体調がすこぶる悪いと言い訳をして早退させてもらうことにした。
帰宅しようといつもの道を歩くがどうにも思い出せない。自分の家はどこにあったのか。いずれ思い出すと思い彼は当てもなくしばらく歩いた。すると10分ほどすると「
Omoto」という表札のかかった家に着く。そこが自分の家であるという一種強迫観念のようなものにとりつかれる。鍵がない。だが、彼はなぜか玄関の反対側の植木鉢に隠してあることを知っている。入ると一度も来たことのないはずの部屋だが、どこか懐かしい。そしてなんの違和感もなく服を着替えた。彼は
Omoto kyoichiとなった。
現在は数学教師としてS市内の学校で働いている。
能力:「空白の同一性(ゴーストアイデンティティ)」
kyoichiは人を殺害するとその人物の内面的部分(性格、個性、記憶など)を自分に取り込むことができる。一度に2人以上の内面を取り込むことはできないが、二人殺害して片方を選んだり、過去に殺害した者をもう一度取り込みんだりすることは可能である。その人物に染み付いた習慣なども反映され、
Omotoを取り込んだ時彼は気付かずにこの効果によって
Omoto然とした行動をしたというわけである。
最終更新:2016年10月17日 00:00