14話 既成事実を作れる男はキープしておくに越したことは無い
”前略、天国のおふくろ様。
変身した見た目からすりゃ俺のが年下だろ。少なくとも精神的には……
だってのに、何でお兄ちゃんだにいさまだとか呼ばれなきゃいけねぇの!?”
14話 ”既成事実を作れる男はキープしておくに越したことは無い その1”
前話まで:喋れるネギのペット・カモが颯爽と登場! ……あれ、何か忘れてない?
「ブライ・シンクロン・マキシーム!」
ヒト語を喋るオコジョのカモさん、情け無用臭漂う単語をシャウトしますと、突然白髪にケモノ耳が映えるお姉さんが登場!
「説明しましょう! それは5年前、ウェールズの山奥での出来事でした……運悪く人間の仕掛けたワナにはまってしまった私アイリーン・カモミール! そこを当時から美少女だったネギの姉貴に助けられ、マァ○に手当てされたヒュン○ルの如く慈愛の心に打たれた私は世話役兼ペットとして、姉貴に付き従っていくことを決めたのでしたー! ちゃんちゃん♪」
「……あの」
「ん、どうしたのよ明日太お兄ちゃん?」
「いや、そのナリでお兄ちゃん言ってくれるな……じゃなくて、お前誰だァァァァ!?」
ワナにかかったオコジョや妙に輝いてるネギのイラストで、分かりやすく出会いを説明するこの美女は間違いなくカモさんなのですが、明日太にいきなり信じろって無理よね。
「カモちゃんは人間の姿にもなれるんですよ、明日太さんっ。会った頃は背がもうちょっと小さかったんですけど、今じゃネカネお兄ちゃんに並んでるんですよ」
「中途半端に習ったワザだから耳やしっぽは残ったまんまだけどね……でも見た目も肉体年齢の影響を受けるから、ピッチピチの今の私が変身するとこんなにボンキュッボn痛たたたたたた!」
「……あのさ、調子乗んなよ?」
「ううう、ごめんちゃい姉貴……」
プロポーションに話が触れて、ネギがおっそろしい形相でカモの足をつねって凄みます。過敏だねぇ……
「ハァ、すんなり信じるようになっちまってる俺が恐ろしい……」
「まー、そのうち慣れるから気にしないことよん。それにしてもさすが姉貴よね、明日太にいさまみたく素質たっぷりなパートナーを探してただなんて。また1つマギステル・マギに近づいてるようで安心したわよー」
「そんな、明日太さんはパートナーじゃないよカモちゃん! い、一応探す努力はしてるんだけど、まだ……」
「んだんだ。確かにクラスで魔法を知ってるのは俺ぐらいだろうが、パートナーなんぞになってたまるかって。っつうか、にいさまなんて芸人みてぇな呼び方止めろ!」
勘違いを進めたカモがパートナーの話題を出してきて、ネギも明日太も微妙にぎこちなく答えています。
「あらら、やっぱりね……でも心配無用! ネカネ兄さんから直々に頼まれた私が、楽しくやらしくパートナー探しを手伝わせていただきます♪」
「ホント!? ありがとーカモちゃん、心の友よー!!」
「この程度で喜んでられないわよ姉貴! さっき風呂場で見た限りだと、明日太のあにぃに勝るとも劣らない逸材がわんさか……そーだ、ここ灰皿ってなーい?」
「うさんくせぇ勧誘みてぇだなオイ……あと仮にも中学生の前でタバコ吸おうとすんな! それにあにぃってドコから引っ張ってきた!?」
カモさんそこを勢いで押し切りまして、あっと言う間にネギをノリノリにしてしまいました。
「うさんくさいとは失礼デスねー、魔力的な素養とか誰に好意を持ってるとか、オコジョ精霊の能力なら察知できてトーゼンなのデスよ兄チャマ!」
「あぁ、もうツッコむ気も起きねぇ……ん、木乃香が帰ってきた! 早くオコジョに戻れ!」
悪ノリを重ねるカモにツッコミながらも、木乃香が帰ってきたらしいドアの音に気付いた明日太が慌ててカモの姿を戻させますと。
「ただいま~、何や騒がしかったけど……そうやカモちゃん、オコジョって肉食やゆ~てたから、鶏肉買うてきたえ~」
「キー」
「このナリで肉食うのかこいつ……あ、チャイム鳴ったな、今度は誰なんだか……」
戻ってきた木乃香が見せたお肉のパックに喜ぶカモの横で、明日太が呼び鈴に気付いて来訪者を確かめに行きまして。
「こんばんわ明日太ー。さっきのカモちゃんどうだった、殺っちゃってなかった?」
「何だまき男か……ってヤなこと思い出さすなよ。まぁ木乃香が手当てしたし、大丈夫なんじゃねぇの」
「そらよかったなー。そうや、カモちゃんもっとじっくり見てみたいけどええかな? さっきはすぐ明日太が叩いてしもーたし」
「だからイジるなっつってんだよ亜貴! 見るっつったってなぁ、ネギに聞いてみないとどうしようもねぇぞ」
「私はOKですよー、今そっちに連れて行きますねっ」
尋ね人のまき男や亜貴たちが見たい見たいとせがんできまして、快諾したネギがカモを抱いて廊下に出てきました。
「うわー、これフェレット? かわいーなー」
「いや、オコジョ言うとったやんけ……それにしても浴場うろつくなんて変わっとるなー」
「ちょっとズルいよ2人とも、私にも触らせにゃよー」
「やっぱペットがいるといいよねー。うちのクッキとビッケに会わせてあげよっかー、カモちゃーん」
寮暮らしだからなんでしょうが、可愛い小動物をキャイキャイと触りたがる皆さんにネギもカモ自身もちょいと引き気味です。
「あ、あの、あんまり乱暴しないで下さいねっ」
「キー、キー」
「……そういえばネギ先生、ペットを飼うんでしたら許可取らないといけませんよ」
「そ~やった、ウチがプリント貰って来るから待っててな~」
そこにこっそりといたのどかが指摘してきまして、木乃香が部屋を出て階下へと降りていきました。
「……でも良かったなー、カモちゃんがいてくれたらパートナー探しもはかどるよー」
「あんなにみんなを興奮させちゃうなんて、私ってば罪な女だわ……」
「……ホレ、鶏肉切れたぞ。ったく、何で木乃香も俺に任せるかねぇ」
部屋に戻ったネギとカモは歓迎されていたことに浮かれてますと、台所で調理用バサミ片手に鶏肉と格闘していた明日太に呼び止められました。
「わーい、お兄ちゃまありがとー♪」
「……いや、ホントにツッコんでやんねぇ。しっかし生で大丈夫なのかよ」
「まー、生肉だけじゃなくて人間と同じ物も食べられるけど、木乃香姉さんに変だと思われないようにしないとだし……あ、冷蔵庫の中身教えてねお兄様、誰もいないときツマむから」
「少しは居座る態度になれやコラァ! あと今度はお兄様かよ!?」
皿によそわれた肉にがっつくカモと、コロコロ呼ばれ方が変わってイラつく明日太が漫才調で言い争っていますと。
「……あ、そうだ! 後でネカネお兄ちゃんに、カモちゃん寄越してくれたお礼のメール書かないと……」
「た、タンマよ姉貴! そこら辺は私がちゃちゃーっとやっちゃうし、それに……」
「……”それに”? どうしたのカモちゃん?」
ネギが魔法のこもってるっぽい紙を取り出しているところに、カモがせかせか走り寄って制止しました。
「え……あ、あのね……そうよ! さっき私を見に来てた生徒いるじゃん、その中にパートナーにうってつけの子がいたのよ!」
「ほ、ホントなのカモちゃん!? 誰なの、教えてっ!」
「教える、教えるから握っちゃらめぇ……んー、ピンと来たのはいいんだけど名前分かんないのよねー。写真とかあればいいんだけど……」
「あーそうだよね……それじゃ、この名簿で教えてよ」
到着早々に朗報をもたらしたカモを握り締めて喜ぶネギが、名簿を開いてテーブルに据えてカモが選ぶに任せますれば。
「はーいはいちょっと待っててねー、確か物静かってかネクラっぽいこの……へ……」
出席番号の頭から検分して回っていたカモさんですが、突如一点に目が留まってガクガクブルブル震えだしました……いかがなすった?
「あれー、誰だったのカモちゃーん」
「……あ、姉貴、一つ訊いていい? この26番のエヴァンジェルって子、まさか吸血鬼だとかそんなんじゃないよね? よね?」
「え、エヴァさんは、その……残念ながら……」
「マジなの姉貴!? エヴァンジェル・アルバート・キッド・マクダウェルって言ったら、吸血鬼の真祖にして邪悪かつ強大な魔法使いで有名だったのよ!? 女子供は対象外だったとはいえ、数え切れない数の人間を殺して600万ドルの賞金首になってるし……15年前に突然姿を消してからどーなってるかは知られてなかったけど、まさか日本で中学生やってたとは……」
ネギが首を縦に振るや否や、カモさん興奮してエヴァンジェルの逸話っつーか悪名をベラベラ捲くし立ててます。
「うっせぇよテメェは、隣とかに怪しまれっだろ!? 大体そんな末恐ろしいヤツだってのは俺らだって知ってるわい、っつうかエヴァンジェルが俺らにケンカ売ってきたから、パートナーが必要になってるんだよ」
「おにいたまはカタギだから怖さが分からないのよー、私らオコジョ妖精にも悪事の程が知れ渡ってるぐらいの極悪人で、今まで15年も沈黙してたのが奇跡としか思えないぐらいなんだからー!」
「だったら心配ねぇって、ヤツなら学園に封印されてて実力出せねぇから、満月を外せば倒せなくはねぇんだって! あと呼び方1つに決めとけ!」
そこに明日太が首を突っ込んで揉め始めますが、どっちも大音量なもんで近所迷惑は続行のようです。
「あのカモちゃん、それでパートナーになりそうな人って……まさかエヴァさんだとか……」
「あーそれは違う違う、ホラ、この27番の……宮崎、くん? ウン、この子この子ー」
「え……宮崎さんっ!? お、思い当たるフシが無くは無いけど……」
「本屋がかぁ!? まぁ、なれたらなれたで一番喜びそうなヤツではあるよな……」
ネギの指摘で急に調子を戻したカモが前足で指しますは、僕らの本の虫・宮崎のどかでありまして、明日太はともかくネギはやや不安気味に……
「ちょーっと女の勘みたいなのも入ってるけど、”意外とカッコいい顔”なーんて書き込んでる姉貴にはおあつらえ向きかと思ってねー」
「え、それは気の迷いって言うか、オカズにされてることを知らなかったからって言うか……」
「あのなお前ら……エヴァンジェルを叩きのめすために選んでることは覚えてるよな?」
一気に緊張感を失って駄弁るネギとカモに、武闘派らしく注意をする明日太ですが、コトはパートナーなんだし仕方ねーって。
「そ、そうですよね明日太さんっ! イザと言うときの為に日本の法律も知らないといけませんし……とりあえず、少し考えますねー!」
「法律って何だよ、裁判沙汰か、裁判沙汰にするつもりか!? まぁ、本屋もアレだしないと言い切れねぇ気も……」
「アイサー姉貴、ファイナルフュージョン承認は早めにねー」
「待てコラ! プログラムドライブをそういう表現に使うな!」
何分急には決められないことでもありまして、ネギさん思いつめて部屋の外へとエスケープしちゃいましたよ。
「あらあらアニキってばー、私は力を合わせることの例えで使っただけなのに。どんなヤラしいこと考えてたんだか……」
「るっせぇ、余計なお世話だ! ……あ、手紙取り忘れてたみたいだな、ネギの兄貴さんからのエアメールか……」
墓穴掘ったツッコミを怒鳴って流そうとする明日太が扉を閉めますと、郵便受けにいつぞや送り先のことで叱って見覚えのある手紙が。
「何ですとー!? ちょっと兄上様、タンマ!! ここは居候の私が責任持って渡してくるから、ね!?」
「あぁ、別にやってくれる分には構わねぇが……」
「それじゃ手紙預かるよっ! はー、兄君さまのお役に立ててワタクシ幸せですわ~ポポポ♪」
「さっきから言ってるけどマジメにやれ! ったく、何でオコジョとボケツッコミをこなさなきゃならねぇんだか……」
手紙をかっさらってネギを追っていったカモに頭を痛める明日太くん。そんな彼の懸念はどこへやら、騒動はまだまだ序章の段階であります。
近衛木乃香 曰く、
”カモちゃんには明日太がおイタから入っても~たからな~、ウチとネギちゃんでちゃーんとお世話したげよ~。
……あ、何食べるかなんてネギちゃんに聞けばよかったかもな~。ネズミ食べさせてたとか言われたらお手上げやけど……”
”前略、天国のおふくろ様。
何さ、俺に一体何の恨みがあるんだよ!
熊といいリ○ゴォといい、ロクな登場の仕方してねぇじゃん! 大体どこに笑いの要素あんの!?”
14話 ”既成事実を作れる男はキープしておくに越したことは無い その2”
前回まで:カモさんの大分析の結果、のどかにパートナーの白羽の矢が!? レ○プENDも覚悟ですな……
「……うらぁテメェ! このエロオコジョがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
明くる日の早朝、まだ新年度も3日目だってのに明日太の咆哮が突如寮中に響き渡りました。
「……ん? 明日太さん、どうかしたんですかっ」
「ネギちゃんおはよ~。カモちゃんがな、明日太の”花の慶次”パンツを布団代わりにしても~たんやて」
「あぁ……俺のカブキ者が、”だが、それがいい!”が……」
「は、はぁ……っていうか、そんなパンツドコで買ったんですか」
しっかり明日太のベッドにもぐりこんでいたネギが目を覚ましますと、カモの寝床にした戸棚からガラパンを引っ張り出して落涙する明日太の姿が。
「……聞いてっかテメェ! ペットのクセに人様の下着かっぱらうとはいい度胸だぁな!! っつうか寝床作ってやったろ、何が不服だコラァ!」
(だってぇー、男物の素っ気ない布地が好きで好きでたまらないんですもーん。それより兄や~、あんまり締めると感じちゃいます~)
「感じるじゃねぇだろ!! あぁもう、コイツの相手ネギ以上に腹立つぅぅぅ!!」
一応握り締められているカモはヒソヒソ声でからかいますが、頭に血の上った明日太は大声で大反論ですよ。
「あはははは、明日太も動物相手に大げさやな~」
「は、ははははは……そ、そうですよねっ……」
まさかカモが流暢に日本語喋って、明日太を手玉に取ってるとは知らない木乃香さんにはギャグとしか見えません。ネギも思わず引きつった笑みを浮かべてます。
占い研の部室に所用がある木乃香を除き、明日太とネギ、ついでのカモが駆け足で登校しておりますれば。
「ハァ、高かったんだぞあのパンツ、汚しやがって……っつうか、何も俺のパンツを取るな! どうせなら木乃香のとかネギのとかにしろ!」
(女物は軟らかすぎて好かないんだ。ウェールズでもネカネ兄さんの下着を使わせてもらっていたし、協力して欲しいな兄くん)
「少しは反省しろやテメェェェェェ!」
「まあまあ、明日太さんも抑えましょうよっ。あんまりカモちゃん相手に大声出してると、アブない人だと思われますよー」
未だに怒りの収まらない明日太とまともに取り合わないカモをネギが仲裁していました。毎度のことだが、理由が普通じゃねーって。
「しゃあねぇな、ったく……そういやぁネギ、パートナーはどうするんだ。本屋で大丈夫なのか?」
「え……それが、こんな形で宮崎さんを巻き込むのって、ちょっと悪いんじゃないかなーなんて……」
(何迷ってるのよ姉貴、相手は最強と名高い吸血鬼よ! 味方は多いに越したことはないし、何より私のセンサーがビンビン反応してるんだから! やるなら今っきゃない!)
「いや、お前のカンはアテにしたくねぇ!」
そこに明日太がパートナーの件を切り出しまして、躊躇するネギをカモが必死に煽ります煽ります。
(フフフ、オコジョ精霊の力を見くびらないで欲しいね兄くん……あ、自然に兄くんって出たわねー、メインこれにしよー)
「テメェはいいから黙ってろ! まぁ、決めるのはネギだからな……本屋の性格考えると、今回だけパートナーとか通用しねぇと思うから慎重になれよ。じゃあな!」
「あ、はいっ……」
ゲタ箱が見えてきたこともありまして、明日太は急かさない言葉をネギに告げて教員側へ送り出しました。
「世話が焼けるぜ、あのオコジョは下らねぇことしか言わねぇし……あれ、アイツってネギの肩に乗っかったままじゃなかっt」
「待ちなさいネギ先生、その肩の動物は何ですか!? 教師がペットを学校に連れ込むとは一体どういう了見で……」
「はうっ! に、新田先生ごめんなさいっ!!」
「あぁ、やっぱり……」
上履きに履き替えたところで、明日太が突然響いた怒号の元を見てみますと、予想通りカモを見つけられて叱られるネギのお姿が……ま、そりゃそうだわ。
ネギには波乱の幕開けだったらしい今日の3-Aでしたが、エヴァが引き続きサボっていたこともあって、平穏無事に帰りのHRのお時間になりました。
「それではホームルームを終わります。明日も元気に登校してきてくださいね……」
「今日のネギちゃんも元気ないな~。カモちゃん学校に来てええっておばあちゃんがOKしたのに、まだ悩み事でもあるんかな~?」
「まぁ、人生を左右することだしな。俺らにどうこうできやしねぇって」
昨日ほどでないとはいえ、覇気が抜けているネギが教室を後にしまして、木乃香に限らず心配する声が飛び交っております。
「……あ、そうだそうだ! 本屋くーん、おととい桜通りで吸血鬼に襲われたんでしょ!? 是非まほら新聞に独占取材させてよ!」
「え……こ、困りますよ、これから図書委員の仕事がありますし……そ、それじゃ!」
「あ、ちょっと本屋くん待ちなよ……あらら、いつもらしからぬ逃げ足の速さだなー」
そんな中で朝倉がすっくと立ち上がり、報道部の血が騒ぐとばかりにのどかに吸血鬼事件の取材を掛けますが逃げられてしまいました。
「あや、おとといのことバレてもうてるな~。ウチは夕くんとパルにしか喋ってへんのに、どこから知られたんやろ?」
「いや、お前隠す気ゼンゼンなかっただろ!? 夕はともかくハルナに言うか普通!?」
「そーだった! 明日太も吸血鬼に襲われたんだよね、詳しく話を聞かせなさいっ!!」
「るっせぇ朝倉、お断りだ!」
漏洩元にツッコむ隙さえ与えることなく、朝倉の魔の手が明日太まで伸びてまいりました。
「そういうわけにはいかないなー。麻帆良のみんなの知る権利を守るため、覚えてることを一切合財吐かせてもらうよー」
(冗談じゃねぇよ、ネギやエヴァンジェルのことを喋るわけにもいかねぇんだ! ここは逃げるしかねぇ!)
「……あぁ、俺美術部に急用があったんだわ! 木乃香、適当に相手しとけ!」
「ちょ、待ちなさいよ明日太ー! 美術部ってアンタ幽霊部員じゃん!」
「適当言うてもな~、ウチはのどかくんのカバン運んだだけやし……」
三十六計逃げるに如かず、明日太はゲロらされる前にと教室から全力で逃げ去りまして、朝倉も追いかけますが足の速さでは敵にもなりません。
「……ハァ、ハァ、こればっかりはネギと打ち合わせしとかねぇと危ないよな。電話しとこう……ん?」
ひとしきり逃げ切った明日太が、ネギを呼び出そうとカバンの携帯を取り出そうとしたところ、何だか見慣れない冊子が入っておりました。
「何だコリャ……”君もマギステル・マギになれる! スーパー・パートナー契約SOSブック(ベルサウンド出版 刊)”? マギ何たらってことは魔法の本か、朝オコジョとドタバタした時に入ったのか?」
手にとって見れば魔法関連の代物でありまして、カバンでカモフラージュしながら明日太が中をピラピラめくっていますと。
「はぁ、ピンク色ってのがやらしさ全開で読みづらいな……ん、ページの角折ってあるぞ。なになに……”本格的な契約を結ぶのは、魔法使い・従者共に一定以上のスキルが不可欠になっている。そこでまずはお試しとも呼べる仮契約を結んで……”って、読んでてワケ分かんねぇな。別んとこはどうなんだ?」
魔法のイロハも知らない明日太にはちんぷんかんぷんな内容でしたが、どこか興味をそそるみたいで黙々読みすすめていましたが。
「あ、マーカー引いてあるぞ……”仮契約を結ぶための儀式では、まず魔法陣の展開が前提! 契約方法は多々あるが一番簡単なのは……”……な、なんですとぉぉぉぉっ!?」
「……あ、ここにいたですね明日太さん。つーかどうしたですか、そんなヒドい形相で大声あげて」
とあーる箇所を読み上げているうちに、内容にびっくり仰天してしまった明日太くん。そこに夕がひょっこり現れてツッコミます。
「あ、イヤ何でもねぇんだ夕! それより何か用か!?」
「いえ、のどかがこれを拾ったというので、ネギ先生に渡していただきたくですね……」
咄嗟にゴマカして用件を尋ねる明日太に、夕が手渡したのは見覚えのある封筒でした……あれ、エアメールとか英語で送り元が書いてあるってまさか!
「な、これってネギの兄貴さんからの手紙じゃねぇか! オコジョが渡したんじゃねぇのか!?」
「一体オコジョに何を任せていたのですか……のどか曰く、寮の廊下のゴミ箱に入っていたそうです。封を開けてない手紙を部屋の外に捨てるのも不自然なので、ネギ先生と待ち合わせだと浮かれてたのどかからかっぱらって来たです」
どうにもカモさん、行動が怪しすぎです。そこにのどかがネギと待ち合わせだなんて怪しいこと極まりないお話が。
「待ち合わせ……オイ夕! その、本屋がどこに行ったかとか分かるか!?」
「はあ……詳しい場所は聞いてませんが、寮の方へ向かっていたですね」
「分かった! サンキューな、夕!!」
こりゃバカでもトラブルを確信するってもんで、明日太はのどかの行き先を聞き出したが否や一気に走り出しました。間に合うの!?
「ね、ネギ先生、僕も初めてですけど、怖がらないで下さいね……」
「ほ、ホントにやっちゃうんですかっ!? イヤ、私、もっと記憶に残るシチュエーションの方が……」
(だらしないわねー姉貴! どうせ5年もすりゃ初めてなんて忘れるくらい経験するんだし、YOUやっちゃいなよ! 愛はオコジョを救うんだってば……)
少し時間の進んだ寮の裏手、魔法陣が光り輝く中でネギとのどかを影で急かすカモさん……あ、志村後ろー!!
「待たんかいこのエロオコジョォォォォォ!」
(むぎゃぁぁぁぁぁーーー!!)
「え、明日太さnあいたっ!!」
「ごふんっ!!」
オコジョさんの背後に瞬く間に参上した明日太がピコハンの一撃で仕留めまして、魔法陣が解けたのと明日太の登場に驚いてネギが背筋を伸ばしたら、顔を近づけていたのどかと額をぶつけ合って大打撃! のどか君がダウンしちゃったよ……
「ちょ、どうしたのですか兄君さま、私は青少年の健全なお付き合いを応援してただけで……」
「ほぉ……男物の下着を盗みまくって指名手配になってて、ネギの兄貴さんに頼まれたとウソついて転がり込んだ挙句、パートナーの契約だとかでキッスを強要しといて……よく言えたもんだなこの不健全野郎がぁぁぁぁぁぁ!!」
「いたたたたたたたた! め、雌オコジョ虐待ーっ!!」
捨てられてた手紙とカモが間違えて放り込んだ本のおかげで、すっかり真相を知ってしまっている明日太がさらにピコハンでカモさんをすりつぶすすりつぶす。
「虐待じゃねぇっ! 昨日お前が処分しやがった、ネギの兄貴さんからの手紙に全部書いてあったぜ! ネタは上がってんだよ!!」
「え……カモちゃんどういうことなのっ!?」
「ご、誤解しないで姉貴! 私が逃げてきたのはあくまで冤罪なのよー!」
「え、エンザイ……って何だ? 新手の野菜か?」
「無実の罪を着せられてるってことですよっ……とにかく話してみてよカモちゃん、私が力になれるかもしれないし……」
突然知らされた事実にネギが驚きつつも問い詰めにかかりまして、カモが自白モードに入るみたいです。
「あれは吹雪の止まない冬のこと……その日暮らしが精一杯では体の弱い弟を養うのも難しくて、やむなく仲間を募って人間の下着を盗んでは、売り払って弟のために毛布を買ったり男物をピンハネして感触を楽しんだり……」
「いや、思いっきり盗んでんじゃねぇか!」
「気付けば盗っ人の元締めってことになってて、これじゃ弟も養えないと密航して、ネカネ兄さんの名前を出してマギステル・マギ候補生の姉貴に取り入ろう……って思ってたけど、姉貴の信頼を裏切った成功に意味なんてないわ。それじゃ、私は断崖絶壁でF越さんに……」
「そんなことないよ、カモちゃん!」
しんみりといきさつを語ったカモはクールに去ろうとしますが、そこに感涙するネギが呼び止めまして。
「あ、姉貴……かばってくれなくていいわよ、手柄欲しさに無理矢理仮契約までさせようとしちゃったし……」
「でも、エヴァさんのことも真剣に考えてくれたし……それにカモちゃんがそんな苦労を背負っていたなんて知らなかったんだ、だから改めて私のペットになってよ! 一緒に世の中の為になることをして償おうよっ!!」
「な、なんて慈悲深い! 一生付いていくわ姉貴ー!!」
「あぁ、もう好きにしろ……」
勝手に桃園でするような主従の契りを固く結ぶネギとカモさん。明日太ももう呆れ果てるしかありませんで……そんなカモさん残留が決まったお陰で、パートナー騒動はさらに突き抜けていくことになってしまうのです!
ネットは1日1時間……あ、そんなん無理か。とにかく体を大事にしながら次回を待たれよ。
『……つーかやってられませんよ! 現実なら尻切れトンボもいいとこだし、妄想ならもっと先を見せてくれと……一応全年齢対象? 知りませんよそんなの!』
『あのー本屋くん、ネギちゃんとの待ち合わせの話はどうでもいいからおとといの……』
『どうでもよくないですよ朝倉さん! いいじゃないですか、昨今の少女漫画なら僕の妄想以上のことだって平気で……』
『いや、私は吸血鬼事件の取材で来たのにさー、マンガ規制をどうこう言われても困るって』
『とりあえず、食堂棟で大声で話すような内容じゃねーってことは悟れよです……それでは次回予告です。僕に出演依頼が来ていないのでよく分かりませんが、茶々丸さんと楓さんがメインになるとか……』
『ハイ次回、”ロボ娘? くの一? そんなのどうでもいいです、主役はネギ先生なんだから前面に押し出しましょうよ!”をお楽しみに!』
『ウソ予告以前に煩悩出しすぎだろです! 毎度エンディングはこんなキャスティングばっかりかよです、スタッフやる気あんのかです!!』
