31スレ111

「リボンなナイト11」

 +     +

温かそうな赤い服装のネギ・スプリングフィールドは、
巨大な銅像の台座、その壁に体をくっつけながら、じりっ、じりっと前進していた。
そして、バッと台座の角から先に飛び出す。
はっ、と振り返ると、正にそこに降下していた。
手応えを感じる、と、同時に、ネギの視界も真っ白に封鎖された。

 +     +

「うん、まあ、俺の方がちぃと早かったな。ようやったようやった」

掌にゴッテリすくったクリームをあむあむ食らいながら、小太郎がうんうん頷く。

「何言ってるのコタロー君!?僕の方が先だったでしょう」

ゴシゴシと袖で拭ったネギがムキになって反論した。

「何言うてんね…」

言いながら、小太郎とネギは、ひょいひょいと身を交わし、
手にしたパイで着実な反撃を成功させる。

「しかしまぁ、相変わらずアホなイベントやなぁ」

両手で後頭部を押さえて言う小太郎に、ネギの苦笑を返す。
2003年12月24日、
麻帆良学園では、クリスマス名物サンタ杯バトルレースの真っ最中だった。
学園中にサンタのコスプレが溢れ返り、パイが飛び交い白兵戦が展開される。
学園のそこら中に白いパイを積んだテーブルが設置され、スタッフが次々と追加していく。
人数の関係で、抽選で複数のチームに分かれ、時間ごとにレースを行う形式。
ネギと小太郎はBチームに所属していた。



「おーし、ほな行こか」
「うん」

人数が人数であり、当面は共同戦線を張るネギと小太郎が頷き合う。
飛んで来たパイをひょいと交わし、ニッと笑みを交わす。
学園某所に屹立するフラグをゲットすれば優勝、なのだが、
フラグ周辺エリアには攻撃専門キャラが待機していて、
ここでは顔面パイで指定エリアまで強制撤退と言うルールになっている。
取り敢えず、この辺に集結してるライバル達を二人で片っ端から一時停止させる。
パイ以外の暴力行為は御法度、すばしっこさとテクニックだけの勝負は悪くなかった。

 +     +

「おしっ、こっからやな」

クリスマスイベントとして大開放された建物の中で、小太郎が模造暖炉を指差す。
小太郎とネギがそこに潜り込み、そのまま梯子を伝って煙突を模した通路を上っていく。

「ふうっ」

梯子で登る縦型トンネルが終わり、開けた場所に出る。
取り敢えず、ネギは手近な梁にひょいと飛び乗る。
既に、小太郎がそこに乗ってきょろきょろしていた。

「天井裏に出たみたいやな」
「だね…」
「む」

小太郎がすっと遠くに視線を向け、ネギもそちらを見る。

「あ、高音さん」
「よう」
「どうも」

そちらでは、セクシーブラックサンタ高音・D・グッドマンと、
可愛らしいミニスカサンタの佐倉愛衣が別の煙突から現れ、離れた梁にひょいと飛び乗った所だった。
取り敢えず、ぺこりと頭を下げたネギと気軽な小太郎に、新たに現れた二人は丁重に挨拶を返す。



「お二人もBチームだったんですね」
「ええ、お陰様で。ですからネギ先生」
「はい?」
「このクリスマスバトルレースにおける男女のLR、当然ご存じですねネギ先生?」
「え?男女の?」

高音からの不意の問いに、ネギは戸惑いの仕草を見せる。

「そう、このレースにおいて異性からのパイを顔面で受け止めた者は、
その相手に誘われたクリスマスディナーを断ってはならない。
これは、麻帆良のクリスマスの風物詩として長年受け継がれてきた由緒正しい仕来りなのです」

高音が決然と宣言したその時には、スチャッと構えを取った高音の両手と
その背後でうぞうぞ蠢く大量の触手にはこんもりたっぷりクリームパイがしっかり乗せられていた。
ネギは自分を指さし、高音はこっくり頷く。

「あ、あのですね高音さん、僕は先生としてクラスのクリスマス…」
「問答無用っ!!」
「はわわわーっ!!」
「おーおー、大丈夫かいな」

大量の触手を駆使して天井裏狭しと始まった激戦を眺め、
親指を額に当てながら小太郎が苦笑した。

「で、メイ姉ちゃん」
「はい?」

ちらりと振り返らずに後ろを見ながら、小太郎は尋ねる。
小太郎の背後では、愛衣が可愛らしくにこにこ微笑んで梁にたたずんでいる。

「その、後ろに隠してる手ぇの事でやな」

愛衣は、にっこり微笑みパイの乗った両手を掲げる。

「お行儀悪いですけど小太郎さん、お顔奪らせていただきますっ!」
「上等っ!!」

小太郎がニヤッと犬歯を剥き出した。


「ほれおっにさんこっちらーっ!」
「小太郎さん待て待てーっですーっ!」
「お待ちなさいっ!!」
「駄目ですうっ!!」

 +     +

「風呂は命の洗濯だねーっ」

女子寮露天風呂「涼花」では、級友らと共に早乙女ハルナが巨大な湯船を満喫していた。

「いやー、もちっとだったんだけどにゃー」

そんな一人、明石裕奈も湯船の壁に背中を預け、心地よい疲れを癒している。

「んー、うちらAチームに結構集結しちゃったからねぇ」

やはり戦い終えて一風呂浴びていた神楽坂明日菜が苦笑して、ふと天井に視線を向ける。

「あれ?ネズミさんかいな?」

明日菜の隣の近衛木乃香が、天井に視線を向けてはんなりと呟く。

「いや、これがネズミってんならカピパラかよ」

一際大きな音を聞き、長谷川千雨がぼそっと呟く。
天井からの物音はそんな面々から遠ざかって行ったが、

「あーーーーーーーーーーーうーーーーーーーーーー」

少し遠くの大浴槽の天井が派手な破壊音を響かせ、
悲鳴と共にどぶーん、どぶーんと落下するのを他の面々は大汗を浮かべて眺めているしかなかった。

 +     +

「ふむ」

天井の大穴から戻って来た長瀬楓が、
じゃぶんと下の湯船に着水してから一言口を開く。


「どうやら、イベント用通路と通常エリアの封鎖線が手違いで外れていたらしいでござるな」
「どうも、お騒がせしました」

湯船の中で解説する楓の傍らでは、
わらわら集まって来た面々を前にネギと愛衣がぺこぺこ頭を下げ、
亜子とあやかが目を回して湯船にぷかぷか浮いている高音をゆさぶっている所だった。

「ほな、俺ら戻るさかい」
「お騒がせしました」

ずぶ濡れの小太郎が平然と言い、ネギもそれに従い動き出す。

「待ちなさい」
「あたたたっ、アスナさん髪、髪はあっ」

そんなネギの後頭部で明日菜が束ね髪をむんずと掴み、ネギが悲鳴を上げた。

「あんたどんなレースして来たのよ、どろっどろじゃない。
こんなんで表出ていいと思ってるの?」
「え、いや、でもあのっ、あーっこのかさんっ!」

怪しい紙切れをばらまき始めた木乃香を見てネギが更なる悲鳴を上げた。

「はいはいこっちこっち、ほらちゃっちゃと済ませるから」
「あーーーーーーーうーーーーーーー」
「ははっ、ネギの奴、相変わらず姉ちゃんらにはダメダメやなぁ」

小太郎が冗談の嘲り笑いを浮かべ、入口に足を向ける。

「あー、コタロー君」
「ん、夏美姉ちゃん」
「コタロー君もあんまり他人の事言えないと思うけど、ずぶ濡れだし」
「ああ、ええて。後で風呂入るさかい」
「だーめ、コタロー君も」
「で、ござるな」
「へ?楓姉ちゃん?」


そこら中の浴槽から爆裂する水しぶきだけが目に見える痕跡。
「涼花」狭しと展開されるそんな水しぶきだけの追いかけっこを、
居合わせた面々は感心して眺めていた。

「あらあら、やっぱりケガしてたのね。
まずは、キレイキレイしちゃいましょうねー」
「………」

ネギを片手に大浴場を堂々と進む那波千鶴が、
ネギの先端にくっついた小太郎をジャグジー風呂にどぶんと投入した。

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最終更新:2012年01月28日 17:21
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