ボーイミーツ・ア・マン
さて。
聖杯戦争34番参加者、白銀武(しろがね たける)は当然ながら、この殺し合いにおいて生き残る事を希望していたのであったが、
どうにも状況は切迫の極みであり、それは壁に掛けられた彼の目論みの成功率がぎゅんぎゅんと下がっている事を示してもいた。
そんな彼は、今現在の小目標として信頼出来る旧友たちとの再会を目指していた。
幼馴染であり、輝ける黄金の大渦(ドリル・ミルキィ・パンチ)を持つ鑑純夏(かがみ みずか)と御剣冥夜(みつるぎ めいや)を筆頭に、
実に得難い人材ばかりがよくも自分の周りに集まったものであるなぁ、と、
健康かつ、少々自堕落なイチ高校生としては、自称天才である所の某理科教員の説を論拠にして、彼女らとの出会いを信じたくあった。
そうすれば、不思議と生き残れるような酷く漠然としてはいるものの、比較的マシな未来を描くことが出来た。
勿論、それは『ばるじゃぁのん』なる電磁媒体遊戯に興じる彼。
実に何不自由なく日々を過ごす現代人らしい感性の影響下ではあるが、彼なりの論拠に基づいてもいる。
一つ。あのモジャおじさんの言葉を信じるのならば、これは間違いなく人死にが出るデス・ゲームである事。
二つ。残念な事に、彼は極普通の一般人。聖杯だの何だのと言った異星系の言語にはとんと縁が無い。
三つ。得難い人材である所の彼の旧友と再会すれば、脱出、とまでは行かなくとも比較的生存の確率を増やせるに違いあるまい。
と、言うのも御剣冥夜は剣の達人であり、また、その知性と決断力は彼自身の及ぶ所ではないし、 委員長と彩峰は高い運動能力と、ラクロスを経て培われた信頼と体力。 鎧衣には、このような状況下では何より頼りに鳴る遭難時の生存自活、鑑からは明朗さと高い白兵能力を期待できる。
これだけあれば、例え宇宙怪獣が相手だって勝てるに違いあるまい。
白銀は、彼らの事を全く疑っては居なかった。
さて、ここで疑問に思われる方も居られるだろう。
そう。まりもちゃん、あるいは狂犬『神宮寺まりも』、及び白銀が呼ぶ所の三馬鹿、香月教諭、涼宮茜についてである。
後者三組については、幸か不幸か、白金は聖堂にてその姿を視認する事ができなかったのであるが、
問題は『神宮寺まりも』であった。
──あれ、絶対、まりもちゃんの皮を被った用心棒だよな、とは白銀武の述懐である。
要するに、彼女は少なくとも白銀の知る『まりもちゃん』などでは断じて無かった。
身に纏うのは、どす黒い憎悪。一直線にモジャおじさんを見つめて離さない瞳。
神宮寺まりもとは、白金武の知る限り、善良かつお人よしな女性であり──少なくとも、
刃のように鋭い目をあのような場でする女性で無い事だけは確かだった。
見た目も白銀の知る『まりもちゃん』と全く同じである所のその女性は少なからず混乱を誘ったが、
賢明な事に、白金は彼女の事を深くは考えなかった。
「いい物入ってろよ……」
ジジジー、とゆっくりとジッパーを下ろす。無論ズボンではなく、支給されたディバックである。
白銀からすれば、大慌てで否定すべき事であるが、彼はその瞬間高揚を覚えていた。
元より、対戦ゲームに熱中する少年が、この異常な状況下だ。
例え、思わず現状とゲームとを無意識に重ね合わせていたとしても、攻めるべきでは無いだろう。
何せ、ここが街中であれば黄色い救急車や国家権力の犬めらに大声で助けを求めたくなるような、
妄想じみた事を平気でやってのける連中だ。武器と言うからには、
『ズビーーーー!!』だとか『ドッキューーーーン!!』だとかいう物が入っていると期待するなというほうが無理である。
第一、余りにも重過ぎるのだ。よしんば不思議兵器で無かったとしても、重火器に違いあるまい。
そう信じて、白銀武がジッパーを下ろすと……
『中には マッチョがみっしりと詰ってゐた』
そんな幻聴を聞いた気がして、ジッパーを閉める。
見なかった事にして深呼吸を数度。そして再び開ける。
『バックの中には パンティーを握り締めたマッチョがみっしりと詰ってゐた』
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
白金は己を制する事が出来ず、その口からハジケた悲鳴をほとばしらせていた。
無理も無かろう。鞄の中に詰っていたのは、色黒のマッチョ。
しかも、微妙にシミの付いた見知らぬ少女のショーツを握り締めて、その彼は緩みきった寝顔を見せていたのだから。
女性ならばまだ良かった。どう見ても男で変態です。本当にありがとう御座いました。
驚くな、と言うのが無理な話である。
「う……ぅうん」
と、呻きにも似た声を漏らしたのは色黒マッチョであった。
瞬間、真剣に貞操の危機を感じ、脱兎の如く逃げ出そうとした白銀に、言葉が投げかけられる。
その意外なほど、正気じみた言葉に白銀は思わず振り返る。
けれども、マッチョは太ましいその腕に、ショーツを握りしめたままであった。
「問おう。君が私のマスターか?」
「問おう。お前は新手の変態かぁっ!?」
白銀武
【所持品:支給品一式(周辺にまとめて置いてある)】
【状態:アーチャー(?)を召喚。令呪・残り3つ】
【思考】
1・奥さん、変態です!!
2・知り合い、同志を探す
3・言峰を倒す
アーチャー
【所持品:なし】
【状態:召喚される】
【思考】
1・君が私のマスターか?
2・○○に耽っていた所を呼び出される。英雄だって男の子!!
最終更新:2007年02月22日 11:23