正義(ジャスティス)!! アーチャー仮面
あーるー時は正義の味方。あーるー時は悪魔の手先。良いも悪いも状況次第。
ぴゅーっと何処へ行く。掃除屋アーチャー。
少し、説明を挟みたいと思う。
聖杯戦争、とは本来であれば七騎のサーヴァント──殆ど『魔法』の域である所の使い魔のような物──同士が、彼らを呼び出したマスターと呼ばれる、主に魔術師からなる人間と共に戦う殺し合いである。
ここで言う魔法とは、人間には実現不可能な技術であり、それゆえにソレらを使う者達は畏敬の念を込めて魔法使いと呼ばれている。
それは兎も角。
本来そうであるから、と言って今回の異常な聖杯戦争でもサーヴァントが本来通りであるとは限らなかったのであった……!
アーチャーを呼び出した藪から離れ、木立の中で木を背に一人と一体は座っていた。
自己申告によれば、視力が良い、と言う所であるアーチャーの提案によって、である。
どちらかと言えば、真昼である事から彼には藪の中の方が安全にも思えたが、白髪頭によれば、いざと言う時に備えて逃げ道は確保しておいた方がいいらしい。
「……」
ところで、武は、アーチャーと不可思議な名前を名乗った怪人の、主に頭部を凝視していた。
「なんだ。惚れたか?」
「惚れるかっ!!それよりもその二等辺三角形を今すぐ脱げ……っ!!」
と、言うのもアチャ男の頭には、先程彼が握り締めていたショーツがすっぽりとはまり込んで居たので。
おまけに、ここまでの道中と言うものアーチャーは何やらブツブツと訳の解らぬ事を呟いてはどこからとも無く下着を取り出してもいた。
本来であれば、こんな間違いようの無い変質者からは1secでも早く逃げ出したい白銀ではあったが、
そうも言っていられない理由があった。
言うまでも無いが、デス・ゲームの最中である事と、アチャ男なる変質者が述懐した所を意訳すると
「ごしゅじんさまぁ~」となったからである。見るからに屈強な青年ではあるが、きっとバックの中に閉じ込められている内に、
精神に異常を来たしたのやもしれぬ。そう考えれば憐憫の情が武とて沸かぬでは無かったがやっぱキモイのでやめておきます。
さてさて。
変態のレッテルを張った輩に尻を向けるのは大変に危険ではあるから仕方がなしに武はアーチャーに向きなおり、
改めて君は何であるか、どうして鞄の中にディバックの中などに(女性の下着を握り締めて)入って居たのであるかと尋ねかけた。
そうすると、黒い服だけを身に纏った白髪男は何やら眉を歪めて難しい顔をしたのであるが、
すぐに、彼が見る所どう見ても一般人である所の白銀武へと口を開いたのであった。
「それよりも先ず、君は一般人のようだが……どうして聖杯戦争に参加しているんだ?」
「いや……そんな事言われても訳わからねぇよ! 目を覚ましたら教会みたいな所に居て……いきなり殺しあえだなんて……
って言うか、質問に質問で答えたらテストで0点って知らないのかよ……」
進むにつれしぼんでいく武の言葉に(恐らく、日常を懐かしがっているのだろう)、何やら下着兵は考え込むような様子を見せた。
彼が考えている事柄は幾つかあったが、先ずは現状確認をしなければなるまい。
目の前にいる、どうにも頼りなくも見える少年ほどではあるまいが、彼もまた常ならざる登場によって混乱していたのである。
躊躇い無く下着を被っているのだし。下着しか出てこない。
(彼が気づかなかった事ではあるが、何か詠唱も『あいあむ・まいぼーん・おぶ・■■■』に変質していた)
──我輩はサーヴァントである。名前は思い出せない。
ふと気づくと鞄の中でぎうぎう詰つておつた所を、見知らぬ少年に拾われたのであつた。
なんでさ。
まあそこまでは良いとしよう。何故、このぱんてぃを肌身離さずもつておらねば霊体より実体化する事も叶わないのかも置いておく。
しかし、それらを差し引いたとしても、現状は余りに異常だ、と遅まきながら白髪は理解した。
前述したが、聖杯戦争とは本来魔術師が行うべき闘争。だが、目の前に居るのはどう見ても一般人。
少年に二等辺三角形の令呪があり、パスが通っているとは言え、さっぱり魔力自体は送られて来ない事からもそれは解る。
このままで居る限り己が命は幾ばくも無かろう、と瞬間的に予想するが彼にして見れば大した事では無い。
サーヴァントが聖杯戦争にて死ぬは定め。今更恐るるには足らぬ。
おぼろげながら生前の記憶はある。人としての知識もある。今回が、第五回聖杯戦争だ、とか
それに順ずる常識、知識は恐らく聖杯からのものであろう。
だが、それはあっと言う間に闇の中に飲まれてしまって定まらない。
──どうにも嫌な予感ばかりがしていた。
まるで、本来であれば正常である筈の『サーヴァント』こそが異常であるかの如く。
要するに、己は様々において制限されているらしく、今回の聖杯戦争は類を見ぬ程異常であるらしい。
そこまで考えて忘れていた事を思い出し、アーチャーは再び口を開いた。
「マスター、私は君のサーヴァントだと言ったが」
やはり奴隷とな!? ある意味告白とも取れる言葉に尻を押さえて武は戦慄するが白髪はニヒルな笑みを浮かべると言葉を続けて、
「いやいや、我が事ながらとんだ迂闊だ……状況が状況とは言え、ろくに説明も無しに連れ出してしまうとは」
そう言うと、まず君に危害を加えるつもりはない、と前置きを付けて、
「説明を忘れていたのは済まなかった、が、私も状況が掴めなくてね」
つまりそれは、語り合えと言うことだろうか、と武は考える。
じっ、と目の前の男を見る。額に輝くのは白い下着。その現実を直視せよ。
「でも、とりあえず頭のブツは脱いでくれ。いや、頼むから脱げ」
ごめん無理。しかし、次の瞬間のアチャ男は
「今はそんな事を話している場合では無いだろう。と言うか、脱ぐと私も困る。理由は聞くな。聞かないでくれ」
彼は彼自身にエクスタシィ。
はてさて。
一体これはどうした事であるのか。ため息の一つでもつきたい気分であった。
他人の性癖は何であろうと尊い!と自己に言い聞かせて白髪と会話を交わした武は聞くに付け語るにつけ、
余りにどんよりとした状況への疲れと、目の前の男への戦慄を強めていったのであるが、
それはそれとして有用な(しかし多くはアーチャーにとっては常識であった)情報もまた多くあった。
聖杯戦争と呼ばれる物について。サーヴァントと呼ばれる物について。そして、彼自身の(冗談としか思えぬ)様々について。
終始白髪の物言いに圧倒されていた彼ではあったが、比較的素直に受け取る事が出来たのは現代っ子故であった。
待てど暮らせど一向に姿を現さなかった友人達の安否も気になる所であるが。
──まぁ、サーヴァントの状態が確認できると聞き、目を閉じた時、まぶたの裏に浮かんだイメージが下着だったのには、 思わず、教えられたばかりの令呪で『ではアーチャー、自害せよ』と衝動的に言いたくなったものだが。
EXではきっと変態仮面が出るに違いあるまい。危険である。
一方で、アーチャーにとっても白銀武がもたらした情報は実に恐るべき物であった。
62名もの人間の殺し合い。アーチャーは、その多くがただの少年少女なのだと言う武の言葉を額面通りには受け取らなかったが、
いかにこれが異常事態であるか、と言う考えには確信を抱くにいたっていた。
そも戦争である。その報酬は聖杯──つまりは、万能の大釜と言う破格極まりないもの。
万金を積もうが手に入れたがる輩の数は限りないであろうし、そうであるからには持てる戦力の全力を尽くすは当然である。
一瞬思い浮かべたのは代理戦争と言う言葉。力を望む者共が、己の手を汚さぬ為に考えだした手段であった。
しかし、ただの空想であろうそれは切捨て、武の口から此度の聖杯戦争の形式を聞き終わると、
彼は現実的に何をすべきか、と言う思考へと移って地面の上にふんぞりかえった。
「マスター」
「武でいい。それとアンタの事はアーチャーと呼ぶからな」
「それは解ったがね。武、君は以後私の指示に従ってもらいたい」
「はぁ!? アーチャー、あんた、俺の支給品なんだろ」
素っ頓狂な声で反論する武にアーチャーはくい、と被り物(パンティ)を正すと少年を小ばかにするような皮肉っぽい表情を浮かべ答えた。
「いや何、君が余りに頼りなく思えたのでね。お互い、せっかく参加したのだから生き残らなければ損という物だろう。
心配はいらん。私に任せて、君は精々後ろでガタガタ震えていてくれれば良い。
むしろ私もこんなパンツしか投影できない状態で巻き込まれたくないから、なるべく参加者とは戦わずに済む方法を模索したいんです」
アーチャーは実に現実的な男であった。
「今、本音が混じらなかったか?それに、俺は純夏や冥夜達と──」
「なんでさ。この状況で合流を望むなど下策もいい所だぞ、武。それは美徳かも知れないが、どうやって合流すると言うのだ」
鼻息を吹くと、武はディパックから携帯電話を取り出した。御剣財閥謹製の特別製である。
正直に言えば彼は、アーチャーの態度が気に食わず、自らの誇るべき友人達を示す事でその鼻っ柱をへし折ってやりたくなったのだ。
フルカラーの液晶を眺めつつ、慣れた手つきでピポパ。
携帯電話は使えないのではないか、と言う言葉に、まあ見てなってと切り返す。
「もしもし、冥夜。繋がってるか?」
数回のコールの後で繋がった受話器の向こう側へと、武は気安い調子で言葉を投げた。
『…………』
「おかしいな……冥夜?」
が、返事は返らない。何かにこすりつける音だとか、そんな僅かなノイズが聞こえるばかり。
「冥夜……冥夜? おい!」
『…………』
返事が──返事が無い!? 武の顔が、瞬間的に真っ青になったのをアーチャーは見た。
誰かに見つかったらどうするつもりだ、と言う静止の言葉にも構わず何度も冥夜、と叫ぶ。
『へぇ──あの子』
そんな、うすのろな電波が届けた声を聞いた。
「誰だ手前ぇ!! 冥夜に何しやがった!! 答えろ!! 答えやがれ!!」
『そんな事はどうでもいいよ。ああ、それから……』
携帯電話に対して、立ち上がって激昂する武を見て、白髪は事態を察するが声はそれよりも早く言葉を投げかけていた。
『私の名前は三枝由紀香(さいぐさ ゆきか)。それじゃね』
その名前を最後に、ぷっつりと電話の声は途切れた。同時に、がくり、と武の腕が垂れ下がる。
顔は呆然としていたし、足はしだいにがくりがくりと震え始めている。
冥夜が……?あの冥夜が!?
電話口から現れた声は、白銀武の心を一発の銃弾をも使う事無く打ち砕かんとしていた。
彼の脳裏には、声の主が本当は冥夜と合流した別の参加者であり、今のそれはその誰かの悪ふざけに違いあるまいと言う妄想がもくもくと立ち上っており、慌ててかけなおすものの、返ってくるのは着信拒否、と言う冷たい言葉ばかり。
とりつかれたように携帯電話を弄くる武に、ややあってアーチャーが口を開いた。
「君の友人か?」
答えは無く、ボタンを操作する電子音がその代わりだった。
くそっ、そう吐き捨てると携帯電話をズボンのポケットに突っ込むなり、ディバックを引っつかんで走り出そうとする。
「落ち着け。君の友人が死んだ、とは限らないぞ」
「じゃあ何で違う奴が出るんだよ! 冥夜は……冥夜は、こんな所で死ぬ奴じゃ無い筈なんだぞ!!」
「だからこそ、だろう。君は自分が生き残る事を考えるべきだ」
「何でだよ……冥夜が、冥夜が危ないってのに」
ふん、と息を吐くとアーチャーはさも失望したかのような声で言った。
「犬死するつもりか?そんな男の友だと言うなら、冥夜とか言う奴もたかが知れている」
「──ッ!」
「だから、と言って私に八つ当たりをするのは止める事だ、白銀武。
今、君に出来る事は冥夜と言う者の生存を信じる事で、すべき事は生き残る事だ」
「けど……」
アーチャーにしてみればそれは失笑ものの言葉であったが、早々に武に死んで貰う訳にもいかないと言う思惑があった。
召喚の手続きが甘かったのか彼は色々と混線した状態ではあったが、サーヴァントとしてはマスターの勝利は望む所であるし、彼自身にしても、何故か聖杯には酷く惹かれていたのだった。
「アーチャー、俺」
アーチャーは次に何を言うべきか慎重に吟味していたが、不意に武が口を開く。
「やっぱ、皆を探しに行きたい」
それは真摯な言葉であったが、白髪頭の想定通りでもあった。
「……なぁ、駄目か?」
考える。ここで、否定する事は容易い。生き残る事を目的とするなら、好機をじっと待つべきであろう。
一度動き出す事を覚えてしまえば、容易くその選択肢を目の前の少年は繰り返す気がした。
が、それは主従の間に不和を巻く原因ともなろうし、後々を見据えるなら武器も欲しい。
戦闘の経験は兎も角、サーヴァントとしての己が今や、間違いなく並以下である事は彼自身が一番良く解っていた。
果たして。どちらがより賢い選択であろうか。下着兵は目を瞑り熟考を始める。
やがてアーチャーが目を開き、被り物の端を風に揺らしつつ、言った。
その顔は鉄のようであったが、髪の毛は丁二つに割れている。
「了解した。精々気をつけろ、マスター」
【時間:1日目・午後17時00分】
【場所:木立の中】
白銀 武
【所持品:支給品一式(周辺にまとめて置いてある)】
【状態:アーチャー(?)を召喚。後ろの方に危機を覚える。令呪・残り3つ】
【思考】
1・知り合い、同士を探す
2・冥夜を探す
3・言峰を倒す
アーチャー
【所持品:なし】
【状態:召喚される。召喚事故があったらしく弓兵から下着兵に。赤い外套、及びマスターからの魔力供給無し】
【思考】
1・サーヴァントの役目に則って、マスターを生き延びさせる
2・武器を探す
3・出来るだけ交戦は避けたい
最終更新:2007年02月22日 11:24