リボルバーにくちづけを ◆X8NDX.mgrA
傷付いたガンマンを気絶から回復させたのは、頬を撫ぜる風だった。
このとき
ホル・ホースには、単なる自然現象に過ぎない風が、やけに優しく柔らかに感じられた。
まるで純粋な愛情を向けてくる女の、滑らかな肌のような感触。全ての女を敬愛する男にとって、これほど心地いい感覚はない。
しばらくの間、ホル・ホースは風が流れるのを楽しんだ。
そうして目を開けたものの、視界が明瞭でない。それは疲労や消耗だけが原因ではないと直感的に理解して、同時にホル・ホースは嘆息した。
先程の戦闘は、どうあがいても夢ではなく現実。
ガンマンにとっての生命線の一つである“目”の片方を失ったのだと。
(妙な気分だな、コリャ……)
片目の視力がない状態は、戦闘では大きなディスアドバンテージだ。
相手との間合いが測りにくくなる上に、死角が増える。
地下闘技場のチャンピオン・
範馬刃牙と、鎬流空手の使い手・鎬昂昇の勝負が好例だ。
相手の神経を直接切る技、『紐切り』により視力を奪われた刃牙は、昂昇との間合いを測ることが困難になり、苦戦を強いられた。
範馬の血を引く天才の刃牙は、それでも対処して見せたのだが。
スタンド以外に天性の才能を持たないホル・ホースに、チャンピオンと同じことをしろというのは無茶だろう。
これから先、戦闘には細心の注意が必要になる。
(俺の『皇帝(エンペラー)』が実力を発揮できなくなるのは、ちとショックだぜ)
声には出さずにぼやくホル・ホース。
とはいえ、盲目のスタンド使いも存在はする。
エジプト9栄神が一柱、『ゲブ神』のスタンド使い・ンドゥールは、砂漠で音や感覚を頼りにジョースター一行を急襲した。
常人と比べて大きなハンデを抱えているが、その強さは確たるものだ。
そんな彼らとホル・ホースは根本的に違う。
ンドゥールは、視覚の代わりに鋭敏な聴覚と感覚を得ている。
対するホル・ホースには、先にも述べた通り、天性の才能や鋭敏な感覚機能はない。『皇帝』のスタンド一つで暗殺稼業を続けてきた。
しかし、そもそもホル・ホースは、己に才能がないことを後悔していない。
自分が誰より上手い鉄砲を撃つガンマンだと自負しているのだから。
(なにせ、俺のハジキの腕前はグンバツだったからな)
ホル・ホースが暗殺者を続けてこられたのは、『皇帝』が暗殺に非常に適したスタンドだったからという点も大きい。
一般人には見えない銃。本人の目に映る範囲なら、自由に軌道を変化させられる弾丸。
狙撃手の存在を知らぬ間に、眉間を撃ち抜かれて死んだ人間が、果たしてどれほどいるだろうか。
強いて言うなら、そのようなスタンドを発現させたこと自体が才能か。
(まあ、ここじゃあスタンドもパンピーに見えちまってるんだけどな……)
それがこの島では一般人に可視化され、更には左目を失う始末。
とはいえ、可視化という措置でスタンドが制限されていることは、既に理解していたことだ。
失明については、何もホル・ホース自身が不覚をとったことばかりが原因ではなく、凶悪な相手と遭遇してしまった不運もその一因だ。
己の不運を恨むのも、もう何度目になるだろうか。
(まぁ、クヨクヨ悩んでも仕方ねぇ。
いつまでも無防備にはいられねぇし、起きてどこか、安全な場所へ……)
考えをまとめながら周囲を見回す。他の参加者の姿は見えない。
危険な参加者がいる以上、安全な場所などありえないのだが、それはそれ。このまま動かずにいる方が危険だと、ホル・ホースは判断した。
上半身を起こそうとしたが、折れた肋骨が邪魔をする。
「イテテテ……」
ホル・ホースは戦闘スタイルが拳銃なだけに、特性上こうした物理的な痛みを受けることはあまりない。
これが本当の骨折り損か、などと留まることのない愚痴や後悔を垂れながら、どうにか立ち上がる。
体を少し曲げて楽な姿勢を取ることで、呼吸を楽にする。
「あー……まずは水だな」
そうして落ち着いてから、ホル・ホースは、懐から取り出した青いカードでペットボトルの飲料水を出した。
喉がはり付くように渇いていたのだ。
キャップを無造作に開けてその辺りに投げ捨てると、ぐびぐびと一息に飲み干す。
続けてもう一本。今度は瓶のビールをぐいぐいと飲む。これは流石にイッキとはいかなかったが、それでも時間を空けずに飲み干した。
「かぁ~っ!美味い!」
美酒に酔い痴れながら叫んだホル・ホースは、ついでとばかりに赤いカードを使用した。
取り出したのはハンバーガー。原型はアメリカで誕生したとされ、アメリカ合衆国を代表する国民食と表現されるファストフードである。
ちなみに、原型が誕生していた時期については諸説あるが、少なくとも二十世紀の初頭には既に生まれていたと考えられている。
ホル・ホースの着ている衣装からすると、微妙に時期がずれているが、そこはご愛嬌。
見た目はガンマンでも、一九八七年を生きる男なのだ。
(カードから出た食いもんなんて、怪しすぎるがよぉ……)
アツアツのハンバーガーをまじまじと見つめるホル・ホース。
カードから武器が出ることもそうだが、食べ物が出ることはそれ以上の衝撃だ。
好きな食べ物を、それが美味しく食べられる状態で出現させる。回数制限こそあれ、便利すぎる道具だ。
スタンド使いの能力でも絡んでいるのかと、半ば本気で考えた。
本当に食えるのかどうか、そんな不確かな物を食べていいのか、少しばかり逡巡したが、美味しそうな食欲に勝てるはずもなく。
「それでも、食わずにはいられないッ!そんな心情だぜ!」
食前酒とばかりにビールを口にしてから、フワフワのトーストバンズをガブリとかじった。
バンズの間に挟まれたシャキシャキのレタスとビーフパティが、口内で絶妙な食感を演出する。
トマトケチャップの酸味がアクセントになり、口を動かす勢いは更に増す。
鼻を突き抜けるツンとすました辛味は、マスタード。
そうかと思えば、香り高いバターも存在を主張してくる。
口いっぱいに広がる食材の旋律は、食べるそばから涎が溢れて来るほど調和している。
ゴクリと飲み込めば、ガツンと胃に落ちる感覚。ボリュームもバツグンだ。
「んぐ……、んぐ……」
その様子、まさしく無我夢中ッ!
これまで食事をせずに来た反動だろうか、しばしの間、無言でハンバーガーを咀嚼する。
グルメ番組では、食べてすぐ「おいしい!」「ウマイ!」とコメントが飛ぶが、空腹な人間が美味な食べ物を食べたとき、言葉は失われる。
極度の緊張から逃れた安堵感も手伝い、ホル・ホースは続けざまにハンバーガーを食べていく。
まるで、この機を逃せばもう食事をする機会がないと考えているかのように。
ちなみに、骨折した際には、骨の形成を促すカルシウムやタンパク質を摂取することも重要ではあるが、バランスの取れた食事が一番良い。
つまりホル・ホースがハンバーガーを選んだのは失敗というほかないが、本人がそれを知ることはないだろう。
■
ここで場面は入れ替わる。
旭丘分校から飛び出した
針目縫は、ゆっくりと歩いて温泉へと到着した。
悠々と旅館内を歩き回り、誰か獲物がいないかと探し回るも、ほとんど無為に終わる。完全にあてが外れた形だ。
さてどうしようかと考えて、何の気なしに部屋のテレビをつけると。
『私の名前は
三好夏凜。この島の中で、人を探しているの』
格好の餌がぶら下がっていた。
少女は緊張した面持ちで、メモを見ながら話している。
縫の耳がピクリと反応する。
自分の拘束から抜け出した裸の猿。
確実に殺害しておけば、今のような苦渋を味わうこともなかったかもしれない。
笑顔を浮かべながら、内心で殺意を滾らせる。
『この三人に、聞きたい事があるわ。
他にも、『セレクター』と聞いて分かる人がいたら教えて欲しい』
しかし単純な殺意の他にも、縫の関心を惹く言葉が、画面の中から発される。
セレクター。選択する者。
映画館で紅林遊月が話していた、カードゲームに関連する用語だ。
『ええっと、見えるかしら?これが私の端末のアドレスよ。
さっきの放送で、メールが使えるようになったみたい。
もし遠くにいても、もし施設の中にパソコンや端末があればそれで連絡も取れると思う』
放送は続いたが、縫はセレクターへの呼びかけが気になり、これ以降の話は頭に入らなかった。
遊月から聞いた話はうろ覚えだが、それでも重要な部分は覚えている。
ウィクロス――夢限少女へと至るためのバトル。
「ルリグに選ばれた少女たちが戦い、三回勝利すれば願いが叶う……」
そして、三回敗北すれば、願いは反転して叶わなくなる。
まるでおとぎ話に出てくるような、信じがたい内容だ。
しかし、生命戦維という超常の存在から生まれた縫が、いまさらその程度の不可思議を認められないはずもない。
むしろ、繭が「魂」をカードに閉じ込めることができるのは、そうした不可思議な力を応用しているからではないか、とさえ考えていた。
(もしかしてこの放送、かなり重要かもね♪)
殺し合いは半日が過ぎ、およそ半分の参加者が死亡した。
残っているのは、縫や流子のように強い力を持つ人物が大半だろう。
この状況で、島の全域に届く放送を行なうのは危険極まりない。
しかし、彼らはそんな危険を冒してでも、セレクターを集める必要があるということだ。
つまり、セレクターは繭へと繋がる鍵。
縫は直感的にそう判断すると、目的地を定めた。
「放送局……そこにセレクターが集まるんだね!」
意気揚々と外に出た縫が目にしたのは、風に吹かれて転がる学生服だった。
■
場面は再びホル・ホースに転換する。
「さぁーて、次はどうするかね……とと、そうだそうだ」
赤カードを四回使い、ハンバーガーを食べに食べたガンマンは、腹を撫でてから呟いた。
特に健啖家なわけでもないのに、食べる勢いと量は普段の倍以上だったことから、空腹の度合いが分かるだろう。
そんなホル・ホースも、ようやく自分がするべきことを思い出した。
「あぶねぇあぶねぇ。忘れるところだったぜ」
ホル・ホースは
アザゼルから渡されたタブレットPCを取り出した。
セレクターを誰か一人でも発見したとき、もしくは有事の際に連絡を入れろと言われていたそれ。
近代人ではないホル・ホースは、今の今まで存在を忘れていた。
現状を報告しようと、セルティに教わった操作を反復して、どうにかメールの画面を出す。
『夏凛さんたちがそっちに行きます。合流したら、詳しい話を聞いてください』
すると出てきたのは、こんな内容のメールだった。
内容はごくごく自然な連絡。しかし、見た瞬間にホル・ホースは首を傾げた。
「ん……?このメール、誰からだぁ?」
メールの文面は、ですます調の敬語が使用されている。
放送局で別れた三人の内、誰がこのような文章を書くか。
アザゼルは敬語を使う性格ではない。
セルティは敬語も使いそうだが、今までホル・ホースに対しては使用していない。
残るは夏凜だが、本人が書いた文章にしては違和感がある。
「するってーと、誰かが放送局に来たってことか」
となれば考えられるのは、第三者による文章である。
ホル・ホースたちが別れた後で、何者かが放送局を訪れ、アザゼルたちに協力することになった。
このメールは、その何者かが送ったものだと考えれば辻褄は合う。
「……ふむ、合流するときたか。
だったら動かないのも手だけどよ……こっちから向かうのもアリだよなぁ」
ホル・ホースは考える。
本来なら今頃は、ラビットハウスへ向かっているはずだった。
しかし、襲撃され同行者は死亡。この状態で、単騎で進むのでは心もとない。
夏凜たちが来るまで待つのもいいが、こちらからも放送局方面に向かい、合流して話を聞いてから次の目標を定める方が安全だ。
誰かと組んで真価を発揮するホル・ホースだからこその臆病さである。
そうしてホル・ホースは、近くのメルセデス・ベンツを見やった。
近づいて確認すると、フロントガラスは割れているものの、それ以外の場所、エンジンなどに損傷はないようだ。
少し寒くなるが、ドライブも可能だろう。
「さて、と」
移動手段は確保できた。あとは来た道を戻るだけ。
このとき、ホル・ホースはメールに返信するという発想を完全に失していた。
どうせ合流するのであれば、わざわざメールする必要もないだろう、という考えからだ。
ともかくその段階に至り、今まで意図して視界から避けていたものを、ホル・ホースは今再び直視した。
アインハルト・ストラトスに
ジャック・ハンマー。凄絶な戦闘を終えた二人の格闘家は、改めて確認するまでもなく絶命していた。
プロレスの流血試合の後のような、顔面から服に至るまで血みどろになった姿。
身体のあちこちが傷付き、欠損した状態の二人を見て、ホル・ホースは顔をしかめた。
特にアインハルトは、元の顔が整っていただけに痛々しさも倍増だ。
「ったく……佳人薄命たぁよく言うぜ」
美人になるはずの少女もまた、薄命なのだろうか。そんなポエムめいた皮肉を思いつく。
ホル・ホースは自称『世界で最も女に優しい男』である。
冗談めかして語るその言葉を抜きにしても、実際にホル・ホースはアインハルトの生き様には強い敬意を抱いていた。
凶悪な狂人と対峙する勇気。
不屈の闘志とでも呼ぶべき根性。
このような場所で、このような若さで死なせるのはあまりに惜しい。
「……ま、ゆっくり休むんだな」
そうした少女の強さに、今のホル・ホースは生かされているも同然。
女は尊敬していても、利用することは躊躇わないホル・ホース。しかしこのときばかりは、真顔で黙祷を捧げた。
再び顔を上げて、次に見たのは筋骨隆々の男の死体。
こちらには敬意も好感もなく、ただ哀れみの視線のみを向けた。
「テメーも哀れよのぉ……こんな場に呼ばれなければ、格闘技大会で有名になれたかもしれんのに」
投げかけるのは、憐憫を含んだ言葉。
殺されかけた恨みを抜きに考えれば、その鍛え上げられた肉体は賞賛に値する。
確かにバトルロワイアルに招かれなければ、ジャックは地下闘技場で恐るべきファイターとして名を上げていただろう。
しかし、それはまた、別の話。
ホル・ホースがそのIF(もしも)を知ることは、おそらくありえない。
「そういや、コイツの着ていた変な学生服……」
死体をじろじろと見ていたホル・ホースは、あることに気がつく。
ジャック・ハンマーの着ていた、顔に似合わない学生服。
空条承太郎が着ているような服が、近くには見当たらないのだ。
誰かが持ち去りでもしたかと考えたが、それではホル・ホースや他の支給品に目もくれていない理由が判然としない。
「まぁ、俺には関係ねぇか」
学生服が飛ばされていたところで、ホル・ホースには大した影響は無い。
おおかた風で飛ばされたのだろうと結論付けた。
それより、アインハルトが何か使える支給品を持っていたか確認しよう、と考えた矢先。
「やあ☆」
背後から、可愛らしい声がした。
■
声をかけて数秒後。
油をさしていないブリキの人形のように、小刻みな挙動で振り向いたガンマンを見て、縫はにっこりと笑んだ。
「久しぶりだね、ガンマンさん!」
「あ、あ……」
かろうじて返事をしたホル・ホースだが、その表情は硬いなんてものではない。
恐怖。絶望。諦観。そうした感情が渦巻いているのが、傍目からでもよく分かる。
極制服が飛んできた方角に来てみて正解だった。
「首の無いお仲間さんはどうしたの?」
「……」
歩み寄りながら問いかけると、無言のまま後ずさりされる。
いくらなんでも恐れすぎじゃないかと、縫としては不満も出てくる対応だったが、我慢して話しかける。
見ればホル・ホースも相当の怪我をしているらしい。
周りにある死体と、戦闘をくり広げてでもいたのだろう。
手負いで仲間も近くにいない。フラストレーションを発散するにはこれ以上ない相手だ。
「ちょっと遊んでよ♪」
「……はは、お嬢ちゃん。冗談はよくないぜ」
乾いた声で答えたホル・ホースに、縫は片太刀バサミをくるくると回して見せた。
縫も傷付いて万全ではないが、元々の身体能力では遥かに上回っているのだ。負ける道理はない。
さらににじり寄ると、ホル・ホースが声を上げた。
「……提案がある」
「聞いてあげるよ!答えるとは限らないけど☆」
真面目に返すつもりがないことがバレバレな返事。
縫は武器を下ろさぬまま、さらに近づいていく。
それでも、ホル・ホースは真面目な顔で言葉を続けた。
「俺も縫い目の嬢ちゃんも、究極的には目標は同じ。
このくだらねぇ殺し合いから脱出すること――違うか?」
縫はこれを否定しない。いや、否定できない。
ホル・ホースの言葉に間違いはないからだ。
縫には鬼龍院羅暁のために、神羅纐纈を完成させるという使命がある。
務めを果たすためにも、元の世界に帰らなければならない。
ただし、縫が目指すのはあくまで優勝。
無粋な制限をかけた繭には怒りをぶつけたいが、それ以外の参加者は、利用できるなら利用して、できないなら殺すだけだ。
「だったら、まずはこれを見な」
そう言いながらホル・ホースが渡してきたのは、タブレットPC。
画面にはメールの文面が表示されていた。
「そのメールを見れば分かるだろーが、俺は三好夏凜と繋がりがある」
「ふ~ん。で?それが何だっていうの?」
その名前は、ついさっき旅館のテレビで聞いたものだ。
しかし、ホル・ホースがその三好某と関係があろうがなかろうが、些細なことだ。
そう考えていた縫も、その次に出てきた言葉には興味を惹かれた。
「この島から、殺し合いから、脱出できるかもしれねぇ」
■
ロシアンルーレットというゲームがある。
リボルバーの弾を一発だけ装填し、何発目に飛び出すか分からない状態にして、自分の頭に向けて引き金を引くゲームだ。
負ければ即刻死が確定する、狂気のゲーム。
ホル・ホースは今、それに挑んでいるような感覚だった。
「脱出できる?」
「あぁそうさ。この邪魔な腕輪も外せて、無事にトンズラこける方法があるのよ!」
生き延びるためには、多少の嘘はご愛嬌だ。
縫も興味はあるらしく、問答無用で殺そうとはしてこない。
ホル・ホースはその猶予を逃さずに、質問を投げかける。
「テレビの放送は見たか?」
「放送?……それがどうかしたの?」
ホル・ホースはその反応から、既にアザゼルの指示のもと、放送が行なわれたことを察した。
なので、それを前提として話を進めていく。
脳内では、放送局でアザゼルや三好夏凜たちと交わした情報を必死で思い出しながら。
「あれを流したやつは、俺やセルティの旦那とも組んでいる。
放送の中身を覚えてるか?
小湊るう子、紅林遊月、浦添伊緒奈。俺たちはこの三人を集めようとしているんだ」
――ならば俺と三好、そしてセルティで放送局に向かい、セレクター達に繭打倒を呼びかける。
アザゼルはこう言っていた。
となれば、第二回目の放送で呼ばれた
蒼井晶を除く三人のセレクターへと、放送で呼びかけているはず。
縫もそれを否定しない以上、当たらずとも遠からずといったところだろう。
「なんでそんなことをするか?
答えは決まってるぜ。セレクターが繭に対抗するキーパーソンだからだ」
横目でちらりと縫を見る。
口を挟んでくる様子がない以上、同じ予測をしていたと考えられる。
それならば、とホル・ホースは縫の思考に先んじた。
「おーっと、縫い目よ。テメーは今、こう考えただろ?
『その三人が関係しているというのなら、目の前の男は殺しても構わない』ってな」
考えを言い当てられたからか、縫は手を止めた。
二人の距離は、さほど遠くない。
縫が手にした片太刀バサミを一振りすれば、ホル・ホースは即座に殺される位置だ。
「だが、そうは問屋が卸さないぜ?
放送局には嬢ちゃんに匹敵する相手が三人以上いる。
そして俺は、情報を交換したときに、そいつらに嬢ちゃんの危険性を伝えてある」
その言葉に、縫は怪訝そうな顔つきをした。
ホル・ホースは顔を上向きにして、得意げな顔で続きを言う。
「縫い目の女は危険すぎる。見つけたら即刻殺すべきだ、ってな」
これは完全なハッタリである。
縫の情報こそ共有しているものの、即刻殺すことまでは決定していない。
無論、縫がアザゼルと対峙すれば戦闘は必至なので、完全な嘘というわけでもないが。
「だが俺がいれば、放送局にいるメンバーにも話がつけられる。
今の縫い目は殺し合いに反対する立場だから、殺さなくていい、ってなァー」
我ながらチャレンジャーだと、ホル・ホースは自嘲した。
彼我の実力差を弁えないホル・ホースではない。
縫なら自分のことを一瞬で料理できるというのは、最初に分校で戦闘したときから理解していたことだ。
それでも、嘘とハッタリで生き延びようとしている。
生きる道を見つけようとしている。
「つまり、提案って……」
「そう、一時休戦と行こうじゃねぇか。
放送局で情報を共有して、この島から脱出するためにセレクターを集める。
お互い殺し合わずに済む道があるってんなら、それに越したことはねぇだろ?」
これは賭けだった。
文字通り命を賭けた勝負だ。負ければ即死。
勝てたとしても、放送局に危険人物を招くことになるが、そのときはアザゼルにでも任せればいい。
縫とアザゼルの勝負がどうなるかは分からないものの、このまま無惨に殺されるよりはよほど生き延びる可能性がある。
「……話にならないや。ボクを舐めてるの?」
しかし、相手は規格外の化け物。
常識の範疇では予測できない行動をする相手だ。
「ガンマンさんがいなくったって、セレクター以外皆殺しにしちゃえばいいのに」
ニコニコと浮かべる笑みの下。
そこにある本心を、ホル・ホースは知ることができない。
「なんでボクが指図を受けないといけないのかな?」
自由奔放な少女は、束縛されるのが極端に嫌いらしい。
とんだじゃじゃ馬娘を相手にしたものだと、ホル・ホースは唇を噛んだ。
「っ……舐めてなんかいねぇさ、むしろ俺は嬢ちゃんを恐れてるんだぜ?
だからこそ、俺は俺自身ができるだけ長生きする道を選ぼうとしているだけさ」
これは間違いなく本心だ。
バトルロワイアルの中でも、セルティや刃牙を利用しようと試みたのは、生き延びる確率を上げるためだ。
自身の命を最優先に。これもまた、人生哲学。
「いーよ、もう。とりあえず斬らせてよ!」
「ま、待て――!」
しかし、それが通じる相手ばかりではない。
とうとう片太刀バサミの刃を閃かせた縫を見て、さしものホル・ホースも焦りを隠せない。
これ以上の猶予はない。選択を誤れば死へ直行だ。
「く――分かった!嬢ちゃんの下につく!」
その言葉に、再び縫の動きが止まった。
呆けたような顔――というより、信じられない馬鹿を見るような目でホル・ホースを見てくる。
どうやら予想斜め上の返事だったようだ。
「脱出するまでは、俺を利用してくれて構わない!
いや、むしろ利用しろ!
たったそれだけで命が助かるってんなら、安いもんだぜ!」
なりふり構わずに、ホル・ホースは魂の叫びを上げた。
自分を殺害しようとした相手の下につく。つまりは隷属する宣言だ。
生きることへの強い執着心が、とうとうその言葉までも口にさせた。
「へえ」
そして、その言葉が縫の嗜虐心を刺激したらしく。
口を半月の形に開くと、いかにも楽しそうな声でこう言った。
「じゃあ、ちょっと実験させてよ!」
そうして気持ち悪いくらいに可愛い笑顔で、ホル・ホースの近くに歩み寄る。
「な、おい、なんだってんだ!?」
縫に頭を掴まれた、次の瞬間。
ホル・ホースは、生命戦維を脳内の奥深くまで侵入させられた。
『精神仮縫い』とはまた異なる、異物を脳に入れられたことにより走る激痛。
「ぐあああああああああっっっ!!?」
ホル・ホース自身、どういう状況なのか理解できていないだろう。
未知の痛みに耐えかねて、両手で頭を押さえたまま、その場に倒れこんだ。
「ぐ、テメー……」
「あーあ、実験失敗かな?残念無念☆」
少しも残念そうではない声を、朦朧とする意識の中で聞きながら。
ホル・ホースは、縫のお遊びで殺される自分の不甲斐なさを、痛感していた。
アインハルトに救われたことを無為にしてしまう情けなさを、悔恨していた。
(すまねぇな、アインハルトの嬢ちゃん……)
悔恨の言葉を思い浮かべた瞬間。
このまま死んで、諦められるのか。
そんな、よくある自分への問いかけが聞こえた気がした。
■
そのとき、不思議なことが起こった!!
スタンド(幽波紋)とは、生命エネルギーが作り出す像(ヴィジョン)!
通常『魂』や『精神』と称される、程度の差はあれ、人間なら誰でも持つエネルギーが具現化した存在だ!
全てのスタンド使いは、エネルギーを自らの意志で使役することができるのだ!
対する生命戦維とは、文字通り生命を有する戦う繊維!
太古の昔、宇宙から地球へと飛来した、生物の神経電流を主食とする地球外生命体である!
縫はその生命戦維を、直接ホル・ホースの脳内へと侵入させたのだ!
そしてホル・ホースの脳内、更には神経へと、生命戦維が到達した瞬間である!
生命戦維が持つ強力な生体エネルギーと、スタンド使いが持つ生命エネルギーが共鳴した!
寄生して生きるという生命の本能!絶対に生き延びるという強い信念!
はたして、それらの奇妙な出会いの先に待つのは――!?
■
生命戦維と人間の融合。
自身も生命戦維でできた子宮で育ち、人間以上の存在となった縫だが、しかし目の前でそうした光景を見るのは初めてだった。
赤白く光る繊維と、黄金に輝くスタンドのパワー。
それらが混ざり合うことで発される煌きは、縫の視線を釘付けにした。
「すっごーい!」
縫はホル・ホースが生命戦維と融合することを期待していたわけではない。
単純に、相手がもだえ苦しんで死ぬ方法として選んだに過ぎない。
期待を裏切られた形になるが、それでも縫の表情は満面の笑みだった。
「どうなるのかなぁ、楽しみ!」
【G-2/一日目・午後】
【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、肋骨数本骨折、左目失明、生命戦維との融合の途中
[服装]:普段通り
[装備]:デリンジャー(1/2)@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(6/10)、青カード(6/10) 黒カード:不明支給品0~2、タブレットPC@現実
[思考・行動]
基本方針:生存優先。女は殺さない……つもり。
0:???
[備考]
※参戦時期は少なくともDIOの暗殺に失敗した以降です
※犬吠崎樹の首は山の斜面にある民家の庭に埋められました。
※小湊るう子と繭について、アザゼルの仮説を聞きました。
※三好夏凜、アインハルト・ストラトスと情報交換しました。
※生命戦維との融合を開始しました。今後、どのような状態になるかは後の書き手にお任せします。
【針目縫@キルラキル】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身に細かい刺し傷複数、繭とラビットハウス組への苛立ち、
纏流子への強い殺意
[服装]:普段通り
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、黒カード:不明支給品0~1(紅林遊月が確認済み)、喧嘩部特化型二つ星極制服@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:神羅纐纈を完成させるため、元の世界へ何としても帰還する。その過程(戦闘、殺人など)を楽しむ。
0:ホル・ホースの結末を見届けてから、放送局へ向かう。
1:紅林遊月を踏み躙った上で殺害する。 ただ、拘りすぎるつもりはない。
2:空条承太郎は絶対に許さない。悪行を働く際に姿を借り、徹底的に追い詰めた上で殺す。 ラビットハウス組も同様。
3:腕輪を外して、制限を解きたい。その為に利用できる参加者を探す。
4:何勝手な真似してくれてるのかなあ、あの女の子(繭)。
5:神羅纐纈を完成させられるのはボクだけ。流子ちゃんは必ず、可能な限り無残に殺す。
[備考]
※流子が純潔を着用してから、腕を切り落とされるまでの間からの参戦です。
※流子は鮮血ではなく純潔を着用していると思っています。
※再生能力に制限が加えられています。
傷の治りが全体的に遅くなっており、また、即死するような攻撃を加えられた場合は治癒が追いつかずに死亡します。
※変身能力の使用中は身体能力が低下します。少なくとも、承太郎に不覚を取るほどには弱くなります。
※疲労せずに作れる分身は五体までです。強さは本体より少し弱くなっています。
※『精神仮縫い』は十分程で効果が切れます。本人が抵抗する意思が強い場合、効果時間は更に短くなるかもしれません。
※ピルルクからセレクターバトルに関する最低限の知識を得ました。
[全体備考]
※メルセデス・ベンツ@Fate/Zeroは、針目たち二人がいる付近に放置されています。
※本人の魂カードを含めたアインハルトとジャックの所持品は、本編で描写がないものに関しては、本人の死体と共に放置されています。
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最終更新:2016年09月18日 18:28