チェンジ・ザ・ワールド ◆gsq46R5/OE



  時刻は、午後四時を半ばほどまで回った頃であった。
  此処はB-7、高層ホテルの内部。
  会場の中には既に派手な崩落劇を披露した施設もあるというのに、この宿泊所は未だにその上品な外観を保っていた。
  その一室に陣取って、戯れに取り出したワインを傾ける男の名は、DIO。
  かつて人間だった頃には、ディオ・ブランドーという名前であった――しかし今は人間を辞めて久しい、人類の超越者である。
  彼は、吸血鬼だ。
  とある恐ろしき一族が開発した血の遺産、『石仮面』をもって変貌した、最強のヴァンパイア。
  彼の天敵であったその一族も、彼が海底で長い時間を過ごしている間に滅亡した。
  今や、一つの世界における最強生命体と呼んでも過言ではない。
  そんな彼に勝つことの出来る存在など、たとえ数多の世界が入り混じったこの箱庭であろうとも、そうそう居る筈がない。
  ならばDIOはその圧倒的な力で立ち塞ぐ敵を叩きのめし、数え切れないほどの屍を積み重ねた末に、この辺境の城へと立ち寄ったのか。

  ――その答えは、『否』である。立ち寄った、どころではない。彼は時間にしてほとんど半日間、このホテルという城に籠っていた。

 「……フム」

  吸血鬼は、あらゆる面で人間に優った生物だ。
  肉体のスペック、再生能力、無限の寿命。
  まさに人間であることを辞めた者だけが行き着ける、生命の究極系。
  だが彼らは一つ、無視するにはあまりに大きすぎる弱点を抱えている。
  世界中のあらゆる物語で共通している、吸血鬼の弱点。
  即ち――日光。吸血鬼の王であるDIOも、決して例外ではない。
  今日はいい天気だから、外で体でも動かそうだとか、そんな考えを行動に移した日には、彼の屈強なボディもその能力も、一瞬で灰と消える。

 「日没までは、長く見積もって一時間前後……といったところか」

  彼には知る由もないことだが、幸か不幸か、このホテル周辺は現在陸の孤島も同然に閑散としている。
  これに理由付けをするのなら、参加者達にとって縁の深い施設は、軒並み他の島に分散しているのだ。
  DIOの館は言わずもがな彼自身の家だし、精々これに引き寄せられるのは亡き花京院やポルナレフ、忌まわしき空条承太郎。後はヴァニラ・アイスくらいのもの。
  本能字学園の縁者は早朝に学園で戦闘を行い、見事に分散。
  満艦飾マコと蟇郡苛は、既にこの世を去っている。
  つまり、これと言って「この場所を目指したい!」と参加者に思わせる、魅力的な施設がほとんどないのだ、この島には。
  ショッピングモールはホテルから遠いし、病院に至っては、何と崩壊している。
  この有様では、DIOが長い退屈を味わされるのも無理のない話だ。

 「しかし……良いものだな、ホテルというものは。このDIOの生まれた時代にあったものとは比べ物にならない、贅の極みのような宿屋だ」

  優勝し、元の世界に凱旋を果たしたなら、居をこういった場所に移すのも手かもしれない。
  どうせその頃には、己の野望を阻む承太郎は死んでいる。
  後はジョセフの老いぼれさえ排除すれば、ジョースターの血筋は完全に途絶え、その瞬間に己を真の意味で脅かし得る者は全滅するだろう。
  それからは失った戦力を補填しながら、世界をゆっくりと支配していけばいい。
  それにこの場所、帝王となり、全ての上に立つ己には、成程実に相応しい施設だ。
  現代の王城と呼んでも、言い過ぎではあるまい。
  DIOは半日間を過ごしたこの巨大な宿屋を、実に高く評価していた。

 「さあ、もうすぐだ。もうすぐだぞ、承太郎……そして、このわたしに楯突いた愚かな虫けらども」 
  長い間、待たされた。
  怒りは喜びで上塗りされて影を潜めているが、決して消えた訳ではない。
  今もあの時の屈辱は、DIOの自尊心を焦がし続けている――狼藉を働いた者達の顔は、瞼の裏に未だくっきりと焼き付いている。
  奴らさえ居なければ、下等な人間如きに背を向けておめおめと逃げ帰る無様を晒すことは決してなかった。DIOは、自分に恥を与えた者を決して許さない。

  それに、彼を突き動かすのは何も殺意だけではない。
  この目で確かめたいことも、無数にある。
  自分が引っ込んでいた間に、会場の景色はどの程度変貌したのか。
  先程自分が電子の海に放流した悪意の種は、どういった形で芽吹いているのか。
  協力者との盟約もある。二度目の朝が来るまでにやるべきことは、こうして挙げていくときりがない。

  彼は、あとほんの僅かな時間の後に解き放たれる。
  沈みかけの太陽が完全に消えた時が、平穏の終わりだ。
  ホテルという名の洞穴から這い出た鬼が、君臨し、蹂躙するだろう。
  二度目の朝が来るまでに、という表現を先程使ったが、DIOは再び日光に怯え逃げ帰るような無様を晒すつもりは毛頭なかった。
  日が沈んでいる間に、殺し合いを終わらせる。
  長い休息時間で充填された体力を、遺憾なく使って。
  それが終わったなら、今度は繭だ。
  今もどこかで薄笑いを浮かべているのだろうあの少女を殺し、願いを叶える力とやらが本当に存在するなら奪い取る。
  もしも繭の台詞が嘘でなければ、自分は『世界』すらも超えた力を手に入れられるかもしれない。
  そう考えると、やはり心が躍る。
  このバトルロワイアルに巻き込まれたことを、DIOは最早幸運だったとすら思い始めていた。

 「とは言っても、まだ幾らか時間はあるか――フフ、大きな楽しみがすぐ傍にある時に限って、時間の流れが嫌に遅く感じるのは……人間も吸血鬼も共通らしい。
  もう一度眠りに入って、より具合を万全にしておくのも手だが……最後にもう一度、あのチャットとやらを確認しておくか。
  何か更新されているかもしれん」

  現地調達した上物のワインを一息に飲み干して、DIOは寛いでいたスイートルームを後にする。
  情報戦などという姑息な手段に頼らなくとも、『世界』と吸血鬼の肉体(ボディ)さえあれば、殺し合いを制するのは簡単だ。
  しかし、ちっぽけな人間達が必死こいてチャットを打ち込んでいる様を想像すると、なんとも言えず愉快な気分になる。
  そしてそこに自分が一石を投じることで、またちっぽけな誰かがその情報に慌てふためくのだ。

  どうせ、他にやることもない。時間潰しには最適だろう。
  もう一度遊技場に行ってもいいが、麻雀の機械は既にDIOが壊してしまった。
  他にも探せば卓があるかもしれないが――あのゲーム、やってみて分かったことだが、思っていたよりもかなり神経を使う。
  自分が勝利するのは当然のこととして、それはさておきあんな物を面白がる奴の気が知れない。
  DIOはそんなことを考えながら、再び事務室へと足を運ぶのだった。




  一方、その頃。
  地下通路を抜けて、帝王の城の内へと足を踏み入れる男の姿があった。
  しかしこの男は、帝王たるあの男の敵ではない。
  むしろその真逆。
  帝王に仇成す全ての敵を誅戮する、姿なきキリングマシーン。
  名を、ヴァニラ・アイス。
  『クリーム』のスタンド能力を持ち、既に四人を殺めているDIOの忠臣だ。

 「さて……まずは探索からだな」

  あくまでも、優先順位は情報収集よりも殺戮だ。
  生き残るべき参加者はDIOのみ。
  それ以外は、たとえ女子供であろうと関係なく、皆殺しにする。
  このホテルの外観を見た訳ではないが、装飾の豪華さからして、それなりの階数がある筈だ。
  臆病な参加者がどこかの部屋に籠り、縮こまって時が経つのを待っている可能性は十分にある。
  体力は十分に回復しているが、念の為、血を吸ってから殺すべきだろう。
  その為にも、出来れば『戦えない』参加者であると都合が良いのだが。

 「――フ」

  数分間歩き回った所で、ヴァニラは口元を吊り上げた。

 「やはり、いるな……」

  内部の所々に、人が物色したり、歩き回った形跡がある。
  間違いなく、どこかに参加者が潜んでいると、ヴァニラはそう踏んだ。
  一応武器も構えながら、足音を敢えて隠さずに進む。
  それで怯えて行動を起こしてくれれば、息を潜めてちまちま進むよりもずっと手早く事が済むからだ。
  そうして――更に七分ほど、ホテル内を徘徊した頃のことだった。

  ヴァニラの鼓膜が、何者かの足音を捉える。
  どうやら此方には気付いていないのか、特に音を殺している様子はない。
  だが、彼は表情を顰めた。
  居場所を探す手間が省けるというのに、何故彼はそんな表情をしたのか?

 「勘付かれている」

  自分の、存在に。
  勘付きながら、敢えて音を出しているのだ。
  その思考回路は、奇しくも自分と全く同じもの。
  これだけでヴァニラは、足音の主が『自分はこれから殺される』とは微塵も思っていない、かなりの自信家であることを見抜いた。
  それが虚勢ならば、いい。
  もしもそれが確固たる実力から来る、『当然の反応』だったなら――

  ヴァニラ・アイスの脳裏に浮かんだのは、あの白服の女。
  次に浮かぶのは、自分が最初に不意討ちで殺害した範馬勇次郎。
  彼らのような怪物が相手ならば、少しばかり雲行きは怪しくなってくる。
  ブローニングの柄を握る手に力を込め、ヴァニラは考える。
  ――進むか、戻るか。……問うまでもない。答えはすぐに出た。

 「『臆病』は罪だ……あのお方に仕えるこのわたしに限って、『臆病』は許されない」

  ただ、殺すのみ。
  ヴァニラはそのままずかずかと前進し、廊下の突き当りから、標的の姿を確認する。

  ……その手に握られていた銃器が、ゴトン、と音を立てて豪奢なカーペットの上に落ちた。


 「――やはり、おまえだったか。我が忠臣、ヴァニラ・アイスよ」


  眩いばかりの艶やかな金髪に、巌を思わせる頑強なボディ。
  愛などという領域を飛び越え、人を信仰の道へ導く妖艶な魅力漂う顔。
  忘れるはずもない。
  この麗しい姿を見間違おうものなら、ヴァニラは自分の心臓に向けて、足下のブローニングを躊躇なく撃ち込んだことだろう。
  いや、既にヴァニラは、自分の首を手刀で切り落としたい気分で一杯だった。
  音でしか判断する術がなかったとはいえ、自分は彼を、倒すべき敵だと勘違いしていたのだ。
  自然に、体が跪く。傅く体勢を取り、深く頭を垂れた。

 「申し訳ありません、DIO様……貴方の足音を取るに足らない餌風情のものと誤認するなど、このヴァニラ・アイス、自身への怒りで身が焦げる思いです」
 「確かに、おまえらしくはない早とちりだな、ヴァニラ・アイス。
  だが、その理由は分かる……おまえほどの男を疑心暗鬼にさせるほどの人物が居たのだろう」

  DIOは、自分の辿ってきた戦いを語らない。
  思い出したくもないからだ。
  しかし、苦汁を舐めたからこそ、ヴァニラを早まらせた要因にはすぐに想像が付いた。

 「……まあ、積もる話は部屋で聞こう。わたしも、おまえに聞きたいことがあるからな」

  聞きたいこと。
  それはつまり、殺すべき者達のことだ。
  侍と格闘家の餓鬼、そして三つ編みの男。
  あれらについてヴァニラが何かを知っているのなら、是非とも聞いておきたい。
  だがその前に、まずは事務室に向かおう。
  そう言い出さんとするDIOだったが、その直前に、ヴァニラが口を開いた。

 「失礼ながら、DIO様。この場所からも伸びている、『地下通路』についてはご存知でしょうか」
 「? ああ、知っているが」
 「こちらは、映画館付近の地下で発見した物です。
  参加者と関係のある映像が収められた、『DVD』なる代物のようでして」
 「ほう……良い手土産じゃないか、ヴァニラ・アイス」
 「恐縮でございます」

  映像が何分あるのかまでは、ヴァニラも調べていない。
  もし数時間単位で収められているのなら面食らうが、未だ見ぬ参加者の下調べをするという意味合いでも、これを確認しない手はあるまい。
  DIOも、そこについては同感だった。
  チャットの様子を窺うだけならば、いつでも出来る。
  優先順位は、此方の方が確実に上だ。

 「腕輪一つにつき一枚しか映像を持ち出せないらしく、二枚しか持ってくることは叶いませんでしたが……」
 「一つにつき一枚……ということは、ヴァニラ。おまえは他の腕輪を持っているのか」
 「はい。範馬勇次郎という男のものを、今も武器として携帯しています。
  他にも金髪の女と、異様な顔立ちの男――そして花京院典明をこの手で屠りましたが、腕輪を奪い取ったのは勇次郎だけになります」
 「おまえが、花京院を殺したのか……フフ、よくやってくれた。やはり、おまえは優秀な男だ」

  DIOは恭しく頭を下げるヴァニラから、ディスクの収まったケースを二つ受け取る。
  タイトルは『第四次聖杯戦争の様子』と、『日本某村の記録』。
  目に付いたものには『ジョースター一行の旅の風景』『本能字学園の歴史』というものもあったが、これらについては思考の末に切り捨てた。
  ジョースター一行の旅など見ても仕方がないし、同じ理由で、学園の歴史を見ることにさほど意味はないだろうと判断したためだ。
  逆に、『第四次聖杯戦争』なるものについてを観測した映像は、参加者の能力や人格により密接に迫れる可能性が高いと踏んだ。
  『日本某村の記録』については……正直なところ、半ば勘だ。
  第四次聖杯戦争のようなわかりやすく重要性の伝わるタイトルがなく、それならばと、一番抽象的なものを選んだ。

 「では早速、君の手土産を検めていくとしよう。
  こんなものがあると知っていれば、苛立ちに任せてテレビを叩き壊すような真似はしなかったのだがな……」
 「……えっ」
 「どうかしたか、ヴァニラ・アイス?」
 「……いえ、何でもございません」




  ――第三の令呪を以って、重ねて命ず――


 「――――やめろぉぉぉぉォォッ!!」


  ――セイバー、聖杯を破壊しろ!――


  少女の悲痛な叫びとともに、振り下ろされる黄金の剣。
  その刀身から放たれた黄金の光は、皮肉なほどに美しく輝いていた。
  ジル・ド・レェ伯の大海魔を一撃の下に葬り去った至高の光は、黄金の願望器を飲み込んでいく。
  未来への希望を思わせる眩い波濤はしかしながら、次なる絶望の呼び水でしかなかった。
  聖剣は聖杯諸共に建物までもを貫通し、結果、内に溜まっていた黒い濁流を街へと流れ出させる地獄のような結果を生んだ。
  ……これが、第四次聖杯戦争の終幕。
  全ての願いは、一つたりとも満たされることなく、大いなる悪に塗り潰された。
  舞台となった冬木市に住まう人々の絶望を表現するかのように、エンドロールもなく、画面は暗転。映像が終わったことを示す。

 「如何でしたか、DIO様」
 「喜劇としては、なかなか上等だった」

  DIOの下にこの映像を持ってきたヴァニラの判断は、結果から言うと大正解であった。
  この映像に記録されている中で、殺し合いに巻き込まれているのは全部で七名。
  少なくとも内四名は既に死亡しており、生存者の中の二名は、DIOと関係のある人間だ。
  言峰綺礼。アサシンのマスター。DIOが、最初に遭遇した男。
  心の中に、底なしの闇を抱えた聖職者。
  彼の本来辿るはずだった未来、覚醒は、見ていて実に愉快なものだった。
  あの黄金のサーヴァントが、喜々としてちょっかいを出していたのも頷ける。

  一方で――

 「ヴァニラ・アイスよ。わたしは、あのセイバーという小娘と同盟を結んでいる」

  セイバー。黄金の剣を振るう、ブリテンの騎士王。
  彼女から聞いた聖杯戦争関係者の評は、大体的を射ていた。
  強いて言うなら、衛宮切嗣の策については、DIOは少々過小評価をしていたくらいだ。
  あれほど派手で手段を選ばない男とは、正直なところ思わなかった。
  あれならまともに相対するべきではないというより、近寄らせないのが最善だろう。
  仮にこのホテルを、彼がランサーのマスターにしたように爆破されようものなら、さしものDIOでも多少の傷を負うのは免れまい。
  警戒しておくに越したことはない。或いは、既に殺されているかもしれないが。

 「失望を恐れずに言うが……彼女の真の力は、このDIOの予想を超えていた」

  約束された勝利の剣。
  エクスカリバー。
  黄金の光。
  彼女は慎重を期す為か、あの場では聖剣を解放しなかったが……映像で見たあれは、明らかに一人の参加者が持っていい火力の限度を超えていた。
  『世界』が、彼女の力に劣っているとは全く思わない。
  だがそれはそれとして、あの火力は『世界』には出すことの出来ないものだ。

 「君はどう思う、ヴァニラ・アイス」
 「――DIO様があのような小娘に遅れを取るとは、わたしにはとても思えません。
  ですが、万に一つの可能性を憂慮するのであれば……長くのさばらせておくのは、聊か危険に思えます。この殺し合いには、『支給品』という概念もある。聖剣以外の、高い制圧力を誇る兵器などを手にしている可能性も否定できません」

  DIOは夕刻に、彼女と自分の館で落ち合う約束を取り付けている。
  彼女はあの時、『一人では手に負えないような強敵』がいれば共同で排除する、と言ったが、それはまさに彼女自身のことであった。
  セイバーは、時間停止のカラクリを知らない。
  だが先の映像を見るに、彼女は――どうやら、並外れた直感力を持っている。
  サーヴァントのシステムについて、DIOは知らない。
  だから、セイバーが『直感』というスキルを保持していることは、こうして推察するしか出来ない。
  厭な危うさを、感じずにはいられなかった。

 「……あれほどの剣士だ。垣間見た殺意は、確かに本物だった。
  彼女ならばきっとこの半日間で、多くのスコアを挙げていることだろう」
 「つまり――」
 「そう。用済み、だな」

  排除。
  それが、DIOの弾き出した結論だった。
  騎士王との盟約を反故にし、次で彼女を殺す。

 「ヴァニラ、おまえも私に同行しろ。騎士王の聖剣は、解き放たれる前に封殺するのが最も確実だ。
  おまえの『クリーム』とわたしの『世界』が手を組めば、たかだか勘頼みの戦闘など容易に崩壊させることが可能だろう」
 「了解致しました、DIO様」


 「仕留めたなら、あの剣を奪ってやるのもいい。
  かのアーサー王とこのわたし、どちらがより上手く聖剣を使えるか……なかなかおもしろい命題じゃあないか……
  ――では、次に行こう。次の映像は……『日本某村の記録』だったな」






 \あっ、あれってハクビシン?/


 \タヌキなのん!/


 \アライグマでしょ?/


 \イタチですよ/


 「どうでもいいわァ――ッ!!!!」

  テレビを殴り砕く勢いで椅子を立ち上がったのは、ヴァニラ・アイスだ。
  彼が精一杯考えを凝らしてきたこの映像は、しかし蓋を開けてみれば、見事なまでの分かり易い外れだったのだ。
  オープニングの音楽が流れてから、約二十分ほどの、タイトル通り、日本のどこかの村の暮らしを記録した映像が流された。
  ――そう。それだけだ。スタンドも吸血鬼も、サーヴァントも出てこない。それどころか、血の一滴も流れていない。
  実に平凡で牧歌的で、こんなに悩みなく暮らせたら幸せだろうなあと見る者が自然と満たされるような、殺し合いとはまるで関係のない映像。
  それを見終え、エンディングで少女達の掛け合いが流れ始めた所で、もう限界だった。
  ハクビシンだろうがタヌキだろうがアライグマだろうが心底どうでもいいし、それがイタチだったから何だというのだ。
  貴重な時間を三十分近くも無駄にしてしまったヴァニラの怒りは、DIOへの申し訳無さも相俟って猛烈な勢いで燃え上がった。

  だが、ふとDIOを見た時、ヴァニラの表情が凍る。
  退屈で牧歌的な風景を長々眺めさせられたのだから、DIOが浮かべるべき表情は当然『憤怒』。
  しかし、彼の顔を見よ。


 「フフフ……」

  意外ッ! それは『笑顔(SMILE)』!!

  DIOは笑っていた! 少女達の日常を見終えて、満足気に笑っていたッ!!


 「ディ、DIO様!? まさか……気に入られたのですか……?」
 「まさか。そうではない……ただ、見覚えのある顔と名前が混じっていたものでね」

  ヴァニラ・アイスは、この映像に映っていた少女達に覚えはなかった。
  宮内れんげ、一条蛍、越谷小鞠。
  日本人ではないヴァニラには、取り立てて記憶に残る名前でもなかった。
  DIOは違う。越谷小鞠以外の二人について、彼は知識を持っている。

 「宮内れんげ……これは、本能字学園なる場所でわたしが戦った時にその場に居合わせた少女の名前だ。
  直接的な戦闘能力には乏しいようだったが……グラウンドの端で、何やら光を扱っていた記憶がある。何かしらの異能を持っている可能性は高い」
 「……! それでは、この映像はブラフ……!?」
 「そしてこの一条蛍という女……どう見ても小学生には見えないが……此奴に関しては、ホル・ホースから情報を得ていてな。
  集団に潜り込む狡猾さと、その総戦力を圧倒して散開に追い込むほどの力があるらしい」

  ヴァニラは、その情報は確かなのかと問いたくなった。
  あの映像を見る限り、一条蛍は体型以外はどこにでも居るような、大人しい性格の少女だった。
  あの大人しそうな顔と言動の下に、DIOにホル・ホースが伝えたという内容通りの狡猾さが潜んでいるとしたら、相当な大人物だ。

 「ホル・ホースは、DIO様への忠誠が低い男です。
  もしかするとDIO様の部下への信頼に付け込んで、誤情報を教えた可能性も」
 「確かに、それもあるとは思う。奴は一度、このわたしに銃を向けたことがあるからな……だが、もしも一条蛍が奴の報告通りの人間だったなら。
  承太郎の『スタープラチナ』以上の打撃力を持つ悪魔のような女なのだとしたら」

  ヴァニラは何も言えない。
  彼も、スタープラチナの強さは知っている。
  ごくシンプルな近距離パワー型でありながら、あの拳はDIOの差し向けた刺客をことごとく破ってきた。
  あれに匹敵となれば、確かに侮れない。

 「それに、映像の中で……一条蛍は、越谷夏海なる小娘との『腕相撲』で、夏海を瞬殺していた。
  根拠としてはやや甘いが、この映像に写っている少女達は全員、何らかの異能を隠し持っているのかもしれない。
  憶測だが、おまえも警戒だけはしておくといい、ヴァニラ・アイス。
  認めたくはないが、此処にはわたしやおまえですら対処に手を焼く参加者が確かに存在する」

  ヴァニラ・アイスは、DIOの言葉の中からあることを読み取った。
  それは、鎮火こそしているものの、未だに消えてはいない怒りの感情。
  口に出すのも憚られるが、彼はこの会場で、他の参加者に痛手を負わされたらしい。
  恐らくこのホテルに踏み入ったのは、日光を避けるだけでなく療養の意味もあったのだろう。
  表情に出して、そのプライドを踏み躙ることがないよう必死に堪えながら――

 (……許さん……)

  ヴァニラ・アイスは、彼以上に激昂していた。
  この殺し合いは、どこまで彼を愚弄すれば気が済むのか。
  『世界』の秘密を勝手に解き、挙句偉大なるDIO様に、傷を付けただと?
  ――許せない。許せるわけがない。必ず、その輩は殺さなければならない。

 (許さんぞッ!! よくも貴様ら如きのゲスな両手で、DIO様のお身体に触れたなッ!!!)

  殺意を、より硬く硬く固めるヴァニラ。
  そんな彼を尻目に、DIOは静かに席を立った。

 「次はわたしの発見を教える番だ。
  此処の事務室にある奇妙な機械を通じて、参加者同士が情報の交換を行っている『チャットルーム』を見ることが出来るようでね。
  話すよりも、実際に見た方が速いだろう。
  では、行こうか…………む。いや、待て」

  DIOが確認したのは、壁時計だった。
  聖杯戦争についてを描いた映像が、思いの外長かったからか。
  既に時刻は、六時寸前となっていた。
  ――日は既に、落ちている。

【B-7/ホテル/一日目・夕方(放送直前)】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、機嫌がいい
[服装]:いつもの帝王の格好
[装備]:サバイバルナイフ@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
[思考・行動]
基本方針:主催者を殺す。そのために手っ取り早く他参加者を始末する。
0:放送を聞いてから事務室でチャットの内容を確認し、再び動き出す
1:セイバーの聖剣に強い警戒。ヴァニラ・アイスと共に、まずは彼女を殺す。
2:銀髪の侍(銀時)、長髪の侍(桂)、格闘家の娘コロナ、三つ編みの男(神威)は絶対に殺す。優先順位は銀時=コロナ=桂>神威。
3:先ほどのホル・ホース、やはり信用する訳にはいかないかもしれんな。
4:衛宮切嗣を警戒。
5:言峰綺礼への興味。
6:承太郎を殺して血を吸いたい。
7:一条蛍なる女に警戒。やはり危ないんじゃあないか、この女?
[備考]
※参戦時期は、少なくとも花京院の肉の芽が取り除かれた後のようです。
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
※車の運転を覚えました。
※時間停止中に肉の芽は使えません。無理に使おうとすれば時間停止が解けます。
※セイバーとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。
※ホル・ホース(ラヴァレイ)の様子がおかしかったことには気付いていますが、偽物という確信はありません。
※ラヴァレイから嘘の情報を教えられました。内容を要約すると以下の通りです。
 ・『ホル・ホース』は犬吠埼樹、志村新八の二名を殺害した
 ・その後、対主催の集団に潜伏しているところを一条蛍に襲撃され、集団は散開。
 ・蛍から逃れる最中で地下通路を発見した。
※麻雀のルールを覚えました。
※パソコンの使い方を覚えました。
※チャットルームの書き込みを見ました。
※ホル・ホースの様子がおかしかった理由について、自分に嘘を吐いている可能性を考慮に入れました。


【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、怒り
[服装]:普段通り
[装備]:範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、ブローニングM2キャリバー(68/650)@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:双眼鏡@現実、不明支給品0~1(確認済、武器ではない)、範馬勇次郎の不明支給品0~1枚(確認済)、ブローニングM2キャリバー予備弾倉(650/650)
[思考・行動]
基本方針:DIO様以外の参加者を皆殺しにする
1:DIO様に土を付けた参加者は絶対に殺す
2:セイバーの聖剣に強い警戒。可能な限り優先して排除する
3:日差しを避ける方法も出来れば探りたいが、日中に無理に外は出歩かない。
4:自分の能力を知っている可能性のある者を優先的に排除。
5:承太郎は見つけ次第排除。
6:白い服の餓鬼(纏流子)はいずれ必ず殺す
[備考]
※死亡後からの参戦です
※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました
※スタンドに制限がかけられていることに気付きました
※第一回放送を聞き流しました
 どの程度情報を得れたかは、後続の書き手さんにお任せします
※クリームは5分少々使い続けると強制的に解除されます。
強制的に解除された後、続けて使うには数瞬のインターバルが必要です。


【DVDについて】
『第四次聖杯戦争の様子』
……第四次聖杯戦争のダイジェストです。
  聖杯を破壊したことで聖杯の泥が溢れ出した所まで記録されています。
  言峰綺礼の変化などについても描かれているようですが、端折られている箇所も当然あるかと思います。

『日本某村の記録』
……蛍達が分校に泊まった際の風景を撮影したものです。
  エンディングテーマが付いていますが、これは参加者の声音を合成で再現し、人工的に歌わせたものです。


時系列順で読む


投下順で読む


162:悪意の種、密やかに割れて DIO 185:ヤツの時間がきた
172:Ice Ice Vampire ヴァニラ・アイス 185:ヤツの時間がきた

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最終更新:2016年10月13日 06:56