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「な、なんでもないよっ」 いきなりのことに私はあわてて取り繕ったが、いかにもなにかありますというのがばればれだった。 ぎぜんしゃ「………」 ぎぜんしゃさんの鋭い、射抜かれるような視線を浴びさせられ、私は何も言うことができなくなってしまった。 ぎぜんしゃ「なんでもないなら、そんな顔しない」 私の顔をじっと見つめたまま、そう断言した。 「………」 ぎぜんしゃ「さっきまでのあなた、いや、今もあなたも、ひどく辛そうな顔をしている」 無言の私にまた話しかけてくる。 その目は確かに厳しいような色もあるけど、それ以上に、その奥にある優しい色のほうの色に吸い込まれそうになった。 触れただけで痛くなってしまう場所を取り出されたけど、それを優しく包んで和らげてくれるような、そんな感じ。 ぎぜんしゃさんなら、話してもいいかもしれない。 ふと、そう思った。 それは何となく、本当に何となくだけど、 一瞬、彼女の姿に私がダブったから。 そこには言葉ではうまく言い表せないけれど、勘違いじゃすまない「何か」があった。 「ここじゃ、話せないよ」 ぎぜんしゃ「じゃあ、屋上で」 「屋上にはゆうや君と日和ちゃんが」 「じゃあ視聴覚室、きっと誰もいないわ」 と、私の手をとって歩き出した。 なぜか大きく見える背中を見て、彼女は私よりもずっと強いんだろうな、とか思った。 視聴覚室についてから、私はぎぜんしゃさんにすべてを話した。 男君に告白したときの話。 日和ちゃんとの事。 自分が辛いと思っていること。 そして、男君への告白をやめようかと思っていること。 ぎぜんしゃさんは一言も口を挟まずに話を聞いてくれたので、すごく話がしやすかった。 すべての話が終わるとぎぜんしゃさんは、 ぎぜんしゃ「私も、日和さんに同意。応援するわ」 といった。 「え?」 私の心の中では、もうすでに諦めてしまっていたので、あせってしまった。 そんな私を見て微笑んで、 ぎぜんしゃ「1人の応援じゃ足りないのなら、私のも足して」 「で、でも、男君にはクーちゃんも、ヒーちゃんも、狂うちゃんも、シューちゃんも、ツンちゃんもいるし」 ぎぜんしゃ「でも、その中にあなたはいないじゃない」 「でも、でも、私なんかじゃ………」 ぎぜんしゃ「荒鷹ぁ!」 ガシィ! そう弱気なことを言った瞬間、私はぎぜんしゃさんにものすごい力で掴まれた。 その行動と、何より、いきなりの性格の豹変で私は絶句してしまった。 そして今のぎぜんしゃさんの視線。 厳しさだけで、優しさなんてかけらも入っていなかった。 ぎせんしゃ「いい?良く聞いて!」 ぎせんしゃ「男君はまだ誰とも付き合っていない」 ぎせんしゃ「あなただって付き合える可能性はあるのよ!」 ぎせんしゃ「それなのにあなたはなんで」 ぎせんしゃ「自分からその可能性を捨ててしまうようなことをするの!」 ぎぜんしゃ「あなたは男君があなた以外のほかの特定の1人の女の子と付き合っているのを見て」 ぎぜんしゃ「またあなたは今日のことを後悔するんじゃないの!?」 「!?」 まるで言葉がすべて私に刃を向けたような羅列。 私はなすすべもなく、その刃に切り刻まれた。 切り刻まれた私の視界は、静かにブラックアウトした………。 気づいたら、私は保健室にいた。 そして隣には、ぎぜんしゃさんがいた。 ぎぜんしゃ「ごめん、私、ひどいこと言った………」 ぎぜんしゃさんは、さっきまでの様子がうそのようにうなだれていた。 「ううん、気にしないで、全部私が悪いんだから………」 私も謝罪した。 彼女の言うことはすべて正しい。 ただちょっと耐性がなかったから、強すぎたために倒れてしまっただけだ。 本当に、ちょっとだけ運が悪かっただけ。 ぎぜんしゃ「じゃあ、さ」 ぎぜんしゃ「仲直り、してくれる?」 「うん、こちらこそ、お願いします」 お互いに顔を見合わせて、プッ、と噴き出した。 なんだかおかしくて、二人とも笑いあった。 ちょっと恥ずかしがりながら、笑いあった。 「そういえば、今何時間目?」 そう聞くと、5時間目と6時間目の間だよ、と、ぎぜんしゃさんは答えた。 「じゃあいかなきゃ」 と言うと、 ぎぜんしゃ「まだ休んでて」 と静かに私の布団を押した。 ぎぜんしゃ「考えなきゃいけないこと、あるでしょ?」 そういって微笑んだぎぜんしゃさんは女から見てもすごく可愛くて、きっとこの人がライバルになったらかなわないな、と思った。 じゃあ授業があるから、と、背中を向けたぎぜんしゃさんに対して私は、待って、と引き止めた。 「どうしても聞きたいことがあるの」 ぎぜんしゃ「なあに?時間がないから早くしてね」 振り返らずに背中を向けるぎぜんしゃさんに、私は一息ついて、こう言った。 「どうして、私にこんなに良くしてくれるんですか?」 あまり話したことのなかった私に対して、ここまでしてくれる理由。 それがわからなかった。 ぎぜんしゃさんは振りかえって、微笑んで、こう言った。 ぎぜんしゃ「偽善。ただの偽善」 じゃあね、と、いってしまうぎぜんしゃさんに私は追いすがるように、声をかけた。 「たとえそれが偽善だと思っていても」 「私はすごく救われたよ!」 「あなたの思っている、偽善と言うのは」 「私はすごいと思う!」 ガララッ、ピシャ。 私の言葉が届いたかどうかはわかんないけど、「ありがとう」って声が、私には聞こえたような気がした。
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