OP1 - (2009/01/28 (水) 18:44:56) の最新版との変更点
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薄明かりが照らすその空間は、殺風景な劇場のような場所だった。
二階建ての家程度の高さなら収まりそうな舞台、取り替えたばかりらしい小奇麗な暗幕
そして客席――ただし、腰を下ろす椅子がない――には数十の人影が建ち並んでいた。
まだ幼げな容貌の少女から奇妙な出で立ちの男。中には人間ではない者もいるように見える。
その誰もがいつのまにか訳も分からずここにいる自分達、
そして、見知らぬ人々に対して動揺を顔に浮かべていた。
「ルーーーーーー!!」
耳を裂くような叫びが響いた。
同時にざわめきも一瞬だが収まり、場が静寂に包まれる。
舞台から見て客席の向こう側――そこから、黄色い影が飛んでくる。
残像を映しながら、宙を舞う影は思ったより軽い靴音と共に、舞台の中心に降り立った。
現れたのはピエロのような恰好をした奇妙な男だった。
黄色を基調とした服装。大きく盛り上がる真っ赤なアフロヘアー。
白粉を塗りたくったその顔、出で立ちは忘れそうにもない。
「こんにちは、ドナルドです」
口を開くなり自身の名を告げる。次に彼はやや声を明るくしてこう言いだした。
「みんなにはこれから殺し合いをしてもらうんだ」
その言葉に、動揺の声が辺り一帯に響く。
再びざわめき出す群衆。その目の前に舞台裏から新しい影が現れた。
人間ではない。少なくとも姿格好は。灰色の体躯に赤い眼球が一つだけ輝いていた。
「あとはタケモトくんにお願いしていいかな?」
「ああ」
タケモトと呼ばれた物体が道化師――ドナルドに声を返し、面倒そうに群衆の方に体を向けた。
「お前らにはこれからある場所で、こいつが言った通りに殺し合いをしてもらう。
最後の一人になるまで、な。
それと定期的に死者と禁止エリア――まあこれは後々で分かる。
とにかく、それら知らせる放送をする」
「お前らには食糧や会場で必要になる道具。それとひとつからみっつまでの特別支給品が入った
デイバックを配る。ちなみに特別支給品の分配をしたのは俺だ。俺の優しさに感謝しろよ」
「もしも24時間以内に誰も死者が出なかった場合その時点でお前ら全員死ぬことになる……
ここまででなにか質問はあるか?」
「大ありだ!!」
恫喝するような男の声。群衆の一部を突き飛ばし、ホッケーマスクのような物をかぶった巨漢が前に出る。
「この俺をわけの分からぬところに連れ出しといて殺し合いをしろ? 死ぬことになる?
ふざけたことを言っているんじゃないぞ、この北斗神拳伝承者ジャギ様に!」
ジャギと名乗った男が舞台へと距離を詰める。
「それにどうやって俺達の生き死にを管理するつもりだ? どこに連れていくつもりか知れんが、
その気になれば今この場でお前達まとめて――」
「こうするのさぁ」
楽しげなドナルドの声が響く。
「ドナルド☆マジック♪」
道化師が軽く動かした指先から、きらびやかな光が放たれる。
光は弧を描き天井付近にいったん飛んで行き、続いて客席全体に雨の様に降りかかる。
次第に輝くシャワーが止む。そして。
客席にいるもの全員の首。
そこに黒光りする首輪が付けられていた。
ジャギが叫ぶ。
「な、なんだこれは!」
「ドナルドは嬉しくなると」
ドナルドがジャギの首輪を指さす。そして。
「つい、やっちゃうんだ☆」
閃光が辺り一帯を蝕んだ。
劇場に悲鳴が響き、錯乱した者達が半狂乱に暴れ出す。
ジャギだったもの――爆発の威力が強すぎて胸元まで吹き飛んでいる――
を見やりながらタケモトは静かに声を出す。
「続きだがお前らにはこの首輪をつけて会場に出てもらう。
爆発する条件は、まず放送ごとに発表された禁止エリア内に入った場合。
デイバッグの中に入っている必要な道具――
地図に区分けされたエリアが書かれているから、 注意しろよ」
「それともうひとつ無理矢理、外そうとした場合――」
再び爆音と閃光。舞台からもっとも離れた最後尾から轟いてきた。
さらに耳を裂くように悲鳴が増える。
「……こうなる。下手なことは考えないようにしろよ」
そしてチラリとドナルドに視線を向けるとタケモトは後ろに下がった。
「最後にこいつから言うことがある」
ドナルドが前に出る。
道化師は変わらず笑みを浮かべている。朗らかで、優しく見えるようなそんな笑み。
「ドナルドはね、皆がだーい好きなんだ」
子供をあやすような明るい語調。
「その中でもね、頑張った人にはなんでも願いを叶えてあげようと思うんだ」
そして、見る者を嫌でも魅いてしまうしぐさ。
「だから、みんな一緒にがんばろうね☆」
それら全てが恐ろしく思えながら。
「ドナルド☆マジック♪」
彼の意がままに流されていった。
「ニコニコバトル動画バトルロワイアル」
暗がりの底から声が聞こえる。
「開始だ」
*OP1 ◆BDYHtT3Bi.
どことも知れない暗闇の中。そこに彼らはいた。
明かりひとつない空間ではなにも見えはしない。けれど、音と声。そして人の気配は分かった。
十――いやその何倍もの数の人々が闇の中でざわめいている。
ここはどこか。
彼らが共通して考えていることはそれだった。
各々が先まで見ていた景色と照らし合わせても、誰もがこの闇に立っていた覚えはなかった。
暗闇に眩しい光が飛び込んできた。
明かりが灯されると、この場が一体どういったところなのか、少しはわかるようになった。
まず、前方に見えたのは舞台だった。楽団の演奏、またはオペラを公演するには十分な広さを持った、
大規模なものである。
そして彼らが居た場所は客席にあたる場所だった。
もっとも、腰を下ろす椅子さえないのは、設計ミスの一言で済まされるものではないが。
劇場。
少しは自分達がどういった場所にいたか分かり、人々は少し安堵を覚えたようだった。
だが、幾何人かはいまだ表情を崩さずにいた――ここに、なぜいるのか。そして、
誰か来させたかも、まだなにもわかってはいない。
しかし、それもすぐにわかりそうなものだった。舞台の中心にふたつの影が見えたからだ。
ひとりは白粉を顔に塗ったピエロのような男。
髪は真っ赤なアフロヘアーで、黄色を基調とした服を着た目立つ容姿は忘れられそうにもない。
もうひとつの影はそもそも人間ですらない――少なくとも外観は。
灰色の包帯と言えばいいだろうか。それを全身に巻きつけた体。顔には赤い眼がひとつだけ輝いている。
被りものかとも思ったが、動きを見る限りは、そういったものではないように見えた。
片方のピエロの様な男が前へと出る。舞台の端あたりまで来て、そこでピタリと足を止めた。
「こんにちは、ドナルドです」
にこやかな笑顔を作り、片手をヒラヒラと振りながら、ピエロはまず自分の名を名乗った。
そして次に――ドナルドと名乗った男はこう続けた。
「ここに集まってもらった皆には、これからバトルロワイアル。つまり、殺し合いをしてもらうんだ」
突拍子もない言葉に、劇場が一斉に波紋が広がった。
ただ、思わず叫んだだけの者達。突然のことが理解できない者達。
そして、騒然とした空気に包まれるなか、冷静にピエロの語ることを呑み込む者達。
動揺が広がる群衆――それをドナルドの後ろから見ていた一つ目が、前へと出た。
「お前らにはこれから必要最低限の道具と、
各自への特別支給品が入ったデイバッグを持って、会場に出てもらう。
最後の一人になった時点で殺し合いは終了。
残った奴だけが生きて、元々いた場所へと帰ることが出来る」
いったん言葉を切り、こちらを見回してくる。
そして、少しは落ち着いたと見たのだろう。言葉を続ける。
「それから、お前たちには――」
「ふざけるんじゃない!」
言葉の続きは叫びに止められた――群衆の一部を突き飛ばし、
ホッケーマスクのような物をかぶった巨漢が前に出る。
「この俺をわけの分からぬところに連れ出しといて殺し合いをしろ? 死ぬことになる?
ふざけたことを言っているんじゃないぞ、この北斗神拳伝承者ジャギ様に!」
ジャギと名乗った男が舞台へと距離を詰めてゆく。
「それにどうやって俺達の生き死にを管理するつもりだ? どこに連れていくつもりか知れんが、
その気になれば今この場でお前達まとめて」
「……ルー」
一つ目が喋り出してから、黙っていたドナルドが声をあげる。
どこか残念そうな顔でドナルドが男へと顔を向けた。
「君はジャギ君だったよね? 君のようにそういったことを言う人もいることは、
もちろん考えたさぁ。
だけど、本当にそう言われると、ドナルドは悲しくなっちゃうんだぁ」
そう告げるとピエロは一つ目の方へと顔を向けた。
「タケモトくん、続きを話してくれないかな」
一つ目――タケモトという名前らしいが、ドナルドに促され再び言葉を続ける。
「……それからお前たちには、こいつのようなことを考えないように、これをつけてもらう」
「ドナルド☆マジック♪」
ドナルドが軽く動かした指先から、光が放たれる。
光は空中で拡散しジャギ、そして客席に居る者達全員の首へと降り注いていった。
やがて、光が消えて。
舞台上の二人以外の者全員に、黒光りする首輪がつけられていた。
タケモトの声が響く。
「今、お前らにつけられたのは強力な爆弾の仕込まれた特製の首輪だ。
爆発する条件はみっつ。
ひとつは無理やり外そうとした場合。
ふたつ目は、殺し合いの最中に死者の発表と、一定のエリアを禁止区域に指定する放送を行う。
区分けされたエリアはデイバッグの中にある、地図に書いておいた。その中に入ったらアウト。
みっつ目は24時間以内にひとりも死者が出なかった場合……
つまるところ、お前らが殺し合いを放棄したと判断し場合に爆発する」
そして、どこか同情するような目でジャギの方を見つめる。
「もっとも言葉だけじゃ実感が沸かない奴もいるだろうからな……一度、爆発するところを見てもらおう」
すっ、と。
ドナルドが舞台を降りて、ジャギの目前へと身を寄せる。静かに笑顔を浮かべながら。
状況を理解して、ジャギは青ざめた表情で声を出した。
「ま、待ってくれ――」
「ドナルドは悲しくなると」
ドナルドがジャギの首輪を指さす。そして。
「つい、やっちゃうんだ☆」
閃光と爆音が辺り一帯を蝕んだ。
「んー、ここまでで、なにか質問はあるかな?」
返答はない。
首から上を失った男を、ジャギを見やりながら誰もが静まり返っている。
ここにいる者達、全員がこの場で彼に口を出すの恐れている――いや。
何人かは違った。道化師に対して怒りを見せる者。挑戦的な態度を見せる者。
あらわとなった明確な闘志が、沈黙の中で確かに感じられた。
それらを一身に受けながら、道化師は悪魔で無邪気に笑っている。
「ルー、そんな怖い顔をしないでさぁ。
ドナルドだってなんのご褒美も用意してないわかじゃないんだ。皆がだぁい好きなんだから。
最後に残ることのできた人の願いはどんなことでも、ドナルドマジックで叶えてあげるさぁ☆」
そして、群衆をぐるりと見回して。
「もう一度。質問はあるかい?」
返事はない。
それにドナルドは満足げにうなずいた。
「大丈夫なら、始めるよ? さあ――」
ドナルドが一歩、後ろに下がる。
そして指先を静かにこちらへと向けた。
「ドナルド☆マジック♪」
光が全てを包み込む。
目を覆うような輝き――それも消えて。
劇場には誰もがいなくなり、ただ静寂だけに支配された。
殺し合いが始まり。
そして、誰もいなくなるのか。
それとも――
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