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―――蝦夷圏・札幌、赤レンガと呼ばれる建物に彼らはいた。
緊急会議中とだけ殴り書きされた紙をドアに貼り付けてあるこの一室こそが
蝦夷圏の総長連合、その幹部達が集う本部である

「―――で、だ。皆…とはいっても4人しかいないが…を集めた理由だが…まあそんなの言うまでもねえよな。」
整然と並べられたテーブルの一席で男が発言する
筋骨隆々とした彼の名は猿払・赤児。その名こそが彼を蝦夷圏総長だと証明している
「赤児さんの…赤字の領主としての能力の消失…ですよ……ね?」
答える声は少女のものだ。席順から考えてこの場におけるランクはあまり高くはなさそうだ
しかし同時にこの場にいること自体がかなりの役職に就いているということに他ならない
「恵君、発言は挙手の後でしてくれたまえ」
少女――雪印・恵の発言に対して冷静な声が響く
「あ…はい…すみませんでした柳月先輩……」
柳月と呼ばれた細身の男の席は赤児の横。寄り添うように座っている
「おいおい、あんまし恵ちゃんいじめんじゃねーぞ、薪?4人しかいないんだから大目に見てやれって」
「苛めてなんかいませんよ、赤児さん。これは規律の問題です。ええ、苛めてなんかいませんとも」
蝦夷圏副長。それが柳月・薪の役職だ。基本馬鹿な赤児の代わりに政治云々を一手に引き受けている
恵ちゃんの話になると妙に絡むな、と苦笑しながら赤児は本題を告げる
「そう、何故だかは判らないが俺の詞と共に赤字の能力が失われた…正確には劣化だな」
それだけじゃないぞ、と前置きしてから赤児はあるものを取り出した
「…トマトですか?」
恵が首を傾げるのも無理は無い。赤児が取り出したのは単なるトマト―しかも若くてやたら青い―だった
「ああ、トマトだ。―ああ、恵ちゃんには見せてなかったっけか。おい、医者かもーん!」
呼び声に答えて白衣を着た医者らしき男が入ってくる
「…赤字の領主の能力はね、神器の押し付けだけじゃないんだよ」
恵の横に座った長髪の少女が説明する
「『赤』って言う字を使った擬字言実詞―――」

――トマトが『赤』くなれば 医者は青くなる――

ぱたん

赤児の声とともにトマトが赤くなり、医者は顔を真っ青にしてぶっ倒れた

「…と、まあこんなふうに、だ。昔はこれでマキシマムトマト…
 一口食えば大抵の怪我は治っちまう代物ができたんだが…」
もしゃもしゃとトマトを頬張る赤児
「これが全然力が沸いてきやしねえ…ただの完熟トマトなんだな、これが」
まあ美味いんだけどなー…と呟く赤児
「…あのー、お医者さんが苦しそうなんですが……泡吹いてるし」
「ああほっとけほっとけ、そいつはこの前覗きがばれて公開処刑されそうになってな、慈悲深い俺は
 去勢手術の代わりにこの役をやらせたわけで」
「そういうわけで彼に対する同情は無用です。…で、今後の方針ですが」
話が脱線しそうになるところを薪が修正する
「おう、とりあえずいっちょ色々旅に出ようかと思ってな」
「……はい?」
いきなり何を言い出すんだこの人は、という視線を隠しもしないで薪は赤児を見つめる
「旅に出て…何をするんですかこの忙しい時期に。まさか単に観光じゃないでしょうね…」
「当たり前だぞ?お前は俺を何だと思って―」
「ただでさえヘボい能力が更に劣化した駄目総長」
「うわー聞いたかよ恵ちゃん、こいつ鬼だぜ?人のレア物の能力指してヘボいって言いやがった!」
「え…えっとー、私に振られても……あの………」
「そこで何で恵君に逃げるんですか?恵君も恵君でヘボいならヘボいとはっきり―――」
破砕音が響いた。音の主は先ほど恵に赤児の能力の説明をした女性。名は―
「…柚木、さん……?」
「皆さんご静粛に。赤児さん、続きを」
「…お、おう。」
それまで殆ど発言を控えていた副長補佐、柚木・真実のプレッシャーにたじろぎながらも赤児は本題に入る
「…時に薪、俺の状態を見て何か思わんか?」
赤児の質問に一瞬考え、そうですね、と前置きして
「能力の劣化自体はどうか判りませんが…本来の詞を失った、という一点においては『己の詞を持たぬ者』に近いものが無い訳でもありません」
根本的に違うような気もしますが、と考え込む柳月
「まあそうだな、こじつけて考えるとそれが一番近い。なあ、かつて和解動乱で一時的に同じような事態に陥った男がいたんだ」
資料はお前も見たことがあるんじゃないか?という言葉に柳月は一人の名前を思い出す
「……難波・総一郎!」
「そうだ、そして彼は自分に近しい状態にある者――この場合は『己の詞を持たない少年』と闘い、その果てに己の神器を取り戻したらしいな」
「…じゃあ、赤児さんは『己の詞を持たない少年』を探しに出るんですか?」
恵の言葉にしかし赤児は首を振る
「俺の勝手な想像だがな、これは多分それでは戻らないだろう」
「では、赤児さんはどうなされるおつもりですか?」
「真実ちゃん、俺の…赤字の領主に最も近しいのは他にもいるだろう?真逆であるが故に最も近しい男が」
その一言で柳月は全てを理解した
「緑字の領主…『万物を引用する者』!」

かくて緑を求める赤の闘いは始まる

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最終更新:2006年08月11日 17:36