1-2.施設案内
学園内にはショッピングモールや娯楽施設等などが充実。
学園内には全天候型プール、巨大食堂、地下街、コンサートホール、闘技場、トーチカ、格納庫、など幅広いニーズに合わせた施設もかね揃えている。
中でも巨大食堂で生徒たちの注目をあつめる目玉として、『DEATH・SIMOTUKARE』が人気である。SIMOTUKAREの8人前を見事、六十分で完食出来たならばお代の無料、金一封と食堂の殿堂入りが行われる。だが、大抵の生徒は箸を付けて十数分で脱落して医務局送りとなる。無論、お代は後に請求される。
この定食を開始して数十年経つが完食できたものは数人しか居ない(食堂のコック談)
尚、完食者は食堂にある殿堂の額縁に記録と共に写真が飾られているので見に行ってみるのもいいだろう。
学園都市・TUKUBA”巨大食堂”
夕方だが多くの利用者で混み合っている。
”巨大食堂”。
TUKUBAを馬鹿みたいにでかい学校とすれば、この食堂は阿呆みたいにでかい学食である。TUKUBAで「食堂」とのみ言った場合ここのことを指す。
うまい・安い・早いの三拍子に加えて量が多いという学生の味方である。……ただしこの四点セットは、長年の間学生たちに語り継がれる「安全牌」に限ってのことであるが。
食堂の一角に二人の少年が一つの卓に向かい合わせで座っていた。
一人は痩身で背が高く、一人は背が低い。
背の高いほうが卓の上に上体を投げ出すようにして突っ伏し、背の低いほうはノートパソコンを弄っている。
背が高い方。眼鏡こそかけているものの顔はそれなり。180を超す細身の長身と合わせれば異性には受けがいいだろう。ただし彼の場合、『黙っていれば』の前提条件が付く。
背の低い方。女顔というか女物の服を着てれば女の子に見えるだろう。日本人にしては色素が薄いのか、髪と瞳は明るめの栗色、肌も白い。
「いやー、まさか騎(バレル)を使って鬼ごっこをするとは思わなかったよ。しかもオチまでつけてくれるとは、毎度ながら我が第三新聞部への記事提供ありがとう」
ノートパソコンを弄る少年が口を開く。
「うるへー。好きでやったんじゃねえ」
と、机の上に長く伸びた少年。彼は先ほどの騎演習で軽騎(ライト・バレル)のうちの一騎に乗っていた騎師(ストライカー)である。名を中林・英彦という。
「でもね英彦。軽騎で延々逃げ回った挙句、漫画みたいな転び方して自爆ってギャグ以外何でもないと思うよ」
「そうは言うがな大佐。軽騎と重騎(ヘビィ・バレル)がタイマン張って勝てるわけ無いだろ。あれはあれで小回りが聞く軽騎でかく乱して、相手の活動限界を狙う作戦だったんだよ」
「本音は?」
「重騎にどつかれたくないでござる」
「素直でよろしい」
中林の相手をする少年、彼の名は篠竹(しのたけ)・純。学園広報部の一角、第三新聞部所属の記者である。
「でもな、演習とはいえ重騎にボコられるのってマジで痛いんだぜ?」
「わかったわかった。こっちとしては面白い画が撮れたからそれでいいよ」
篠竹は中林の抗議を受け流し、ノートPCの操作を続ける。画面上では先ほどの騎演習の写真が編集されている。
「そりゃどうも。部数稼げたら何か奢ってくれ」
「稼げたら、ね。騎演習関連記事は安定した読者はいるけど、爆発的には伸びないからねー。まあ、新型重騎の情報とかあれば別かもしれないけどさ。あの”栄光”の背部推進器(スラスター)、新型用のヤツだろ?」
篠竹の期待するような響きの言葉に、中林はうんざりした様子で返答する。
「前からいってるけど、その話は大学部の方に取材申し込んでくれよ。下手な事言うと俺が説教食らうんだよ」
中林は、学園の大学部主導の重騎実験プロジェクトに、高等部であるが参加している。立場としては見習い、わかりやすくいえば雑用係だ。
「えー、だってさー、あそこの開発主任の爺ちゃん話長いんだもん」
「記者が話聞くの嫌がるなよ。それに俺は毎日のようにあの爺さんの話に付き合ってるんだぞ」
「それには同情するよ」
一欠片だって同情していない口調の篠竹。
「はぁ……じゃあ新型重騎以外だと、どんなのが部数伸びるんだよ」
「最近の一番人気企画は『全国学生連合美人紹介』かな」
「あれか。確かにあれは面白い」
全国学生連合美人紹介とは篠竹・純が所属する第三新聞部の目玉企画である。全国各圏の学生連合の学生・教師・関係者などの中から美人を選んで、総天然色写真と共に紹介するコーナーだ。イメージ戦略を狙っているのか、各圏は大抵の場合協力的で、きわどい写真や水着写真が掲載されることがあり、学園の内外を問わず人気が高い記事である。
「去年の長野特集は受けたね。あっちの総長連合から大口注文あったし、増刷もしたからね。バックナンバーも殆ど残ってない」
「うちの学園にも総長姉妹と時計館の自動人形さんのファンが出来たからな」
中林の脳裏に長野の時計館で給仕服姿で微笑む自動人形の姿と、美人姉妹の水着が去来する。
「何だかあっちの総長さん、無駄にサービス精神旺盛だったからね。並みの外道じゃあそこまで妹の写真晒さないと思う」
長野特集では、写真入副総長成長記録(一部成長せず)が小冊子でつけられた。この小冊子は何故か総長自ら起草した物で、写真とは別に原稿が送られて来た物だ。これが原因で長野で内乱が起こりかけたとの風の噂もある。
「英彦はあの姉妹だったらどっちが好みよ?」
「どちらかって言われたら、妹さんの方かな」
「英彦は貧乳好き、っと」
「おいこらどうしてそうなる」
「一般的にはですね。おっぱいの大きさと魅力は比例すると言いまして。バストサイズの1cmの差は、はオリンピックの順位に相当するとの説もあります」
妙に自信たっぷりに篠竹が言い放つ。
「……さよか。で、あのコーナー次は何の特集するんだ?」
先ほどまでの疲れはどこへやら。中林が楽しそうに聞く。何だかんだ言ってもお年頃である。
「んー、色々情報は入ってきてるんだけどね。香川に天才ロリっ娘がいるとか、静岡の美人姉妹、新潟のロリババァ……あとは神戸のマニアック制服コレクションとか?」
「何だそのドリームワードの数々は」
「事実なんだからしょうがないでしょ。ま、取材の都合もあるから、事前調査とかしなきゃいけないんだけど」
「ふぅん、大変なんだな」
意外と真面目に記事に取り組んでいる篠竹に、中林は感心の声を上げる。
「好きでやってることだからそうでも無いよ。実は今、あの企画で内外問わずリクエストがダントツで殺到してるとこがあるんだ」
「へぇ、どこだ? 大阪、さもなきゃ京都・奈良あたりの古都圏とか?」
「いや学園都市(うち)」
第三新聞部の企画は、地元、ホームグラウンドの学園都市の特集はまだ組まれていなかった。
「そういやそうだな、何で?」
「……下手に他圏よりも取材が難しいんだよ」
「そうか? ナディア先生とかどうよ? 美人でスタイル抜群で、取材も気さくに受けてくれそうだけど」
言って中林は壁を指差す。
そこには食堂名物メニュー『DEATH・SIMOTUKARE』完食者の額縁。額縁の中には、打ちひしがれるシェフを従えてピースサインを出すブロンドグラマーの写真。額縁には完食者「ナディア・プライム教師」。41分38秒。歴代二位の文字。
この人物は学園の教師、ナディア・プライム。絵に描いたような金髪美人。性格は大らかにて人当たりも良く、男女問わず学生たちからの強い人気を誇っている。
「ナディア先生はいいんだけど、うちの特集やるなら避けて通れない人物がいるからさ」
「誰だ?」
「学生会長だよ」
「ああ……なるほど」
彼らの話に出てくる学生会長とは、TUKUBA学園都市の学生を統べる学生会長、枸橘(からたち)・久遠のことである。高等部三年でありながら大学まで含める学生の頂点に立つ。モデル体系の美人だが、私生活などは一切謎である。
「あの人への取材って、オルタードライン越えなみの難関だからさ」
そう言う篠竹の表情は、彼には珍しく途方に暮れていた。
道の両脇に等間隔で街路樹と街灯、そして建物がある。
日が暮れて薄暗くなった道を一人の少年が歩いている。
今、中林は一人学園の道を歩いていた。既に春の陽は落ち、辺りは薄暗い。
篠竹は自室に帰って記事の草稿作りに、知人とのメールやり取り、それにどこぞのサイトへ潜ると言って中林と別れた。
後に彼、篠竹は「この時中林に付いて行けば」と悔やむことになる。
中林が目指す先は大学部の工学実験棟。
学園都市は元々が大学部や高等部と言った区切りが薄い上に、長身の中林は大学部を歩いていても違和感が無い。
「スイマセーン! そこのお兄サン、ちょっと道聞いてもいいかな!?」
ゆえに大学部の学生と間違われて、道を聞かれることもしばしばある。
「えっと、俺、いや僕ですか?」
「YES! つーか、今ここにアナタ以外いないじゃんよ」
振り向いてみれば、青いサングラスをかけた中肉中背の男がいた。髪は襟足などに黒を残した以外は金に染め、春だというのに前を止めないでアロハのみを羽織った上半身。痩せているが鍛えられて引き締まった裸身には、金鎖のネックレス。下はアイボリーのカーゴパンツ、極め付けに革のグローブと軽いというより、何も考えてなさそうな人物。
格好といい、妙な慣れ慣れしさといい中林が苦手とするタイプの人間だった。
「それで、どこへ行きたいんですか?」
「えーっとな、ここで一般公開されてるっつー新型のバレル、重騎(ヘビィ・バレル)を見たいんだわ」
「へえ、あれを身に来たんですか。でも今日は一般公開の模擬戦終わりましたよ? 新型が出る模擬戦は週末ですし」
自分が関わっている重騎の話題が出たことで、中林は男への態度を若干軟化させる。
「いいっていいって、オレはこうチラーっと重騎が見られりゃそれでいいんだ」
「見学でしたら、ここをまっすぐ言って一つ目の曲がり角を左。その後、左手を見ながら進めば工学部の建物がありますから、そこに案内図があります。そこで手続き取ればガラス越しですけど、駐騎してあるのが見られると思いますよ」
「おお、オニーサン、サンキュー! 恩に着るぜ!」
オーバーリアクションで感謝を言うなり、男は早足で歩き始めた。
中林が異常にハイテンションな彼を呆然と見送っていると、男は不意に立ち止まって振り返った。
「オニーサンはいい人だから良いこと教えチャうぜ! 今日はあんまりこの辺うろうろしてないで家に帰るか、学園の外にでも遊びに行くと、きっとイイコトあるぜ! じゃあな!!」
「……なんだったんだろうか」
呟く中林に答える者はいない。
薄暗い道を一人の男が歩く。
足取りは確かで迷いが無い。
先ほど中林に道を聞いた男は、案内通り道を歩いていた。道を聞いていたにもかかわらず、その歩き方は、まるで自分のよく知った道を歩くように、遠慮も迷いもない歩き方だった。
「ご主人、あんな事言って良かったんスか?」
不意に虚空から声が響いた。声の主の姿は見えない。
「おいおい、マスターはねえだろディアフレンド。 せめて隊長にしてくれ」
「……まあいいッスけどね、俺は。それで隊長、あんな予告めいたこと言って平気なんですか」
「ん? ああアレ? 別にいーんじゃねーの? 意味わからねえだろうし、後からわかってもそのころオレはもうここにゃいねえしよ。
第一、”俺”と話したことを覚えていてもそれが”誰”だったかは認識できねえんだからよ。
サービスだよ。サ――――ヴィス」
隊長と呼ばれた男は、あくまで軽い口調で声の主に返答する。
「そんなことよりディアフレンド、お前は準備いいのか?」
「俺はバッチリっすよ? 迷彩だってちゃんと動いてますし、後は隊長の『説得』次第ッス」
姿のない声の言葉に男は皮肉気に笑う。
「ハッ! 言ってくれるじゃないのマイディアフレンド。お前こそヘマやって見つかるんじゃねえぞ?」
彼の歩みは止まらない。
工学実験棟。そのすぐ近くにある大型の格納庫。
体育館のような形状の大型の建物。
内部はほぼ空洞の構造物に各種大型機器や照明が所狭しと並んでいる。
その中央全長十メートルほどのカーゴには黒い人型の機械がある。
現在照明は必要最低限しかついておらず、人も少ない。
わずかに作業を行っている人々の脇、作業机に腰掛ける人影が二つ。
一人は長身の少年。もう一人は作業着に身を包んだ小柄ながら衰えを感じさせない老人がいる。
「で、英彦。何の用で来たんだ? ええ?」
「うわ、思いっきり迷惑そうですね」
「片付けもそろそろ終わって、上がろうかって時に来られたら、誰だってそうだろうよ」
「今から帰ろうって割りに、そこにある酒は何ですか」
少年、中林・英彦の指摘通りテーブルの上には一升瓶の焼酎。ラベルには『烈風正拳突』。
「燃料だ」
至極真面目な顔で老人、この格納庫の老主任は言って、手に持った湯飲みの中の透明な液体を呷る。
「さいですか。迷惑でしたら帰りますよ」
「しゃあねえな、そこまで頼まれたら話を聞かんでも無い」
「アリガトウゴザイマス。じゃあ酒のツマミにこれをどうぞ」
中林が取り出したのは、ポテトチップスほっけ味。
「差し入れなら、IAI製以外を持って来いよな……」
ぶつぶつ文句を言いながらも、老主任は封を開けスナック菓子を摘む。
「んで、坊主は何が聞きたいんだ」
「まあ、大した話って程じゃないんですが、今日の模擬戦について聞こうと思いまして」
「聞くも糞もねえだろうよ。お前らは六人がかりで、一人を相手に喧嘩を売って、負けた。そんだけだろうが」
面白くも無さそうに老主任は言う。
「身も蓋も無いですね」
「手前らの戦い方ほどじゃねえさ。何で数が多いのに各個撃破されてんだ?」
「そりゃあまあ、機動力でかく乱されたといいますか、作戦逆手に取られたといいますか」
「ふぅん、なるほどなあ。それじゃあ中林。お前のアレも『機動力でかく乱』と『作戦』なのか」
即効酔いが回ったという訳ではないだろうが、老主任は妙に座った目つきで中林を睨む。
「アレ、といいますと?」
老主任の言葉に中林は首を傾げる。
「おい坊主。大人を騙すには五十年年季が足りねえよ。とぼけたいなら言ってやる。お前が散々逃げ回ったことだよ」
逃げ回った挙句、盛大にこけたところを撃墜判定を食らったことを指摘され、中林はわずかに引きつった顔をする。
「あれは樹詞剣でぶん殴られるのが嫌で……」
「で、重騎の間接部にがたが来るぐらいまで切り返しで逃げ続けたわけか」
「……」
老主任は再び湯飲みを呷るが中身は既に空。
「あの重騎に乗ってた奴は気づいてなかったな。そりゃあいいと思うぜ。あのまま間接部に疲労を貯めれば、相手の足を殺せるからな。だがな、あれは味方と連携取れなきゃどうしようもねえだろう」
酒を湯飲みに注ぎながら老主任は続ける。
「あのまま、そうだな十五分も逃げ続けりゃ、重騎の機動力を半分以下にできたかもな。重量がある重騎が、アクロバットを前提とした軽装軽騎(ライト・バレル)と同様の動きをすりゃあどうしたって負荷がかかって無理がくる。でもそれだけだろう」
老主任は酒を呷り、熱い息を吐く。
「絶対的な耐久力と決め手が違う。追い詰めたところで、軽騎じゃ一発良いのを食らっちまったらそれで終わりだ。オメエはよくがんばったかも知れねえが、味方の援護がなけりゃ『頑張り』だけじゃ勝ちは拾えねえよ」
老主任の一方的な話を前に中林は終始無言。
「どうだ図星か? 俺に言ってほしいことは全部言ってもらえたか?」
「降参です」
「降参したって許すか馬鹿。手前みたいな餓鬼は、小賢しい事考えずに全力でぶつかってから何かしろってんだ馬鹿。馬鹿の考え休むに似たりだ馬鹿。ちょこまか小細工してるんじゃねえ馬鹿」
「馬鹿馬鹿言わないで下さいよ。これでも無い知恵絞ってるんですから……人を追い返そうとしてた割には随分絡みますね。酔いました?」
老主任はジロリと中林を睨んで黙らせると、ポテトチップスを口に運ぶ。
「これぐらいで酔うか。嫌なことがあったから若者苛めてるだけだ」
「うわあ、あんたナチュラルにクソ爺ですね」
「好きなだけ言いやがれ。でも次言ったら筑波式の特別補講してやる」
その言葉に顔を引きつらせる中林。
老主任は、高等部の舞闘(ダンス)の授業で師範役として時折顔を出す。小柄な老主任に、長身の中林は幾度と無く投げ飛ばされ、絞め落とされた経験がある。
「マジで勘弁して下さい」
「なんでぇつまらねえ」
心底がっかりしたという風の老主任。
中林は、その老主任の姿に相当ストレスを見る。
――中林・全行師(グリーンホーナー)/心理(マインド)/視覚(サイト)技能(テック)・発動(テイク)・遺伝詞(ライブ)読解・成功(ヒット)!
――荒井・心理技能・自動(オート)発動・気配察知・成功!
老主任、荒井を全行師の視覚で見れば、もやもやとした赤紫色の遺伝詞が不協和音を生み出しているのがわかる。
「おい、見習い。何を盗み見してやがる」
「別に意識して見たって程じゃないですよ。僕は近視ですから、目を凝らす時はこっちの方が楽なんです」
中林は指先で眼鏡のブリッジを押し上げ、肩を竦める。
それを見て、ケッ、と吐き捨てるようにして、老主任は酒を飲む。
「それで、何があったかは聞いても大丈夫ですか」
「誰が小僧なんぞに……まあ、そうだな、お前にも無関係じゃねえし教えてやる。
こいつのお蔵入りがほぼ決定だ」
老主任はそう言って、照明が殆ど落とされた格納庫の中央をあごをしゃくって示す。
そこには、薄暗い室内に溶けるように黒い重騎が一体ある。
重騎の名は”荒人改”。 旧日本軍の重騎、荒人を現代の技術を持って生まれ変わらせた機体。
基礎設計は六十年以上前だが、元々の高い基礎性能に加え、学園都市の実験的技術を盛り込まれた騎体は、神器(リズム)搭載型重騎として、「現行騎と比較しても互角以上の性能を持つ」と老主任が豪語する自信作だ。
「お蔵、って」
「週末の公開模擬戦だがな、奴の相手はこいつじゃなくなった」
「模擬戦って、あの模擬戦ですか」
公開模擬戦。学園都市の技術の誇示と入学、編入希望の学生に向けて研究成果のアピールをするイベントの一つ。公開模擬戦は東軍と西軍に分かれた複数の重騎同士の戦いが見られる貴重なイベントだ。
「あれ以外の模擬戦があるっつーのかよ」
「ですよね、でも何で」
「実行委員会の奴らは色々理屈つけてたが、要は主役は一人でいいってことだろ。今回の模擬戦の主役はこいつじゃねえからな」
「荒帝、ですか」
重騎”荒帝”。この格納庫にある荒人改の後継騎。荒人改の実験データなどを元に、設計段階から完全新作で建造された重騎。その設計と製造には老主任も関わっている。
「ああ。今回の模擬戦はあいつを中心に計画されてるからな。ほかに目立ちそうなのはいちゃいけないんだろうよ。ったく、せっかくこいつと奴が戦う姿が見られると思ったのによ」
言って”荒人改”を見る老主任はどこか寂しげだった。
「確かに”荒人改”VS”荒帝”なんてカードが見られないのは残念ですけど……。でもこう言っちゃなんですけど、あっちは”荒人改”を元に作られた完全新作ですよ。勝ち目あるんですか?」
「ある。重騎戦は性能だけじゃねえ。どれだけ戦闘を支配できるかだ」
今日お前がやろうとしたようにな、老主任は内心のみで呟く。
「第一、その為の武器だって作ったってのによお。全くこいつで派手にドンパチやる機会はないのか。こうドカーンとよ」
次の瞬間、
老主任の言葉どおりに、空気が震えた。
空を渡った衝撃が格納庫の壁を揺らし、主任の声を擬音化したような爆発音が残響を伴いながら響き渡る。
「「はい?」」
格納庫で少年と老人は、呆然と目を点にする。
格納庫で少年と老人が話をしていたのとほぼ同じ頃。
工学部、新実験棟。
現在外来の見学向けに施設は開放されている。
建物中央はくりぬかれる様に吹き抜けとなっており、中央には一騎の重騎。
四方の内三面は作業用にキャットウォークなどが渡してある。
もう一面が見学用になってあり、吹き抜けに面した廊下には各階層共に強化ガラスがはまっている。
重騎の衝突を受けても大丈夫なように設計された建物と硝子。
四階層目。強化ガラス越しに内部の作業を見学する人影がある。
「へえ、アレが重騎”荒帝”か。なかなかクールなデザインかもよ?」
定時帰宅の時間は過ぎようとしているのに、重騎の周囲で作業を続ける人々を見ながらその男は呟いた。
彼は先ほど中林に道を聞いた男であるが、その事を知る者は彼とその連れ以外にいない。
見学向けに開放されているとはいえ、何故か彼の近くには引率や案内の学生もいない。
「なあ、マイフレンド。このガラスお前の怪力でぶち破れる?」
「隊長、無茶言わんで下さいよ。拳豪位でもなきゃ無理ッス」
男が虚空に向かって声をかけると声が返る。
「しゃあねえナァ」
男はカーゴパンツのポケットに突っ込んだ両手のうち左手を出す。革グローブの左手が握るのは、携帯電話というにはあまりにごつい通信機。ボタンひとつで登録しておいた通信先を呼び出す。一瞬の空電の後、通信回線が開かれた。
「――『アラジンとランプの精』から『ジャングルクルーズ』へ。これから状況を開始する」
男は相手の反応を待たずに通信を切ると、ポケットから出した、素手の右手・・・・・で強化ガラスに触れた。
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