アイドルとして音程がぶれている ◆0RbUzIT0To
スパイダーマッ!さんを見送った私達は洞窟の中でしばらくボーッとしていた。
聴こえる音といえば、いさじさんの静かな寝息と外から微かに聞こえる鳥の囀りくらい。
少しでも油断すると眠ってしまいそうだ。
ほら、こうしてる間にも瞼が……。
………………。
っ! いけないいけない、ついうとうとしてしまった。
私のせいで傷を負ってしまったつかさちゃんやいさじさんを守る為にも、ちゃんと起きていないと。
頬を抓って眠気を吹き飛ばす。
すると、控えめに笑うくすくすという声が聞こえてきた。
「眠たいの? はるちゃん」
「う、ううん、そんな事ないよ……私なら大丈夫」
痛みのせいか見られた恥ずかしさのせいか、頬が染まる。
あんまりの眠さで隣につかさちゃんがいるのを忘れてしまっていた。
やっぱり、この眠気のせいで思考回路が低下しているのかもしれない。
洞窟に入ってからすぐ、つかさちゃんと私は情報交換をした。
いさじさんに関しては寝ていたから情報を得られなかったけれど、
つかさちゃんの話によると彼の知り合いはこの場所に連れてこられていないらしい。
情報交換をする最中、亜美と真美の話になってつかさちゃんはショックを受けていたようだ。
話を聞いてみるとつかさちゃんも双子の姉妹で参加しているらしく、亜美達と自分達とを重ね合わせてしまったらしい。
涙ぐみながら自分の姉の身を案じる彼女の姿を見て、より一層二人を守らなければと思っていたのに。
眠気に負けそうになってしまうなんて、情けない……。
「眠たいなら、少しでも寝た方がいいよ?
私もだいぶ楽になったし……」
先刻、泣きそうになっていた彼女を見て居た堪れなくなっていた私は彼女に眠る事をすすめた。
少しでも眠れば落ち着くかもしれないと思ったのだが、結果は正解。
ほんの少し……1時間ほどだったけれど、つかさちゃんは寝て落ち着きを取り戻してくれた。
「ほんとに大丈夫だから。
こう見えても毎日って言っていいほどレッスンをしてるから体力だけはあるんだよ?
アイドルは体力勝負なんだから」
「でも……」
確かに眠たいけれど、今は眠る訳にはいかない。
せめてスパイダーマッ!さん達が戻ってきて、守りが万全になるまでは……。
そう伝えると、つかさちゃんはまだ不安そうな顔をしていたが納得をしてくれたらしい。
「それじゃ……お話でもしよっか? そうすれば、眠気も少しは紛れると思うし」
「あ、そうだね」
口を動かしていれば眠る事は無いだろう。
私達は軽い食事を取りながら、お喋りをする事にした。
といっても、とりとめのないような中身の無いお話ばかりで、
つかさちゃんのお友達の話や学校での話、私の失敗談や周りのアイドルの事なんていった話をしていた。
ただ、こんな普通な話をするのは凄く久しぶりで、
私達はここが殺し合いの場なのをすっかり忘れ、笑顔で話題に花を咲かせていた。
しかし、話している間私は彼女に対してどこか違和感を感じてしまった。
それは、つかさちゃんが私達765プロのアイドル達を全く知らないという事。
私を知らないというのは、わかる。
私の実力と知名度を考えればつかさちゃんが知らないのも無理はない。
でも、他の765プロのアイドルは違う。
国民的アイドル、とまでは言わないけれどみんなテレビなどメディアに露出している。
どこかで見たり、聞いたりしていても不思議ではないはずだがつかさちゃんはそんな様子をまるで見せなかったのだ。
「ねぇ、つかさちゃんってテレビはよく見る?」
「んっと、多分人並みには見ると思うよ?」
お休みの日は寝ちゃってるからお昼の番組はあんまり見ないけど、と恥ずかしそうに付け足してつかさちゃんは頬をかく。
これは一体どういう事なんだろう。
仮にみんなが出ていない番組ばかりを見ていたとしても、
友達との会話やCMなんかで目にしたり耳にしたりといったように知る機会は沢山ある。
だとしたら、知らないというのは嘘という事になるけれどこれはこれで納得出来ない。
嘘をつく理由が無いからだ。
それに、つかさちゃんは嘘をつくような子ではないと思う。
……まあ、世の中は広いから私達の事を知らない人もいるだろう。
知らないはずがない、なんて決め付けは少し傲慢だったかもしれない。
「あ、そうだ」
「え?」
反省していた私に、つかさちゃんが声をかけてくる。
何か、いい事思いついたーって感じの顔で……一体なんだろう。
「折角なんだから、はるちゃんの歌聴いてみたいなーって思ったんだけど……」
「え? わ、私の?」
「うん、やっぱりアイドルなんだし……プロの歌声を聴きたいなって」
確かに、私はアイドルで歌う事に関してはプロだ……と思う、いや、プロだ。
福山さんという、あの英雄の持つ歌声には到底敵わないかもしれないけれど、
気持ちだけは……歌を好きだという心と情熱だけは負けていないつもりだ。
だけど……。
「えっと、アイドルっていうのは原則プライベートとかであんまり歌とかは歌っちゃいけない事になってるんだけど……」
正式な仕事以外での芸の披露はご法度、これはアイドルに限らず他のタレントさんでも同じ事だ。
サインや握手を求められれば対応するものの、歌う事を求められても歌ったりはしない。
アイドルなど芸能人は、客商売だ。
私達の歌は、言ってしまえば利益を生む為の原石。
CDやコンサート、テレビ出演なんかでお金を貰い、披露しなくては歌の価値が下がってしまう。
そう易々と、芸の安売りをする訳にはいかないのだが……。
「友達とか、知り合いに披露するのは、多分いいと思うの」
こんな舞台ではプライベートだとかどうだとか言ってられないし。
なによりも、ここで出来た友達が求めてくれているんだもの。
私の歌でよかったら、幾らでも聴かせてあげたい。聴いて欲しい。
「アカペラになっちゃうから、少し聞き苦しいかもしれないけど我慢してね?」
眠ってないし、ベストコンディションとは言えないかもしれないけれど仕方が無い。
つかさちゃんが期待の眼差しでこっちを見ているのを感じながら、私はたった一人の観客の為のミニコンサートをスタートさせた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ、はぁ……なぁ園崎、そろそろ休憩にしようぜ?」
背後から聞こえてきたその言葉に顔を顰めつつ、振り返る。
もうこれ以上は動けない、といったように地面に平伏して荒く呼吸をする男の姿が目に映る。
その傍らには、放り出された三つのデイパック。
「だから三つも持って山登りするなんて無茶だって言ったのに……」
町に移動する事にした私達は、ルートを森を通らずに山道を通ってゆく方向に決めた。
山道は確かに険しいが、基本的に一本道で迷う事はない。
しかし、森となると木々が生い茂って天然の迷路となり逸れてしまったりする可能性があったからである。
彼――谷口先輩にそう伝えた時、彼は二つ返事で了解してくれた。
しかし、山道に差し掛かると同時に私とカーくんが持っていたデイパックを寄越せと要求してきた。
なんでも『女に荷物を持たせて険しい道を歩かせる訳にはいかない』らしく、一応女の子扱いしてくれてるんだと少しばかり見直していたんだけど……。
結果はこの通り、デイパックを三つ持っての登山はやはり無茶だったらしく途中でダウンしてしまった。
「あー……疲れた」
先輩はデイパックから水を取り出し、馬鹿飲みをしている。
しばらく休んでくれないとこれ以上は動けなさそうだし、仕方が無い。
少しだけ休憩をしていこう。
「……ん?」
「どしたんです? 先輩」
何かあったのだろうか?
先輩が見ている方向に目を向けると、そこにはカーくんが立っていた。
その足元には不自然に盛り上がった砂山。
乾燥した赤い液体のようなものが付着しているが……もしかして。
私と先輩は同時に立ち上がり、その砂山の方向に歩いていく。
やっぱり……この赤いのは、血だ。
乾燥しているから多分、この砂山……いや、お墓はかなり前に出来たものなのだろうけれど。
「……酷いな」
先輩がぽつりとそう呟く。
このお墓の下には、恐らく殺害されてしまった人が眠っているんだろう。
放送があって、この殺し合いに乗ってしまった人も見たが、このお墓を見て改めて実感する。
私達がいるこの舞台は、狂っていると。
このお墓が一体何を意味するのか、わかっていないようなカーくんを抱っこして心の中で黙祷する。
名前も顔も知らない人だけど、誰かが死んでしまうのは悲しい。
しかも、こんな理不尽な舞台に集められてしまったせいでなんて。
隣を見ると、先輩も手を合わせて瞳を閉じていた。
「……なぁ園崎」
「なんです?」
「……俺達も、いつこうなるかわかったもんじゃねぇんだよな」
そう言うと先輩は瞳を開け、踵を返してデイパックを持ち上げた。
辛そうだったけれど、弱音は吐かない。
「行こうぜ、早く知り合い見つけなきゃな」
しっかりとした足取りで歩き出す先輩。
「ぱにぐち、はりきってる」
「そうだね」
多分、このお墓を見て危機感を感じたんだろう。
自分や私やカーくん、それに仲間の安否について。
早速肩で息をし始めてバテている、頼りない事この上ない彼だけれど……。
この現実に絶望したりせずに、年長者として引っ張ろうとしているところは好感が持てる。
……あくまで引っ張ろうとしているだけで、全然引っ張れてないんだけどね。
「さ、行こうかカーくん」
「ぽよ」
カーくんを抱っこしながら、先輩へと近づいていく。
すると、その時何か音が聞こえてきた。
音……? いや違う、これは……。
『もっと……でみたい……潜る、私……』
歌だ。
本当に微かに聴こえるだけで、何を歌っているのかはまるでわからないけれど歌が聴こえる。
先輩もその歌声に気付いたらしく、そっちの方に向けて足を向けた。
……こんな状況で歌を歌う人とは、一体どういう人だろう。
人を集めようとしている人だろうか、それとも何も考えていない馬鹿だろうか。
……わからないが、ともかく人がいる可能性がある以上そっちに向かうべきだろう。
もしかしたら、私達の仲間がいるかもしれないしね。
そう思って進むこと、しばらく。
少しずつ歌の音量が上がってきて聴き取り易くなってきた……が。
「……これは」
先輩が思わず顔を顰める。
……まぁ、気持ちはわかるけどね。
私も思わず苦笑してしまうほどこの歌は……なんというか、アレだが不思議と心地がいいように思える。
カーくんに至っては、私の腕の中で小刻みに動いてリズムを取っている。
うーん、この歌が気に入ったのかな?
「知り合いじゃ無さそうだが、接触するか」
「そうですね」
「任せろ、俺は勧誘なんてものの必勝法を知ってるんだ、三人で声をかけりゃ意外にHOI☆HOIついてくる」
少なくとも、殺し合いに乗ったような人ではないだろう。
接触をしておいて損は無いはずだ。
因みに、先輩の必勝法はなんとなく信頼出来そうにないので却下。
「……あそこから聴こえるな」
先輩が見つけたのは、山道の脇にある小さな洞窟だった。
耳を澄ますと、確かにそこから歌声が聴こえている。
見つけるや否や早速その洞窟に入ろうとした先輩を制し、私が前に出る。
歌声は女の人の声のものだった、女の私の方が相手を刺激せずに接触出来るはずだ。
「あのー……誰かいますかー?」
そう声をかけつつ、洞窟の中へと足を踏み入れた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
魅音の考えは、一般的に考えれば当然のものだったかもしれない。
確かに男性が声をかけるよりも女性が声をかけた方が、普通なら相手も不審がらないだろう。
だが、今回ばかりは運が悪すぎた。
「あ……あぁ……」
「え? ええ? どどどど、どうして人がここに? ……っていうか、どうしたのつかさちゃん?」
今ここにいるのは、眠っているいさじを除けば二人の少女のみ。
しかも、二人共あまり頭がいいとは言いがたい、どこか抜けている少女達である。
春香は何故目の前に知らない人がいるのか、どうして洞窟に来たのかがまるでわかっていない様子。
つかさに至っては……。
「あ、あの?」
「っ! こ、来ないでぇっ!!」
後ずさり、瞳に涙を浮かべながら叫ぶ。
一方、魅音は何故自分が避けられているのかがわからない。それも当然だろう、自分は何もしていない、ただ声をかけただけだ。
いきなり声をかけられて怯えているという訳でもなさそうだし、訳がわからない。
「おいおい、どうしたんだよ魅音?」
「いやいや、私も全然わかんないっていうか……」
魅音の背後から
カービィを抱いた谷口が顔を出す。内部から悲鳴のようなものが聞こえてきたのだ、躊躇ってなどいられない。
魅音が襲われたのかとも思ったがそれとも違うらしく、逆にこちらが相手を驚かせてしまったようだ。
「あー、そこの女の子。
俺達は別に怪しいもんじゃないから、そんなに怯えなくても……なぁ?」
「ぽよ、かーび、ぱにぐち、みお、あやしくない」
バツが悪そうに頭をかきながらカービィと一緒につかさを説得するものの、
なおもつかさは怯えるだけで話を聞こうともしない。
どうしたものか、そう考えていた矢先。
魅音の首元に、木刀が突きつけられた。
「……そうだ、思い出した」
木刀を突きつけている張本人、春香が口を開く。
右腕を突き出し、手首から先を失った左腕でつかさを庇うように立ちながら続ける。
「緑色の髪の女の人……つかさちゃんといさじさんを襲った人、ですね」
先ほどの情報交換で得た情報の中に、それはあった。
緑色の髪をした女性……金属バットでつかさちゃんを殴打しまくっていたところを、いさじさんに助けられたそうだ。
その後、辛くも逃げ切って事なきを得たらしいけれど、まさかまた出会う事になろうとは……。
「そんな……私知らない! 知らないよ、そんな事!」
「そ、そうだぞ! 魅音は俺達と一緒にいたんだ、なぁ!」
「ぷぅ、みお、ぼくといっしょ、ずっといっしょだた」
三人の必死な弁明も、春香には通じない。
スパイダーマッ!と交わした、二人を守るという契り。
その重さが、向ける木刀を下ろさせない。
緊迫したその状況、空気を全く読まない三人組さえも思わず唾を飲んで無言になってしまったその状況を打破したのは。
一人のいい男だった。
「……待つんだ、春香ちゃん」
「っ! いさじさん?」
いつ起きたのだろうか、上体をゆっくり起こして春香に話しかける。
寝起きだというのにその声の冴えは凄まじく、
緊迫した状況だというのに魅音と春香を一瞬虜にしてしまった。
「春香ちゃんの歌を聴いて起きたんだけどね……少しばっかり様子を見てたんだ。
その子は俺達を襲った子とは違うよ……」
「え?」
「見てみなよ、その子は金属バットを持ってないだろ?」
魅音の手元を見る。
いさじの言う通り……金属バットは持っていない。
後ろの谷口も、デイパックを三つ持っているだけで他には何も持っていない。
だが……。
「でも、拳銃を持ってますよ? ほら!」
木刀の切っ先を首元から肩口に移動させ、叫ぶように言う。
吊るされたホルスターには銃がしまわれていた。
「ああ、持ってるな……だがな、春香ちゃん。
彼女はその拳銃に手をかけていない……こちらが木刀を向けてもね」
「それに、俺達を襲った時とは服装も髪型も違う。
仲間もいるようだし、何よりも瞳が違う……俺達を襲った人とは、別人だよ」
「でも……」
冷静に魅音の姿や様子を観察し、分析をする
いさじ。
理には適っているその話に、しかし春香はまだ木刀を下ろさない。
理由は、まだ怯えているつかさにあった。
これだけ怯えるというのなら、この目の前にいる緑色の髪の女が襲った人物であるはず。
勘違いなどで、ここまで怯える訳がない。
「服装や髪型なんて、どうとでもなるじゃないですか。 支給品や何かで……」
「それはそうだ、だけどね春香ちゃん。 俺は彼女が俺達を襲った人物じゃない、と確信があるから止めたんだ。
……これを見てごらん」
そう言って、いさじが取り出したのは名簿。
「君は、魅音っていう名前だったね?」
「は、はい」
「……思ったとおりだ」
名簿を指差すいさじは、どこか満足げに息を吐く。
指差す先にある文字には、『
園崎魅音』の文字と『
園崎詩音』の文字。
「……やっぱり、その子は俺達を襲った子じゃないよ」
「えっと……どういう事?」
「……君には、辛い現実だけどね」
「…………」
春香を半ば無視し、いさじは魅音に対して声をかける。
魅音は俯き、無言。
何故自分にここまで敵意と警戒心を向けられたのか、何故自分の妹の名前が出てくるのか。
話の流れから、何があったのかは大体把握出来る。
認めたくない、悲しい事実だが……。
「ぽよ……」
「魅音? 一体、どういう事だ……?」
「いえ……大丈夫です、何でもありません」
心配をかける訳にはいかない、妹に対して色々思う事は多々あるけれど、今はその気持ちは封印しておこう。
春香はようやく、魅音が犯人ではないと理解をしたらしく木刀を下ろし、謝罪をする。
魅音もそれに対して怒るでもなく、むしろ自分を警戒するのは当然だと許容した。
問題は……隅で震える、少女。
「つかさちゃん……」
そちらに歩み寄り、優しい声色で声をかけるいさじ。
その言葉に反応し、ようやく震えを抑えてつかさは顔を上げた。
「あーあー、折角の美人が台無しだぜ……」
涙でぐしゃぐしゃになったその顔をハンカチで拭きながら、いさじは続ける。
未だ怯えてはいたものの、信頼出来るものの言葉とあってか、
つかさは魅音を自分が襲った人物とは違うものであると、認めた。
よくよく冷静に見てみると、醸し出す雰囲気が全然違う。
あの女性からは狂気と憎しみしか感じなかったけれど、目の前の人からはそんなものは一切感じない。
「ごめんなさい、私……」
「いや、私こそ……ごめんね、妹が色々としでかしちゃったみたいでさ」
目の前の人も、きっと双子なんだろうとつかさは思う。
妹が狂気に取り付かれて、人を襲い……そして、殺されてしまった。
その心中は、一体どういうものなんだろう。
きっと自分なら……耐えられない。
「まぁ、何はともあれこれで一件落着だ。
ほら、二人共そんな顔しないで……折角の可愛い顔が台無しだぜ?」
その言葉を受け、つかさはぎこちなくだが笑った。
表情からは既に恐怖が消え失せている。
魅音はというと、可愛いなんて言われるのが慣れていないのか顔を真っ赤にしてあー、とかうー、とか唸っている。
一時はどうなるかと思われた六人の遭遇は、
多少のいざこざはあったものの誰一人傷つけず、無事に終了した。
……ように見えた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
六人はひとまず、腰を据えて休息を取りながら情報を交換する事となった。
谷口や魅音、つかさに春香がお互いの知り合いや出会った人物に関する情報を話し、
逸れそうになった話はいさじが修正をして本筋に戻す。
雑談は少々混じっていたものの、話自体は順調に進んでいたのだが……。
「……そういやさ」
話の流れをぶった切り、先ほどから疑問に思っていた事を口にする谷口。
「あのひっでぇ音痴な歌を歌ってたのは誰だ?」
ゴーン!と何かタライのようなものが振ってきたような効果音が聞こえ、春香が崩れ落ちるように横になる。
つかさといさじはそれに対し、一瞬不安そうな顔になるが……魅音とカービィ、谷口は全く解さない。
「ああ、確かにそれは気になるね……つかさちゃんと春香ちゃんのどっちなのかな、音痴なのは」
「ぽよ? おんち?」
更にタライ、二つ追加。
「ま、待ってよ、確かにはるちゃんは音痴かもしれないけれど、あの歌にはちゃんと魂が込められてたよ!?」
「ああ、その通りだ。
彼女は音痴だがその歌に込められているものは本物だ。
それは例え音痴だからといって評価が変わるものではない、あの歌は音痴だが人の心を開くものだよ」
懸命にフォローを入れようとするも、更に傷を抉る結果となるつかさといさじ。
その後も白熱する音痴議論、誰かが一言発する度に春香はどんどん沈んでゆく。
その最中、ふと谷口が立ち上がって洞窟の外へと出た。
疑問に思った魅音もその後を追い、後に残ったのは音痴、音痴と楽しそうに連呼するカービィと同情するように春香を見つめるいさじとつかさだった。
「どうしたんです、先輩?」
「っ! ん……いや、何でもねぇよ」
外に出て、空を見上げていた谷口に声をかける。
谷口は驚いたように一瞬飛び跳ねたが、落ち着いて返答する。
……しばし、二人の間に流れる静寂。
「……なぁ、魅音」
「なんです?」
「俺達は仲間だよな?」
「何を今更……当然でしょう」
「だったら、もう少し俺達頼ってもいいんだぜ?
仲間ってのはそういうもんらしいからな」
妹の事を言っているのだろうか。
確かに、一人で背負い込むのは荷が重いかもしれない……。
けれど、これは自分の責任だ。
谷口達に迷惑をかける訳にはいかない。
まだ……話すのは、よしておこう。
「あはは……ありがと、でも今はまだ……」
「……まぁいいさ、とにかく自分一人じゃ無理って思ったらいつでも頼れよ。 俺が言いたかったのはそれだけだ」
「……って、先輩どこ行くの?」
山道を再び登り、どこかへ向かう先輩に向けて声をかける。
何か忘れ物でもしたのだろうか?
よく忘れ物をするのが癖って言ってたし……。
「なんでもねぇよ、便所だ便所!」
……ああなるほど、これは失敬失敬。
そりゃ人間だもん、トイレくらい行きたくなるよね。
「ぶりぶりしてらっしゃい!」
先輩にそう声をかけて、私は再び洞窟の中に入っていく。
あー、それにしても男の人は野外でも出来ていいねぇ。
私達は流石にそういう訳にはいかないしなぁ。
……そういや、今気付いたけど先輩、私の呼び名が園崎から魅音に変わっちゃってるね。
まあ、別に不快って訳じゃないしいいか。
先輩の呼びやすいように呼んで貰えればさ。
谷口に暖かい声をかけられ、どこか頬を緩めながら歩く魅音。
それが仲間から信頼されている事に対しての嬉しさ故なのかどうかは、定かではない。
こうして、六人の遭遇は魅音に悲しみとそれに見合うほどの喜びを。
春香の心に深い傷を作って今度こそ終了したのだった。
【C-3 北西部・洞窟/一日目・昼】
【いさじ@現実】
[状態]:全身に裂傷や打撲
[装備]:拡声器@現実、炎道イフリナのフィギュア@ふぃぎゅ@メイト
[道具]:支給品一式(水一本消費)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの脱出
第一行動方針:ひとまずスパイダーマッ!を洞窟で待つ、その後塔へ
第二行動方針:福山さんを埋葬したい
※武装錬金について、漫画上の知識はあります。
※なぜ本当に存在するのかは理解していません。
【柊つかさ@らき☆すた】
[状態]:全身に軽い打撲、手のひらを怪我。体が熱い、おなかが膨らんでいる?
[装備]:
[道具]:テニスボール
[思考・状況]
基本行動方針:知り合いの捜索
第一行動方針:スパイダーマッ!さんを洞窟で待つ。
第二行動方針:その後スパイダーマッ!さんを放送まで待って塔に行く。
第三行動方針:福山さんを埋葬してあげたい。
第四行動方針:いさじさんをちゃんと治療してあげたい。
※いさじの声を聞いてからの身体の異変に気がついたようです(?)
【
天海春香@THE IDOLM@STER】
[状態]:左腕欠損(傷口はほぼ完治)。中度の疲労。 軽い鬱。
[装備]:シルバースキン@武装錬金、洞爺湖の木刀@銀魂
[道具]:支給品一式(食事二食分消費)、アイスソード@ロマンシング・サガ、飛行石のペンダント@天空の城ラピュタ、Fooさんの笛@ニコニコ動画(γ)
[思考・状況]
基本行動方針:昔の、今の、自分を越える。
1.みんなを守って見せる。
2.洞窟で待つ。つかさちゃんといさじさんを守る。
3.スパイダーマッ!さんを放送まで待って塔に行く。
3.同じ事務所のアイドル(やよい、真、亜美)を探したい。
4.殺し合いには乗らない。仲間を守るためには戦う。
5.アイスソードは出来るだけ使いたくない。
※春香はこの殺し合いが現実だと理解しました。
※ダブル武装錬金については知りません。
※アイスソードを呪われた魔剣だと認識しています。
※つかさが自分達アイドルの事を知らない事に疑問を持ちました。
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:SIG P210(残弾8)@MADLAX
[道具]:支給品一式、ipod@現実
[思考・状況]
1:ひとまず洞窟で休憩、つかさ達と行動するかどうかは保留。
2:部活の仲間と谷口・カービィの知り合いを探す
3:殺し合いを止める
4:詩音については知り合いを仲間にできたらそのときに話そう
5:詩音のやった事に関しては、何かしら責任を取ろう
【谷口@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(水一本消費)、バーサーカーソウル@遊戯王デュエルモンスターズ
[思考・状況]
1.ひとまず洞窟で休憩、つかさ達と行動するかどうかは保留。
2.知り合いや魅音・カービィの仲間と合流して打開策を探す
3.身を護るための武器が必要と判断。最悪魅音から奪うことも視野に
※谷口は魅音の隠している事に薄々感づいています。
【カービィ@星のカービィ】
[状態]:幼女化
[装備]:萌えもんパッチ@ポケモン言えるかなで擬人化してみた
[道具]:支給品一式(食料以外)
[思考・状況]
1.元の姿に戻りたいけど、どうすれば戻れるんだっけ
2.魅音お姉さんの人探しを手伝う。スマブラ経由の知り合いには会いたくない
3.
マルクを倒して殺し合いを止める
最終更新:2010年03月18日 14:58