フェルラ酸

フェルラ酸とは

19世紀に発見され、いまや暮らしにお馴染みのもの

フェルラ酸は、植物の細胞壁をつくりだす必須の物質として、19世紀に発見されました。それはまた酸化を防止する機能をもち、食品分野では長く「酸化防止剤」として使われてきました。

日本でも、厚生労働省が定める「既存食品添加物」(以前は天然添加物と呼ばれ、昔から習慣的に使われてきた、天然由来の成分を中心とした食品添加物)の一覧に、「酸化防止剤」として認められています。たとえばグリーンピースの色調保持、抹茶の退色防止、バナナの黒変防止などに役立ちます。
最近では、細菌による汚染の抑制機能や、真鯛の色調を明るく保持する光酸化防止機能なども報告されています。

またフェルラ酸には、有害な紫外線を強力に吸収する機能も報告されており、化粧品分野で美白剤やUVクリーム(日焼け止めクリーム)などに利用されるようになりました。

医療・健康分野での研究報告と、大量生産の実現

こうしたフェルラ酸が医療・健康分野で注目されるようになったのは、1980年ころからです。活性酸素と戦い、強い抗酸化力をもつ「ポリフェノール」の一種であることが、報告されました。
ポリフェノールといえば、赤ワインのアントシアニン、大豆のイソフラボン、ゴマのセサミノール、ウコンのクリクミンなどがあり、いずれも今日の健康食品(栄養補助食品・サプリメント)の成分として有名です。

フェルラ酸は、その後もネズミなどを用いた実験で、大腸がんの発がん抑制作用や、血糖値および血圧の降下作用が報告されています。

しかしながら、植物の細胞壁をつくりだす必須の物質であるフェルラ酸は、他の物質とも結びつき、フェルラ酸そのものとして大量かつ低コストで抽出するのは難しいことでした。
それを解決したのが、日本の研究チームでした。日本人の主食“お米”、その玄米を精米するときに大量に発生する“米ぬか”には多くのフェルラ酸が存在し、それを抽出することに成功したのです。ここに、赤ワインや大豆、ゴマのポリフェノールと同様に、健康食品の成分としてポリフェノール「フェルラ酸」を使用する道がひらけました。

世界で、日本で、脳神経保護作用の報告が続々と

そして21世紀、フェルラ酸にとって、一大転機ともいえる出来事がおこりました。フェルラ酸に脳神経保護作用があるという研究報告が、世界から、日本国内でも、次々に発表されたのです。

実際に、記憶や学習の能力低下がみられる高齢患者さんに使用していただいた治験も行われ、その能力低下の原因物質と考えられるベータアミロイドを抑制する作用も確認されました。最近では、2008年10月26日に国際シンポジウム「コメと疾病予防」で発表された、中村重信・洛和会京都治験・臨床研究支援センター所長の、143人の患者さんを対象に行われた治験の報告は、朝日新聞にも記事として掲載され、日本中の多くの患者さんとその介護をなされている方々に、たいへん大きな反響を呼びました。

こうしたことから、高齢化とともの“見る・聞く・覚える・考える”――「知的な毎日の生活」に問題を抱えておられる方々に、医薬とは異なり、医薬を相補するサプリメントとして、あるいは知的な健康に自ら気づかう中高齢者の<セルフケア>のためのサプリメントとして、フェルラ酸を主成分とする栄養補助食品が期待されています。


天然での存在

フェルラ酸とジヒドロフェルラ酸は、細胞壁のリグノセルロース中でリグニンと多糖を繋ぎ合わせる役割を担っている[1]。米、小麦、大麦やコーヒー、リンゴ、アーティチョーク、ピーナッツ、オレンジ、パイナップルなどの種子の中にも見られる。濃アルカリを用いて小麦や大豆のふすまから抽出できる。カフェ酸にO-メチルトランスフェラーゼが作用することにより、生合成される。

生体防御への利用

フェルラ酸は、他のフェノール類のように抗酸化作用を持ち、活性酸素種などのラジカルと反応する。活性酸素種とラジカルはDNAの損傷や癌の原因となり、細胞の老化を促す。動物実験やin vitroでの実験では、フェルラ酸は乳癌や肝臓癌に対して抗腫瘍活性を示した。また癌細胞にアポトーシスを起こさせる働きを持つことも指摘されている。さらにベンゾピレンなどによる発癌を予防する効果も持つ。ただし、これらは人間によるランダム化比較試験に基づくものではなく、これらの結果が人間にも直接当てはまるとは限らない。
アスコルビン酸、ビタミンEと共存すると酸化ストレスを減らし、チアミン二量体を形成して皮膚を守る。

認知症予防

米ぬかから精製されたフェルラ酸がアルツハイマー型認知症に有効との論文がいくつか発表されている。その代表的なものは中村重信・広島大名誉教授らによるアルツハイマー病通院患者143人とその家族の協力を得て、9ヶ月間に亘って投与したもの。試験前と試験開始から3ヶ月毎に、認知機能検査を行った。その結果、アルツハイマー病患者の認知機能は通常、時間の経過とともに低下し続けるのに、軽度の患者の場合、試験終了時まで改善が続き、中度の患者も6ヵ月後まで改善状態が続いた。詳細は老年医学(Geriatric Medicine Vol.46 No.12 2008-12)に発表された。

バニリンの前駆体

天然に多く存在するフェルラ酸はバニリンの工業合成の原料となる。しかし、現在ではバイオテクノロジーを用いたバニリンの製造がより効率的に行われている。
質量分析MALDI法による質量分析でタンパク質のマトリックスとして利用されている。

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最終更新:2011年11月16日 17:01