資料室に何者かが入ってくる。
どうやら照明をつける気はないらしい。
彼、もしくは彼女は室内の情報端末を操作し機関のデータファイルにアクセスした。
モニターに
天川機関所属者のリストが映し出される。
人影は端末を弄くり情報をスクロールしていく。
「………」
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<対人部隊>メンバーリスト
階級:下級エージェント
○
赤坂 圭一 17歳 男
※備考 機関からの逃走経験有り。(現在は対人部隊に復帰)
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○
城戸 颯太 17歳 男
※備考 以前は機関に対して忠実だったが
2017.05《神産みの義》騒動以降機関に対して不信感を抱く兆候有り。要再指導
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○
九重 神威 24歳 男
※備考 元後方支援部隊所属。
《神産みの義》騒動にて忍者としての記憶を喪失。その後引退。
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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――』
「…違う、この辺のデータじゃない。もっと上位の面子は……」
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
階級:上級エージェント
○
井宮 喜美江 59歳 女
※備考 災害対策部隊と多少のパイプ有り。(対人部隊の穏健派だが任務には忠実)
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○
バネ 年齢不詳 男
※備考 別名《跳躍一閃》。
上級エージェントの中でも気性が激しい過激派。
近日中に再指導の検討を求める。
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・
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――』
「ハッ、再指導ねぇ。
骨の髄まで機関に染まるなんて死んでも御免だな。
…さて、そろそろ本命のが出てくる頃だが」
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
階級:特級エージェント
○
地獄谷 幻魔 38歳 男
※備考 ーこの先の情報は管理者権限のある者のみ開示、閲覧が可能ですー
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――』
「チッ……。やはりそう簡単には上手くいかねえな。だが……。」
そう言って手にしていた小型の何かを端子に刺す。
すると高速でデータ解除プログラムが展開され、管理者権限のロックが解除された。
「…流石は斜歯製の忍具端末だ。ここまで瞬時にロックが解けるとは……
まあ、俺にはさっぱり仕組みが理解できねえが。
今回ばかりは
あの人型絡操に感謝しておくべきか?」
そう言って忍具端末を懐にしまう。
「アイツが言っていた旦那や機関の真の目的、か。
結局、俺は闘えればそれでいい。……ただ、その意思が介入されたものであるなら話は別だ。
己の闘志まで操られるのは気持ちが悪い。
さあて、何が出てくるやら。
…………
…………」
「そこで何をしている」
「!?」
背後から声がした。
声と同時に
赤髪の男が姿を現す。
黒い柔道着を着た彼は、天川機関の者なら誰でも知る特級エージェントだ。
「……誰かと思えば、地獄谷の旦那でしたか。
ハッ、大した事じゃねえ。ただの調べ物ですよ。もう大体片はついたんで」
「……ならば良い。
次の任務だ、《跳躍一閃》。……歯車王を討て。あれは世界に破滅をもたらす。」
「歯車王?ああ、最近暴れてやがる《世界の歯車》って奴らですかい。
少しは歯ごたえのある奴だといいがなァ。」
「…………」
「…………」
「……《跳躍一閃》、いや、バネよ。
お前が誰に何を吹き込まれたのかは知らない。
しかし、我が身は他の何者でもなく己の意思で此処に《天川機関》特級エージェントとして立っている……これまでも、無論これからも。
死地が我を呼ぶ限り、我は戦い続けようぞ。
お前はどうする、《跳躍一閃》」
「!!…………フッ、旦那には全てお見通しって訳か。さあ、どうしたもんかね」
バネと呼ばれた男は困ったように頭を掻いた。
「己の意思で立つ場所……か。ならば、俺が立つべき所ってのもなんとなくわかったような気がする。」
「……む。これは、また新たな死地が我を呼んでいるか。」
突如赤髪の男は眉をひそめ、部屋を出て行く。
「サラバだ、《跳躍一閃》!」
そう去り際に言い放つと男は室内にあるまじき轟音を立てて去っていった。
室内に残された彼の表情は見えない。
「世界の破壊……歯車王とか言ったか。そういうのもアリかもな」
ハハ、と楽しそうに笑うと部屋を後にした。
完
最終更新:2018年03月25日 23:22