唐相撲
TOUZUMOU
【あらすじ】
舞台は中国の都。とっても強い一人の相撲取りが皇帝に仕えていました。日本からやってきた相撲取りは、皇帝を始め中国の人々に愛されていますが、ずいぶん長く中国にいたので、日本が懐かしくなり、皇帝に帰国を願い出ました。皇帝は相撲取りを身近に置いておきたかったのですが、彼の望郷の念を想うと、帰国を許さざるを得ません。そこで皇帝は帰国の前に御前で相撲をとらせることにしました。相手をするのは皇帝の家来たち、みな中国人です。そして通訳が行司。なにやら中国語に似た響きの言葉(唐韻・とういん)と日本語が飛び交い、相撲取りと家来たちとの相撲が始まりました。奇妙キテレツな決まり手、そして一対一でかなわないと見ると、たくさんの家来たちが一度に相手をします。しかし相撲取りの強いこと。家来たちは誰も勝つことができそうにありません。そこでついに、皇帝自身が相手をしようと言い出したのですが:・・:
【解 説】
相撲を題材にした狂言には『文相撲』や『蚊相撲』がよく知られています。相撲は古事記の時代から、豊作や長寿を願う神事として、武芸の鍛錬の手段として、また楽しい娯楽として広く親しまれてきたため、狂言の題材にもされたのでしょう。さてこの日本人の相撲取り。日本では相手がいないくらい強いため中国に渡ったのですが、広い中国にも彼に勝る相撲取りがいない、すなわち天下無双の相撲取りであると自己紹介します。相撲取りがたった一人、中国にいるのは今の感覚からすると変に思えますが、十三世紀から十六世紀にかけては、九州と朝鮮半島や中国の揚子江沿岸との間で貿易が盛んで、博多などには中国人がたくさん住んでいたことが分かっています。当時の貿易では、時には船乗りが海賊に変身して貿易品を略奪したり乗組員を捕らえたりといったことがかなり頻繁にあったようで、実は能や狂言には中国からつれて来られた人の話が残っています。思いのほか広範な日中の交流を背景に、『唐相撲』に登場するこの相撲取りも、何らかの事情で中国に住んでいたのかもしれません。あるいは、中国から来た知識人や芸能者から話の種を得たのかもしれませんね。
こんな当時の事情を考えると、日本でも地域によっては、かなりの人が中国語を聞き取ることができたのではないか、さらに、中国語のような発音は『唐相撲』以外の狂言(『唐人子宝』『茶盃拝(ちゃさんはい)』)にも出てくるようですので、古い台本を言語学的に調べれば、当時の中国の方言などとの関係が分かるのではと考える研究者もいます。
さて、この曲の中心は何といっても日本人と唐人たちの相撲です。十番に及ぶ取り組みでどんな技が飛び出すのか、どうぞお楽しみに。
最終更新:2010年01月29日 01:37