4
「……出来ねぇ相談だな」
四半時黙りこくっていたダインは、深く息を吐きながらそう結論を出す。
エンも、いつの間にか強張っていた、肩の力を抜いた。
と、同時に虚脱感が支配する。
(私は結局何も出来ないのか)
そう結論がつくのが怖い。
「出来ませぬか」
「トルエがエスタッドとの協定を破って、急襲してきたことについては、いったん、棚上げしてもいい。俺が納得してねぇだけで、俺の問題だからな。だが。お嬢……ミルキィユに、取次ぎを頼むとなると、やはり話は別だ。なんだかんだ強がって、情に弱い。トルエ公女の窮地を知れば、きっとアンタの期待以上に、何とかしてやろうと動くだろう。兄のエスタッド皇が、お嬢の横槍を受けたぐらいで、考えを変えてくれる優しい性格には思えねぇが、そうでなくとも宮廷内のお嬢に対する風当たりは強い。さらに風を強くする必要は……全くねぇな」
「……」
「アンタが公女を思うように、俺も俺なりに、お嬢が大事だ。言えば、お嬢はきっと苦しむ。悪ぃが、無理だな」
「お言葉の通りなのでしょうね」
虚脱感に苛まれながらも、思わず苦笑の零れるエンだ。十割駄目を承知で、頼み込んではみたものの、
(良かった)
そう思う部分も確かにある。
何が何でも、生き長らえさせたいと言うエンの思いと、そうキルシュが願っているかどうかは、別の話だ。
あがく公女を見たくない。
それも本音だ。
「では、今の話は無かったことに」
「うん……?」
きっぱりと、諦めた。
開き直ったとも言う。
「新たに手を練りましょう。見苦しい手段は、公女に叱られますゆえ」
「まだ15の娘じゃあねぇか」
「15です。しかし年は関係ない。15にして既に、……自分を律する術を判っていらっしゃる」
「律する、ねぇ」
「時折ひどく口惜しくなります。もしあの方が、エスタッドとまでは行かずとも、そう……、故アルカナ国ほどの広大な土地と、豊富な人材を従えておいでなら、と」
「覇王の器か」
「少なくとも、ルドルフ公を葬るのに、十重二十重の策を巡らす必要はなかったと」
「……ちょっと待て」
不穏な話題を、聞き流すことが出来なかったダインが、思わず口を挟んだ。
「ありゃ、エスタッド国内の問題だろう?ルドルフ野郎の城攻めをしたのは、俺らなんだぜ?策って何のことだ。あれは、あの馬鹿が、皇帝に逆らっ……た」
挟んでおいて、言葉が中途で途切れる。
対するエンは落ち着いたものだ。
「現皇帝反対派の旧臣一派を掻き集めて、反乱を起こしたのでしたね」
まるで他人事だった。
「……待てよ。アンタは確か……、公女と一緒にルドルフのところにいた……んだったな?」
「その通りです」
「ってことぁ、アンタがあの馬鹿に復讐するために、遠回しに……、反乱するようにそそのかした、とでも言うつもりか?おだてられた馬鹿が、自滅するように」
「さて。どうなのでしょう」
思わせ振りな言葉を含んで、エンははっきりとは応えない。
そのまま俯いて、黙り込もうとした瞬間、
「うん……、」
弾けるように顔を上げた。
耳の奥に、微かに響く地鳴りがする。
「ダイン殿ッ」
それが、多数の騎馬の音だと思い当たるのと、身体が動いたのと、どちらが先立ったかエンには判らない。
咄嗟に立ち上がっていた。
急に表情を変えたエンに付いていけなくて、ダインが目を剥いている。
「お、おい」
視界の利く彼には聞こえないのだ。
まだ。
空気の震える響き。地から伝わるほんの微かな共鳴音。動物独特のにおい。
半腰で辺りを見回すダインだ。何か不穏な雰囲気を感じても、
「なん……だ?」
それがまだ「形」を取らない。
「馬が来ます」
ざわめき立つ気を落ち着けて、エンは無理矢理冷静になろうとした。
喉を鳴らして唾を飲み込み、耳を澄ます。
耳奥で、己の心臓音が邪魔をする。
「馬……?」
「騎馬。35騎から40騎。縦長の陣形で直進。軽装備が半数。重装備が半数。長槍の者も幾人か。距離……約250尋(ひろ)」
1尋とは、現在も公用単位として使われている、長さのことだ。大の男が両手を広げた、指先から指先までの距離を言う。
現在の聞きなれた単位に換算すると、おおよそ180センチと言ったところだろうか。
約250尋と言うことは、4,5キロメートルほど。
全力で駆ける馬ならば、数分とかからずに、襲い来る距離だった。
空間を伝わる情報を逃さないように、短く聞き伝えるエンの言葉を耳にして、見る見るダインも顔色が変わった。
緊張に引き締まる。
「……夜襲かッ」
一言叫んで、走り出した。
「敵襲!来るぞッ!」
既にほとんど火を落として、眠りに就き始めたテントへ向かって、ダインは一言がなり立てると、即座に取って返す。
エンの言葉を疑う様子は無い。
上下だとか、経験の有無だとかに拘らない。野戦で生き抜いてきた傭兵の姿がそこにある。生きるために必要なものは、「相手の真贋を見抜く目」、それだけだ。
その点では、ダインはエンを高く買っているのだった。
次第に馬蹄の地響きが、闇を伝ってやってくる。
「――ダイン殿!」
「アンタは本陣に!公女を守れ!」
去り行く彼の背へ向けてエンが声をかけると、背中越し、直ぐに打って響く声が返る。
エスタッドから派遣されてきた騎士団は、有能ぞろいなのだろう。
ダインが声をかけると同時に、がちゃがちゃと、鉄防具の打ち重なる音が辺りに充満して、空気が急に濃密になる。
そして重い。
個々の殺気が、放たれ始めたからだ。
無言で円陣を組み、迫り来る敵に備えていた。
かと思うと、たちまち百余尋を駆けた荒馬の一団が、怒涛の如く一行に襲い掛かる。
剣戟。怒号。馬のいななき。鉄錆のにおい。
こんな時、視界の利かない身体は不便だ。
闇夜で明かりがなくとも、動ける経験だけは積んでいるが、俊敏な動きは出来ない。
走ることなど、以ての外である。
足元が判らないのだ。
これがもし、慣れ親しんだ家の中ならば、視界の利かないエンであっても、あるいは、飛んだり跳ねたりすることも可能だろう。頭の中に、家具の配置が記憶されているからである。
しかしここは、山岳地帯である。
辺り一面、尖った岩山だ。
おまけに、うっかり道を踏み外せば、あちらこちらに切り立った崖がある。
無闇に動くのは、自殺行為だった。
頼りの音は、あまりに雑音が高すぎて掴みきれない。
唇をきつく噛む。
足手まとい。
ふと浮かんだ言葉が、身体をぎりぎりと締め付けて、息も出来ないほどだ。
「エン」
唐突に傍らで声がして、柔らかで小さい手が、彼の腕を引いた。
馴染んだ気配だった。
迷い無くその手に引かれるまま、岩壁の一角へとたどり着く。
5
「陛下ッ?」
驚愕に声が跳ね上がる。
中心部で守られるべき少女が、テントを抜け出して彼の側に立っている。
咄嗟に腕を伸ばして、エンは彼女の身体を、胸の内に抱きしめた。
いつ、陣を突破した夜盗の一騎が、彼らに気付いて矛先を向けるか、知れたものではない。
キルシュは勿論のこと、エンも武勇に自信は無い。
もともと腕力や脚力に、人並み外れたものはなかったし、盲いた今では、一太刀避けることすら困難である。
となれば、我が身を盾にして、出来得るところまで守り抜く。
それしか方法が無い。
「何故ここへおいでになられるのです」
エンは、抱えたキルシュへ小さく叱り付ける。
「何故中央テントでおとなしくしておられませなんだ」
「テントなぞ真っ先に無い」
「え、」
当て布の下で、エンは目を見張る。
否、実際は見張れる瞳はなかったのだが、エンはそんな気分に陥った。
返った答えが信じられなかったからだ。
「無くなったわ。速攻な。数騎に踏みつけられて、あっと言う間だった。中にあのまま居ったら、あの世に行きであったな」
「お怪我は。お怪我はございませぬか」
「案ずるな。さっさと逃げ出していたのが幸いした。どこも傷めておらぬ」
落ち着いた声だった。
いつもと変わりが無い。
それでもエンは信じきれずに、胸に彼女を抱えたまま、腕や肩へ手を伸ばし、触って無事を確かめる。
確かめずには、いられなかった。
「……こそばゆい」
むずかる声を出して、キルシュがエンの腕の中でもがいた。
元気な声である。
どこかに怪我を負い、無理している声ではない。
ほっと、エンは肩の力を抜いた。
「よくぞ、ご無事で」
「無事も何もあるものか。あの騎士団長の声が聞こえ、目が覚めた。何やら不穏な気配がするから、様子でも見ようかと、表に顔を出した瞬間の出来事だ。運が良かったのだろう」
何事かと驚くことはなかった。
こういうこともあるだろうと、キルシュは心のどこかで覚悟していたからである。
浅い眠りから跳ね起き、立ち上がる。いつでも襲撃に備えられるように、上着を含めた衣服は着けたまま寝ていた。
波状に音が襲い掛かって、
辺りが、またたく間に戦場と化す。
蹄の音が近い。
テントの入り口から覗き出たその目の前で、棹立ちになった馬が二回、三回。宙を前肢で掻くのが、月明かりにシルエットで映った。
考えている暇はなかった。
直感が走る。咄嗟に転がり出ていた。
次の瞬間、数秒前まで彼女がいた場所を、どうと馬が駆け抜ける。駆け抜ける。駆け抜ける。
粉塵に、目を開けていられない。咳き込みながらキルシュは小さく固く、身体を丸めた。
この混戦の中、いつ騎馬に踏みつけられても、おかしくは無いのだ。
数呼吸して顔を上げる。
ほんの少し前まで、そこに確かにあったはずのテントが、影も形もない。
無残に踏みちぎられた、厚手の布の残骸があちらこちらに散乱しているだけだ。
そこで初めて、脇の下を冷たい汗が伝った……。
「陛下」
「なんだ」
キルシュは自分を律する術を知っていると、先刻エンは、ダインにそう告げた。
そう告げた、だがしかし、
「陛下」
細い身体をきつく抱きしめる。
キルシュの全身が、小さく震えていることに、気付いたからだ。
「ああ……、山は寒くてな」
自分の震えに今気付いて、抱きしめられたキルシュは言い訳る。
「エスタッドから持参してくれた旅時用寝具は、さすがに都だけあって瀟洒ではあるが、少し薄い。わざわざ持って山越えをして来てくれた手前、難癖を付ける訳にもゆかぬから、黙って使ってはいるが。寝ていても震えが止まらぬ」
「大丈夫」
「……エン。こなた、何か勘違いしておらぬか。わたしは何も恐れてはおらぬ」
「大丈夫」
「……」
「大丈夫」
何度も言い聞かせるように囁くと、腕の中の少女は急に黙り込んだ。
大きくひとつ、身震いした。
「律する」と言うことは、自分自身をある基準に当てはめ、決めることである。
基準はその時々によって異なるが、大体は、常識だったり物事の道理だったりする。
例えば、「旋律」とは、音のきまりごとに従って、その音程を奏でることだ。
嬉しい、楽しい、悲しい、腹立たしい。人は生きている限り、様々な感情が常に溢れ出る。また、己が感じようと意識せずとも、誰かの感じた感情が波紋となって広がり、それに感化されたりもする。
切られれば痛い。叩かれれば悔しい。夏は暑いし、冬は寒い。
感じたままに、それを表現すれば、人は感情に振り回されることになる。
だから、「律する」。
物心付く以前より、キルシュの育った環境は、決して褒められたものではなかった。
二親がいない。兄弟がいない。友人もいない。
どちらを見回しても敵。味方と言っても名ばかりで、結局は、彼女を利用して出世しようと目論む人間たち。
孤立無援であった。
これはかなり、特殊な人格を形成する。
甘える相手がいなかったから、甘えることを覚えなかった。
頼る相手がいなかったから、頼ることを忘れた。
そのまま育つと冷たい性格の人間になる。
人の温かさを知らない人間は、人を信じられなくなるからだ。
そこでエンは、キルシュに「律する」ことを叩き込んだ。
その場に合った理想の己を高く掲げる。そうして理想に近づくことが出来るように、努力をする。
やさしさを求められたのなら、やさしさを、寛大さを求められたのなら寛大さを。
遥か高い場所に基準値を作り、緩めない。己に常に厳しい。
他に師を持たないキルシュは、教えられたそのままに全てを成長して育った。
がしかし、時にその基準に固く縛められて、己の感情を押し殺してしまう傾向が、彼女にはある。
公的な場ではそれで良いだろう。
政治に私情を挟んでは、回るものも回らなくなるから。
(だが)
エンは思う。
(公女としてではなく。何ものにも縛られない、そんな自由な生き方をして頂きたい)
それもまた、本音だ。
一瞬の判断を間違えれば、命を失う場にいて尚も、取り乱さないキルシュが、エンには少し痛々しい。
教育の導き方としては、間違ってはいなかったと思う。
が、「間違っていなかった」ことと、「正しかった」かどうかは、また別の話だ。
ダインも先に言っていた。「まだ15の娘だ」と。
この時代の歳の数え方は、数え年である。であるから、実際は14歳ちょっとが、彼女の生きてきた年数である。
そうだ。確かに娘なのだ。王冠よりも野の花冠が似つかわしい、まだいとけなさの抜け切らぬ少女なのだ。そんな彼女の腕を取り、無理矢理引き立たせて、立派な「大人」が責任の擦り合いの後始末を、キルシュに押し付けている。
それがエンには歯痒くもあり、口惜しくもある。
岩棚を背にした二人は、決して目立たないように小さく縮こまっていた。
「本陣に」と、ダインは言った。
本陣とは、それがどんな場所であろうが、公女の在る場所である。エンは丁度、本陣のど真ん中にいる。
また仮に、騒いだところで、騎士たちの応戦の役に立てるとは思っていない。どころか、足手まといも良いところである。
嵐の過ぎ去るのを、息を殺して待つしかない。
6
「……こなたは、温かいな……」
おとなしくエンに抱きすくめられていたキルシュが、ぽつんと呟いた。
そのまま腕に顔をうずめている。
氷のような四肢だった。
芯まで冷え切ったキルシュの身体へ、ぬくもりを分け与えるように、エンも身動かない。
親鳥が、ヒナをその羽の下に覆って温めるように。
じっと、彼女がぬくもりに満足して離れるのを待っている。
キルシュは、決して自ら人と触れ合わない。握手程度ですら、瞬間ためらう素振りを見せることを、彼は知っている。
そうして、たった一人エンだけには、キルシュは恐れを抱かないということも。
故ルドルフ公の、人には言えない性癖のふたつ目は、視姦に快感を覚える性質だったこと。
暴れ、喚き散らすエンを、がんじがらめに縛りつけて、椅子に座らせる。
大声を出されて興を削がれないよう、そして目の前に広がる惨状に、自ら舌を噛み切らないよう、猿ぐつわを噛まされた。
固定された顔は、背けることも出来ない。
塞がれた唇は、呪いの言葉を吐くこともできない。
その彼の目の前で、夜な夜な年端も行かぬ少女は、体を割り開かれた。
少女と同じように、彼もまた毎晩悪夢を見たのだ。
初老に差しかかった、男のたるんだ腹肉が抽挿に揺れるのを。
白くか細い両脚が、高く宙に掲げ上げられ、苦悶に折り曲げられるのを。
鏝を持った処刑人が、絶叫する少女の額に、奴隷の烙印を焼きつけるのを。
毎晩。両頬に滂沱と涙を流し、猿ぐつわを食い破らんばかり歯軋って、エンは慟哭した。
天を呪い、地を呪い、人を呪った。
(何故、彼女なのだ)
(彼女が一体、何をしたと言うのだ)
毎晩。泣き疲れ、失神した少女を腕に抱え。この世の全てに、彼は悲痛な叫びを上げた。
夜は長く、暗い。
暁は見えてこなかった。
呪詛の矛先は次第に、無力な自分へと方向を変化させてゆく。
(私はどうして、見ていることしか出来ないのだ)
(私には、何も出来ないのか)
(私には、何も出来ないのか)
(私には、何も……出来ないのか)
激情は形となり、気付くと指先が眼球を刺し貫いていた。
見てくれるなと、こんな汚れた自分をもう見てくれるなと、キルシュがエンに切々と嘆き訴えていたある晩。一瞬の出来事だった。
ためらいはなかった。
(ああ)
その瞬間、闇を切り裂き響いた、キルシュの甲高い絶叫をエンは決して忘れない。
ガラスの砕け散ったような音だった。
(これであなたを苦しませずに済む)
微笑すら、その口元には漂っていたと、歌歌いはそう歌う。
脚色かもしれない。
物語の緩急をつけるだけの、創作なのかもしれない。
病で視力を失った説や、不慮の事故説を取り上げるものは、エンが、自らの手で眼球を潰したという歌には、ひどく難色を示す。
「やりすぎだ」と言うのである。
「人間ひとり、追い詰められたところで、そこまで自滅的になるものか」と、そう否定する。
できるはずがない、と。
しかし、エンが息を引き取る間際まで、キルシュに忠誠を尽くした逸話を見るに、筆者はその説を取り上げたいのである。
キルシュもまた生涯の中で、この盲目の男にだけ、側に立つことを許したと言われている。
事実かどうかは判らない。
「エン」
エンの腕の中で目を閉じながら、キルシュが不意に口を開いた。
小鳥のように跳ねる心音を、黙って楽しんでいたエンは、僅かに顔を上げた。
キルシュの口調が、安定したものに戻っている。
「は、」
「あまり、騎士団長殿を困らせてやるな」
「……と、申しますと」
「とぼけても無駄だ。こなたのことだ。恥も外聞もなく、騎士団長殿にわたしの命乞いを頼んだであろう。もしくは……、騎士団長殿の縁故の者で、更に皇帝に発言権のある誰かに、一言奏して貰えるように頼んだか」
「……」
読まれている。
図星を突かれた思いが、エンの顔に出たのだろう。
くつくつと喉奥を鳴らし、キルシュが猫のような顔で笑う。
戦闘は収束に向かっているようだ。
敵味方入り乱れていた夜は、急速に静けさを取り戻しつつあった。
「退けッ。退け――ッ」
敵方の一人なのだろう。慌てふためいた声が、馬上で喚き散らしている。
「あの団長殿、相当腕は立つようだ。騎士になってまだ日が浅いように見受けられるが、部下の信頼は厚そうだ。だが、こなたのように、口八丁で世を渡るタチでは無いな。こなたがあまり言い掛かりをつけると、頭がこんがらがってしまうぞ」
「陛下」
「なんだ仏頂面。こなたももう少し、愛想の良い顔をしていると良い。ひょっとすると、その愛想にほだされて、団長殿が、こなたの策を飲み込んでくれるやも知れぬぞ」
「陛下」
きつい揶揄は、キルシュの得意分野だ。取れる揚げ足は必ず取る。
ただし、エンがその悪癖を叱ろうにも、エン自身を真似てキルシュはそれを覚えたのだから、如何ともし難い。
人の振り見て何とやら、である。
結局渋い顔で黙り込むしかなかった。
最終更新:2011年07月21日 20:59