どこまで我々はマザーに頼りきっていたのだと。グレイブはたった一人のブリッジで操艦に手を上げそうになった。機械を使って、ようやく動かしていた最新鋭の旗艦ゼウス。
目の前で繰り広げられる戦いに、何もできないのか。何のための旗艦だとコンソールを叩いた時、背後のドアが開く音がした。軍靴の響きがブリッジに響き渡る。
「大佐だけを一人で逝かせはしません!」
雪崩れ込んできた部下の最後に、ブリッジに戻ってきたのはいつも自分の後ろに控えていた副官のミシェルだった。
「お前達・・・」
それぞれの持ち場に戻るブリッジクルーがゼウスの航行を自動から手動へとモード変更を行う。何から何までグランドマザーに頼りきっていた人類でも、これくらいのことはできるのだ。メギドは依然として地球へとその矛先を向けエネルギーを充填している。出撃していったワルキューレMk-Ⅲでどこまで防ぎきれるか。グレイブにもそれは分からなかった。
派手なほどにワルキューレのミサイルサーカスがメギドを遅い、青い閃光がメギドを突き抜ける。青い光はミュウのタイプブルーだろう。高エネルギーを持ったまま爆発するメギド。残るメギドは1機。主砲を使う時間はなかった。
ミュウと協力して地球を守れと言った後輩の決意に答えぬわけにはいかない。
これは元首の命か?
いや、違うのだ。
初めて会った時から、いけ好かない奴だと思っていた。ステーション始まって以来の天才、メンバーズ入りして出世コースを駆け上がる後輩は、ついにはトップの座に上り詰めた。その要所要所にグレイブは居た。ナスカ攻撃時には、その容赦のなさから化け物と呼び、代表となった時でさえ、彼の苛烈さが理解できなかった。せっかちで、行き急ぐ理由が分からなかった。言語道断のメッセージを配信した時は気が狂ったのかと思った程だ。SD体制を根幹から揺るがしかねない真実を彼は暴露した。
私は奴の何を見ていたのだ。
軍人となって辺境の司令官に収まった時、私の一生は決まったものと思っていた。
「目標、一機残ったメギドっ!」
「艦首向け!」
ミシェルがいつもと変わらぬ締まった声で号令をかける。
「すまんな皆、付き合せてしまって」
「人類の底力を見せてやるであります」
一人では動かすのがやっとだった艦が発射間近のメギドへと向かう。出力最大。ワルキューレから叫び声が聞こえたが、計器の異常音と艦が揺れる音にかき消された。
「若造ばかりに格好いいまねはさせん」
どこかで私は戦いの結末を人事のように見ていた。争いを避け、勝ち馬を見極めては適当にやり過ごしていた。幼稚な人道主義に酔い、愚かだと一歩引いていた。
だが、ここは引いていい時ではない。
歴史の節目を前にして引けるはずもない。
若造でさえ、あの馬鹿の言葉に答えるべく戦場へ飛び出していったではないか。この先の世界を見ることができないのは残念だが、あの馬鹿を先に行って待っててやるのも悪くない。ミシェルと2人ならばそう退屈しないだろう。
これは私の勝手なプライドに過ぎないのだ。
「馬鹿な女だな」
「・・・貴方に似ちゃったのよ」
一直線に伸びる軌跡は地球を穿つ砲身の先に突き刺さり、爪あとを残してメギトの光は宇宙へとそれた。
ゼウス級1番艦ゼウス。
総員退艦後、太陽系第3惑星地球衛星軌道上にて惑星破壊兵器メギドに特攻、爆散。