Or All the Worlds With Absurdity > あるいは不条理でいっぱいの世界

 検索。「███ 手足 切断」「見せしめ ███」「███ 残酷 処刑」「パーティー ███ 痛快」
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[[20██-07-10 A.M.05:21/水国██州██市、██████屋上。]]


 夜明け前の街。とあるビルの屋上にて、ふたりの女がフェンスに身体を預けて、茫洋とした会話を朝靄に溶かす。 ─── 甘ったるい煙草の匂い。


「ねえ。」


 やおらに口を開いたのは銀髪の女であった。2mはあろうかという背丈をしていた。「 ─── ん。」
 黒髪の女が、視線も寄こさずに言葉を促す。遠くで蝉の鳴き声が聞こえた。それでも彼女は、顔以外は肌を晒さぬゴシック・ロリータを纏っていた。


「 ──── 覚えてる?」「『センセイ』の『三戒』。」


 暫しの沈黙。その後に、黒髪の女が語り始める。懐かしい記憶を探るように。


「 『死ぬな』」「『恐れるな』」「『同情するな』。 ……… 破ったことはないよ。教えられてから、今まで。」

「死ぬな。──── 死んだ兵士は捨て置かれる。よって無価値だ。」
「恐れるな。 ──── 恐怖は秩序なく自己増殖する。全て切り捨て状況だけを見ろ。」
「同情するな。 ──── 情けはかけ始めたら歯止めが効かない。忘れなければ何もかも不幸にする。」

「そう、正解。 ………… よく覚えていたわね。」「 ………… 忘れるもんか。耳タコだよ、あんなの。」



「 ─── 情をかけたらキリがないわよ。」「不幸な女の子なんて探せば幾らでも居るでしょう。」「目に入る可哀想な誰かを、まさか皆んな助けようとするつもり?」

「それ、一番キミに言われたくはないな。入れ込んでる癖に。 ……… カルトにハマるようなガキを助けようだなんて、ボクよりタチが悪い。」

「かえでは特別よ。他の人間に同じ真似はしないわ。」「 ──── ふン。どーだか。」



▶︎REC.


 検索。「██議員 ███」「██議員 ███のビデオ」
 ███データベースにアクセス。バックドアを割って管理者ページへ。██秘書の携帯端末に枝を付ける。██問題に関する██、並びに███レポートの███。


[[20██-07-20 P.M.09:33/水国██州██市、██████:██F、███号室。]]


 雑然とした小さなオフィス、 ──── ドアが開く。挨拶はない。ゴシックロリータの女が、無言のままデスクに迫る。


「 ……… なんだい。ミレーユ君か。どったの。」

「野暮用だよ。後藤さん。」「 ──── 『殺してやりたい相手がいる』。」


 無精髭の男が座るデスクに、女の手からいくつかの書類が叩き付けられる。 ─── 何人分かの顔写真。その経歴と思しきもの。何かしらの裏帳簿らしき数列。
 しばらくそれらに視線を落とした後、男はやおらに口を開いた。半ば溜息と同義だった。エアコンの駆動音ばかり響いていた。


「 ……… おれ、今めっちゃ忙しいんだけどさ。 ……… その話、今じゃなきゃ、駄目?」

「アリアのこと?」「 ……… 放っとけばいいよ。」「一週間もすればケロッとしてるって。」「幾ら異世界に行ったからってさあ、贔屓目で見過ぎでしょ。」
「義体にも電脳にも問題はないんだろ?」「アレがうだうだ悩むのって、今に始まった事じゃないんだし。」「どーせそのうち元気になるって ……… 。」


 男はまた溜息をついた。観念したように、突き出された資料に目を通し始めた。あまり丁寧とは言い難い身辺調査の文体に、何度か視線を前の行に戻しながら。
 続く言葉は半ばほどが愚痴であった。面倒をかけるのなら、その分の面倒も請け負ってはくれないか、 ─── そう言外に主張していた。女も異存はなかった。


「そうは問屋が卸さないさ。曲がりなりにも貴重な世界線渡航の経験者だからねえ。鑑識班と装備班の連中、ボディとメモリ丸一日いじくりまわして構造解析してる。」
「 ──── おまけに派手に壊しやがった。加えて自傷で、だ。 精神汚染の可能性も考慮して脳殻は隔離したが、直近の記憶領域をマスクデータにしてやがる。」
「しかも自閉モードまで起動中。ご丁寧に緊急の物理遮蔽回路まで入力してある。 …… 仕方ねえから、公安の方の捜査にあたらせてた1人も呼び戻した。当分アリアは謹慎だよ。」

「アリアの代わりが、あの"2枚目"?」「気に入らないなぁ。アイツいちいち言い回しと態度がムカつくんだよね。煙草の趣味も悪いし。ライガ君の方がまだ務まるよ。」
「マフィア上がりだか何だか知らないけど、ハードボイルドでも気取ってんのかっての。 ……… まあ、いいや。」





「それで?」「 ──── やっていい、よね?」





 有無を言わせない問いかけ方だった。そう分かっていて、また男は溜息を吐いた。
 読みかけていた書類をいったんデスクに置き直す。茶色く濁った視線を持ち上げる。見つめ返されるのなら押し黙る、けれど。


「 …………。 」「分かってるだろう。おれとしては、賛同できない。」


 言い終わるか言い終わらないか、そういうタイミングだった。ばんッ、とデスクに白い掌が叩き付けられた。伸びた手が男の胸倉を掴んだ。抵抗はない。
 ぎり、 ──── 歯軋りの音がいやに響いた。白陶のメイクが施された顔貌を、女は歯茎まで剥き出しにして歪めていた。理不尽なくらいの怒りが青い瞳に火を灯していた。



              「巫山戯んなよ。」「 ……… これだけあれば十分だろ。今更ビビって腰でも抜かしたか?」



 ひどく冷たく低い声だった。永久凍土の谷に響く風の音に似ていた。 ─── あくまで落ち着き払って、男は淡々と返答を紡いだ。


「 ……… 。」「お前の殺しにはメリットがない、と言ったんだ。」
「おれはレクター博士にかぶれたダークヒーローを引き抜いてきたつもりもなければ、ヤクザに雇われて御礼参りに行く殺し屋になれと命じた覚えもない。」
外務八課は手続きを省略して法を執行する為だけの機関ではないし、そも個人的感情で量刑を不当に重くする裁判官は寧ろおれたちが取り締まるべき対象だろう。」


  ─── 白い指先に力が篭って、ネクタイが気道を締め上げてしまう寸前で、女は投げ捨てるようにして手を放した。
 がしゃん、と椅子が悲しく悲鳴を上げる。男は不満そうな顔で椅子に座りなおす。もうすこし優しくしてくれていいじゃない、と言いたげに。


 暫しの沈黙。女は立ち尽くしていた。であるからして、もう一度だけ先に口を開いたのは男だった。



「 ……… だが、まあ。」「おれたちにとって"必要ならば"、何人分の挽肉が出来上がろうが問題じゃない。それは解っているだろう?」


  微かに女は瞠目する。続く言葉は、促されずとも紡がれていった。少なくとも男は、随分と人の悪い大人だった。


「この間、"円卓"の王様に謁見してね。」「おれたちのことを快く迎えてくれたが、手土産が欲しいそうだ。小狡いことを考えてる身内は切っておきたい、だと。」
「そのナントカって議員、おれも身辺探った事あるけど、随分と黒い付き合いが多いってね。」「しかも組織的、かつ自分を"仕切る"奴のことを快く思ってない、らしいよ。」
「 ………… ま、例えそうでなくたって、そうである事にしておけばいいしね。」「奴さんからは派手にやれって言われてるんだ。 ……… おれは飽くまで粛々と切るつもりだったが、注文がつくなら吝かじゃない。」

「別に殺れって言ってる訳じゃないんだぜ。」「 ─── おまえの個人的復讐に、おれは手を貸すつもりはない。だが、やるなら利用してやってもいい、というだけだ。」


 聞き遂げた時点で女は踵を返す。別れの言葉も要らなかった。きっと、自分の顔を見せたくなかった。それを男も分かっていた。
 だから濡羽色の髪がひらめく背中に、「またね、ミレーユ君。」 ──── そうとだけ呼びかけて、いずれ乱暴にドアが閉まる。そして彼は孤独になった。しかし今はむしろ孤独な方がよかった。
 はあ、と最後に大きく溜息をつく。この役職についてから間違いなく回数が増えていた。遣り甲斐の裏返しである確信を持ててはいた、が。健康診断はまず怖い。
 ともあれ今はあまり考えたくなかった。1時間半ほど前にサーバーから注いだインスタントのコーヒーを啜る。泥水みたいに不味かった。だからだろうか、呟きたくもなる。




「 ──── にしたって。」
            「あいつ、あんな顔すんだなぁ。」




▶︎REC.




 検索。「███ ███」。そのままイメージ検索。関連画像ならびに動画、████件。アクセス。█████から脆弱性を生成。 ──── メインサーバーを制圧。関連する全ての動画を削除。
 代わりに████ウェア系のウイルスを配置。レンダリングに差しかかった時点でリクエストしたホストに干渉する攻性防壁を設置。事後処理として書き換えの痕跡をマスク。




[[20██-██-██ A.M.██:██/█国██州██市、████████-█-██。]]








 ボクは、ただ、キミに、
 ████を言う練習をする。








/ミレーユとか、ゴトウとか、アリアとか███ちゃんとか関連の、SSっぽいものです

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最終更新:2018年08月01日 22:19