その風は三度吹く

「―――『UNITED TRIGGER』。」
「うっ……当時の図に乗った自分がフラッシュバックして来るぜコノヤロウ……」

男は青のソフト帽を深く被り直しながら、新正義組織のチラシを強く握りしめた。
白シャツ×グレーのテーラードジャケット×ジーンズといったシンプルな格好に身を包む彼は、其れを見つめながら自らの過去を戒める。
彼の記憶が正しければ、正義組織が生まれたのは実に約2年ぶり。―――それも、とんでもないお騒がせな奴等だった筈だ。

そのお騒がせ組織が取った宣伝手段も、チラシによるもの。……嗚呼、地中に埋めた筈の黒歴史が、這い出てきたではないか。

「―――錆付いたもんだぜ、この蒼も……まぁ、落ち着いたとも言えるか? ハハッ……」

紺碧の双眸を伏せ、自虐気味に嘲笑う。彼はその2年の間に、多くの物を失った。……得るものもあったが、失ったモノが多すぎた。
―――伏せた瞳は、右足へ移される。カーネルに、かつて傷つけられた右足首。それが悪化した結果―――取り返しの付かない傷へと、変貌して。

                      ―――右アキレス腱断裂。

千切れたのは、腱だけではない。その事故が組織を消滅させ―――彼から職を奪い、自信までも攫っていった。もう満足に走れない脚では、賞金稼ぎなど出来ない。
逃げる悪党を追えない右足では、駄目である。……リハビリも含めると、1年半の時間を病院で費やした。最近になってようやくの退院だった。
その間に、世界は大分変わってしまって。自分がかき乱したjusticeも影に隠れてしまい、カーネルの≪R.I.P.≫も壊滅した。

カノッサは大分形を変えながらも、最近になって凶悪さを増している。―――停滞している自分に、何度嫌気が差したことか。
未だに悪夢を見たりもする。あの頃の図に乗った自分を蹂躙するカーネルの姿に、堕ちた自分を嘲笑する数々の人間といったモノを。
ふと、握られたチラシに書かれたある言葉が、彼の眼を惹く。―――「守る為の戦いがしたい、という者」

                      ―――男は震えた声を、荒げる。

                  「……護られる側は、俺には辛すぎるッ……!!」

―――無力であることの、苦しさを知った。カノッサのテロに何も出来ない自分を、そして壊れた右足首を憎んだ。
……満足に走れないこの身体で、どれだけ通用するか解らない。だがしかし、男は『護る側』に居たいのだ。正義の誇りを、取り戻したいのだ。
「年齢、性別、経験問わず」。それなら元『青義同盟』のお騒がせ野郎でも、受け入れてくれるかも知れない。

―――脚を引っ張るつもりは無い。怪我持ちとは言え、射撃技術だけは衰えていない。ついでに青臭い思想も、ご健在だ。
……前のように、其れを周りに押し付けるつもりも無い。―――あくまで、これは俺による俺だけのルールであり、残った誇り。

                          「―――よし」

帽子の鍔を、軽く上げる。据わった紺碧の瞳に灯る、爛々とした意志。―――蒼き風が、遅れながらも。その新しい息吹に乗っかろうとしていた―――

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最終更新:2013年01月21日 01:35