掴んだ其の手は人工の

―――初めて見る模様が、目の前の白に描かれていた。辺りを見回す。ヘンテコで重量感のある機械が並んでいる。下を見る。
……両手が縛られている。自分は今何者かに拘束されているのだと、鈍い脳がようやくこの緊急事態を受け入れた。

『――――ほぉ。お目覚めかな、ムキムキマッチョの青年や』

ムキムキマッチョは余計だが、老人の声がした。俺に向かって語りかけているのは明白だ。
白衣を羽織った白髪の老人の見た目は、如何にもマッドサイエンティストと言ったものだ。―――俺はもう、コレ以上実験台にされるのは懲り懲りなんだ!!

『―――っとお……!! 凄い力じゃのお……!! 自慢の拘束器具がギッシギシいっておるわい……』

―――駄目だ。力には自信があるのだが、びくともしない。嫌だ、もう薬は……beyondも、DNA改造も―――
自然と涙が溢れてくる。我ながら情けないが、視界が潤むのを防ぐことは出来なかった。もう無様な姿を晒すくらいならいっそ舌を噛み切ろうかとも思った。
……が。どうやら俺のイメージする其れとは、この老人は異なるようで。

『……気絶してる間に調べさせて貰ったがのぉ、青年の体には本当に驚かされたわい。最近話題のbeyond2ってヤツが躰に染み付いとるのに、自我を保っとる』
『―――だが自傷行為は痛々しいぞぃ』

記憶と共に、全身に痛みが戻ってきた。確か、beyond2の副作用……破壊衝動が発症して―――それに負けるまいと
俺が虚ろな眼で記憶を辿っている間にも、部屋を何度も往復しながら陽気な老人は口を動かす。

『―――確かに特効薬はまだ出来ておらん。だがな青年……副作用をほぼ100%止める方法なら、何とかならんでもないんじゃぞ?』

……は?

このジッチャン、何者だ? 辿っていた記憶の道筋が、老人の一言で全て吹き飛んだ。代わりに、この謎の人物への懐疑心で頭の中がパンクしそうになるのだが。
きっと、俺の眼差しは?に満ちていたに違いない。直ぐに老人が自分の心情を悟ってくれたから。

『―――わ・し! ガルボ博士! 知っとるか? 』

―――……知ってる。 ……え、マジ……です、か? 

暇潰しに良く新聞を読むが、彼の名は良く見る。確か、忌々しき糞グラサンがルルーメンに襲撃した頃から―――あ、思い出した

……魔術を使うアンドロイドを作ったヒトで

『そうじゃ、超かわいいじゃろわしの愛娘は』

……現在行方不明、各国の自警団が調査中。

『……まぁ、縛られるのは嫌いでなぁ』

老人が眼を背けた。一応行方不明の負い目は感じているのだろう。しかしながら、そんなことはどうでもよくて。
問題は、目の前にいるのがガルボ博士であること。証拠は無いが、自分の躰を見てbeyond2の作用だと分かったのだ。十分に信頼してもいいと思えた
どっちにしろ、この動けない今じゃ信頼するのが一番幸せになれるだろう。

「……あのッ……!!」

『―――なんじゃなんじゃ』

「……本当に、副作用を」

『まぁ、ホントは特効薬を作ることに越したことはないんじゃが、まだ現在の研究では其処まで辿り着けそうにないわい』
『でも、副作用を強制的に止める方法なら、超手荒で非効率じゃがある!』

「―――十分ですッッ……!! それで……ッ!! だから―――」

『解ってるわい、してやるしてやるお題もいらん。アンタが寝込んどる間に良いヒントも貰ったしなぁ』


老人が白衣のポケットから取り出したのは、重厚なペンダント。GALBOと掘られた其れから、一瞬火花が散って見えた。

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最終更新:2013年01月21日 01:46