白刃龍紋流:幸徳井佳乃




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―― 光 、刃 紋 に 奔 り て――





櫻の国奥地の霊山・辰羽山に眠る〝龍神〟を守護するため、その地にある白座村という村の住民に数百年の昔から伝わる武術。
この白座村の住人達は、かつて自身を守護する使命と引き換えに龍神から〝神気〟という聖属性の力を授かった者達の末裔であり、現在でも(一部の稀有な例外を除いて)村人全員が神気を操る力を受け継いでいる。
そして白刃龍紋流とは、この神気の力を最大限引き出し、神の莫大な力に惹かれて辰羽山にやってくる妖魔を退治することを目的として開発された流派である。
つまり神気を使える村の住民以外には決して扱うことが出来ない。門下生等も全く受け付けておらず、村の男児と村長の家柄にあたる幸徳井家の子息は必須、その他女児たちは任意で修めるしきたりとなっている。

基本とする体系は、開祖の修めていた陰陽術と開祖の妻が修めていた薙刀術の二つを組み合わせたものである。
陰陽術の技術と知識によって神気の力をより効率的な形で制御下に置き、薙刀術で鍛えた戦闘技術と精神力を通じてそれを使役する、というような形式。
このように全く異なる二つの技術が合体した背景には、白羽龍紋流の根底に〝万能性〟を追求する考えが強く根付いている事情がある。
というのも、白刃龍紋流が〝敵〟とする妖魔の類は種族や起源、由来によって能力や姿形に大きな差異があり、当然行ってくる攻撃や弱点も妖魔ごとに異なるのである。その妖魔たちと相手を選ばず戦う必要のある村人達が、白刃龍紋流をあらゆる状況に即応するための形へ洗練していったのは必然といえるだろう。
この万能性のお陰で、根本的には妖魔退治専門に作られたこの流派でも、100%の力ではないにせよ対人戦闘も十分に可能となっている

なお現在これを扱っている幸徳井佳乃は、龍神と直接契約を交わした開祖の直系である幸徳井家の出だけあって、非常に高い才能を開花させている。
まだ若いこともあって精神的な弱さは残るが、今までに百を越える妖魔を討伐してみせるなど、村の戦士達の中でも頭抜けて強い力を持っているようだ。




白刃龍紋流には零~拾の数字になぞらえた奥義が伝わっている。これらはそれぞれ神気の使用方法のバリエーションで、基本的に数字が下るほど難易度が高い。
戦闘における汎用性、つまり使用頻度は壱~肆が最も多く、その時々の状況に応じて伍~捌の中から有効なものを選択して使っていくような形。
また、に関しては高い威力と引き換えに使用後の反動が特に大きいため、最後の切り札扱いとなっている。

なお、基本的に奥義発動中に別の奥義を使うことは出来ないが、どうやら奥義同士には相性が存在するようで、例外的に同時発動が可能な組み合わせもある。
この二つの奥義を重ねて放つ合体奥義は〝襲打(かさねうち)〟という名で呼ばれ、特に才能の高い者にしか使用できない隠れ奥義として伝わっている。
ただし使えるからといって連発できるものでもなく、どの合体奥義も大量の神気を消費するため、使用後は種別にもよるが平均して約五秒~十秒程度の間神気が全く使用できなくなるという大きなリスクがあり、使いどころが重要である。
以下に登場した奥義の詳細を記す。ちなみに、これらの奥義はすべて徒手空拳であっても使用可能である。

- ≪通常奥義≫

≪通常奥義≫

◆零の太刀・『零露』
白刃龍紋流の奥義のうち、〝零〟の名を冠する原初の奥義。神気の基本性能である身体機能活性化能力を更に高め、精神を活性化する極意とされる。
その性能は、認識およびその処理速度の加速。つまるところ反射神経の強化であり、一般人を遙かに凌ぐ反応速度を得る奥義である。
これによって、あらゆる外部刺激に対する〝初動〟を劇的に上昇させ、常に相手の一歩先を行くことが可能となる。
状況に対する万能性を追求する白刃龍紋流にとって、敵の行動へいち早く反応することの出来るこの奥義はまさしく基礎中の基礎。戦闘においても非常に重要な役割を担う。

ただしこの奥義、使用者である幸徳井佳乃特有の欠点が二つ存在している。
一つは、才能が高すぎるあまり認識から行動までの時間が速くなり過ぎてしまっており、そこに「判断」を押し挟む余裕がないということ。
速度の高い攻撃か不意打ちの攻撃を受けるとこの現象は頻発し、考えるより先に勝手に体を動かしてしまうため、フェイントには滅法弱い。
また、冷静に考えれば回避すべきところを反射的に薙刀を使って防御してしまうことも多く、例えばミサイルのような起爆型の攻撃に対応した場合、少し考えれば爆発を避けるために回避動作をとるべきところを、体が勝手に切り払ってしまって自爆……なんてことも。
そもそも薙刀の間合いでなければ反射的な防御は発生しないため、佳乃も回避が必要な場面では薙刀を体から遠ざけるなどして工夫しているようだ。
……そしてもう一つは、この奥義が常時発動型になってしまっていること。
本来は任意発動型で状況に応じて使っていけるものなのだが、幸徳井佳乃はとある事情でこれを解除できなくなっており、欠点もむき出しの状態にある。

――――なお、この『零露』には、十二番目の奥義に当たる〝第二段階〟が存在するようだが…………?

◆壱の太刀・『一矢』
神気に指向性を持たせて放射する奥義。空間を斬り付ける(または突く)ことで、その軌道通りに神気の刃を射出することが可能。
軌道に合わせた形で放つため、それが大きければ刃も巨大化する。また、振る速度によってある程度速度の調節も出来るようだ。

◆弐の太刀・『二極』
神気を一点集束させる奥義。用途は多岐に渡るが、普段は刀身に神気集中させることで摩擦を軽減し、切れ味を増強する使い方が多い。
この奥義によって放たれる攻撃は、流し込まれる神気の量が増えることによって治癒・浄化の効果が最も顕著に現れるという特徴がある。
例に挙げた切れ味強化の場合、浄化の場合は痛みが劇的に増加し、治癒の場合は最悪斬られた事にすら気づけない程に痛みが軽減される。
また、多量の神気を纏ったこの状態では魔力や呪いといった抽象的な現象へ直接干渉が可能に。〝力〟そのものに対して物理的に拮抗出来るようになる。
ちなみに一点集中なのに『二極』なのは、強力な一撃で対象を「二極化」する、つまりは真っ二つにするという意味らしい。

◆参の太刀・『三衣』
神気を物質に纏わせる奥義。神気を対象に纏わせて〝結界〟を展開する。
この神気の結界は自由には成型できず、常に物体の体表面に沿って展開する。出力を調整することによる部分展開であれば可能。
鉄製の鎧程度の防御力を対象へ付与できる他、聖属性によって対象と外界を完全遮断するため、呪いや精神干渉系能力への耐性も付与される。
普段は自分自身に纏わせる使い方が多いが、対象は自分だけでなく他人や物体も選択可能。ただし、展開中はいわば全身を鉄板で覆ったような状態であり、防御力と引き換えに機動力が低下する。自分に掛ける場合も他人に掛ける場合も、相応に注意が必要である。
なお、防御膜はそう厚くないため、銃弾や刺突等の点攻撃や斬撃等の線攻撃には強いが、衝撃が鎧の下へ伝播する面攻撃、即ち打撃系統の攻撃には弱い
また、前述の通り奥義の同時使用は出来ないため、神気による攻撃に転ずる際にはこれを解かなければならない。

◆肆の太刀・『四散』
神気の出力を瞬間的に増大させる奥義。刃や体に付与した神気の量を一瞬ながら爆発的に増加させ、一気に炸裂させることが可能に。
これによって起きる〝神気の爆発〟は、普通の爆発と違って熱こそないが、伝わる衝撃波と爆音に関しては本物と遜色ない威力が発揮される。
反面、使用後は体に満ちていた神気を一時的に使い果たしてしまい、再び体に神気を充填するまでのほんの数秒間、神気が使えなくなる。

◆伍の太刀・『五夜』
神気を拡散させる奥義。体や刀身から神気を放出、それを霧状に拡散させることで、敵の視界を妨害する。簡単に言うと聖なる煙幕
これによって拡散した神気はその分能力が落ち、浄化の場合でも吸い込むと地味に喉が痛む程度に抑えられる。治癒の場合も空気が綺麗になる程度。
このように明確な威力こそないが、神気の制御を放棄することで拡散現象を起こしているため、展開中も他の奥義を使用できるという大きな利点がある。
ただし、霧を作るのに多量の神気を使う分、減った神気が補充されるまで、つまり霧が消えるまでの間、使用する奥義の威力はやや落ちる。
なお、霧は三レス経つと勝手に空気に溶け込んで消える他、風を起こされると空気と一緒に流れてしまう。

◆陸の太刀・『六花』
神気を練り上げ、擬似的に動物を作り出す奥義。要するに式紙で、生成されたものはすべて白一色の色合いになる。
動物の種族は自由に設定可能で、狼、鷲、雄鹿などが良く使われる。普段は自分の意志で遠隔操作する形だが、専用の言符〝操符〟を核にすることによって簡単な自立稼動が可能に。さらに、前者の場合は術者の激しい動きが封じられるが、後者であればある程度自由に動くことができる
操符を使う場合、『六花招来』の掛け声と共に符へ薙刀を突き刺し、その後即時この奥義を発動するという手順が必要で、やや隙が大きい
なお、この『六花招来』で生み出された動物の自律行動に際しては、佳乃のイメージによりその動物の生態が模倣される。
基本的な行動方針に関しては操作出来るのだが、相手にその動物の苦手なものを出されると模倣された本能が勝って命令を曲げてしまうことも。
とりあえず全体的に火には弱い。また、式神一体一体の耐久性はそれほど高くはなく、同時に使役すると更に一体ごとの耐久性が落ちてしまう欠点も。

◆漆の太刀・『七曜』
神気によって自然現象を模倣する奥義。五行属性に加えて佳乃の改良で二つの属性が追加されており、名前通り七つの現象を作り出すことが可能。
これによって模倣される現象(や物質)はすべて神気で構成されているため、見た目は全て真っ白。当然ながら浄化・治癒効果も健在である。
ただし、普通の神気でない分物理的な攻撃性能が高く、この奥義は治癒効果の発動で神気の攻撃性能が落ち込む対人・対獣戦での切り札にも成り得る
また、『六花』と同じく言符の併用で性能を強化できるのも特徴。対応属性の符を薙刀や体に貼り付けることで『七曜招来』となり、性能が向上する。
以下、過去に使用された属性の具体的な効果を記載。
『木』 刃を地面に突き刺して周囲一体の植物の根へ神気を流し込み、急速に異常成長させる。
成長させた植物は神気を纏って白く光り、ある程度成長の方針を操作可能。ツタを相手に絡ませたり、鋭い枝で敵を貫いたりできる。
無論、場所によっては役立たず。言符併用で範囲と成長速度が大きくなる。
『金』 刀身を包み込むような形で神気製の鉄塊を作り出し、薙刀をハンマーのようにする。
鉄塊の質量は流し込む神気の量によって変わるが、上限は大型ハンマー程度。形状の方は発動時にある程度自由設定可能。
ハンマーに限らず槍の穂先や楯状などにも成型でき、応用力の高い属性といえる。言符併用で硬度や大きさ、質量の上限など全体性能が向上。
『雷』 刀身を帯電させる。シンプルだが対人用として非常に有効で、頻繁に使用される。言符併用で威力増加。
◆捌の太刀・『八卦』
神気を物体の内側へ浸透させる奥義。特に繊細な操作が必要な難易度の高い奥義で、薙刀を介さず直に対象へ触れなければならないリスクがある。
だが、妖魔に使えば内側から直接体内を焼く攻撃に、生物相手に使えば内側から直接対象を癒す治癒術にと、どちらにしても高い性能を誇る。
浸透した神気は体内にある間、生物の場合は自己治癒能力の促進、妖魔の場合は体調不良を齎し続ける。ただしそれ程長く体内に残ることはなく、放っておいても生物の気や妖魔の邪気(魔力などの体を循環する力でも同様)に流され、特に何も対策を取らなかったとしても数時間程度で自然消滅する。
もちろん、単純に力が強い者や力の操作がうまい者であれば、体内のエネルギーを操作して一気に排除することも可能であるだろう。
人間相手に治癒を行う場面も多いと思われるが……「直接相手に触れる」という条件は、佳乃にとって想像以上に重い、かもしれない。
◆玖の太刀・『九天』
自身の神気を触媒にして大地の龍脈から多量の神気を直接引き出す奥義。薙刀を地面に突き刺し、そこから大地へ自身の神気を流し込むことで発動。
薙刀を中心として直径三メートル・高さ二十メートルにも及ぶ巨大な〝神気の柱〟が立ち上り、周囲一体を纏めて薙ぎ払う大威力攻撃となって敵を襲う。
喰らえば強烈な物理衝撃で斜め上方向へ吹き飛ばされるのみならず、中心に近い位置なら高位の妖魔でも一瞬で蒸発するほどの大威力が発揮される。
その余りに濃密な神気は人間相手ですら〝浄化〟の効果が発生する程であり、非常に威力が高い反面消耗も激しい、一戦闘一回が限度の切り札である。
ちなみに真上へ伸びる攻撃範囲が示す通り、元々は巨大な妖魔を真下から撃ち貫く為に作られた奥義であり、対人相手ではやや使いづらい面も。


- ≪襲打≫

≪襲打≫

◆『一閃大火』(いっせんたいか) 『一矢』+『四散』
着弾地点または飛翔中の任意の地点で『四散』の効果を発揮して爆散、周囲一帯を纏めて攻撃することが可能となった『一矢』。
〝襲打〟の中でも特に構造が単純で、使用に際してのリスクも低い。
◆『二刀無依』(にとうむえ) 『一矢』+『二極』
『二極』によって切断効果と速度(推進力)が強化され、それらの相乗効果が強力な貫通力を生むに至った、強力無比な「飛翔する斬撃」。
文字通り、二の太刀に依ら無い必殺の一閃である。
◆『四境絶塵』(しきょうぜつじん) 『三衣』+『四散』
『三衣』で作った結界を『四散』の効果で瞬間膨張し、強烈な衝撃で近距離の物体をまとめて吹き飛ばす。敵や敵の張った弾幕に囲まれた状況などで非常に有効。
◆『六晶乱舞』(りくしょうらんぶ) 『四散』+『六花』
式神に敵を追尾させた上で、構成する神気を急速膨張させて爆発させる。いわば「自走する爆弾」。シアーハートアタック(ry
殆どの場合〝操符〟との併用で使用されるが、その際は爆発時に符も一緒に破裂し、周囲には式神の死を悼むように紙吹雪が舞い散る。
◆『八重光楔』(やえこうせつ) 『四散』+『八卦』
対象に浸透させた神気を敵の体内で直接爆破する大威力攻撃。妖魔相手なら言わずもがな、内側から直に体組織を粉砕・浄化する強力な攻撃効果が発生。
生物相手でも、キャパシティを逸脱した多量の神気を流し込むことで体内の気を滅茶苦茶に掻き乱し、一時的に全身の力を弛緩させて行動不能に出来る。
その場合、『八卦』と同じく数時間程度の経過か体内エネルギーの循環で神気の効果が多少薄まってくると、今度は本来の高い治癒効果が発揮される。
喰らった直後は動けなくなるが、長期的に見ると体に良いといった感じ。なお当然、相手に素手で触れる必要があるというリスクは消えていない。




白刃龍紋流のうち薙刀術の側の技術で洗練された、八種類の『型』。それぞれが「玖」と「拾」以外の奥義の一つ一つに対応している。
型とは言っても、白刃龍紋流は元よりセオリーの通用しない妖魔戦を主とし、ひたすら万能性と即応性を追求する流派であって、戦闘におけるスタイルも自らの勘と経験則を頼りとしてアドリブ的に組み立てていくのが通例である。
故にここに伝わっている構えもあくまで『基本』もしくは『始動』であって、その場その場の機転で如何様にもアレンジされていく。





◆言符

白刃龍紋流のうち、陰陽術の側に当たる技術で開発された補助道具。
神気を自らの気と混ぜ込んで墨に浸透させ、和紙へ文字と紋様して書き込むことで特殊な効果を持たせた〝符〟の形を採っている。
符の発動方法はごく単純で、口元に人差し指と中指を合わせて持ってくるだけの簡単な印と掛け声をキーとして効果を発現する。
この掛け声は符ごとに異なり、現象を召喚するものと物体に干渉するものは「発(ハツ)」、固形物を召喚するものは「招(ショウ)」の掛け声が必要。
「火」や「雷」など、書かれている漢字によってその効果は様々だが、破壊されたり落書きされたりして書かれたものが意味を無くすと無力化してしまう。
紙自体は見た目も強度も単なる和紙に過ぎないが、磁力のような不可視の力を帯びており、材質に関わらず貼り付けることが可能である。
ただ、貼り付く力自体は一般的なマグネット程度で、魔力や気などの何らかの力が通っている場合などはうまく貼り付けられないことも。

術式としては簡易的な部類なのでそれほど強大な力は発揮できず、神気の効果の薄い人間や動物に対する補助用として使われることが多い。
その代わり、本来白刃龍紋流には五行属性の符の作成方法しか伝わっていなかったところを、本人の努力でオリジナルの符が多数開発されている。
種類も効果も多岐に渡り、非常に多くの場面で使っていける他、符自体に力を篭めておく形式なので佳乃以外の人間にも使用可能である。



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最終更新:2014年05月27日 20:24