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**津軽@満天星国様からのご依頼品  ハイビスカスが咲き誇る。  低木なので、遠くまで見渡せる風景。様々な色、種類で、それでも同じ<ハイビスカス>。  夏の園は、まさしく、夏の様子だった。 /*/ 夏の園でWデート /*/  夏の園は名前の通り、いつ来ても四季の「夏」を感じられる場所だ。  日差しも、空気も、もちろん雰囲気も。夏である。  熱気が音を作る。生き物や風も、夏を表現していた。  海の近くに行けば、波の音も聞こえるだろう。 「わー!」  自分が多少なりとも設計をした場所だ。なんとも言えない満足感に、津軽は思わず感嘆の声を上げた。  勢いよく頭が揺れ、頭部の付け耳がひょこひょこと揺れる。  キャミソールに巻きスカートという、如何にも女性らしい服装をしているのが津軽だ。  日よけ代わりか、長袖らしきシャツを、無造作に腰に巻いている。  ふ、と空を見上げると、夏らしい高い空。  光が、まぶしい。  ああ、自分たちが欲しかった「夏」だ。  津軽はちょっと嬉しくなった。 「おおー、爽快だ~!」  ホーリーも勢いよく、うん、と伸びをして首を回した。良い場所だなぁ。ハイビスカスが楽しみだ。  こちらはシャツに七分丈のズボンと、本人いわく普段通りの服装の男性だ。  その分髪のセットに時間がかかっているのは秘密である。  あー、ゲストがいるならもっと良い場所なんだけどな、とホーリーは一人ごちる。  コースよーし、お土産のシナモンロールよーし、後は楽しむだけー。  そしてちら、と目的地を見て――内心万歳三唱した。  ――さて今回は、件の人物はしっかりと最初から、いた。  ヤガミも斉藤も、夏の装いだ。  場所を聞いていたからか、ヤガミは如何にもバカンス中のような色合いの、TシャツにGパン。  斉藤は動きやすそうなゆったりしたシャツに、すとんと裾の落ちたスカート。こちらは夏の定番私服です、といった感じである。 「ここは悪の別天地-」  やたらと調子良い響きで、ヤガミは歌っていた。  何気に上手い。でも、よくよく歌詞を聞くと――  ちょっと聞き惚れかけながらも、とりあえずは挨拶である。 「こんにちはー」 「あ、斉藤さん、ヤガミさん、こんにちはー」  津軽とホーリーは、それぞれ似たように挨拶した。それに元気良く「こんにちわっ」と答える斉藤。そんな斉藤を見て倒れかけるホーリー。  が、ヤガミの歌う内容が気になったのか、わずかに顔を引きつらせたままの津軽。  おそるおそる、聞いてみた。 「あ、悪の別天地ですか?」  ヤガミは笑った。 「単なる歌だ」  かるく口笛でも吹くように答えると、ヤガミは首をわずかに傾げる。 「何の用だ?」 「今日は、4人で、ハイビスカス園に行ってみたいのですけど、どうでしょう?」 「あ、ハイビスカス園は実は、津軽さんが建設に携わっているんですよー」  津軽とホーリーのそんな誘いに、ゲスト2人の反応は両極端だった。 「なぜ?」 「いいですね!」  海賊ゆえの警戒心(というより、これは行動に理由をつけたがると言うべきか)で疑問を出すヤガミ。  その言葉の響きに、あっさりと賛成する斉藤。ぶんぶんと首を縦に振っている。  あんまり予想過ぎて、なんともはや。うわん、やっぱりー、とは内心の叫び。 「宝でもあるのか?」 「私的には、宝かも知れませんが、ヤガミさんにとってはどうでしょうね? うーん…」  つっかえつっかえ話してみると、ヤガミは苦笑した。  前ので大体、予想はついてたが。と自分自身にぽつり。 「まあ、見てみるか」 「わぁい! ありがとうございますー!」 「わーい」  大喜びの津軽と、半ば苦笑しつつの「わーい」なホーリー。  とりあえず、連れ出す事には成功だ。  二人こっそりとアイコンタクト。  いざゆかん、デートの地へ! 「お花の嫌いな人なんてあんまりいませんから、きっと楽しいですよー」 「私、ハイビスカスはじめてです!」  はじめて、を強調して瞳をきらきらと期待に輝かせる斉藤。  何せ、ハイビスカスと言えば冬は温室に入れなければいけないぐらいの、南国使用の花だ。  斉藤がはじめてなのも、無理はなかった。 「わ、それはよかった」  ホーリーは嬉しそうに笑うと、続いて津軽も笑顔で太鼓判を押す。 「きれいですよ、とっても」  行きましょう、実際に見るのが一番。  津軽がそう言うと、斉藤は早く早く、と歩きだす。  それに続く3人。  そんなわくわく状態の斉藤を先頭に、ダブルデートが始まった。 /*/  さて、夏の園の中、ハイビスカス園である。  暑い場所ではあるが、人はそれなりに入っている。風景を見てか、楽しそうな声が遠く響いていた。  低木であるため、低い位置に咲き誇るハイビスカスはちょうど満開で、空気が染まって、良い香りが広がっていた。  斉藤は目をつぶって匂いを楽しんでいるようだった。  心から楽しそうな表情は、とても魅力的である。ホーリーは思わず見とれた。  めろめろなのよ、とは津軽談。 「わぁ! 建設のとき以来だから、ちょっと感動するなー」 「へえ」  津軽の言葉を聞いてか風景を見てか、驚きの混じった声のヤガミ。 「はじめてのハイビスカスの感想はどうですー?」 「なんか、涙でます」  心底嬉しそうな斉藤に、ホーリーも微笑んだ。 「とりあえず、遊歩道沿いに歩いてみませんか?」  津軽がそう言うと、ヤガミはゆっくり歩き出した。  ちょこちょこと津軽がついていく。  何も話しはしていないが、ヤガミもそれなりに楽しそうだった。  軽く花を見ながらの、散歩。花の匂いが、自分の中にも入ってきそうだ。  つい近くの花を触ると、ふわりとした感触と、匂いが舞った。  ああ、すごい。 「わたしも、こんなに一度にたくさんのハイビスカスははじめてだから、感動だなあー」  人の多さに目を見張りつつ、ホーリーは呟いた。  そんな言葉に乗っかって、考えに考えていた台詞を、津軽は口に出す。 「丘の上のあずまやからの眺めが絶景なんですよ」  じ、とヤガミを見る瞳は、真剣そのものだ。 「行ってみません? 混んでいるかもしれませんが…」 「港が見えるとか?」  はい、と口に出しかけると。 「はいっ。いきましょう。いきましょう」  勢いの良い斉藤が、津軽の手をしっかり取って歩き出す。  一瞬目が点になる津軽。それを見て思わず「ははは」と笑いが零れるホーリー。  斉藤が何をしてても嬉しいらしく、ひたすら目で追ってはホーリーも嬉しそうに笑っている。 「えへへっ」  津軽は照れつつも、斉藤に手をつないで貰えるのもまた、女の子してて良い感じねー、と笑った。  にこにこしながら引っ張られるまま、東屋に向かい歩いていく2人。 「わたしたちもいきましょう」  ホーリーがそう言うと、ヤガミもひとつ頷き、素直についてきた。  /*/  東屋からの景色は綺麗で、遠く海も広く、見渡すことができた。  青い海、青い空、白い砂浜――とは使い古された表現だが、まさにソレ。  自然な色合いの風景が、一番心に響く。 「わー! 感動で涙でそう…」  やっぱり自分が設計したものは感動ひとしお。想定以上の絶景に、ちょっと目が潤んでいたり。 「海はやっぱりいいなあ……」  しみじみと頷くホーリーの隣で、斉藤は背伸びして海を見ている。  おおー、という感じだった。  何せ緑に囲まれた生活が長い斉藤だ。久々の一面の青には、驚いているようだった。  そんな様子も可愛い。にこにこしながらホーリーは問いかける。 「何か見えますかー?」 「海底火山と、あとは」  すい、と視線を移動させる斉藤。 「海豚が見えます」  い、イルカ!?  そんな問答を横に、津軽もヤガミに話しかけた。 「ヤガミさん、港、見えますー?」 「いや。さすがに配置がうまい」  軽く言ったつもりの言葉に、しみじみと感心した台詞が飛び出し、津軽はびっくりした。  え、そこでその発言?  ――えーと、それは。 「ん? もしかして、お仕事のこと考えてます? ヤガミさん」 「いや。まさか。お前に通報されて縛り首はなりたくない」 「あはは」  それこそ、まさかだ。  笑ってはいるが、なかなかに、手ごわい。  津軽はギギギ、と内心思う、のだが、ヤガミの僅かな微笑みにくらりと落ちた。  なんで、そこで、笑うかな!  ぐるんぐるんしている津軽を横に、ホーリーは真面目に考え中だ。  海底火山…って宰相府藩国では聞いたことないんだけど。  じーっと見ても、見えるはずも無く。 「うーん、火山探してみたけれど見つからないや。斉藤さんって、目がいいんですねー」 「はい。20.0あります」  ちなみに、ごくありふれた「良い目」の基準は2.0である。  うあ。それは凄い。  驚いたホーリーの声を聞いて。  それでもぐるんぐるんしていた津軽を正気にしたのは、やっぱりヤガミの次の一言だった。 「暑いな」 「夏の園、ですからねー」  ぱっと配置を確認。たしか夏のフルーツジュースを売っているワゴンがあったはず。  大丈夫旅行社経由の滞在は、マイル費用にお小遣い込みだから、出せる! これはいける!  前のコーヒーの御礼だ! (そして横のホーリーも目を光らせているのに気づいた) 「えーと、みなさん、何か飲みません?」  ワゴンをしっかり指差しつつ話しかけると、まず最初にブンブンと首を振る反応を示したのは、斉藤だった。 「お金なくて!」 「あ、そうだ。この間のお返しに、今日はごちそうしますよ」 「水、くんできます!」  水で十分ですの意味か。  でもここって遠くに海(=塩水)、近くは散水用の水道(=飲み水ではない)なんだけどな。 「あ、いやいや、待ってー」  苦笑しつつもホーリーは引き止める態勢だ。  そんなギャグのような様子に、ヤガミの反応はあっさりしたものだった。 「俺が出す」  そう言ってヤガミは、手早く買ってしまった。  苦笑しているから、決して嫌な感情からではないのだろう。  ひょいひょい、と買ったジュースを手渡していく。 「と、ああああ、いつもすいません~」  申し訳なさそうに言うホーリー。 「ありがたく、ご馳走になりますー」 「ありがとうございます。ご馳走になりますー」  津軽とホーリー、口々に言う様子に、頭をかくヤガミ。  ジュースを一口。目を泳がせる。 「いや。いいが」  んー、ホーリーを見て唸り、一言。 「暑いので散歩してくる」  おお、と津軽は心の中で声をあげた。ピンときた。  ホンモノの犬耳がついていれば、元気よく立っていただろう。  これはもしかしてもしかすると。 「えっと、付いていってもいいですか?」 「もちろん」  ちらりと斉藤を見ると、どうやらまだ動きたくなさそう。  先ほどみたいに率先的に動かないので、確定だろう。 「ホーリーさん、斉藤さんとゆっくりしててー」  そう言い置いて、津軽は駆け足気味に、ヤガミをおいかけた。  こちらを振り向いて足を止めてくれているヤガミに、ちょっと惚れ直しながら。 /*/  ジュースを不思議そうに見て、風景を見て。  交互にきょろきょろしている斉藤は、可愛らしかった。  目を細めて、ホーリーは言う。 「斉藤さんは、まだもう少し海を見てたい?」 「あ、はい。よろしければ…」 「あ、じゃあわたしも一緒に見ていていいかな?」 「はいっ」 「ありがとう」  にこりと笑みを浮かべる。  こ、これは良い感じだ…!  彼が先程からぐるぐると考えていた事は1つ。  一通り和やかムードを出せたらよし、その後は次回に繋げるべく印象アップ!である。  その時に取り出したるは、愛情いっぱいのシナモンロール。みんなで一緒は状況的に捨て。さらっとお土産さらっとお土産。  斉藤さんも重要だけど、ヤガミ、食べてくれるかな…そして味は気に入るかな…。  ああ、二人っきりだ。  しみじみ考える。  一緒に海を眺めつつ、ホーリーは言った。 「斉藤さんは海が好きなんだねー」  さて、ここからが問題だな。  ひとつ心の中で頷くと、ホーリーは気合を入れた。 /*/ 「気がありそうだったな」  ふむ、と頷くヤガミ。  横目に2人を見つつ、津軽は言う。 「ええ。やっぱりわかりますよね」  ジュースを一口。あ、美味しい。ちょっと笑う。  斉藤さん、ハイビスカス園気に入ってもらえたかしら。  嬉しそうにしてたから、多分成功だよ、ね…ファイト! あっちも!  心の中でそう思い、ふと自分の事を考える。  きがありそう…? 「…あまり、人のことは言えませんが…」  恥ずかしい。非常に恥ずかしいから小声になった。  心情的には(言ってやったー!!)なのだが。 「まあ、うまくやるといいな」  ホーリーを評して、そう言った。うんうん頷く津軽。  ちょっと悪戯っぽく表情を変えて、ヤガミ。 「おれもうまくやりたい」 「な、なにおでしょうか?」 「お宝だ」  びくびくしながらそう言うとヤガミは、そんな津軽を面白そうに見、舌を見せて笑った。  夏の園に、海賊に良く似合う笑いだった。 ---- **作品への一言コメント 感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です) #comment(,disableurl) ---- ご発注元:津軽@満天星国様 http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=2179&type=2126&space=15&no= 製作:サカキ@星鋼京 http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=2169;id=UP_ita 引渡し日: ---- |counter:|&counter()| |yesterday:|&counter(yesterday)|
**津軽@満天星国様からのご依頼品  ハイビスカスが咲き誇る。  低木なので、遠くまで見渡せる風景。様々な色、種類で、それでも同じ<ハイビスカス>。  夏の園は、まさしく、夏の様子だった。 /*/ 夏の園でWデート /*/  夏の園は名前の通り、いつ来ても四季の「夏」を感じられる場所だ。  日差しも、空気も、もちろん雰囲気も。夏である。  熱気が音を作る。生き物や風も、夏を表現していた。  海の近くに行けば、波の音も聞こえるだろう。 「わー!」  自分が多少なりとも設計をした場所だ。なんとも言えない満足感に、津軽は思わず感嘆の声を上げた。  勢いよく頭が揺れ、頭部の付け耳がひょこひょこと揺れる。  キャミソールに巻きスカートという、如何にも女性らしい服装をしているのが津軽だ。  日よけ代わりか、長袖らしきシャツを、無造作に腰に巻いている。  ふ、と空を見上げると、夏らしい高い空。  光が、まぶしい。  ああ、自分たちが欲しかった「夏」だ。  津軽はちょっと嬉しくなった。 「おおー、爽快だ~!」  ホーリーも勢いよく、うん、と伸びをして首を回した。良い場所だなぁ。ハイビスカスが楽しみだ。  こちらはシャツに七分丈のズボンと、本人いわく普段通りの服装の男性だ。  その分髪のセットに時間がかかっているのは秘密である。  あー、ゲストがいるならもっと良い場所なんだけどな、とホーリーは一人ごちる。  コースよーし、お土産のシナモンロールよーし、後は楽しむだけー。  そしてちら、と目的地を見て――内心万歳三唱した。  ――さて今回は、件の人物はしっかりと最初から、いた。  ヤガミも斉藤も、夏の装いだ。  場所を聞いていたからか、ヤガミは如何にもバカンス中のような色合いの、TシャツにGパン。  斉藤は動きやすそうなゆったりしたシャツに、すとんと裾の落ちたスカート。こちらは夏の定番私服です、といった感じである。 「ここは悪の別天地-」  やたらと調子良い響きで、ヤガミは歌っていた。  何気に上手い。でも、よくよく歌詞を聞くと――  ちょっと聞き惚れかけながらも、とりあえずは挨拶である。 「こんにちはー」 「あ、斉藤さん、ヤガミさん、こんにちはー」  津軽とホーリーは、それぞれ似たように挨拶した。それに元気良く「こんにちわっ」と答える斉藤。そんな斉藤を見て倒れかけるホーリー。  が、ヤガミの歌う内容が気になったのか、わずかに顔を引きつらせたままの津軽。  おそるおそる、聞いてみた。 「あ、悪の別天地ですか?」  ヤガミは笑った。 「単なる歌だ」  かるく口笛でも吹くように答えると、ヤガミは首をわずかに傾げる。 「何の用だ?」 「今日は、4人で、ハイビスカス園に行ってみたいのですけど、どうでしょう?」 「あ、ハイビスカス園は実は、津軽さんが建設に携わっているんですよー」  津軽とホーリーのそんな誘いに、ゲスト2人の反応は両極端だった。 「なぜ?」 「いいですね!」  海賊ゆえの警戒心(というより、これは行動に理由をつけたがると言うべきか)で疑問を出すヤガミ。  その言葉の響きに、あっさりと賛成する斉藤。ぶんぶんと首を縦に振っている。  あんまり予想過ぎて、なんともはや。うわん、やっぱりー、とは内心の叫び。 「宝でもあるのか?」 「私的には、宝かも知れませんが、ヤガミさんにとってはどうでしょうね? うーん…」  つっかえつっかえ話してみると、ヤガミは苦笑した。  前ので大体、予想はついてたが。と自分自身にぽつり。 「まあ、見てみるか」 「わぁい! ありがとうございますー!」 「わーい」  大喜びの津軽と、半ば苦笑しつつの「わーい」なホーリー。  とりあえず、連れ出す事には成功だ。  二人こっそりとアイコンタクト。  いざゆかん、デートの地へ! 「お花の嫌いな人なんてあんまりいませんから、きっと楽しいですよー」 「私、ハイビスカスはじめてです!」  はじめて、を強調して瞳をきらきらと期待に輝かせる斉藤。  何せ、ハイビスカスと言えば冬は温室に入れなければいけないぐらいの、南国使用の花だ。  斉藤がはじめてなのも、無理はなかった。 「わ、それはよかった」  ホーリーは嬉しそうに笑うと、続いて津軽も笑顔で太鼓判を押す。 「きれいですよ、とっても」  行きましょう、実際に見るのが一番。  津軽がそう言うと、斉藤は早く早く、と歩きだす。  それに続く3人。  そんなわくわく状態の斉藤を先頭に、ダブルデートが始まった。 /*/  さて、夏の園の中、ハイビスカス園である。  暑い場所ではあるが、人はそれなりに入っている。風景を見てか、楽しそうな声が遠く響いていた。  低木であるため、低い位置に咲き誇るハイビスカスはちょうど満開で、空気が染まって、良い香りが広がっていた。  斉藤は目をつぶって匂いを楽しんでいるようだった。  心から楽しそうな表情は、とても魅力的である。ホーリーは思わず見とれた。  めろめろなのよ、とは津軽談。 「わぁ! 建設のとき以来だから、ちょっと感動するなー」 「へえ」  津軽の言葉を聞いてか風景を見てか、驚きの混じった声のヤガミ。 「はじめてのハイビスカスの感想はどうですー?」 「なんか、涙でます」  心底嬉しそうな斉藤に、ホーリーも微笑んだ。 「とりあえず、遊歩道沿いに歩いてみませんか?」  津軽がそう言うと、ヤガミはゆっくり歩き出した。  ちょこちょこと津軽がついていく。  何も話しはしていないが、ヤガミもそれなりに楽しそうだった。  軽く花を見ながらの、散歩。花の匂いが、自分の中にも入ってきそうだ。  つい近くの花を触ると、ふわりとした感触と、匂いが舞った。  ああ、すごい。 「わたしも、こんなに一度にたくさんのハイビスカスははじめてだから、感動だなあー」  人の多さに目を見張りつつ、ホーリーは呟いた。  そんな言葉に乗っかって、考えに考えていた台詞を、津軽は口に出す。 「丘の上のあずまやからの眺めが絶景なんですよ」  じ、とヤガミを見る瞳は、真剣そのものだ。 「行ってみません? 混んでいるかもしれませんが…」 「港が見えるとか?」  はい、と口に出しかけると。 「はいっ。いきましょう。いきましょう」  勢いの良い斉藤が、津軽の手をしっかり取って歩き出す。  一瞬目が点になる津軽。それを見て思わず「ははは」と笑いが零れるホーリー。  斉藤が何をしてても嬉しいらしく、ひたすら目で追ってはホーリーも嬉しそうに笑っている。 「えへへっ」  津軽は照れつつも、斉藤に手をつないで貰えるのもまた、女の子してて良い感じねー、と笑った。  にこにこしながら引っ張られるまま、東屋に向かい歩いていく2人。 「わたしたちもいきましょう」  ホーリーがそう言うと、ヤガミもひとつ頷き、素直についてきた。  /*/  東屋からの景色は綺麗で、遠く海も広く、見渡すことができた。  青い海、青い空、白い砂浜――とは使い古された表現だが、まさにソレ。  自然な色合いの風景が、一番心に響く。 「わー! 感動で涙でそう…」  やっぱり自分が設計したものは感動ひとしお。想定以上の絶景に、ちょっと目が潤んでいたり。 「海はやっぱりいいなあ……」  しみじみと頷くホーリーの隣で、斉藤は背伸びして海を見ている。  おおー、という感じだった。  何せ緑に囲まれた生活が長い斉藤だ。久々の一面の青には、驚いているようだった。  そんな様子も可愛い。にこにこしながらホーリーは問いかける。 「何か見えますかー?」 「海底火山と、あとは」  すい、と視線を移動させる斉藤。 「海豚が見えます」  い、イルカ!?  そんな問答を横に、津軽もヤガミに話しかけた。 「ヤガミさん、港、見えますー?」 「いや。さすがに配置がうまい」  軽く言ったつもりの言葉に、しみじみと感心した台詞が飛び出し、津軽はびっくりした。  え、そこでその発言?  ――えーと、それは。 「ん? もしかして、お仕事のこと考えてます? ヤガミさん」 「いや。まさか。お前に通報されて縛り首はなりたくない」 「あはは」  それこそ、まさかだ。  笑ってはいるが、なかなかに、手ごわい。  津軽はギギギ、と内心思う、のだが、ヤガミの僅かな微笑みにくらりと落ちた。  なんで、そこで、笑うかな!  ぐるんぐるんしている津軽を横に、ホーリーは真面目に考え中だ。  海底火山…って宰相府藩国では聞いたことないんだけど。  じーっと見ても、見えるはずも無く。 「うーん、火山探してみたけれど見つからないや。斉藤さんって、目がいいんですねー」 「はい。20.0あります」  ちなみに、ごくありふれた「良い目」の基準は2.0である。  うあ。それは凄い。  驚いたホーリーの声を聞いて。  それでもぐるんぐるんしていた津軽を正気にしたのは、やっぱりヤガミの次の一言だった。 「暑いな」 「夏の園、ですからねー」  ぱっと配置を確認。たしか夏のフルーツジュースを売っているワゴンがあったはず。  大丈夫旅行社経由の滞在は、マイル費用にお小遣い込みだから、出せる! これはいける!  前のコーヒーの御礼だ! (そして横のホーリーも目を光らせているのに気づいた) 「えーと、みなさん、何か飲みません?」  ワゴンをしっかり指差しつつ話しかけると、まず最初にブンブンと首を振る反応を示したのは、斉藤だった。 「お金なくて!」 「あ、そうだ。この間のお返しに、今日はごちそうしますよ」 「水、くんできます!」  水で十分ですの意味か。  でもここって遠くに海(=塩水)、近くは散水用の水道(=飲み水ではない)なんだけどな。 「あ、いやいや、待ってー」  苦笑しつつもホーリーは引き止める態勢だ。  そんなギャグのような様子に、ヤガミの反応はあっさりしたものだった。 「俺が出す」  そう言ってヤガミは、手早く買ってしまった。  苦笑しているから、決して嫌な感情からではないのだろう。  ひょいひょい、と買ったジュースを手渡していく。 「と、ああああ、いつもすいません~」  申し訳なさそうに言うホーリー。 「ありがたく、ご馳走になりますー」 「ありがとうございます。ご馳走になりますー」  津軽とホーリー、口々に言う様子に、頭をかくヤガミ。  ジュースを一口。目を泳がせる。 「いや。いいが」  んー、ホーリーを見て唸り、一言。 「暑いので散歩してくる」  おお、と津軽は心の中で声をあげた。ピンときた。  ホンモノの犬耳がついていれば、元気よく立っていただろう。  これはもしかしてもしかすると。 「えっと、付いていってもいいですか?」 「もちろん」  ちらりと斉藤を見ると、どうやらまだ動きたくなさそう。  先ほどみたいに率先的に動かないので、確定だろう。 「ホーリーさん、斉藤さんとゆっくりしててー」  そう言い置いて、津軽は駆け足気味に、ヤガミをおいかけた。  こちらを振り向いて足を止めてくれているヤガミに、ちょっと惚れ直しながら。 /*/  ジュースを不思議そうに見て、風景を見て。  交互にきょろきょろしている斉藤は、可愛らしかった。  目を細めて、ホーリーは言う。 「斉藤さんは、まだもう少し海を見てたい?」 「あ、はい。よろしければ…」 「あ、じゃあわたしも一緒に見ていていいかな?」 「はいっ」 「ありがとう」  にこりと笑みを浮かべる。  こ、これは良い感じだ…!  彼が先程からぐるぐると考えていた事は1つ。  一通り和やかムードを出せたらよし、その後は次回に繋げるべく印象アップ!である。  その時に取り出したるは、愛情いっぱいのシナモンロール。みんなで一緒は状況的に捨て。さらっとお土産さらっとお土産。  斉藤さんも重要だけど、ヤガミ、食べてくれるかな…そして味は気に入るかな…。  ああ、二人っきりだ。  しみじみ考える。  一緒に海を眺めつつ、ホーリーは言った。 「斉藤さんは海が好きなんだねー」  さて、ここからが問題だな。  ひとつ心の中で頷くと、ホーリーは気合を入れた。 /*/ 「気がありそうだったな」  ふむ、と頷くヤガミ。  横目に2人を見つつ、津軽は言う。 「ええ。やっぱりわかりますよね」  ジュースを一口。あ、美味しい。ちょっと笑う。  斉藤さん、ハイビスカス園気に入ってもらえたかしら。  嬉しそうにしてたから、多分成功だよ、ね…ファイト! あっちも!  心の中でそう思い、ふと自分の事を考える。  きがありそう…? 「…あまり、人のことは言えませんが…」  恥ずかしい。非常に恥ずかしいから小声になった。  心情的には(言ってやったー!!)なのだが。 「まあ、うまくやるといいな」  ホーリーを評して、そう言った。うんうん頷く津軽。  ちょっと悪戯っぽく表情を変えて、ヤガミ。 「おれもうまくやりたい」 「な、なにおでしょうか?」 「お宝だ」  びくびくしながらそう言うとヤガミは、そんな津軽を面白そうに見、舌を見せて笑った。  夏の園に、海賊に良く似合う笑いだった。 ---- **作品への一言コメント 感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です) - 素敵なSSありがとうございます。非常にこっぱずかしいです(笑)。PCの心情描写が的確すぎます(汗)。なんたるプロファイラーぶり~。 -- ホーリー@満天星国 (2009-07-25 01:35:09) #comment(,disableurl) ---- ご発注元:津軽@満天星国様 http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=2179&type=2126&space=15&no= 製作:サカキ@星鋼京 http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=2169;id=UP_ita 引渡し日: ---- |counter:|&counter()| |yesterday:|&counter(yesterday)|

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