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NO.20 瑠璃さんからの依頼

 まだ、空が暗く染まる時間。

 一匹のペンギンが、愛車のスバル360に火を入れる。

 「こんな時間にドライブ? いい趣味してるわね」
 「元々、群れるのは好かん。一人になりたい時がお前にだってあるだろう?」
 「まぁね。でも、ウチのおー様が朝起きて、大騒ぎするかもよ」

 ペンギンは鼻でフンと笑うと、発車させる。後は任せたとの言葉だけを残し、闇を進む
丸い車体。

 声を掛けた女性、素子はやれやれと嘆息。踵を返し、城へと戻る。
 彼が苦しみを抱えているのはなんとは無しに判る。しかし、彼が自分から言い出すことは無いだろう。

 「まったく、男ってのは・・・」

 そう呟いて見上げる空には、欠けた月がぽっかりと浮かぶ。夜明けはまだ遠い。

 /*/

 ハードボイルドペンギンは不機嫌であった。

 今も昔もそうであるが、この世の中には悲しいことが多すぎる。それを解決しようとするが、
すべてを片付ける前に、また新たな悲しみが生まれ、積み重なっていく。運悪くそれが連鎖し、
更なる悲しみを呼ぶこともあった。

 それでも、彼は悲しみを狩り続けた。それは直接自分で手を下すことだったり、解決への助力
だったりと様々であったが、少しでもその数を減らす為に無口に彼は続けた。

 そして、またどこかで悲しみが生まれたことを知った。また、それを狩らねばならないだろう。

 だが、休暇が必要だった。その為に遠く南極に来たというのに・・・。


 「はっはっは、むぅーん」(ムキムキッ)
 「おお、流石は兄者! 見事な筋肉だ!!!」

 無粋な二人の大男とその連れに、台無しにされた。その暑苦しさに、南極の氷も溶け出しそうな
位の勢いである。いや、溶けていた。

 このままだと100Mくらい海面上昇が引き起こされそうだ。本来なら2万年くらい掛かって起きる
ことである。その位むさ苦しかった。


 まず、挨拶に着ていたペンギンが逃げた。アザラシも海中に避難した。クジラも潮を吹きながら
遠ざかっていった。

 氷が割れた。このままだと大陸も瓦解しそうな勢いである。

 彼ら二人の兄弟のことは知っていた。エイジャ兄弟、シオネアラダに付き従った黒騎士。
当時も例によって単独行動を好んでいたこともあって、あちらは自分のことはよく知らない
だろう。

 あまり関わり合いにはなりたくないタイプの人間ではある。いつもならば、「子供の悪ふざけ」
扱いをし、黙って姿を消していたことであろう。

 だが、今日は不機嫌であった。

 「グェグェ、グェェ」(もう少し、成長しろ)

 ゆえに気付いたら手を出していた。ぶん殴っていた。

 しまったと思った時には、兄のファイ・エイジャが音速で遠ざかっていった。弟も「兄者ぁぁぁ
ぁ!」と言いつつ、音速で消えていった。

 と思ったら、二人ともすごい勢いで戻ってきた。それから先は海上を移動しつつ、戦っていた。

 「うおぉぉぉ」
 「やるな、ペンギン……」

 彼ら兄弟は相手をするには申し分なく、自然と嘴が笑みの形を浮かべている。

 ・・・こういう熱血は主義ではないのだが。

 そうは思うが、頭を空っぽにできる程に楽しいのは確かであり、受け入れる。

 ・・・今日は、ハードボイルドも休みということだ。

 /*/

 「いい戦いだったな」
 「ああ」
 「グエ、グェ」
 「我々は、連れの居る小笠原に戻るが、ペンギンはどうする?」


 気のいい兄弟とのじゃれ合いに気分も晴れた。もう少し付き合ってもいいだろう。波に乗り、
一気に小笠原へと打ち寄せる。

 その大波に流されたものも居るが、まぁ死ぬことは無いだろうと気にしない。ここはそういう
場所であることを彼は知っていた。

 煙草を取り出し、火をつける。その行動に周囲がざわつくが、まぁこの外見ではよくあることだ。

 大勢居るエイジャ兄弟の連れ合いの一人に、一緒に泳ごうと誘われたので付き合うことにする。

 その時だった。あの声を聞いたのは。

 「ファン、タジア?」
 「ファンタジア、ファンタジアなのね!? なんでここにいるの? ゲームの中の存在なのに?」

 自分をファンタジアと呼ぶものは限られる。目の前に居る少女に見覚えは無い。だが、この口調
から想起される少女が脳裏をよぎる。

 その少女が。いや、その少女を乗っ取った存在がどんな罪を犯したかも。

 「ふっ。それがお前の、本体というわけか」

 嘴から紡がれる言葉は南極の海水より冷たく、視線はツララの様に鋭く少女の心を突き刺す。

 「私は……」

 「介入者。あしき存在」

 うな垂れた少女に追い討ちを掛けるかのように、開いた嘴は止まらない。

 「教えておいてやる。お前がかわいがっていた佐藤はな、姿をくらませた」
 「え……?」
 「お前が運命を捻じ曲げたんだ。それだけは覚えておけ」

 それは一切の言い訳を許さない断罪の言葉。壊れ掛けた少女を更に奈落へと突き落とす、一押し。

 少女は膝から崩れ落ち、砂浜に突っ伏す。

 それを目の端に捕らえつつ、ペンギンは海に向かい踵を返す。

 背後では少女を心配する声と、彼への非難の声が上がっていた・・・。

 /*/

 時間犯罪、というものがある。禁止された歴史改変を行なうことであり、多くの者の運命を捻じ
曲げる。

 そう、朝会った素子もまた、時間犯罪者であった。

 原則として、ペンギンにとっても時間犯罪は忌むべきものである。だが、時間犯罪のすべてを
悪とするには彼は優しすぎた。

 愛しい人を救う為の時間犯罪には少々甘かったのだ。

 だが、あの少女は違う。彼女の行為はただの遊び感覚で行なわれたものだ。彼女はその罪の自覚も
無く、また同じ過ちを繰り返し続けるだろう。そういう意味では今日会えたのは僥倖というものだ。

 彼女には嫌われたであろう。だが、それでいい。何も知らずに罪を重くしていくよりはマシだ。

 「休暇は終わりだな」

 煙草をもみ消し、愛車に火を入れる。また戦いの日常が始まる。

 いつものように、彼は人知れず戦い続けるのだ。

 ”一人の過ちは10人の血であがなわれる。”

 それを唯一人、己の血のみで贖う為に。


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引渡し日:2007/7/25


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最終更新:2007年09月25日 19:11