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雷羅 来@よんた藩国様からのご依頼品


 少年と魔法使いになりたい男

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 ああ、やっぱりこうなるんだ。

 少年は男達の下卑た笑いを聞き、その男の1人の下敷きになりながら思った。こんな状況で妙に冷静なのも如何なものかと、自分の中の冷静な自分が問いかける。
 前にいたのは貴族の犬小屋だった。
 身なりのいい社交界でちょっとした有名人だった人間が。自分に対しどんな事をしたのか、思い出しただけで反吐が出そうだ。
 この藩国からよかったら滞在しないかの誘いを受けた時だって。『飼い主』が変わっただけだと思っていた。
 しかし、予想に反して政庁城の人間は自分に対して『前の飼い主』のような事は全くしなかったけれど。
 結局こうなってしまうんじゃないか。

 服を引きちぎられながら、鼻の黒い少年が無理矢理引き出される快楽に耐えようとしていた時だった。

「なにやってる!」

 少年を押さえつけていた人間の1人の手が1本離れたのと同時に知り合いの声が聞こえたのは。
 少年に跨っていた男も手足を押さえつけていた男も、無論『知り合い』に腕を掴まれた男もそれを振り払い、皆一目散に逃げ出した。蜘蛛の子を散らすように、とはこのような状況の事を言うらしい。

 顔だけ声の方に向けると、罰の悪そうな顔の男が1人。先日、他2人と一緒に自分を春の園にピクニックに誘った物好きだった。


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 雷羅来は魔法使いになりたいと思っている男である。
 何故か今は手品師をつとめているが、人々を笑顔にするという意味ではこの職も魔法使いと呼べるのではないか。そう思っている。
 そんな男が最近気にかけているのは1人の少年だった。名前はわん太。名前のいかにもわんこな印象に反して。少年は鼻が黒いのを除けば美少年だったが、如何せん頑なで人を信頼できない少年だった。
 少年に何があったのかは。嫌でも想像できた。そして、その「何か」が少年から色んなものを奪ってしまったのだろうという事も。
 少年と知り合ってまだ日は浅い。しかし、笑っても楽しそうな笑顔を作れない少年が気になって………。
 今日も国内の視察も兼ねて少年を連れ出した。
 先日会った時と同様、やたら警戒されて100メートルほど離れられてしまったが。
 だ、大丈夫。一応付いて来てくれてるし。これからもうちょっと話していけばきっと………。

 しかし国内視察として新領民の様子を見に来たのも、本当で。
 あるナニワアームズから来たというご老人とつい話し込んでしまい。
 一瞬とはいえ少年から目を離してしまったのが失敗だった。

 そのほんの一瞬が原因で、少年を傷つけてしまう事になるなんて。

 自分やその周りの人が誰かにひどい事をしない。
 でも、別の誰か、ましてや自分の藩国の国民が誰かにひどい事をするなんて。

 思いたくなかった。


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 雷羅来はわん太を連れて暗がりから離れると、傷の手当てをする事にした。薬は新領民の為の配給の所から頼んで頂戴してきた。
 本当は医者に診てもらいたかったが、少年が拒んだのだ。

 人助けるんが仕事の人間が何嫌われとんのや。

 引き裂かれた服の上に雷羅来の服を羽織った少年を見ながら、内心毒づいた。
 沸々とやり場のない怒りが湧き出てくるが、少年を不安にさせる訳にもいかなかったので。痛みに顔をゆがめるわん太の気を紛らわそうと話しかけた。

「この国に来る前はどんなとこにおったんや?」
「貴族の犬小屋」

 吐き捨てるように答えたわん太に雷羅来は悲しく思った。少年の瞳はぞっとする程暗く澱んで見えた。

「犬小屋・・?」
「わかってるんだろ」
「予想通りなら、な。」

 ついちょっと前、わん太が言った「金持ちはいいよな」という言葉をもう1度口に出してみて、また悲しく感じた。
 そして考えた。どうしたら、この少年に過去と決別して心から笑わせることができるのだろうか。と。


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 自分でもどうしてこうしたのか良く分からなかった。
 あの雷羅来という奴が自分の事を心配しているのはよく分かった。今までの『飼い主』達とは違う、下心がないというのも分かっている。
 でも、その優しさが温かさが。
 居心地が悪くて仕方がなかった。
 だから「トイレ」と言って、トイレの窓から抜け出してきた。
 と言うか、こんな簡単にできるのなら。
 どうして今まで『飼い主』達からこうやって逃げ出したりしなかったんだろう。
 一瞬考えたけれど。少年は走った。
 遠く、ここではないどこかに向かって。

『罰せられないなら罰しにいこうか。法律が無理でも、一発殴りに行くくらいはできるだろ?』
 自分に向かってそう言った男の。
 優しい言葉と笑顔を振り払って。



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引渡し日:2009/01/30


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最終更新:2008年08月23日 23:41