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夜國涼華@海法よけ藩国様からのご依頼品



 月夜の晩に


 ノライディン・シンタロ校。
 知る人ぞ知る、良家の子息の学ぶ学校も夜である。
 夜の学生寮は、しん、と静まり返っていた。
「ぎゃ―――――っっっ」
 ……ただ一人を除いては。


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 涼華は恋する乙女である。玖珂晋太郎に、一途に恋をしていた。
 しかし、別れが突然やってきた。
 晋太郎が、転校すると言うのである。場所は、小笠原からは遥かに離れた本土東京。
 涼華は嫌だった。何も言えずにお別れなんて嫌だった。だから、こうして追いかける事にしたのだが。
 今現在、涼華は屋上に引っ掛けたシーツだけを頼りに、ここから100m下の晋太郎の部屋を目指していた。
 とにかく、晋太郎に会いたかった。だからはるばる小笠原から本土に上陸し、男装してまで侵入した。しかし、昼間は様々な障害が邪魔をして、会えなかったのである。
 今の頼みの綱は、このシーツだけである。
 涼華はブラーンとシーツに捕まって一歩一歩、歩いていた。普通に晋太郎の部屋に入る事は不可能だった。何故なら晋太郎にはたくさんの取り巻きがいたから。小さな涼華はみそっかすと言う事で追い払われてしまうのだ。故に、こうしてシーツにぶら下がって晋太郎の部屋まで降りるしかなかったのである。
 涼華はさっきシーツを下ろした時に地上を見て、冷や汗をかいた。落ちたら、確実に死ぬ。
 下を見ない、下を見ない、下を見ない……。
 ようやく窓枠に足が引っかかった。涼華は窓枠に沿って降り、足で窓ガラスの確認をした。
 よかった、窓は開いている。
 涼華は少しだけ勢いをつけて、窓に飛び込んだ。


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 晋太郎は、物音で本を閉じ、顔を上げた。
 窓枠に足を引っ掛けて必死そうに入ってくる人影が見える。
 ろうそくの光で窓を照らす。
 知っている顔だった。
「晋太郎さん」
 涼華だった。
 彼女は、泣いているように見えた。
「ごめんなさい、窓から来て…」
「……誰?」
 そこで涼華はようやく自分の姿に気づいたらしい。
 彼女は、シンタロ校の制服で身を包んで、髪を三つ編みに束ねていた。
 彼女は慌てて髪をほどいて手櫛で整え始めた。
「えと、涼華です」
「冗談だよ」
 涼華はまた顔を歪める。
 ああ、泣かすつもりはなかったのに。
 その様が可愛かったので、晋太郎は思わず笑みが零れた。
「うぇーん、一瞬ドキっとしましたーっ」
「ごめんごめん」
 晋太郎はにこにこ笑いながら謝る。
「良く来れたね。手紙見てるとおもったんだけど……」
「…手紙、ですか?」
 涼華が首を傾げるのを見て、晋太郎はにこにこと続けた。
「図書館に。僕が読んでた本に挟んでたつもりだけど」
 晋太郎の言葉に、涼華は「ギョッ」と言う顔をした。
 あれだけボクの周りをうろうろしてたら普通気付くけどなあ。
 涼華が必死になって謝っているのは可愛かった。それでいい事にしておいた。


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 話を聞くと、涼華はかなり長い間自分の周りをうろうろしていたらしい。
 きっと自分の周りに人が多いから近づけなかったんだなあと晋太郎は思った。
 現在の涼華は、ここから少し離れたコスケ寮に滞在しているらしい。
 しかし、自分に会うために屋上から降りてきたと言うのには驚いた。確かにコスケ寮とここはL字で繋がっているが、まさかまた屋上に登って帰るつもりなのだろうか?
「帰れるのかい?」
 聞いてみた。
 そこでまた涼華が「う……」と言葉を詰まらせ、目線を彷徨い始めた。
 やはりそこまで考えていなかったらしい。
「う…問題は、ここから自分の部屋にどう戻るかです…」
「だよねえ。えーと。窓から魔法で飛ばしてもいいけど、足を使って歩いていってもいいよ」
 晋太郎の提案に、涼華はキョトンとした顔をした。
「歩く?」
「二人羽織、やってみるかい?」
 晋太郎の一言に、涼華は髪の毛を逆立てんばかりに驚いた。
「し、身長とかがっ」
 涼華がアワアワしている中、晋太郎はクローゼットから大きめのコートを出した。
 涼華においでおいでと手を振ると、涼華はとてとてと近付いてきたので、そのまま抱きしめた。
 涼華は小さい。晋太郎がコートを着てしまったらもう見えなかった。
「歩調合せて歩こうか」
 涼華の耳元で囁く。涼華の息を飲む音が聞こえた。
「は、はい……」


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 月夜の晩だった。
 その日は満月。風もなく、星が瞬いて、よい散歩日和であった。
 涼華はコートの中で、晋太郎の心臓の音を聞いていた。
 トクン、トクン、トクン。
 触れる晋太郎の身体は温かかった。
 できればこの散歩が、できるだけ長くできますように。
 そう願いながら、帰り道を一歩一歩歩いていた。



作品への一言コメント

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  • はわわ!素敵なSSをありがとうございましたー(*ノノ)あの時のドキドキを思い出しました! -- 夜國涼華@海法よけ藩国 (2008-09-28 23:45:58)
  • 書かせていただきありがとうございます。晋太郎さんとの仲良しさににこにこしながら書かせていただきました。これからもお幸せに。 -- 多岐川佑華@FEG (2008-09-29 21:13:41)
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引渡し日:2009/06/13


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最終更新:2009年06月13日 01:05