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ヤガミ・ユマ@鍋の国さんからのご依頼品


/*コインの正体*/

 まあ、元を正せばだ。
 少しくらい、ほんのわずかに五ミクロンの百億分の一くらいに俺が悪かったところもあった、かも、しれない。人間生きていればそのくらいの影響は与える物だろう。たとえ面と向かっていなかったとしても。
 つまりはまあ、俺は全然悪くないはずだ、と思いつつも。
「……少しは自業自得と考えるべきなのか、これは」
 ヤガミは額を抑えながらつぶやいた。
 場所は室内。
 ちなみに見覚えはない。
 傍らには掃除機とバケツと雑巾。
 勿論見覚えはない。
 そして目の前のテーブルには一枚のメモ。

 ”片付けよろしくー”

「――しかし、まさか」
 ヤガミは額を揉む。
 ショックは一時。今は一応、状況を理解している。
 渡したコインを投げたあいつが若干腹立たしくもある。
 だが、まあ。
「――少しくらいは、俺が悪かったのか?」
 こう。ごっちゃりととっちらかった室内を見ていると、そんなことを思わなくもないヤガミである。
 よもや愛人コインで呼び出されたあげく部屋の掃除を仰せつかるとは思いもせなんだ。

#以上余談

/*/

 そのころ、ヒサ子は絶賛入院中である。包帯で全身ぐるぐるまきにされたあげくベッドに投げ捨てられた状態である。
 とかだったら面白いよなーとか、ヒサ子は内心で考えていた。実際は腕とかそこらへんががっちり固められているだけである。これでは単に不便なだけではないか、と憤りつつも、いやまあ入院して体が便利になるようならそれこそ入院する必要なんか無いわけであって、しかしながらただ入院するだけじゃいろいろと読者に申し訳ないいや読者って誰やねんいや私か私なのか!?とぐるぐるとどうでもいいことを黙考する。
 半ば中の人が混ざっている気がしなくもないが、気のせいである。
 と、ふいに体を震わせると、動きを止めた。
 聞こえてくるのは規則正しい足音。

 「今度、俺の恋人をつれてくる」

 そういわれたことを思い出す。
 途端に布団に潜り込んだ。顔を隠す。あのばかーと内心で叫びながらもなんかとっても目をあわせづらい。ああもうなんだって私がこんな思いを――
「怪我は大丈夫ですか。ヒサ子」
 って誰やねん。
 がばりと布団をはね飛ばし――そうになりつつ、ギプスとかいろいろ邪魔で結局布団を少しどかしただけで顔を出した。視線の先では、エステルは目を丸くしてその様子を見守っていた。
「何をしているのですか?」
 誰もが聞くであろう質問をされてしまった。
 ――。
 ――――――。
 ちょっと恥ずかしい。
「……けがは平気です。が、心の方がアレなので、対ショック防御」
「心、ですか」
 エステルは少し迷ってから、「座っていいですか?」と聞いた。どうぞ、と応じるヒサ子。エステルは近くの丸椅子を引き寄せて腰掛けると。改めてじっとこちらを見た。
「ひとり?」
「あやしかったので、少しはやめに来ました。一人で」
「あ、あやし……?」
 エステルは微笑んだ。
「実は、恋人のふりをしてくれと言われまして」

 あーもう何言っていいのかわかんない。

 ヒサ子は起き上がったものの、がっくりと膝に顔を埋めた。恥ずかしいとか腹立たしいとかエステルいい子だよエステルとか頭の中がぐるんぐるんと攪拌される。ああああーとかうめいている気がするけどきっと気のせいきっと幻聴そうこれは夢に決まっているわけあるかーい!
(ヤガミめーっ!)
 ヒサ子はヤガミ好きにありがちなよくわからない発想で全てヤガミが悪いのだと決めつけた。
「ご、ごめんなさい。わたしがいうのもなんだけど、ごめんなさい」
「いえ。ふりじゃなければよかったんですが」少し苦笑するエステル。「ばかな人」
「あー……ますますひどいです。ヤガミめ」
 うー、とうめくヒサ子をエステルはじっと見つめた。
 ふむ、と何かつぶやかれた気がする。
「今の話は嘘です」

 ――はい?

「し、信じました。信じましたよ! 今!」
「求婚されたのは事実です」
「あ、いや、そこまでは疑ってませ…………え、恋人の不利でなく、求婚?」
「……」
 凄く居心地が悪くなる。なんだかよくわかりません自分、といった感じのヒサ子。
「や、ええとその……ど、どうかしましたか」
「いえ」エステルは小首をかしげた。「貴方はヤガミをどう思っていますか」
「うあ」
 いきなりの核心ど真ん中。しかも一方的にストライクな気分に空振り三振でひえーなバッターの気分です。
「や、あの。やさしいと」言いかけて、そうか、とちょっと疑問視。「ずれてるというかその、あんまり嬉しくない方向で発揮されることもありますが、優しいと」本当にそうなのだろうかとやっぱり疑問視。ほら、目の前のエステルとか……。「どういう感情を抱いているか、という意味なら恋心だと思いますが」
 とりあえず全部ぶっちゃけてしまう前に、明らかなことを一つだけ言う事にした。はじめからこう言えば良かったと思いつつ、でも赤くなるのが止まりません。
 一方、
「そうですね」
 エステルは淡々と頷くので、
「……信じてもらえてないみたいですけど」
 とか思わず聞いてしまった。勿論答えは、
「そうですね」
 そうなのかいと心の中で突っ込んでしまった。いやまあでも気持ちはわかる。ああもうエステルいい子だよエステル。内心で悶えるヒサ子。
「分りました」
「え、あう?」
 エステルは立ち上がって微笑んだ。
「貴方は私の敵です」

 そう言うと、エステルは部屋からさっさと出て行こうとする。
 が、一歩進んで振り返る。
「怪我、はやくよくなるといいですね」
 そう言ってやっぱりさっさと出て行くエステル。

 ――なんというか。

「…………うっわあ」

 としか言えないのでした まる

/*/

 20分後。
 病室にやってきたヤガミは、妙にぐったりとしているヒサ子を見て内心で肝を冷やした。なんだ、どうしたんだ。そんなに体調が悪いのか? だから無理をするなといつも行っているのにこいつはいつもいつも俺の話を聞こうとしない。
 とかなんとか考えつつ、全てを隠してヤガミは優しい声で聞いた。
「どうしたんだ?」
「…………ないていいですか」
 え?
「あ、だめ、いまのなし」
「なにかあれば、コインを使えばいいんだ」
「思い切り投げ捨てました。足で。おかげでひとさまに迷惑をかけました」
「何で棄てたんだ、ばか!」
 速攻だった。脊髄反射の速度で突っ込んでしまった。もう気遣いとかそういうののゲージは軽く振り切れて別世界へパワーダイブ中である。
 が、だというのに。ヒサ子はまるで恨むような視線をこちらに向けている。なんでだ。何で俺がそんな目で見られなくちゃならない!?
「それ、本気で言ってますか」
 いんやもう我慢の限界。ヤガミはヒサ子の頭をチョップした。
「がふう」
 頭を抱えてうめくヒサ子。それを尻目に、
「分る気がするが、分りたくもない」
 大きくため息をつくヤガミ。眼鏡を取ってこめかみをもんだ。
「いじけるな」
「ヤガミは、大好きな人に告白して、お友達でいましょうねって言われて笑顔でイエスマムていえますか。わたしはむりです」
「俺は告白されたことはない」ヤガミはきっぱりと言った。「俺には大事な人がいるだけだ」
「好きです。大好きです。つきあって下さい」
 ヤガミは微笑んだ。ヒサ子の頭をそっと撫でる。さわさわと、髪の毛が揺れた。
「駄目だ」
「理由を」目を丸くしたまま言うヒサ子。動揺中。
「今は怪我を治すほうが先決だ」
「…………………………」
 あ、凄い不機嫌な顔。
「答えになってません。それ、怪我が治ったら付き合ってくれるって意味ですか?」
「いじけるな」
 それにしても、まあ。
「コインを棄てられるとは思ってなかった」
「私も、ひとさまから頂いたものを捨てたりしたのは初めてです。ヤガミといると初めて尽くしです」
 そうしてうなだれるヒサ子。彼女は小さくため息をついた。
「でも、持ってたら」
「もってたら?」
「持ってたら、友情勲章確定って。そんなの、持ってられる訳、ないです」

 え、友情?

「そんなことはない」即座にヤガミは言った。「俺が友情を抱いてないのに、出来るわけないだろう」
 えー! という顔のヒサ子。じゃああのコインはなんだったの、と顔面に太っとく書かれていた。
 ――言わなきゃならないのか。
 ヤガミは妙に気恥ずかしく感じながら、

「愛人を呼ぶコインがある」

 ――そう、言った。

 勿論。
 後に残されたのは、ぶっ倒れて痙攣するヒサ子の姿と、おかげで顔が赤くなっていることに気付かれないですんだヤガミである。


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引渡し日:2008/10/11


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最終更新:2008年10月11日 00:54