さてここで、教室の穴へと潜っていった一行の姿を探してみよう。
案外長い長いトンネルを抜けていくと、そこは蒼い蒼い海であった。
ようやく(普段の)小笠原っぽい展開である。
「わー、海だぁー!」
「……いったいどれだけの距離掘ったんですか。海岸て」
「おお、小笠原っぽいところにでたなあ・・・とりあえず煤だらけの顔を洗おう」
「海岸に繋がってたんすねー」
「おや。着水したまま浮かんどおけば手間が省けましたねぇ、私。」
ぞろぞろと穴から出てくる一行をびっくりした顔でふみこ・O・ヴァンシュタインと結城火焔、それに雷電のコガが見ている。
3人(?)とも水着姿である。ふみこと火焔は悩殺ビキニ姿で、コガはストライプの全身水着を着ていた。
「なにがあったの。バズーカ打ち込まれた民兵みたいな顔してるけど」
こ、こんににちちちちと言いながら倒れる東西を横目に見つつふみこが訪ねる。
「さすがにお鋭い。ロケット弾打ち込まれた考古学者です」
「まあ端的に言うと、ギャグ時空になるとバズーカで教室爆破くらい普通に起きるんですねという状況です」
リバーウィンドと秋春の端的な説明を受けてふみこはふぅん、と呟いた。戦争でもあったと把握したらしい。
その後ろから皆を見回していた火焔が「顔、洗った方がいいよ」と心配そうに言った。
砲撃のせいで一様に真っ黒な顔をしていたからである。
「うん、洗います。・・・ひどいかな、顔?」
「そうだねー、ああっ、傷に染みる」
「顔洗うっす!・・・ごくごく・・・」
ごしゃごしゃと全員海に向かって汚れたところを洗い出す。後ろではリバーウィンドがどこから取り出したのか全員分のタオルを準備していた。
「平和なリゾートっていう話だったけど」
顔を洗うakiharu国民を見つつ、ふみこは顔に手を当てる。
「リゾートは平和です。うちの国民はデンジャラスです」
顔を拭きながらあっさりと言い放つ東西。確かにそうだがいいのかその答え。
そんな中、一人サーラが「あらあらあら、遠くで変態さんの声が聞こえますね」と呟いた。
(その頃鞭での引っ張り合いをしていた更紗が時空を超えてかちんときたとか何とか)
自己紹介やら何やらでのんびりと時間が過ぎる中、「ばう」と誰かが(該当するのが一人しかいないが)言った。
「ん?なんてったの?コガ。火焔さん、コガさんのいうことわかります?」
ば、ばうと隣で吼え返している東西を尻目に橘は火焔に訪ねた。
火焔が目の前に来ると、コガは身振り手振りを加えてばうばうと何事か言い出した。
「えーとね、て、き、しゅ、う。敵だって」
コガは賢いなぁ。飼い主に似たのかなと一人呟く鴨瀬を残し、全員が大騒ぎしながら周りを見る。
すると、海岸をこちらに向かって走ってくるMrBとソックスチキンの姿が見えた。青春ドラマっぽく爽やかそうに手を振っている。
「ちょ、こっちくんなーーーー!!!」
橘の叫びでMrBの存在に邪念を感じたのか、縞々の水着を着たコガが唸り声を上げて飛び掛る。
水着こそ着ているが戦闘のために作り出された生体兵器99式雷電である。まともな力比べをすればたとえソックスハンターでも危うい。
相対距離がぐんぐんと縮まる中、MrBとコガが砂を蹴散らしながら跳躍をした!
二つの影が空中で交差する刹那、MrBは懐から取り出した靴下を素早くコガの鼻先に押し当てる。もんどりうってそのまま砂浜に倒れるコガ。
勝負を制したMrBはまた爆発はいやっすーと叫んでいた和志を(靴下を履いていないと見るや)蹴り倒した。和志、焼けるような砂浜に顔面から着地。
後を着いて来たソックスチキンは和志に取り出した靴下を履かせるとよし、と親指を立てた。
「徳河先生、皆の為にBと忌闇君の前に落とし穴を!」
「ちょっと掘ってみるか。宝でるかも」
聞いてねえー、と叫ぶ橘。
「あらあらあら、また変態さんですね」
サーラのそんな言葉を傍らで聞きつつ「あのひとは変態さん」と、かれんちゃんがメモにとっている。
情操教育の一環のような状態である。
「なんだか分からないけど、ひどい騒ぎね」
狂想曲の如き状況を見物しつつ、そう呟くふみこ。
と、いつの間にかその横に立っていた万能執事ミュンヒハウゼン45世がふむ、とこちらも呟いた。
「お嬢様。多数の熱源でございます」
あらそう、と言うとふみこはどこかから空飛ぶ箒を取り出し、海の上へと撤退する。近くでその言葉を聞いた火焔とコガも慌てて海へと飛び込む。
「ふみこさん、まってー!え、皆にげて!」
阪が叫んでいると、遠くから何かがひゅるひゅると音を立てて飛んでくる。
振り返って空を見れば、無数のロケット弾が海岸目掛けて飛んできていた。
大急ぎで皆海や徳河が掘った穴に飛び込む。2秒もしないうちに爆音と砂塵が上がった。
海岸を見下ろす丘の上にはロケットランチャーを構えた更紗が仁王立ちである。怖い、理由など無く怖い。
人体の限界を明らかに超えた動きでロケット弾を次々に装填すると、物凄い勢いで連射してくる。
次々と起こる爆発で海岸は見る見るうちに穴だらけの戦場と化していく。80年代特撮のOPの如く上がる火柱の間を皆駆け抜けていく。
「に・が・す・か」
「にげるんだよ。靴下があるからな」
「靴下がある限り、地平の果てまで逃げますぜ!!」
「死ねこの変態!」
ちょこまかと海岸を逃げ回る2人に、容赦ないロケット弾の雨が降り注ぐ。西○警察も真っ青の火薬量だ。
「本当にひどい変態さんですね」
あらあらと顔に手を当てながら酷い事を言うサーラにきりきりと音を立てて更紗が狙いをつける。
どうやって聞こえたかではない。おそらく聞こえたというより感じたのである。
にっこり笑った後、ランチャーの引き金を引いた。
「きゃーーー!」
「ギャー!」
秒速120m弱でサーラに迫るロケット弾の前に444と阪が身を投げ出す。これもまた愛のなせる技なのか!
直後、爆発が起こり、二人の漢は真っ黒焦げになって砂浜に転がった。
「あぁぁ、阪さんがー、4さんがー」
「ちょ、阪さーーん」
「4さん!・・・は、いいか」
おい!と444の口から出てきた人の形をした何かが和志にツッコミを入れる。
そんな黒焦げの二人を「あらあらあら……」と呟きながらサーラは眺めている。幾分視線が冷たい。
「……サーラ先生がいつもより黒い?」
「さ、サーラ先生、一応治療お願いします」
鴨瀬の呟きが聞こえたのかどうかはともかくとして、黒焦げの二人の隣にサーラはしゃがんだ。
「あ、そうですね。はい。いたいのいたいの、とんでけーっと」
「うわー、それ全然科学的じゃない!」
「ああ、なんだか光る雪に打たれてる間に、 痛みとか感じなくなってきたよ……」
すーと444の口から出ていた何かが手を振りながら天に昇っていく。とても満ち足りた表情であった。
「ぬぁ、昇天はまずいです昇天はっ」
海に逃げていたリバーウィンドが大急ぎで鞭を振るい、444の魂を繋ぎとめる。
騒ぎが収束する可能性は全く見受けられなかった。